第七話
「お久しぶりです。加藤彰人くん」
扉が閉まると、エレベーターは上昇し始めた。
「どうして…………そうだ……あんたに聞きたいことがたくさんある! まず、僕を殺した犯人は一体誰なんだ? 答えてくれ!」
「残念ながら、それについては答えられません」
「じゃあ、なんでまた現れた?」
「あなたが少々足踏みされているようでしたので、もう一度未来に行っていただく機会を与えることになりました」
「なんだと?」
前回と同じように登り続けていたエレベーターが六階についた。
「さぁどうぞ、お行きください。あなたの恋人がお待ちですよ」
「恋人? どういうことだ?」
「あの白川という女性のことです。あなたたちは一年後には恋人同士になっています」
「え?」
「ちなみに、あなたは未来にあまり長くは滞在できません。すぐにこちらに戻ってきてください。よろしくお願いします」
「……何がどうなってるんだ?」
僕はエレベーターの外に出た。
今まで降っていた雨は止んでいた。
自分の家に向かって歩き始めたその時、自分の家のドアが開き、男が飛び出してきた。
僕は咄嗟に顔を隠した。
その男は五十代くらいのおじさんだった。体は血まみれで、ひどく慌てていた。
僕とすれ違うと、そのまま階段を駆け降りて行った。
僕は自分の家のドアを開けた。
やはり、僕が腹部から大量の血を流して倒れていた。そして、その横では白川先輩が呆然とした顔で座っていた。
白川先輩は僕の顔を見てとても驚いていた。
ここまでは、前回と同じだ。しかし、今回は前回と違うところが一つある。
僕はまだ息がある。
「おい! しっかりしろ!」
僕は倒れている僕を揺さぶった。
僕が少し口を開いた。何かを話している。
「どうした? なんだ?」
「は、犯人は……フランジェ…………」
フランジェ?
フランジェといえば、白川先輩のバイト先のお店の名前だ。
「フランジェがどうした?」
「…………」
「おい! しっかりしろ!」
血まみれの僕はもう力尽きたようだった。
気づけば息をしていなかった。
その時、突然に僕の意識が薄れていくのを感じた。
僕は先ほどの組織の女の言葉を思い出した。
「あなたは未来にあまり長くは滞在できません。すぐにこちらに戻ってきてください」
僕の意識はそのまま遠のいていった。
気づけば、僕はエレベーターの中にいた。
あのスーツの女性はもういなかった。
どうなったんだ?
エレベーターが六階に到着した。
外に出ると雨が降っていた。
どうやら、今に戻ってきたみたいだ。
僕は一度冷静になるため、家の中に入ることにした。
未来ですれ違った、あの中年の男は誰だったんだろうか。
そして、未来の僕は死ぬ直前、フランジェと言い残した。フランジェといえば、白川先輩のバイト先のお店の名前だ。
きっとフランジェを調べれば、僕の死の手がかりがわかるに違いない。
僕は胸の高鳴りが抑えられなかった。
***
次の日、僕は白川先輩とフランジェでご飯を食べることになった。
一人で行ってもよかったが、少し恥ずかしかったため、偽装カップルを浸透させるためと言い訳をして、白川先輩に一緒に来てもらうことになったのだ。
店に入ると、僕たちと同じ大学生くらいに見える女性のスタッフが白川先輩のところに駆け寄ってきた。
「これが白川先輩の彼氏さんですか?」
「そうだよ」
「きゃー。こっちが照れちゃう!」
そう言うと、彼女は店の奥の方に去っていった。
席に着くと、ひとまず白川先輩のおすすめの料理をいくつか頼んだ。
料理を待っている間、僕はスタッフたちを一人一人確認したが、見覚えのある顔は見当たらなかった。
今日はハズレか?
しばらくすると料理が運ばれてきた。
「どう? 美味しい?」
「美味しいです!」
「そう! よかった!」
確かに料理は美味しい。
しかし、僕は呑気に料理を味わうような気分ではなかった。
「初めまして。君が白川さんの彼氏さん?」
僕は声の方向を見た瞬間、全身が震え上がるのを感じた。
そこには、あの時、血まみれで僕の家から飛び出してきた、あの男が立っていた。
こいつだ……僕を殺した犯人は。
「店長、こんなとこ来てないで、早く厨房戻ってください」
「えー。だって、白川さんの彼氏さんが来てるなら、一目見とかないとと思って……」
「早く厨房行ってください。ほら、彼氏も怖がってます」
「もう……仕方ないなぁ」
あの男はこのお店の店長だった。
僕は怒りと動揺で、しばらく固まってしまっていた。
「加藤くん、大丈夫? びっくりしたよね?」
「だ、大丈夫です……」
「なんだか、具合悪そうだけど……」
「実は昨日あんまり寝てなくて……」
「そうだったんだ……じゃあ、今日は早く食べて、早く帰ろう」
「すみません……ちなみに、ちょっと気になったんですけど、あの店長ってどんな人ですか?」
「どんな人って?」
「その……人柄というか……」
「うーん。あんまり大きな声では言えないけど……」
白川先輩はひそひそ声で話し始めた。
「実は、セクハラおじさんなの。特に私と明里先輩にはひどくて……体触ってきたり、デート行こうって誘ってきたり……正直困ってるの。それに、昔好きな人をストーカーして警察沙汰になったこともあったって噂だから、私たちも警戒してるのよね」
「そ、そんな……」
「でも、心配しないで。あんまり関わらないようにしてるから」
「……」
***
僕は帰宅した後、これまでの出来事から、僕の殺害について一つの仮説を立てた。
あのスーツの女性の話が本当なら、一年後には僕と白川先輩は本当の恋人になっている。
そして、白川先輩とあの店長の間にはなんらかのトラブルが発生した。白川先輩の話から推測すると、それはストーカー被害ではないだろうか?
そして、ストーカーがエスカレートし、遂にはあの店長は白川先輩と恋人関係にある僕を殺害した。
こう考えると、話の辻褄が合う。
いずれにせよ、これ以上あの店長の近くに白川先輩を置いておくのは良くない。
それだけは間違いない。
しかしどうすれば?
***
あれから数日が経ったが、白川先輩をあの店長から遠ざける具体的な解決策がまだ見つからずにいた。
僕はスーパーで買い物中、ふと思いついた。
やはり、こういう時は一度、柳先輩に相談してみよう。彼女なら、何かいい案を教えてくれるかもしれない。
僕は柳先輩に電話をかけた。
「もしもし? 加藤くん、突然どうしたの?」
「実は、柳先輩に相談したいことがありまして……」
「何? 言ってみなよ」
「白川先輩のことなんですけど……」
「うん。どうせそうだと思ったよ」
「まぁ、これは柳先輩にも関わることなんですけど」
「そうなの? 何?」
「その……お二人のバイト先の店長のことで、白川先輩がその店長からセクハラ受けて困ってるって聞いて……どうにかしてあげたくて……」
「その話なら、もう解決したよ」
ん? どういうことだ?




