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第八話

「解決したって、どういうことですか?」

「私がエリアマネージャーに告発したの。そしたら系列店に異動することになったわ」

「そうなんですか!」

「よかったわね。これで美月ちゃんもひと安心よ」

「よかったです……」

「要件はこれだけかしら?」

「はい」

「それじゃあ、切るわね」

「あの……」

「ん?」

「本当にありがとうございました!」

「いいわよこれくらい。自分のためにしたことだし。それじゃあね」


 これで、あの店長と白川先輩がこれ以上接することも無くなる。

 そうなると、今の状態のままでは、あの店長が僕を殺害する可能性は無いに等しい。

 これで、やっと僕の戦いは終わった。

 

 僕はまだ買い物の途中だったことを思い出し、急いで買い物を終わらせ、帰路に着いた。

 帰り道は終始、清々しい気持ちでいっぱいだった。


***


 買い物から帰り、家のエレベーターに乗り込んだ。

 そして、いつも通り六階のボタンを押した。

 エレベーターが上昇する。

 しかし、いつまで経ってもエレベーターは上がり続ける。階の点灯表示も消えていた。

 

 どういうことだ?

 今回はあの組織の女はいないのに、なぜ?

 それに、もう僕の死は回避したんじゃなかったのか?


 エレベーターがやっと止まると、僕は外に出た。

 外は暗くなっていた。

 確かに未来に来ているみたいだ。

 あの組織の女がいなくても、未来に行くことはできるのか。

 それにしても、何も起こらない。

 僕は恐る恐る家のドアを開けた。

 次の瞬間だった。

 未来の僕の腹が包丁で刺されるのが見えた。

 続いて、僕を刺した犯人は、次は自身の腹を刺した。

 犯人が崩れ落ちた。

 その時、犯人の顔が目に入った。


 こ、小西先輩……なんで?


 僕を刺した犯人は、なんと小西先輩になっていた。

 未来は僕が助かるように書き換えられてはいなかったのだ。

 僕は後ろに人の気配を感じた。


「や、柳先輩?」

「…………」

「どうして、柳先輩がここに?」

「……あなたには説明しておく必要があるわね。ちょっとこっちに来て」


 僕は柳先輩に連れられて、部屋の外に出た。


「実は、私も同じなの」

「同じって?」

「私もあのエレベーターで未来に来た。君と同じで今回が三回目よ」

「まさか……」

「あの組織の女性から、君を助けるように指示があったの。だから、君にいろいろ協力してたんだよ。あの店長を告発したのもそのため。なのに、未来はまた君が死ぬように書き換わっちゃった。」

「そんな……」

「けれど、君を救う方法について、私には心当たりがあるわ。安心して」

「それは……どうしたら?」

「それより、まずは元の世界に戻りましょ。ここの世界には長くは居られない。早く」


 僕たちはエレベーターに乗り込み、下降を始めた。

 少し冷静になり、やっと今の状況が把握でき始めてきた。

 

 柳先輩もあの組織の実験に巻き込まれたのだ。

 そして、僕を助けるために、同じ未来を見せられた。

 だから、今回のフランジェの店長の件も、僕を助けるために、隠れて裏で動いてくれていたのだ。

 つまり、柳先輩と僕は今、共闘関係にあるということだ。


 エレベーターが一階に到着し、僕たちは元の世界に戻ってきた。


「それで……僕が助かる方法って、一体どうすればいいんですか?」

「これはあくまで私の推測だけど……美月ちゃんはこれから小西くんと付き合うけど、お別れしちゃうわ。そして、その後に君と付き合ったんじゃないかしら。それがちょうど1年後の話よ」

「もしそうだとして、それと僕の死にはどんな関係が?」

「私、小西くんと昔付き合ってたって言ったよね。これは私の経験談だけど、私は小西くんとお別れした後、また別の人と付き合ったの。けれど、小西くんはまだ私のことが好きだったみたい。それで、小西くんは私の彼氏を血まみれになるまで暴行したの。小西くんはああ見えて、嫉妬心がとても強いタイプみたい。もちろん事件は警察沙汰になったわ」

「それって……もしかして、僕も同じように……」

「ええ、その可能性はあるわ。そして、今回は少し加減ができなかったのかもしれない。あなたに嫉妬した小西くんは、自分を抑えることができずに、あなたを刺した後、罪悪感から自分も刺した。あるいは、美月ちゃんに好かれない自分などこの世に存在しなくてもいいと思ったのかもしれないわね」

「もし本当にそうなら、僕はこの先どうすれば?」

「それは、小西くんが美月ちゃんと恋人になる前に、あなたが美月ちゃんと本当の恋人になることよ。それが、とりあえず今できる最善の選択ね」

「僕が、本当の恋人に……あの白川先輩の……」


 柳先輩が僕の肩に手を置いた。


「やるしかないのよ。自分を、そして好きな子の幸せを守る為に」


***


「そういえば、最近白川先輩とは順調?」


 バイト終わりに凪沙が話しかけてきた。

 花見の後から少しの間は全く話してくれなかったが、最近はまた話してくれるようになった。

 

「そ、そうだね……」


 正直、ここ数日、僕は焦っていた。

 白川先輩と本当の恋人になるために何か行動を起こさねばいけない。

 だか、どうしたらいいか分からなかった。

 

「そっかぁ。いや、ちょっと気になること聞いちゃって」

「何?」

「それがね。小西先輩、まだ白川先輩のこと諦めてないらしいの」

「え?」

「一応、彰人にも言っといた方がいいかなと思って。でも、彰人ならきっと大丈夫だよ」

「うん、ありがとう……」


 なんとなくそんな気はしていた。

 嫌な予感は的中するものだ。

 

 僕の焦りは増す一方だった。


***


 僕と白川先輩は、図書館にいた。

 今日はふたりとも午後は授業が無かった。そこで、サークル前に一緒に課題をすることになったのだ。


 僕たちはそれぞれ淡々と課題を進めていた。

 一時間ほど経ち、少しひと段落着いた頃、白川先輩がひそひそ声で話しかけてきた。


「ちょっと休憩に売店行かない?」

「いいですよ」


 外に出た途端、白川先輩は大きく伸びをした後、僕に話しかけてきた。

 

「私、ああいう静かな空間、ちょっと苦手なんだよね。私おしゃべりだからかな?」

「僕もです」

「だよね? なんかムズムズしちゃうの」

「それ、分かります」

「そういえば、加藤くんは試合とか出るつもりはないの?」

「そうですね……」

「そっかー。残念だなぁ。二ヶ月後くらいにナイトカーニバルっていう、大きなナイトレースの記録会があるんだけど、うちのサークルの恒例行事みたいになってて、その試合はみんな出るんだよ。去年も大盛り上がりでね、みんなかっこよかったなぁ」

「そ、そうなんですね……」

「加藤くんも、気になるなら出てみなよ。お祭りだと思ってさ」

「……考えてみます」


 正直、今まで試合に出るなんて、考えもしなかった。

 しかし、今一つの考えが頭に浮かんだ。

 今の僕のままでは、おそらく小西先輩に白川先輩を奪われてしまうだろう。

 しかし、もしその走りで小西先輩に勝てば、恋愛でも小西先輩に勝てるかもしれない。

 白川先輩に振り向いてもらえるかもしれない。

 僕のことを、かっこいいと思ってもらえるかもしれない。

 浅はかだが、今の自分にできることはこれしかないと感じた。

 僕は決心した。

 僕は、二ヶ月後のナイトカーニバルに出場する。そして、小西先輩に必ず勝つ。

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