第19話 そりゃ怪物に比べればねぇ……
残りの野盗達が警戒をし、各々の得物を構えたのを見てオリエラがため息をついた。
「はぁ。あまり使いたくはないのですが……多勢に無勢の状況でございますからね」
オリエラはそう言うと構えを変えた。右の拳を少し上げ、左の拳をぐっと引く。そういえば、オリエラは暗器も使えるはず。あの暗器の薬が何なのかにもよるけど、使わざるを得ないって感じみたいね……はぁ。拠点を汚したくないから使いたくなかったけど……あたしは、魔素粉末に手を伸ばす。そしてもう片方の手で、とっておきの飲用中和剤を取り出した。
「シルバーナ、一体何をする気ですか?」
「仕方がないから、魔素でも飲もうと思って」
「魔素を、飲む?」
「この飲用中和剤の中には体内魔素を活性化できる特別な薬品が混ぜ込んであるの。ただ、面倒なことにこの薬品の効能ってね、この薬品自体が活性化してから数分しか持たないのよ。活性化させる条件も魔素だし。本当面倒」
「体への負担は?」
まあ、あるんだけどね。でも自分の家になる場所だし、あたしが無理すること自体は問題なくない? あたしはにこりと笑って見せた。
「いえ、わたくしができる限りの対応を致します。しばらくお待ちを」
「何をごちゃごちゃ言ってるんだ? 来ない所を見ると……さては、黒髪の姉ちゃん、受け身専門か? そっちの体格のいい栗毛色の姉ちゃんも見掛け倒しみたいだな? おい、お前ら、伸びてんじゃねぇ! 全員で一気に行くぞ!」
さっき、オリエラが倒した四人が腹や脇を抱えながら立ち上がる。絶体絶命。そう思い、魔素粉末の蓋に手を掛けたその時だった。
「ねえ、ここの扉、壊れてるわよ。オリエラが居るのに、どうしてこんなことになっちゃってるのかしら?」
「……ヴィエラ!? 何故、ここへ!?」
「シルバーナがここに居ると思って」
野盗達の後ろから現れたのは、銀髪の剣士……ヴィエラだった。いや、なんで? あたし、ここに居るなんて一言もあんたに伝えてないわよ!?
「ヴィエラ……貴方、症状が悪化していませんか?」
「悪化? ああ……そうね、視点を変えればそうだと言えるわね。ごめんなさい、昨日あたりから別に悪くないって思い始めてるの。これのおかげで。ああ、シルバーナ。本当にありがとうね。この薬、良く効いてるわ。見て、この傷。きちんと塞がってるでしょ?」
そう言ってにこやかに昨日、あたしが作った止血剤の瓶と、止血剤を使ったであろう傷口を見せるヴィエラ。ねえ、この状況で、なんで、そんなにさわやかに笑えるのよ。正直怖い。
「あの、ヴィエラ……その……もう、細かい事は言いません。ですが、どうかお願いします。殺さないでください」
オリエラ? あんたもあんたで何を言い出してるの? いやまあ、わかるけど。絶対、ヴィエラ、この野盗ども倒すわよね……殺すなと警告しないとダメな人なの、この人?
「あと、その。シルバーナに感謝をしているのでしたら、止血剤をガンガン使うようなこともおやめください」
ねえ、オリエラ。あんた、顔引きつってない? 野盗十人相手に焦った顔してた時以上にやばいものに遭遇した顔してない?
「おい、銀髪の姉ちゃん。後からきて何強者面してるんだ? 今はな、大事な家の話をして」
「私も大事な人と話をしてるの。邪魔しないで」
その言葉とほぼ同時に、野盗のお頭の胴体に、鞘に納められたままの剣が振りぬかれた。というのは、あたしの推測。ヴィエラが手を横に払ったと思ったらいつの間にか剣を持っていて、野盗のお頭が吹き飛んでたから、そうしたんだろうって思っただけなんだけど。速すぎて見えなかったのよ。
そして、場がしんと静まり返る。野盗達は吹き飛ばされたお頭を見ていたが、やがてヴィエラに向き直り、睨みつけた。
「てめぇ! よくもお頭を!」
その一言を合図に残りの野盗達が一斉にヴィエラへと襲い掛かる。ヴィエラはつまらなさそうな顔のまま、鞘に納めたままの剣を二振りする。すると、野盗達はみな拠点の壁まで吹き飛んだ。嘘でしょ……
そこへ、外から足音がやってくる。
「おい! シルバーナ! この倉庫は危険だった! 俺がチェックミスした、すま……なんだこりゃ!?」
バルガン……来てくれたのは、嬉しいわ。でも、これは、大丈夫なの? そう、一言声を掛けようとした時に、バルガンはヴィエラの顔を見て驚愕の表情を浮かべたのだ。
「え? 嘘だろ? なんで、なんで、イオタの暴剣がいるんだ……?」
……『イオタの暴剣』……? ねえ、ヴィエラ。それ、あんたの二つ名……?




