第15話 あたしって買い物上手だと思わない?
最初に来た時からいい商品棚だと思ってたのよね。収納量もサイズ感も理想だし。欲しいわ~
「やめろやめろ! 棚は大人しく大通りの家具屋とかで買え! なんでピンポイントにその棚なんだよ! 俺が店を継いでから買った比較的新しい棚なんだ!」
「だってこの棚、この図面通りだとこの場所にぴったりだし。あたしのテントの色に合うし」
「サイズはともかく色で決めんな!」
リントに対して図面を見せながら説明するが、物凄く抵抗されてしまう。うーん……やっぱり商品を置くものがないのが困るのかしら。あ、でも……
「でもほら、今、奥から器材持ってきたんでしょ? それが置いてあった棚を出せばいいじゃない! 完璧!」
「どこが完璧だどこが! つーか、そこまで頭回るんなら、『奥の棚を見て気に入ったら譲って?』ぐらい言え!」
うーん。本当はこの棚がいいんだけど、この器材が置いてあった棚でしょ? 見る価値はあるか……それで金額にあってないって思えば、あっちの時計にしましょ。あの拠点、まだ時計がないし。
「じゃあ、その奥の棚見せてよ。そうじゃないと言えないでしょ?」
「ほら、こっち来い!」
リントが店の奥へと入っていったのであたしも後ろについていく。外から見るよりも店内の奥は広く、そこには表に出しきれない商品が所狭しと並べられていた。そんな中、リントが手の甲でコンっと叩いて、指し示した棚。
それは長机に棚がついたような、商品棚……というより研究器材を収容するための収納棚だった。これ一つあれば簡単な製薬用の器材を全部並べて作業できるんじゃない……!?
あたしはすぐさま駆け寄ってざっくりサイズを測る。えっと、あたしの両腕が図面ではこれぐらいの長さになるから……で、これを置くならテントの中だけど……うん、ギリギリ行けるわね、悪くないかも!
「どうだ、バカでかいだろ。さっきの器材と一緒に買った売れ残りだ。こいつは絶対売れねぇと思って諦めてたんだが……これで良けりゃ、あの器材のおまけにつけてやるよ。もちろん、運搬サービスもつけてやる。邪魔で仕方がないからな」
リントが勝ち誇った顔であたしを見る。ええ、これはあんたの勝ちよ、リント。普通、こんなバカでかいもんを提案したりはしないわ。でもあんた、さっき、この図面見た時、行けるって思ったんでしょ? いいわね、そういう抜け目のなさ。こういう相手じゃないとあたしもやり辛いのよね。あんたとは長く付き合っていけそうだわ!
「じゃ、それでよろしく。でもさぁ。そうなると、今度は毛皮分が、半分ぐらいは余ると思うんだけど~ あんたはどう思う?」
「あ~ そうだな。じゃあ一緒にここにあるゴミみたいな薪も一緒に運んでやるよ。どうせ燃やすのになんで形が揃ってないと売れないんだろうな? 規格外品が多すぎて困ってたんだよな?」
あたしとリントは一瞬目でやり取りする。そしてすっとあたしが手を差し出すとガシッとリントがあたしの手を握る。交渉成立ね!
「リント、あんたのおかげで助かったわ。完成した薬、一番最初に売りにきてあげるから、楽しみにしてなさいな」
「ああ、口だけじゃないことを期待してるよ」
リントの雑貨店を出たあたしは大通りの雑貨店へと足を運んだ。リントが大通りでって迷わず言うってことは、少なくとも敵対はしてないってこと。なら大人しくそっちで買う方がいいでしょ。
「ねえ、お菓子用の精密な計量器ってここ、ある?」
欲しいものははっきりしていた。計量器と、しっかりとしたテーブルと椅子。そしてソファー! この辺りは耐久性の問題もあるから新品がいいのよ!
