第10話 なんで洞窟がレストランになるのよ!
「シルバーナ、体力は大丈夫ですか?」
「いや、あんたこそ大丈夫? へとへとじゃない」
「いえ、へとへとなどではございません。単純に……重いのです」
「ヴィエラが押し付けてきた肉の重さのせいってこと!? そういうのは早く言えって言ってるでしょうが!!」
あたし達はまだ雪山だった。真夜中に雪山から下山するのは命にかかわると判断したあたし達は、当初の予定通り、薬草が生えている洞窟へ向かって歩を進めていた。
あの後、ヴィエラは慣れた手つきで怪物の熊を解体し、毛皮と血抜きした肉の半分をあたし達に押し付けたわけだが……これが、足かせとなっていた。とはいえ、大事な食料を捨てるわけにもいかない。あたしは重さを訴えるオリエラから半ば強引に肉を奪い取って洞窟へと急いだ。
「はあっ! あー! もう疲れた! 火つけるわよ、火!」
「シルバーナ。その荷物はこちらへ。肉の温度管理は大事なのです。火につきましては、こちらをお使いくださいませ」
オリエラがてきぱきと指示をしだす。まあ、そうよね、ここはあんたの仮宿だもんね。ってなわけで、オリエラの指示に大人しく従ってみる。すると、意外なことが分かってきた。
「シルバーナ。薬師である貴方に、一つお願いをしてもよろしいでしょうか?」
「うん? 何よ?」
「今、外で木の実を採ってまいりました。これより簡単な調理をしようと思うのですが、あそこに生えている草の一部は食用にもなるものです。わたくしがこの木の実の加工をしている間、採取のお願いをしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、いいわよ。他に面白いものも生えてたらラッキーだし」
そう言って、オリエラが洞窟内で指定した所に生えている物を確認すると確かにそれは食用の植物だったのだ。木の実もそう。オリエラは、食用を見分ける能力が高い。それだけじゃない。
「ちょっと、あんた、何でナイフを使ってんのよ?」
「これを刻むのに必要でしょう?」
「いや、それはそうなんだけど、あんた、道中、それに手を伸ばしたことあったっけ?」
「これは調理用でございますから。戦闘用のナイフなどございません」
「戦闘用はないのに調理用はあるの!?」
確かに、言い分としてはわかる。でも、冒険者の多くは万能ナイフといって戦闘まではいかないものの、雑務に使ったナイフを雑に拭いて洗ったりしてざっくりとした調理に使うことを考えれば、珍しい行動だ。まあ、ここまでは性格だろう、というので片付けられる。だけど。
「あとはこれで炒めて、皿に分けた上で肉を焼きましょうか」
「待って。あんた、そのフライパン、どこから出したの?」
「はい? この洞窟に置いておいた、わたくしの私物でございますが」
「冒険の際に持ち歩いてたってこと!?」
「何を言いますか! これはわたくしの仕事道具でございます!」
オリエラは、冒険者というより、メイドだったのだ……
「ちょっと待ちなさい? あんた、あたしに最初は冒険者と名乗らなかった?」
「冒険者ですよ」
「じゃあ得物は何なのよ!?」
「得物、でございますか。そうですね。強いて言うのであれば、こちらです」
ピュ! ザシュッ!
オリエラはそう言うと同時に外の木に向かって袖口に仕込んでいた変わった形状の矢を発射した。あ、暗器使いなの、あんた……外の木に刺さった矢を引き抜いて構造を見る。なるほどね、こっちの木綿に染み込ませた毒を使うタイプ……うん?
「ねえ、オリエラ」
「なんでしょうか?」
「だからあんた、薬とか薬草とかに詳しいのね?」
「はい。とはいえ、貴方にはおそらく敵わないでしょうが。わたくしはあくまで、相手の行動を絡めとるために毒を使用しますが、それ以上の知識があるわけではございません」
そう言いながらフライパンを巧みに振る。……滅茶苦茶手慣れてるじゃない。あたし、なんか間違えたかしら? メイドを採取係にしようとしてるのはまずくない?
そんなことを考えていると、オリエラが仕上がった料理をさらっと皿に盛りつけ、あたしの前に差し出した。そういえばツッコミどころが多すぎてツッコミ忘れてたわ……この皿も、あんたがいつも携帯してるのって……
目の前に出されたのは。こんがりじっくりと焼かれた熊肉のステーキ。あたしがそこで採ったキノコと野草が、塩胡椒でしっかり炒めて添えてある。濃厚な肉の匂いがキノコの匂いと相まって食欲を刺激する……その上に、砕いた木の実を混ぜたソースをかけるの?
ふざけんじゃないわよ! こんなのかぶりつかないわけないじゃない!!
「そんなに焦らずとも、肉は逃げません。それどころか、この雪山という環境のおかげであの肉は明日も鮮度を保った状態で食べることができます。次、どのような味付けで食べてみたいか希望をお聞かせくださいませ」
あんたは何を言ってるの? ここ、洞窟なのよ? レストランじゃないの。なんでここでそういう台詞になるのよ! それよりも!
「シチューとかもよさそうよ、この肉。ほら、あんたも早く食べたら? 多分今が一番美味しいタイミングよ! ほら! せっかく食べるんなら美味しい時がいいでしょ!」
そこで初めて、オリエラの心からの笑顔を見た気がした。
しかし、その笑顔は長くは続かなかった。
「……しかし、わたくしも、馬鹿なことをしたものです。もう、止血剤が不要なほど、状態が悪化していたとは……」
そう。そもそもあたしとの契約は止血剤を求めての事だった。だけど、あの戦いを見て悟った。あんなふうに血を出し入れして戦うような人間……? に止血剤なんて必要がない。
オリエラが求めた、という事実から、元々は必要な人だったのは理解できる。症状の悪化でああなった。ではどういう病気で、という話なのだが……皆目見当がつかなかった。彼女が主人に尋ねなければならない事情というのが、とても気になった。
だけど……なんか、そんなことより、さっき見た、オリエラの笑顔が見たくなった。というより、曇ってる顔をされるのがあたしは嫌だった。
「不要になっちゃったもんはしょうがないでしょうが。でも、ヴィエラは嬉しかったんじゃない? 自分のために用意してくれたもの、嬉しくない奴なんていないでしょ」
「しかし」
「最後にはこうやってあたしらに肉押し付けてきたのが何よりの証拠でしょ。さあてと! あたしはさっさと寝ちゃおうかしらね! 明日は空き物件探しをしないといけないし! 空き物件探して、さっさと設備整えて、あんたの依頼、こなさないとね?」
そう言ってあたしはオリエラに向かってウインクをした。ちょっと大げさだったかしら。でもまあ、それを見て、オリエラは少し苦い笑顔を見せてはくれた。そうそう、あんたの性格は、それぐらいの顔の方が似合うわよ。一番なのはさっき見せてくれた笑顔だけど。
ぜーったい、報酬としてあんた達の笑顔は貰うんだからね、覚えておきなさい!
この話で第1章が終了となります。なろうでは引き続き、第2章までを連続で連載させていただきます。
第2章は21話までとなっており、その後、同シリーズの他作品連載を挟むため、1か月ほど休載となってしまいます。
改めて21話の際にご案内させていただく予定ですが、現時点で忘れないようにブックマークなどをしておいていただけると嬉しいです。
よろしくお願いいたします。




