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第十二話

「パンッ」


 ピストルが鳴り、最終組がスタートした。

 僕は最初から先頭集団についた。少しペースが早いと感じたが、果敢に攻めるこのスタイルは昔から変えたくなかった。

 序盤は、サークルのメンバーの中では一番前でレースを進めた。

 中盤になり、一気に疲れが出てきた。足が上がらなくなり、動きが圧倒的に小さくなった。

 先頭集団が少しずつ遠ざかっていく。

 最後の一周の鐘が鳴った。

 周りが徐々にスパートをかける中、僕のスピードは上がらなかった。

 そして、自分と同じユニフォームに抜かされるのが見えた。小西先輩だった。

 僕は必死に食らいつこうとしたが、差は広がるばかりだった。

 最後のストレートに入った。

 また自分と同じユニフォームの選手に次々と追い抜かれた。

 僕は必死に足掻いたが、失速するばかりだった。

 僕はようやくフィニッシュした。


 負けた。

 

 僕は絶望感に押しつぶされ、しばらく立ち上がることができなかった。

 

***


 今日はナイトカーニバルが終わって、初めての練習だ。

 僕は無理していた体を休憩させるため、一週間ほど練習を休んでいた。

 久しぶりに練習に来てみたが、まるでやる気が起きない。

 僕はモチベーションというものを完全に失っていた。

 そんな僕は、まるで抜け殻のように、練習を開始した。

 

 僕のナイトカーニバルの結果は、サークル内で六位というものだった。

 いつも練習しているグループでは最下位だった。

 そして、小西先輩にも負けた。正直、惨敗だった。

 周りの人には、たくさんの慰めの言葉をかけてもらった。

 だか、それでも僕の気持ちは沈んだままだった。


 今日の練習メニューは六十分のゆっくりとしたペースのジョグだった。

 今日はグループに分かれず、各々自由に走っており、仲の良い友達と走ったり、一人で走ったりと、それぞれ様々だった。

 僕は、大雅と横並びで走っていた。


「彰人、もう回復したか?」

「ああ。もう大丈夫だ」

「まぁでも、三ヶ月しか練習してないのにあれだけ走れるなんて、正直驚いたぜ。この調子だと、抜かされるのも時間の問題だな」

「そうか……」

「……そんなに落ち込むなって。十分すごいと思うぞ他のみんなも驚いてたぜ」

「ありがとな、大雅」


 三ヶ月の練習期間でここまで体力を戻せたのは、確かによくやったのかもしれない。

 しかし、僕は到底自分を褒めることはできない。

 自分は今回、小西先輩に勝たないと意味が無かった。

 それ以外はどうでも良かった。


 ふと前に白川先輩の走る姿が見えた。

 白川先輩は三年生の集団で走っているようだった。

 そして、隣には小西先輩が走っていた。

 ふたりは時々笑い合い、とても仲良さげに見えた。まるで本物のカップルのようだった。

 二人の姿を見るたび、僕は胸を裂かれるような気分になる。

 

 柳先輩の推測が正しければ、このままふたりは付き合うことになる。

 そして、僕にはそれがもう直前に迫っていると感じた。


 僕にはもう止められないのか?

 僕はこれからどうすればいいんだ?


***


 サークルの帰り道、僕は白川先輩とふたり並んで歩いていた。

 ここ最近はサークルの後に居残り練習をしていたから、ふたりで帰るのは久しぶりだった。

 白川先輩は、ナイトカーニバルの話題には触れてこない。おそらく、白川先輩なりの配慮なのだろう。

 だから、僕たちがそのことについて話すことは無かった。


「そういえば聞いたよ。今度の花火大会、二年生のみんなで行くんだってね」

「はい。大雅がみんなで行きたいって……」

「だからね、三年生もみんなで行くことにしたの。二年生がみんなで行くならって」

「そうなんですね……」


 僕たちの住んでいる地域では、七月に大きな花火大会がある。

 そして、僕は当初、この花火大会に白川先輩を誘ってふたりで行こうかと迷っていた。

 しかし、二年生みんなで行きたいと、一か月ほど前からうるさく騒いでいた大雅を見ていると、そんなことは言い出せなかった。

 それに、他の二年生のみんなも楽しみにしているようだった。

 こうして、僕と白川先輩の花火大会デートの夢は無くなったのだった。


「どんな浴衣着て行こっかなー。楽しみだなぁ」

「白川先輩ならどんな浴衣でも似合いますよ、きっと」

「あら。先輩をおだてるのが上手なんだから……」

「本当に思ってますって……」

「会場で会えたら、見せてあげるね」

「楽しみにしてます」

 

 白川先輩の浴衣姿、きっと驚くほど似合うに違いない。

 そして、そんな白川先輩と一緒に花火大会を過ごすことができる三年生は本当に羨ましい。

 その中にはもちろん小西先輩もいるだろう。

 そのことを考えるだけで、胸の奥が曇ってしまう。

 どうか、何もありませんように。


***


 僕が花火大会の会場に着いた時には、既にたくさんの人でごった返していた。

 僕は、大雅が場所取りしてくれている場所へ急いだ。


「遅いぞ彰人! もうみんな揃ってるぞ!」


 大雅は既にハイテンションだった。

 そして、僕以外はみんな既に着いていたようだった。


「それじゃあ、俺ここの場所にいるから、みんな屋台回って食べ物買って来てくれ。焼きそばとフランクフルトと……それにかき氷も」

「はーい」


 僕たちは大河を除いた五人で、三人と二人に分かれて買い出しに行くことになり、僕は凪沙とふたりで焼きそばの買い出しを担当することになった。


 焼きそばの屋台の前には、思ったりより長蛇の列ができていた。

 仕方なく、僕たちは列に並ぶことになった。


「彰人、これで本当に良かったの?」

「なにが?」

「なにがって……白川先輩のことよ。本当はふたりで来たかったんでしょ?」

「まぁそうだけど……大雅にあんなに誘われたら、僕だけ断るのも申し訳ないし。それに、正直、白川先輩を誘う勇気が出なかったっていうのもある……」

「そうだったんだ……」

「でも、小西先輩と一緒っていうのはちょっと心配かな」

「そうだね。最近あのふたり、仲良さそうにしてるしね」

「そうだよな……」


 そんなことを話しているうちに、僕たちの買う番がやって来た。

 大雅の所へ帰る途中、ふと凪沙の浴衣が目に入った。


「浴衣、似合ってるじゃん」

「何よ、それ。別に彰人に見せるために着て来たんじゃないから」

「はいはい、分かってるよ」

「でも……」

「もう一回……」

「え?」

「もう一回言って。似合ってるって……」

「お、おう……浴衣、似合ってる……」

「うん。ありがと」


 凪沙の頬は赤くなっていた。

 僕はなんだか、とても申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 正直、凪沙はモテる。

 実際に、サークルの中にも凪沙を好きだという男子が何人かいる。

 そんな凪沙が、よりによってなぜ僕なんだ。


「ねぇ、彰人。あれ……」

「何?」

「あそこにいるのって……」


 僕は凪沙が指差す方向に視線を移した。

 そこには、白川先輩と小西先輩がふたりきりで座っていた。


「どうして……」


 頭が真っ白になって、足がすくんだ。

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