「お菓子用ですか? えっと……あ、これとかどうです? 砂糖一粒の重さまで測れる優れものですよ」
店員はあたしの身なりを見て、気が付いたかのように精密計量器を勧めてきた。なかなかやるじゃない。こんな大通りに出店してるから胡坐かいてるんじゃないかと思ったけど。
「あ、そうそう、こういうのよこういうの! ありがとう、これ貰うわね! あと、あっちのソファーと……テーブルと椅子のセット! これでいくらぐらい?」
「ハーゲルン銭貨一万九千八百枚となりますが……えっと、お支払いは大丈夫ですか?」
少し驚いた顔で注文票を書いた店員が不安そうにあたしの顔を見る。
うっわ、面倒! ハーゲルン銭貨換算のお店だった! えっと、銅貨が銭貨約百枚でしょ。銀貨は銅貨約十枚分でしょ……あ、金貨二枚出せばおつりが出るぐらいね。でもこういう所って世界三貨で支払うとおつり部分は両替手数料だとか言って返してくれないことあるのよね。計量器だけならともかく、ソファーとテーブルと椅子の合算に二百銭分も余計に払いたくもないのよねぇ……そうだわ!
「え~っと。支払いは良いのよ。ほら、金貨があるから」
そう言ってあたしはおもむろに二枚の金貨を袋から出してカウンターに置く。すると店員は目を丸くした。そりゃそうよね。冒険者でも金貨でポンって支払う人はそう多くないし。
「でも問題はこれだとおつりがでるでしょ? あたしね、生活雑貨と、あとこういう瓶が色んなサイズで沢山欲しいの」
続けてカウンターに置いたのは、あたしがいつも持ち歩いている魔素粉末を入れている瓶。製薬した薬を入れておく容器問題を一旦これで解決しましょう。利益計算とかは一旦後回し。中身の薬が間違いないっていうのを広めるのが先だからね。綺麗な容器がたくさんいるのよ。こういう所なら多分あるでしょ。
店員は瓶をまじまじと見てから「少々お待ちください」といって店の奥へ。そして戻ってきた時には小さめの箱を抱えていた。店員がカウンターの上に木箱を置き、中を見せるとそこには綺麗に並べられた三十個の空瓶が入っていた。大きさとしてはあたしの魔素粉末の瓶より二回りほど大きい。ガラス……製ではなさそうだった。透明な樹脂製かしら? でも止血剤だったらちょうどいいかもしれないわね。
「こちらは、アロマ用の瓶として取り寄せたものですが耐熱性に難があり使えなくなった品でして……こちらでよろしければ、この箱とあと一サイズ小さいものが五十個入ったものがあるので、それもお付けいたします。あとは所定の場所までの運搬サービスもつけた上で、金貨二枚なら、とのことですがいかがでしょう?」
うーん……全部で八十個……物としては悪くないでしょ? あたしが詰めるのは薬なんだから、冷ましてから詰めればいいわけだし。問題は値段よ。二百銭で八十個は消耗品としては少し、高い気もするけれど……でも運搬サービス付きなら悪くは……いや、待って。こう悩む程度には悪くない提案ならこうよ!
「それでお願い! ただ、その木箱もつけて欲しいの。だめ?」
「え? あ、は、はあ……多分大丈夫だと思いますけど……」
「別に綺麗な木箱じゃなくていいわよ。きちんと箱として機能する物ならなんでも良いの。なんなら運搬サービスで運んでくる時に邪魔な箱持ってきてよ! 全部引き取るから!」
「は、はあ……て、店主と話しておきますね……?」
「ええ、よろしく!」
あたし天才! 材料を仕分けておく箱がないじゃない! こういう所でゴミとして捨てられる箱をいただいちゃえばいいのよ! 相手としては二百銭のうちの一つなんだから損はないはず! あたしって本当に商売上手よね! さーって。この成果をオリエラに教えてあげなくちゃね!
あたしは足早に購入した拠点へと歩を進める。気づけば日がすでに傾き始めていたけれど、あまりに買い物に夢中でお昼ごはんを食べていないことに気が付いたのは拠点付近についた頃だった。




