第12話 バカと制度は使いようなのよ!
「え~っと。広さはここ、ここ、ここ……で、近隣考えるとここは駄目でしょ? あ~! ここはちょっと小さいけどありね!」
「……シルバーナ。貴方の目論見はわかりましたが。これらの土地はあくまで土地。数日で目途をつけるという話ならば、建物がすでに建っている土地でなくてはならないのでは? 貴方がやっているのはただの土地探しです」
「甘い、甘いわよ。いや、仕方がないわね。貴方はこの国とこの土地の特性を、知らないのだから」
あたしは自慢げに、そして大げさに切り出す。人差し指を立て、口角を上げて、説明を続ける。
「いい? この国はね、管理国家なの。建物そのものも管理したいのよ。つまり! 基本的に土地と建物はセット販売が原則なのよ! 建物がない土地は国がきちんと調査した上で、用途限定でしか売り出されないの。だから、それさえ弾いてしまえば基本は問題ないの! 特別な建物がついてたりなんかすると備考欄に建物の特記事項として書かれるしね」
「しかし、その建物が住める建物とは限りませんが」
「そうね、普通ならね」
ふっ、と、オリエラの質問に得意げに笑って見せる。
「でもここは極寒の地。最低限の防寒設備は整っていないとそもそも建物として機能しないのよ! まあ、ちょうど十年前ぐらいの建物だけは怪しいけど。この頃の物だけは気候変動なんて想定してないだろうしね」
「十年前の建物のみ、建てた直後に気候変動が始まり、それにあわせて改築するより、売り払って別の場所に移った方が良いと判断された可能性があると?」
「新築したばかりなのに、気候変動のせいで使い物にならない可能性が見えてきた。なら価値があるうちに売っぱらって別の所に最初から変動後の気候を見越した建物を建て直した方が良くない?」
オリエラはあたしの回答を聞いて少し考えてから頷いた。
「確かに一理ありますね。つまり。ある程度絞ってしまってから、対象の建物が問題ないかを確認するだけで事足りる……ということでございますね?」
「そういうこと!」
「ところで、予算は?」
「……あ」
あたしはあの日、トルンに渡された世界三貨の入った袋を取り出す。そういえば、あたし、一度も中身を精査してないわ。袋をひっくり返し、じゃらりと中身を全部広げる。
「……シルバーナ。無防備です」
その声につい反応してオリエラを見ると、今まで見た中で一番の呆れ顔。あんた、そんな顔もできるのね……そこまで呆れなくてもいいじゃない。ここに盗るような奴はいないでしょ?
「おい、シルバーナ。俺を信用してくれてるのは嬉しいんだが流石にその行動は……って、お前、これどうしたんだ? 金貨十枚はまあ、土地買うつもりならわからないでもないんだが……なんでお前さん、銀貨をこんなに?」
中には、金貨が十枚。銀貨が三十二枚。銅貨が九枚。あいつ……なんで銀貨こんなに溜め込んでたのよ。今だったら銀貨十枚で金貨にできたでしょ。銅貨は銀貨にしてるけど、銀貨は銀貨のままって何考えてるのよ……ただまあ、作業台やら完成品を保管する什器のこと考えると、銀貨の方が取り回しは利くわね……そういうこと?
「まあ、こんだけありゃこの街に限って言えば買えない土地はこの役所と大通りの商店付きぐらいだわな。お前がチェックした土地はもれなく全部、予算内だ」
それは有難いんだけど……いや、なんか、意味ありげなのよこの銀貨。渡してきたの、あのトルンよ? あたしが考え込んでいる様子を見てオリエラがバルガンにわかるように、一か所、指を差した。そこは、大通りから離れ雪山に近い角地。土地の広さこそチェックした土地の中で最も狭いが、備考の特記事項に建物は二階建て、地下室付きの記載があった。
「わたくしはこの国の制度について疎いので質問させていただきます。例えばこの土地を今から拝見したい、と希望した場合、どのような手順となるのでしょうか?」
「ああ。あっと、その土地は……管理は国に引き渡されてるな。気になるなら取引専門の職員を今から呼ぶからそいつとやり取りしてくれ。早けりゃ明日にでも引き渡せるだろうな。地下室付きだから入念にチェックはされてる。ちょっと割高表示だが、国との直接取引になるからこの金額のまま、やり取りできるのは強いかもな」
「なるほど。国が管理していない建物の場合は、地主との仲介を国がする形で?」
「おう、そんな感じだ。国に払う料金としては成立時に別途仲介料として銭貨十枚。とはいえ、登録手数料込みだからまあ悪くないだろ?」
「土地のやり取りに国が都度挟まる形をとるのですね。確かに、管理国家でございますね」
オリエラはあたしに目配せをする。わかってるわよ。確かにその土地は悪くない。国が管理してるわけだから多分、建物の状態もそれほど悪くないでしょうね。ただ、立地と土地の大きさまで考慮すると金貨十二枚は結構痛い。製薬器材の中には金貨十枚は必要な高価な器材もある。将来を見据えると……ここで元手の大半をつぎ込む余裕はない。
あたしは首を振ってその角地から道を挟んで向かい側の土地を指差す。
「ねえ、案内してくれるんならこっちがいいわ」
金貨五枚。面積は平均的な土地面積よりもやや広く、備考欄に建物は倉庫のみで劣悪表記。だけど、管理は国。住める程度は保証した上で、劣悪。どうせ製薬作業で多少なりとも建物が傷むのよ。今請け負ってる仕事を考えると、建物に求められるのは雨風凌げる機能だけよ!




