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第十三話

「彰人、とりあえずこの場を離れましょ」

「……」


 僕は凪沙に引っ張られて、我に戻った。

 そして、僕たちは大雅の所まで戻ってきた。


「お前ら、遅かったけど、何してたんだ?」

「すっごく並んでたのよ。はい、焼きそば」

「お! サンキュー!」


 僕たちが戻った時、もう一方の買い出し組は既に戻ってきていた。

 僕たちは、花火打ち上げを待つのみとなった。

 だが、僕はとても花火を楽しめるような気分ではなかった。

 

「大雅、花火までもう少し時間あるし、ちょっとトイレ行ってくるよ……」

「おう、ちゃんと戻ってこいよ」


 そう言って、僕はその場から離れた。

 足に力が入らなかったが、ひたすら歩いた。

 

 僕の頭の中には一つの考えが浮かんでいた。

 そして、それは今思いついたことではない。

 もっとずっと昔から分かっていた。だが、考えないようにしていただけだった。

 そうだ。僕が白川先輩と一生結ばれなければいいんだ。

 そうすれば、僕が殺されることも無い。

 簡単なことだ。

 僕が白川先輩のことを諦めればいいだけの話だ。


 僕は立ち止まり、必死に自分に言い聞かせようとした。

 その時だった。いきなり誰かに腕を引っ張られた。

 凪沙だった。

 

「ちょっとこっち来なさい!」

「え?」


 通路から少し外れた所に連れてこられた僕は、凪沙の前でしゃがみ込んでしまった。

 立っている気力が無かった。


「何を弱気になってるの? 白川先輩が小西先輩とふたりきりだったからってそれが何なの? まさか、それで諦めようなんて言わないわよね?」

「凪沙……もういいんだ……」

「だめよ。そんなの絶対だめ。それじゃあ、彰人の気持ちはどうなるの? 彰人はそれで幸せになれるの? 私はそうは思わない」

「じゃあ、どうすれば……」

「告白するのよ、白川先輩に」

「え?」

「それで、例えだめだったとしても、それはそれでいいの。私みたいにね。でも、諦めちゃうのは一番だめ。そうすると、これから必ずそのことを後悔する時が来るわ。私は彰人にそうなってほしくないの」

「凪沙……」

「それに、彰人ならきっと大丈夫。これまで、彰人の一番近くにいたのは白川先輩だったじゃない? それならきっと、彰人の良さに気づいてくれてるよ。白川先輩なら。だから自信持って、思いっきり行ってきたら?」


 凪沙の言葉で、僕は覚悟が決まった。

 やはり僕は自分に嘘をつきたくない。

 僕は白川先輩が好きだ。誰よりも。

 だから、白川先輩のことは諦めない。


「……分かったよ。ありがとう凪沙。おかげで覚悟が決まったよ」

「じゃあ、彰人……」

「うん。今から行ってくるよ、白川先輩の所に」


 気づいたら、僕は白川先輩の所をめがけて走り出していた。


***


 白川先輩と小西先輩は、突然目の前に現れた僕を見て、とても驚いている様子だった。


「どうしたの? 彰人くん」

「美月先輩、ちょっといいですか?」

「いいけど……」


 僕は白川先輩の手を引いて、少し人の少ないところまで移動した。


「加藤くん、どういうこと?」

「ごめんなさい。でも、今どうしても伝えたいことがあって……」

「え?」

「僕、白川先輩のことが好きです。実は、偽装カップル始める前からずっと」

「そうだったんだ……」

「今まで黙っててごめんなさい……」

「よかったぁ」

「え?」

「実は私もなの。私も加藤くんのことが好き。でも、言っちゃうと、今みたいに話せなくなるかもって思って言えなかったの」

「でも……白川先輩は小西先輩のことが好きなんじゃ……」

「全然そんなことないよ」

「じゃあ、今日ふたりでいたのは?」

「あぁ、あれね。私たちふたりで来たわけじゃないよ。三年生みんなできたんだけど、みんな屋台に買い出し行っちゃって、私たちだけで場所の見張りしてただけだよ」

「そうだったんですね……」


 僕はとんだ勘違いをしていたようだった。

 体が熱い。きっと顔も真っ赤だろう。


「私ね、偽装カップル始めてから、加藤くんが凪沙ちゃんとか他の女の子とかと話してるの見ると、なんだかとってもモヤモヤした気持ちになるようになったの。それで気づいたの。私、加藤くんのこと好きなんだって。」

