第16話 あたし、この国のクソ制度大好きよ?
この道を曲がれば拠点、という所でお腹が鳴り、この事実に気が付いたあたし。急いで辺りを見回すとそこには一軒の惣菜店があった。これは今後お世話になりそうね……
その店でこの街名物だという凍魚肉バーガーなるものを二つ買ってから、あたしは拠点に向かった。色々終わってほっとしたらお腹がすいちゃっただけよ。熊肉は残ってるとはいえ、あれは今は宿。明日、拠点の設備が整ってからオリエラに調理してもらうとして……と考えながら拠点の扉を開けた。
扉を開くとそこには優雅な紅茶の匂いが立ち込めて……
いや待って。
怖くなって、扉を閉める。
あたし、そんなこと頼んでないし、オリエラもすると言った覚えがない。なんで? 恐る恐る再び扉に手を掛けた。
ギィィィ……
やはり、あたしには一切似合わない、優雅な匂いがする。扉からは、竈は見えない。しかし、竈の裏側に当たる場所は暖炉代わりにもなっていて効率的にこの倉庫を温める仕組みになっている。その暖炉が、動作しているということは竈に火が入っているということだ。
「おや、今度はどちら様……ああ、シルバーナでしたか。お帰りなさいませ」
オリエラが陶器製のポットを手に顔を出す。それもあんたの私物!? というか、気が早いのよあんた! ここはまだ正式譲渡前なのよ!
というか……『今度は』?
「色々ツッコミたい事があるんだけど……今度はって?」
「お客様でございます。ここの最終確認にいらっしゃった職員の方です。今、事務室の方にわたくしの折り畳みのティーテーブルと折り畳みの椅子を設置させていただき、休憩していただいております」
……折り畳みのティーテーブルを持ち歩いてる奴がいるかああああああ!! 本当に何考えてんのよあんたは!? 何を考えて冒険してるの!?
いけない、ツッコミどころが多すぎて本来の目的忘れそう。とにかく客が来てるならもてなし……じゃないわよ! 職員はここの確認しに来てるんだからもてなす必要ないでしょうが! さっさと仕事させなさい仕事を!!
「えっと。職員さんは、お仕事はもうお済みで……?」
バーガーを片手にあたしがそっと事務室の中を覗く。そこにはオリエラの言っていた通り、ティーテーブルと椅子が並べられ、ハーゲルンの職員が一人、優雅に紅茶を飲んでいた。
「あ、どうも。まだです。来たらそちらの方が床の壊れた部分を剥がしてたので、何をしているのですかと聞いたら掃除だと。で、お客様ならもてなさなければ、と言い出して、その……」
「なるほど。巻き込まれたのね……お昼は?」
「今から作ろうとしていたところでございます」
「それは、いいのよ。ほら、買ってきたから」
「おや。それは近くの惣菜店で売られていたものですね。興味深いです」
買ってきたものを気に入ってくれて良かったわ。でも……そもそも、調理ができるだけの薪があるって事よね、その返事。その薪はどうやって調達したのよ、オリエラ? 内覧の時の薪は設備確認用で国が用意してくれたけど、引き揚げたでしょ……?
「というか、どうやって竈に火を入れたのよ?」
「床は剥がすとおっしゃっていたので。特に傷みが激しい部分につきましては、薪として再利用するほかないと判断させていただきました」
オリエラの言葉で、倉庫の床を改めて一望する。バキバキに割れてしまっていた木の床だけが丁寧に剥がされていた。
あ、ああ……なるほどね。掃除の一環……と言えば、これはぎりぎり許されるかもね。オリエラ、あんた、割とワイルドなことするわね……
「えっと、これ、お咎めとか、ない?」
「本来は譲渡前の器物損壊ですけど……こうして美味しい紅茶をいただいたので目を瞑ろうかなと……どうせ、傷んだ床でしたし」
……ちょっと。紅茶の件、ツッコミたかったのにツッコめなくしないでよ……これじゃ何も言えないじゃない!
「でも、水道がきちんと通っていることの確認と、竈兼暖房器具の動作確認ができたので、仕事は実質終わりです。あ、あとは……本当は明日お伝えしようかなと思っていたんですけど、荷物、この調子だとここに置いて行っちゃいますよね?」
「え? いや、流石に持ち帰るべきかなと思ってるのだけど、何か問題でもあるの?」
「えっとですね。内覧を担当した職員がお伝えしていないかもしれないのですけど。ここ、たまに野盗が寝床にすることがありましてですね。どこから入ってくるのかわかってないので、気を付けてください」
ちょっと待ちなさいよ!! そんな話は一切聞いてないんだけど!?
「あの、そのお話は一切聞いておりません。事前に伝えるべき内容では?」
「ただ、国の法律的には伝える義務ないんですよね。ここの値段もそれ込みですし……」
本当、この国、良い制度してるわぁ……本当、ほれぼれしちゃうぐらい!
「ねえ、ここで今日、寝る分には問題ない?」
「え?」
「もう確認、終わったのよね? 壊さないから、ね? ダメなんていう法律、ある?」
「……あ、ありません。えっと、鍵だけは、失くさないでくださいね……」
あたしが凄むと職員は紅茶を飲んでいたカップを置いていそいそと倉庫の外へと出ていった。ふふっ……こんなオチとは思ってなかったわ。
「シルバーナ、どうする気ですか?」
「今日、野盗がくるとは限らないけど。ここはもうあたしのもんよ! あたしの許可なしにあたしの建物を我が物顔で使う奴なんて許すわけないじゃない!」
「……確かに。せっかく手入れを始めた場所に許可なく土足で入られるのは、わたくしも腹立たしいと感じておりました。警戒を強めましょう」




