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第二話

 間違いない。

 僕は美人は忘れない。

 

 全身が震え始めた。

 思わず、店の外に飛び出した。

 

 これまで、あの組織の女の予言は全て的中した。

 ここまで来ると、認めたくはないが、あの話を信じようとしている自分がいるのも事実だ。


 僕は覚悟を決めた。

 ひとまず、あの話を信じてみることにした。


 まずは状況の整理からだ。

 僕は一年後に死ぬ。死因は不明。

 そして、現場にはあの美人な女性がいた。

 彼女が僕を殺したかどうかは分からない。

 だが、状況から見てその可能性は高い。

 いずれにしろ、あの場に彼女がいたということは、彼女が僕の死に関わっていることは間違いなさそうだ。

 そうとなると、まずは彼女について知ることが先決だ。


***


 怒涛の営業時間が終わり、僕たちは閉店作業に取りかかっていた。

 少し作業が落ち着いてきた頃を見計らい、僕は凪沙に話しかけた。

 

「なぁ、凪沙。今日話してた八番卓の人って、なんの知り合い?」

「え? サークルの人だけど、なんで?」

「え、いや……」

「あ、そっかー。そういうことね。美人だもんね……」

「そ、そういうんじゃないけど……」


 サークルの知り合いか。

 そういえば、凪沙の所属しているサークルはランニングサークルだ。

 僕は高校まで陸上部で長距離をしていた。

 これなら、もし僕がそのサークルに入っても、不自然ではない。

 一緒のサークルに入って、あの女性と関わることが多くなれば、僕の死についても何か分かるかもしれない。

 これはまたとないチャンスなのではないか?


「そのサークル、ちょっと興味あるかも」

「何? やっぱり狙ってるんじゃん」

「そうじゃなくて……高校まで長距離やってたから、久しぶりに走りたいなぁと思って」

「え! 彰人、長距離してたの? なんか意外」

「意外ってなんだよ」

「バイトの時の隠キャ具合からだと、とても元スポーツマンには見えなくて」

「そんな風に見られてたのか……」

「じゃあ明日、うちのサークルの新歓来なよ。一年生たちに混ざって」

「新歓か……」

「よし! 決まりね。きっとみんな喜ぶよ。特に私たちの代は人数少ないから。じゃあ、また場所とか連絡するね」

「お、おう。ありがとう」


***

 

 次の日の夕方、僕はサークルの新歓会場のお店に向かった。お店の前では、凪沙が受付係をしていた。

 

「お! 彰人こっち! 彰人が来るってこと、みんなに言いふらしちゃった。ごめんね。」

「やめろよ……あんまり目立ちたくないのに……」

「そんなんだと、サークルでも隠キャ確定だよ。もっと明るい感じ、出していかないと……」

 

 凪沙と談笑していると、突然、凪沙の後ろから見覚えのある顔が覗き込んできた。

 一瞬で全身に緊張が走った。胸が高鳴る。

 

「君が凪沙が言ってた二年生の子ね。私は三年生の白川美月です。よろしくね」

「よ、よろしくお願いします」

 

 昨日、凪沙と会話していたあの女性に間違いない。

 三年生か。

 なら、白川先輩になるな。

 


「じゃあ案内するから着いてきてね」

「は、はい」

 

 白川先輩に連れられて、僕は奥の広間にたどり着いた。

 広間には既に三十人くらいの人が集まっていた。新入生はそのうち二十人といったところだろうか。

 そして、僕の後にも何人か入室してきて、会の開始時刻となった。

 

「それじゃあ、挨拶させていただきます。僕は代表の妻夫木です。僕たちのサークルの名前は“フリーラン”といって、みんながそれぞれのペースで楽しく走れればいいなって想いが込められています。活動は週三回程度で、合宿やイベントも沢山実施していて、現在は三十人くらいが在籍しています。まずは今日、気になることはなんでも聞いてください。そして、是非うちのサークルに入って、一緒に楽しく走りましょう。それでは、会を始めまーす。まずは、それぞれの自己紹介から……」

 

 まずは、ゆるそうなサークルで安心した。活動も週三ならなんとか参加できそうだ。

 そんなことを考えていると、自己紹介の番が回ってきた。

 

「加藤彰人といいます。実は二年生です。高校まで陸上部で長距離をしていました。よろしくお願いします」

 

