第6話 話したいタイミングでいいわよ。仕事するから
「もしかしてさ、あんたが止血剤欲しいのって、ご主人様かなんかのためだったりする?」
この質問をぶつけた瞬間、オリエラがそっぽを向くような態度を見せた。あ、これ、地雷だった?
「ああ、ごめん。こういう依頼とは関係ない内容を聞くのはマナー違反だったわ」
そう言ってあたしは調合前の最終仕上げに取り掛かる。手を翳し集中する。
この世界には魔素というものがある。この魔素はどんなものにも含まれていて特に薬草や鉱石に含まれていることが多い。食べ物にも多少含まれていて、この世界に生きている人間が魔素に触れずに生きることなんてできない。そして魔素は物の持つエネルギーを増幅させる力がある。傷を治す力、病を治す力、物を燃やす力、物を溶かす力……これらを増幅させるのである。薬師は物の性質を理解して、その物の性質を魔素によって最大限生かせるようにする職業で高い専門性が求められる。
特に、重要なのは『現在物に含まれる魔素を正しく把握する力』。魔素量を測るための装置は開発が進んでいるが、魔素自体にも多少性質差があるようで、これを肌で感じる繊細さが必要だ。そして、何を隠そうあたしは、この魔素の量と性質を集中すれば肌感覚でわかるとびぬけて優秀な職人ってわけ!
とはいえ、この能力。他に使い道がないから薬師以外の道がないわけだけど。
あたしはすりつぶし均等に混ざった薬草に含まれる魔素量と性質を見極めたうえで、五つに分けた。手持ちの計量器では細かく計測することができない。なら、計量器で計量できる最小単位の魔素粉末に対して、薬草の方をぶち込んじゃえばいいのよ。幸い、薬草は多めに用意できるんだから。
あたしが五つに分けた薬草を順番に容器に入れて蒸留した水と魔素粉末と混ぜ始めたタイミングでオリエラが静かに口を開いた。
「主人は別におります。主人が大切にしている同僚に持っていくつもりでした」
怒るわけでもなく、淡々と。彼女は事情を説明し始めた。多分……説明しないと誠実ではない。彼女の性分なんだろう。
「わたくしが買われて冒険者をしている。これは、紛れもない事実でございます。そして、わたくしと同僚……ヴィエラは、隣国の東端にあるリーヴェという街で冒険者として活動しておりました。他にもメンバーはおりましたが……わたくしは主人からヴィエラを守るよう、仰せつかっておりました」
……は? 要するにオリエラはヴィエラって冒険者を守るために買われたメイドってこと? 何でそんな回りくどいことを?
「ヴィエラはわたくしがそのような命令を受けていることなど知りません。ですから、あの日まで、普通の冒険者の同僚として生活しておりました。しかし……三か月前。ある怪物から受けた傷の影響で、ヴィエラが正気を失い、この国に迷い込んでしまったのです」
怪物による傷の影響? 毒とか麻痺とかは割と一般的ではあるけど、神経に作用する幻覚系は厄介ね……でもそういう症状って
「今は症状は落ち着いているようですが、何分、そのショックからか誰とも会いたがらず、一人で暮らすと言って聞かなくて……挙句の果てにこうして、雪山にこもられてしまったのです……」
そうよね。割と短時間で治まることが多いわよね。でもその後が問題だったのね。
症状が、落ち着いたら、ショックで引きこもったって……あ~……なんか、こういう時にありそうなパターンって……
「それって、正気失った時に誰か怪我させたりとかしてる?」
「お察しの通りです……」
なるほどね……だから、止血剤……こんな雪山で怪我でもしたら傷口が凍り付いて致命傷になりかねない。オリエラとしては、引きこもりたい気持ちは理解するから、せめて傷口を塞ぐ止血剤を提供したい……納得だわ……だけど
「でもさ、それ、根本的な解決になってなくない?」
「それもおっしゃる通り。ですが、こればかりは時が解決するしかなく」
「いいや、違うわね! 今は違うってのを身をもって知ること! これが唯一の解決策よ!」
そう言ってあたしは、調合が終わった最後の薬を瓶に詰めた。そして、その五つの止血剤を一つ一つ検品する。一滴だけ岩に垂らして色、匂い、粘度を確認する。最後に、肌感覚で魔素を測り、あたしの感覚で基準値を満たしてる三本をオリエラの胸に押し付けるようにして渡した。
「さっすがあたし! 機材不足でもこんなに成功するなんてね! さて、成功品が多すぎるから、あたしの報酬分を少し足してもらおうじゃない?」
「はい?」
「ずばり、あたしをそのヴィエラってのに会わせなさいよ! うじうじしてるの見るのは性に合わないのよね!」




