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第四話

 今日は二回目のサークルの練習の日だ。

 授業が終わり、グランドに向かっていると、大雅と出会った。


「そういえば、明後日の花見、彰人も来るよな?」

「花見?」

「なんだ、まだ聞いてなかったのか……うちのサークルは新年度始まって最初の土曜日に花見をやるんだよ」

「へぇー」

「彰人も来いよ。みんなと仲良くなるチャンスだぜ」


 花見とは、なんともサークルらしい華やかな行事だ。

 正直、あまり気が乗らない。

 しかし、おそらく白川先輩は来るだろう。

 彼女について何か知ることができるチャンスかもしれない。


「そうだな、行こうかな」

「よし! それと、花見は三年生が幹事なんだ。だから、来年の予習もしとかないとな……」


***


 今日の練習が始まった。

 妻夫木代表から、僕たちのグループの練習メニューは、インターバル走だと発表された。

 距離は千メートルを八本。設定ペースも早く、かなり強度の高い練習だ。

 一本目はなんとかペースについていくことができた。

 しかし、体力はすでに限界だった。

 二本目からは着いていくことができなくなり、終盤は集団から大きく離された。

 競技を離れていた間に、かなり体力が落ちていたのは明確だった。

 このグループと今の自分には、まだ相当な実力差があった。

 メニューを終えた僕は、ゴール付近で座り込んでしまった。

 落ち込んでいる僕を見た小西先輩が、こちらに近寄ってきた。


「加藤、そう落ち込むなって。あれだけ競技から離れてたにしては、よく走れてたと思うぞ」

「ありがとうございます……でも、やっぱりちょっと落ち込みます……」

「お前ならすぐ戻せるよ。それより怪我はしてないか?」

「はい、大丈夫です」

「それならよかった。怪我しないことが一番だからな」


 小西先輩は本当に優しくて、まるで見本のような先輩だ。そして、今このサークルの中で最も実力があるのも小西先輩だ。これで、顔もかっこいいのだから、文句のつけようがない。

 せめて、走りだけでも追いつきたいところだ。

 これから練習頑張らないとな。


***


 練習が終わり、一人で帰ろうとしていると、後ろから凪沙が追いかけてきた。

「なんで一人で帰るの? 家途中まで一緒じゃん。一緒に帰ろうよ」

「いいけど……」


 凪沙はニコニコしながら、僕の横に並んできた。

 

「彰人、しっかりへこんでるじゃん」

「まぁね。正直、あんなに置いていかれるとは思ってなかった」

「でも、あのメニューしてるだけですごいって思っちゃう。それに、毎回最後までちゃんと走り切ってたじゃん。そういうとこ、尊敬しちゃうな」

「そ、そんなことないけど……」

「彰人は無理せず、自分のペースで頑張ればいいよ」

「頑張るよ」

「そういえば、明日のバイト被ってたね」

「そうなのか? まだ見てなかった」

「明日も人多そうだね」

「そうだなぁ……」


 この後もすこしバイトの話に花を咲かせた後、僕たちは別れた。


 なんだか、今日の凪沙は少し様子が変だった気もするが、気のせいか?

