第14話 中古でいいものと悪いものがあるのよね
「じゃあ、これが登録手続き費用込みの金貨五枚ね! 確認してよ!」
あたし達は役所に戻るとすぐにカウンターで手続きを始めた。そして最後に、金貨を五枚。カウンターに並べて置いた。
「確認って真偽ぐらいしかないだろうがよ! お前に限ってそんなことしないだろ! 確かに、受け取った」
バルガンはその並べた金貨をすっと集めて握りしめ笑顔を見せた。
「手続きはこれで完了でしょうか?」
「おう。これで終わりだ。見ての通りの物件だからな。こっちの内部手続きもこの時間なら今日中には終わる。明日朝、鍵を取りに来い」
バルガンはそう言ってあたしに書類を手渡してくれた。
「予定外の仕事も終わったし、ちょっと遅い休憩にでもするか」
「じゃあ、あたしは、宿に戻ってこれを荷物の中に放り込んだら、什器を探しにまた街に」
「シルバーナ。バルガン様。少しよろしいでしょうか?」
手続きが終わり、それぞれの行動に移りかけたタイミングでオリエラがあたし達に声をかけた。
「バルガン様。掃除程度は今日行っても問題はございませんか?」
「あ? ああ、それぐらいは別にいいが。職員が確認作業をすることもあるがその邪魔さえしなければ、だが」
「ご安心ください。そのような事は致しません。シルバーナ。よろしいでしょうか?」
あたしの方を見て真剣な顔で承諾を求めるオリエラ。
あ、もしかして倉庫から強引に押し出した時の一言、気にしてんの? あんたらしいわね。でも確かに少しでも時間短縮できるんなら助かるし……
「ええ、いいわよ。でも給料なんて出ないからね?」
「もちろん心得ております。これは、わたくしがやりたいだけですので」
「じゃあ、これは管理用の鍵な。明日、マスターキーは渡すから今日はそれで我慢してくれや」
バルガンはそう言ってオリエラに鍵を手渡した。彼女は鍵を受け取ると、馬鹿丁寧なお辞儀をして去っていった。もう、こんなことされるとこっちも張り切っちゃうじゃない。
あたしはバルガンの前に手を広げて出した。
「バルガン! 図面あるでしょ。頂戴。それを参考に什器買いに行くから」
「お前は本当に行動が早いな……即決即断。だけどよ、それで首都の連中から睨まれてるんだから気をつけろよ。ほらよ。持ってけ」
「あれはあいつらが悪いの。あんたが左遷で済んでるの誰のおかげだと思ってんの。じゃ、またね。開業祝いには招待状出してあげるから来てよ?」
「仕事上嫌でも行くことになるだろうが、まったく……」
あたしはバルガンから図面を受け取り、ウインクしてから役所を後にした。
宿の荷物の中に契約書を締まってからあたしが足を運んだのはあの雑貨店リンティス。あたしはご機嫌にリンティスの扉を開け放った。
「リント! ありがとね!」
「扉を開けていきなりありがとうなんて言うやつはお前が初めてだよ……そもそも何に対しての『ありがとう』だ……?」
相変わらず、どんより暗い店内にリントはいた。怪しいものが引き立つように暗くしてんのはわかるんだけど客入り考えた方が良くない? 他の客がいないんだけど。
「で、今日は何用だ? 早速薬でも売りに来たか?」
「流石にまだよ。設備が整ってないもの。あ、設備と言えば!」
あたしはカウンターへと体を寄せる。若干、引き気味に、リントは答える。
「製薬用の器材が欲しいとか言うなよ? んなもんあるわけないだろ」
「調理用はあるでしょ?」
「は? 調理器具? まあ、調理器具はあるが……鍋とか、フライパンとか、皿か」
「あと計量器」
リントは慣れた手つきで調理器具を並べてみせた。どれも使い古した形跡のある中古品だ。計量器は中古じゃまずいのよね。新古品ならともかく。
「ここの、全部中古? どれくらい使ったとかそういうの把握してない?」
「んなもん管理してるわけないだろ。新品が欲しけりゃ大通りに行け。うちは基本は買い取ったもんだって最初に言っただろ。生活用品もそうなんだよ。小型家具もあるだろ。あれらも全部だ」
その言葉を聞いて、奥の品々を見る。小型家具……デスクに、ワゴン、本棚……品揃え自体は確かに『家具』だった。しかし、ここにある家具のデザインはどこか、無機質だった。もしかして……あたしは大きく手を叩いた。
「それなら器材あるでしょ! どっかどでかい所から買い取ってない? 精密機器は困るけど、蒸留器具とかなら十年以上前のでもいいわよ! ガラスは劣化しにくいし!」
「……よく気が付いたな……」
そういってリントは店の奥からガラス器具をいくつか引っ張り出してくる。フラスコに蒸留器具。あたしが欲しかった器材だ。現在のお役所は元研究施設。引き上げの際に古い器材も一緒に引き上げたかどうか。残っているかは半分賭けだったけどラッキーだったわ!
「あそこの本棚とかお役所とかでよく使われる型でしょ? もしかしたらって思ったのよ。ねえ、これいくらで売ってくれる?」
「そうだな……親父がガラクタ全部まとめて金貨五枚で買い取ったって聞いてるが……他はあらかた売れたが、それでもぎりぎり元が取れたぐらいにしかなってないんだよな。どうせこんなもん必要なのはお前ぐらいだし……」
リントはそう言うとちらりとあたしを見る。なるほど、言い値で良いけど足元見すぎるなよ、ってことね……よし、なら奥の手よ!
あたしは麻袋から熊の毛皮を取り出してリントの前に広げる。
「うん? なんだこれは。雪山に出る怪物の熊の毛皮じゃないか。でかいな。ほう……」
リントは物珍しそうに拡大鏡を持ってきて鑑定を始める。よしよし、良い食いつき具合ね……
「これと、金貨一枚でその器具とあと、これが欲しいんだけどどう?」
そう言ってあたしはカウンター前の、ツボの置いてある棚をぽんぽんと叩いた。
「これ? ああ、ツボか? 確かにお前の仕事ならツボもいるな」
「え? 何言ってんのよ、あたしの欲しいのはこっち」
あたしはもう一度、にこやかにツボの置いてある棚をぽんぽんと叩く。
「……お前、まさか……棚か!? 商品棚が欲しいって言ってんのか!?」




