第3話 いい店じゃない。気に入ったわ!
「あの~ ちょっと商品について聞きたいんですけど、いいです?」
あたしはおずおずと店主に声をかけた。そんな様子を見て店主は帳簿から目を離し、あたしの顔をしっかりと見る。あら、思ったより若いじゃない。それに整ってるし。中途半端に伸びた髪だけ、減点ポイントね。
「なんだ」
思っていたより声も若い。あ、これならいけそうだわ。
「えっと、ここに並んでる商品、どうやって仕入れてるのかなーって」
「そこの貴重品棚と、そっちの常用棚の物は他の街から仕入れたもの。他は全部買取だ」
は? 採りに行ってるわけじゃないの? この鮮度で?
「えっと、じゃあ、この辺のとかも買取ってこと?」
あたしはおもむろにさっき見つけた止血剤の元になる薬草と、毒消しを見せた。どう見てもこれは採ってまだ数日。この街の寒さを考えれば、もう少し日持ちするだろうけどそれでも一週間は経ってないはずよ。
「それは先日、この街にきた踊り子みたいなひらひらした恰好をした女が宿代もなくて困ってる様子で売りにきた。この街には薬師なんていない。薬草に価値なんてないって追い返そうかとも思ったがあんな格好で宿も泊まれないんじゃ凍え死ぬ。ボランティアのつもりで全部買い取った」
何、この店主。優しいじゃない。というか、その踊り子みたいな女見つけられたらこの薬草の入手先がわかるってことじゃないの?! しかも宿? 今から戻る場所じゃない! 店主ナイス!
「お前が何用で必要なのかは知らないが、買ってくれるんならうちは助かる。あの女、もう三日連続で売りにきているから在庫がたまっていてな」
え!? 三日も連続で!? そんなの採取場所があるって言ってるようなもんじゃない! あたしはカウンターに身を乗り出すと自分のお金が入った布袋を懐から取り出した。
「OK! じゃあ、紹介料含めてこれぐらいで全部買ってあげちゃう! あ、あっちの果実を一個サービスにつけてよ、ね?」
あたしは喜んで布袋から銀貨一枚をポンッと店主に差し出す。店主は目を見開き、銀貨を入念に調べ始めた。
「……本当に本物か?」
訝し気にあたしを見る店主。あたしそんなに不審者? 偽造じゃないっての! まあいいわ。じっくり調べるがいいわ。あ、でもあたしの用件はそれだけじゃないのよ。
「あ、そうだそうだ! ねえねえ、さっきこの薬草買い取ったって言ったわよね? 他のものも買い取ってるのよね?」
「そうだが? 最初に言っただろ。この店の物は殆どが買い取り品だってな」
「じゃあこれ、調合して止血剤や毒消し薬として持ってきたら、買い取ってくれる?」
あたしはそう言って薬草と毒消しをちらちらと動かして言う。その一言にさらに店主は目を見開いた。
「薬師、なのか? お前が?」
「ひっど! どこからどう見ても薬師じゃない! 失礼ね!」
あたしはコートに隠れた腰のポーチをドンと見せつけるように店主に見せる。十数本の小瓶が綺麗に並ぶあたしの自慢のポーチ。小瓶の中には製薬に必須の『魔素粉末』がキラキラと輝きながら入っている。どう、綺麗でしょ! と胸を張りながら、とっておきのドヤ顔を見せた。
「あたしは、薬師のシルバーナ! この街で一番の薬師になってあげるから、今後ご贔屓に!」
あたしがそういうと、今まで暗く見えていた顔に少し明るさを感じさせる笑顔が浮かんだ。
「この街に薬師はいないと言っただろ。今から薬師をするのなら、この街唯一の薬師の方が適切だ。そうそう、お前が名乗るなら俺も名乗るか。俺はこの雑貨店リンティスの店主をやっているリントだ。さっきは失礼した。薬を売りたいってんなら大歓迎だ。こちらこそ今後ともよろしく頼む」
あたしは満足な笑みを浮かべて、リントがサービスでつけてくれた大きな麻袋に薬草と果実をつめて酒場へと戻る。あ~ これで当面は資金に困らないわ。あとは……
酒場のカウンターへと足を運ぶと即座に二泊分の宿代として銅貨一枚を支払い、部屋を確保する。そして
「ねえねえ、お姉さん。あのさ、最近、踊り子みたいな服装した冒険者がここに泊まらなかった?」
リントに薬草を売ったという踊り子の正体を探るため、さっそく聞き込みを開始する!
「踊り子みたいな恰好……ああ、いますね」
受付のお姉さんは銅貨を受け取りながら苦い顔をして答える。よくわかってるわね。銅貨一枚じゃ宿代だけだと多いものね~? でももう少し情報欲しいのよね~?
「本当! ちょっとね、その人と会いたいのよ! 今出てたりする? それとも今もいる?」
「え、えっと……その方、昨日も一昨日も、朝、日が昇ると街から出て日が暮れる前に戻ってくる、を繰り返してる方でして……その、今日も雪山方面の門へ向かっていきましたよ」
あたしの勢いに押されて受付のお姉さんはぺらぺらと話す。こういう情報収集っていうのはきっかけ掴んだ後は、ノリと勢いが大事なのよ!
日が暮れる前に戻ってくる、ね。まあ、雪山の気温の急降下を知ってるんなら、日が暮れる前に戻ってくるのは当たり前よね。ということは、もう少し待てば帰ってくるのかしら。
あたしは一旦、買った荷物を宿のクローゼットにしまう。ちょっと買いすぎたかしら。さっさと加工しないと品質が落ちちゃうし、明日、拠点としてよさそうな建物候補を選んで、そこで確認する! とか言って作業しちゃいましょうか!
そして夕暮れにさしかかろうとした時、一旦酒場へと戻る。そして酒場の中を見まわしていると、ちょうどその時、酒場の入り口から目的の人物が入ってきた。防寒コートを羽織ってはいるけど、踊り子みたいな恰好をしてる。で、ひらひら。あ、思った以上にひらひらだわ。あれ、メイド服って言われてもまあ、ぎりぎり通りそうな格好ね。そんな目立った格好の黒髪の女にあたしは近づき声をかけた。
「ねえ、そこの踊り子さん! ちょっと話があるんだけどいい?」
「なんでしょうか」
「あんたさ、雑貨店に薬草売ったんだって? ねえ、その薬草、どこで採ったか教えてくれない?」
怪訝そうな顔をして、あたしを見つめる踊り子。うーん。そこまで嫌そうな顔しなくてもいいじゃない。こういう言い方、嫌い? 気難しいタイプ?