 それに、今まではもっとそっけない感じだったというか、単なるバイトの同僚って感じだったのに、最近はとても気にかけてくれている感じがする。

 そうか。

 自分の勧誘でサークルに入った僕に少し責任を感じているのか。そういうことなら、腑に落ちる。


 そんなことを考えながら歩いていると、急に後ろから肩を叩かれた。

「加藤くん! また会ったね!」

「え! 白川先輩?」

「実は、ずっと二人の後ろつけてたの」

「なんで……」

「今日、明里先輩休みだったでしょ? 明里先輩、風邪ひいちゃったんだって。だからなんか買って行こうと思ってこっち方面に歩いてたら、ふたりが前を歩いてたってわけ」

「そうだったんですね……」


 白川先輩と同じサークルに入ったものの、学年も練習のグループも違うため、なかなか話す機会がない。

 今日もこれが初めての会話だ。


「ねぇ……ずばり、聞いちゃってもいい?」

「なんですか?」

「凪沙ちゃんと、その……付き合ってるの?」

「え!それはないです!」

「なんだ……てっきり、ふたりは付き合ってるんだと思ってた」

「どうしてですか!」

「だって、今もふたりで帰ってたし……凪沙ちゃんが加藤くんを見る目がさ、なんかそんな感じがしたから……」

「気のせいです」

「そっかー。じゃあ、加藤くん今付き合ってる人とかいるの?」

「いないです」

「好きな人とかは?」

「いないです……」

「へぇー。そうなんだ」

「そういう白川先輩はどうなんですか?」

「私? 私もいないよ、好きな人。一緒だね」

「そうなんですね……」


 きっと、かなり理想が高いんだろう。

 だか、先輩に好きな人がいないと聞いて、なぜか安心している自分がいた。

 どうしたんだ?

 彼女は要警戒人物だぞ。

 僕はもう一度自分に言い聞かせた。


「でも、恋愛話は大好物だから、また何かあったらお話聞かせてね」

「はい……」

「そういえば……加藤くん、明後日の花見来る?」

「行く予定ですけど……」

「じゃあ、ひとつ頼み事しちゃってもいい?」

「なんですか?」

「私、花見の前の買い出し担当になっちゃったの。でも、みんな他のことしたりで忙しいみたいで……私ひとりなんだよね。だから、一緒に来て欲しいなって思って。私が車出すからさ」

「いいですけど……」

「やったぁ! ありがとね。じゃあ、私はこのスーパーで明里先輩への買い物して行くから、ここで」

「はい」


 こうして、白川先輩とは家の近くのスーパーの前で別れた。

 

 まさか、あの白川先輩とふたりで買い出しに行くことになるなんて、想像もしていなかった。

 正直、叫びたくなるほど嬉しかった。

 僕はもう気づいていた。僕は白川先輩のことが好きだ。

 しかし、これでいいのか?

 未来で僕を殺した犯人は、白川先輩かもしれない。

 その可能性が否定できていないのに、このまま白川先輩と親密な関係になること望んでしまっていいのか?


 いくら考えても、決断できそうになかった。

 何度も立ち止まって考えた。

 家までの道のりがやけに長く感じだ。


***


 今日は盛り沢山な一日になりそうだ。

 特に僕にとっては。


 今日は土曜日だから、まずは午前に練習がある。その後、少し時間を空けて、大学近くの公園で花見が開催される。

 そして、その花見の前に、僕は白川先輩とふたりで買い出しに行く。

 僕は朝から気合を入れて練習場所のグランドに向かった。


***

 

 僕は部室についてすぐ、ゴミ捨ての作業に取りかかっていた。

 僕たちのサークルでは、週に一回、部室のゴミ捨ての日があり、主に一、二年生がゴミ捨てを担当している。

 そして、今週は僕が捨てに行くことになった。近くの体育館横までだ。

 ゴミ捨て場に着いて、ゴミを捨てようとした時、ゴミの中にあるものが目に入った。

 それは、まだ新しいランニングシューズだった。そして、シューズは二足あり、一足は見覚えがあった。

 

 これは……白川先輩のシューズ?

 

 普段、僕たちは練習で使用するランニングシューズと普段履きのスニーカーなどを使い分けることが多い。その場合、自分のランニングシューズは部室に置いておくことがほとんどだ。

 こんなにまだ新しいシューズがゴミ捨て場にあるのはあまりにも不自然だ。

 自分で捨てたのではないとなると、部室に入ることができるサークルの人間だけだ。

 

 一体誰が?


 ゴミ捨て場の前で立ち尽くしていると、急に横から声をかけられた。


「あれ? 期待の新入生くん?」


 なんと、そこには柳先輩が立っていた。

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