「うれしいです……とても」

「私たち、これからは本当のカップルだね!」

「はい!」

「それじゃあ……みんなの前じゃなくても、彰人くんって呼んでもいい?」

「もちろん! 僕も美月先輩って呼んでもいいですか?」

「うん!」


 その時、花火の音が会場に響き渡った。


「あ! 花火始まった! きれいだねー」

「はい……でも……美月先輩、戻らなくていいんですか?」

「私は彰人くんと見たい! だめかな?」

「僕は全然大丈夫です! 僕も美月先輩と見たいです!」

「やったぁ」


 一瞬、大雅の怒った顔が頭に浮かんだ。


 大雅すまない。

 お詫びなら必ずする。

 だから、今は許してくれ。


「私、来年の花火大会はふたりで来たいな!」

「僕もです!」

「一緒に屋台回って、美味しいもの食べたいな。あと、射的とかもしたい!」

「いいですね! 今から来年が楽しみです」

 

 僕が美月先輩と付き合ったことによって、美月先輩と小西先輩が付き合うことはひとまず阻止できた。

 柳先輩の推測が正しければ、これで僕は死を回避することができるはずだ。

 まぁでも、今はとりあえず、この幸せを噛み締めるとするか。


 花火が終わった。


「じゃあ、私そろそろ三年生たちの場所に戻らないと……」

「そうでしたね……僕もニ年生たちの場所に戻ります」

「そういえば……聞き忘れてたことがあるんだけど……」

「なんですか?」

「そ、その……浴衣……どう?」


 美月先輩は真っ赤な浴衣を着ていた。

 まるで花火のように鮮やかで、美月先輩という存在を引き立てていた。

 

「と、とっても似合ってます……最高です!」

「よかったぁ」


 そう言うと、美月先輩は三年生たちの場所へ走って戻って行った。

 僕も二年生たちの居る場所へ急いだ向かった。


「彰人、何してたんだ! 花火終わっちゃったじゃないか」

「ごめん……お腹痛くて、トイレから出てこれなくて……でも、もう大丈夫」

「なんだ……そうだったのか。でも心配するな! また来年も来ればいいだけだ!」

「お、おう。そうだな……」


 こうして、僕たちの花火大会は幕を閉じた。

 帰り道、僕は凪沙と一緒に歩いていた。


「で、どうだったの?」

「無事に美月先輩と付き合うことができたよ」

「そ、そっか。よかったね!」

「でも、これは凪沙のおかけだよ。あの時、渚に背中を押してもらっていなかったら、告白はできていなかったよ」

「さすが私ね。また今度、何か奢ってもらおっと」

「本当にありがとう……」

「うん。でもね……私は正直、素直にふたりを応援することはできない。一応、私も彰人のこと好きなんだからね」

「うん、分かってるよ」

「本当に?」

「本当だって。でも……何で凪沙は僕のことが好きなのに、あの時、あんなこと言ってくれたんだ?」

「それは……彰人が白川先輩のために、あんなに頑張って練習してたの見てたら、諦めろなんて言えないよ。それに、彰人の悲しむ顔も見たくなかったし……あと、私には何となく分かったの。白川先輩が彰人を見る目が、どうも怪しかったのよね。女の勘ってやつ? これでもライバルだったから、意識してたのよね」

「そうだったのか……」

「まぁ、せいぜい頑張ってね。でも、たまには私のことも構ってよね」

「おう。もちろん」


***


 凪沙と別れた後、家に向かう道中、僕は美月先輩のことを考えてニヤケが止まらなかった。


 遂に本当のカップルになれた。あの美月先輩と。

 この幸せはもう誰にも奪われたくない。他の男にも。そして、運命にも。


 突然、携帯に着信が入った。

 柳先輩からだった。


「どうしたんですか? 柳先輩」

「君、今どこ?」

「今、花火大会から帰ってるところで、もうすぐ家の前です」

「じゃあ、ちょっと家の前で待ってて!」

「は、はい……」


 家の前に着いた。

 しばらくすると、柳先輩が降りてきた。

 

「美月ちゃんから聞いたよ! 君たち、本当に付き合うことになったらしいじゃん!」

「そうなんです! 柳先輩にもこれまでたくさんお世話になりました。ありがとうございました」

「私は大したことしてないわ。でも、これで君の死も回避できたのかしら?」

「それは分からないです……」

「そう……まぁでも、ひとまずはおめでとうだね。美月ちゃんを大事にするんだよ。美月ちゃんを泣かしたら、承知しないからね」

「はい……」


 僕たちはエレベーターに向かって歩き出した。

 エレベーターのボタンを押し、扉が閉まった。

 エレベーターは上昇を始めた。

 そして、エレベーターは上昇を続けた。

 僕たちは少し動揺したが、すぐに事態を飲み込んだ。

 そして、祈った。


 やれることはやった。

 今回こそ。

 今回こそは、幸せな未来を。

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