 僕はどちらかというと、あまり目立ちたくないタイプの人間だ。なので、定番の自己紹介を心がけたが、二年生というだけで少し注目を浴びてしまった。

 全員の自己紹介が一通り終わったところで、料理を食べながらのフリートークの時間になった。あちこちで会話が始まったが、僕はどの会話にも入れずにいた。

 すると、前に座っていた同学年の男が話しかけてきた。

 

「下の名前なんだったっけ?」

「彰人だけど」

「じゃあ、彰人って呼ぶわ! 俺は斉藤大雅。同じ二年生だから大雅でいいよ」

「おお、よろしく」

「そういえば、高校まで長距離してたって言ってたけど、何やってたの?」

「五千メートル」

「タイムは?」

「一応十三分台……」

「ええーー! めちゃめちゃ早いじゃん! インターハイとかは?」

「一応入賞した……」

「すげぇ! でも、なんでこの大学? 箱根常連校とかからも声かかったんじゃないの?」

「声はかかったけど、もう大学で競技はやるつもりなくて……」

「そうかあ。ちょっと待ってて。代表に教えてこよっと」

 

 大雅は得意げな顔で、代表のところに走って行った。しばらくして、代表のいるテーブルの人間が一斉にこちらを向いた。

 

 タイムのことを話すと、こうなることは分かっていた。

 そして、そうなると僕のことをあまりよく思わない者も出てくる。

 このサークルに居づらくなるのは、今の僕にとってはあまり得策でない。

 悪い方向に転ばないように祈ろう。

 

 大雅が戻ってきた。

 

「まぁこのサークルはどちらかと言うとゆるく楽しく走る感じだから物足りないかもしれんけど、みんないい人ばっかりだから辞めずに続けてくれよな」

 

 そして、大雅はニヤニヤしながら続けた。

 

「そんで、このサークルは美人が多いで有名だしな。ちなみに彰人は誰がタイプ?」

「まだ今日会ったばかりだから分からんな」

「それもそうか。じゃあ、俺が紹介してあげよう。まず、俺らの代だとやっぱり凪沙かな。そして、三年生だと白川先輩、四年生だと副代表の柳先輩だな。ちなみに柳先輩はうちのサークルで一番イケメンの小西先輩と昔付き合ってた。うちはサークル内恋愛もチラホラあるぞ」

 大雅が順に指を差して教えてくれた。

 僕は自分の席から少し離れた柳先輩の方を見た。愛嬌のある笑顔が特徴的で、いかにもモテそうなオーラがある。

 そして次に、白川先輩の隣にいる小西先輩の方に視線を移した。確かにかっこいい。このサークル内ではおそらく一番だ。

 卓の会話を回していて、リーダー気質もあるように見えた。僕にはとても勝ち目がなさそうだ。

 

「白川先輩にはそう言う話はないの?」

 

 自然な流れで、それとなく聞いてみた。

 

「白川先輩は今は誰とも付き合ってないはず」

「ふーん」

「何? 彰人、早速狙ってんの?」

「い、いや、モテそうだから彼氏いるのかなーと思ったくらいで、そんなんじゃないよ」

「まぁ、白川先輩はみんなのマドンナだから、敵は多いよ。それだけは言っとく」

「だから違うって」


***


 会の終わりに、これからの練習日程が伝えられた。次回の練習は早速明日だ。

 帰り道、家が近い凪沙と途中まで一緒に帰ることになった。

 

「彰人、実はめちゃめちゃ足速かったんだね。こっちの卓でも話題になってたよ。なんか尊敬」

「やめてくれ。それに、もう昔のことだし……」

 

 やはり、僕の話はみんなに行き渡っているようだ。

 

「明日の練習来るよね?」

「行くつもりだけど」

「美人がたくさんいるからって、かっこいいところ見せようとして無理しちゃだめよ。ちゃんと走るの、久しぶりでしょ?」

「そ、そんなこと考えてねぇよ」

「そう? それならいいけど。じゃあ、また明日ね!」

「お、おう」


 結局、今日の新歓ではこれといった手がかりは得られなかったな……

 だが、着実に僕の死について知るための第一歩は踏み出せたはずだ。

 焦らず頑張っていこう。


 そんなことを考えていると、家のエレベーターの前まで来ていた。

 エレベーターに乗り、六階のボタンを押したその時だった。

 もう一つ、指が六階のボタンに伸びてきた。

 

「あれ? 君は今日の新歓にいた……」


 僕は一瞬、目を疑った。

 なんと、そこにいたのは白川先輩だった。

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