第十話
「あ……え、えっと……」
白川先輩の誕生日プレゼントを買いに来ているとは言いにくい。
かといって、良い言い訳が思いつかず、僕は少し黙り込んでしまった。
「じゃあ、私たち行くね」
「あ……ちょっと……」
そう言うと、白川先輩たちはどこかに行ってしまった。
「彰人、追いかけなくていいの?」
「うん、大丈夫。また後でうまく言い訳しておくよ」
「それならいいけど……なんか、ごめん……」
「凪沙は悪くないよ……」
「とりあえず今日は早く買い物を済ませて、さっさと解散しよ」
「そうだな。なんだか、僕らの事情に巻き込んでしまったみたいでごめんな」
「私より、まずは自分の心配をしなさい」
「うん……」
凪沙と別れてから、僕は自分の浅はかさにひどく反省をしていた。
少しまずいことになったかもしれない。
確かに僕たちは偽装カップルだ。
しかし、他の女の子とふたりでショッピングするのはさすがに良くなかったかもしれない。
いや、良くなかった。
それは、僕たちを見た白川先輩の顔が物語っていた。
白川先輩は驚きと悲しみに満ち溢れた顔をしていた。
僕はその顔が頭から離れない。
これから、どうしよう。
***
今、僕は白川先輩の家のドアの前にいる。
遂にこの時がやってきてしまった。
白川先輩の誕生日会だ。
結局あの日以来、白川先輩とは一言も話せないまま、今を迎えてしまった。
確実に僕は白川先輩を傷つけてしまった。
そんな自分が情けない。
正直、白川先輩に会うのは怖い。
しかし、今日は絶対に逃げ出すわけにはいかない。
僕は、白川先輩の家のインターホンを押した。
「はい」
「すみません、加藤です」
しばらくして、ドアが開いた。
「入っていいよ」
「お、お邪魔します」
白川先輩にいつもの明るさはない。
部屋の空気全体が沈んでいて、ひどく居心地が悪かった。
リビングに着いたが、柳先輩の姿は見当たらなかった。
「そこ、座っていいよ」
「あ、あの……柳先輩は?」
「明里先輩、今日体調悪くて来れないらしい」
「そ、そうですか……」
やられた。
これはふたりでしっかり話せということか。
「そ、その……白川先輩」
「分かってるよ。偽装カップル、解消したいんだよね?」
「え?」
「凪沙ちゃんのこと、好きなんでしょ?」
「あ、あの……それはないです」
「え?」
「それに、偽装カップルを解消したいだなんて、一度も思ったことありません」
「そ、そうなの?」
「この間のこと、説明させてください」
僕はカバンからあの日買ったネックレスを取り出した。
「これ、白川先輩への誕生日プレゼントです」
「え?」
「凪沙にはこれを買うのを手伝ってもらってたんです。僕一人じゃ何を買ったら喜んでもらえるか分からなくて……それで凪沙に選んでもらってたんです。でも、結果的に白川先輩を誤解させてしまいました。本当にごめんなさい」
僕は深々と頭を下げた。
白川先輩はしばらく呆然としていたが、遂に口を開いた。
「ごめんなさい。私、勘違いしてたわ。てっきり、加藤くんは凪沙ちゃんのことが好きなんだと思ってた。ふたりが仲良さそうに話してるの、何回も見てたし……私と話す時と違って、とても楽しそうだったし……だから、ふたりは両思いで、私との偽装カップルは解消したいんだと……」
「ん? ちょっと待ってください……ふたりは両思いってどういうことですか?」
「あれ? もしかして……加藤くん、知らなかったの? 凪沙ちゃんが加藤くんのこと好きなこと」
「え? ど、どういうことですか?」
確かに、最近の凪沙の様子は少し変だった。
だが、まさかそういうことだったとは。
「実はさっきね、私のところに渚ちゃんが会いに来たの。そこで、私に告白してくれた。加藤くんのことが好きだって。私と付き合ってるのは知ってるけど、それでも好きだって」
「そ、そうだったんですね……」
「でも、加藤くんが凪沙ちゃんのこと好きじゃないなら、私たちはこのまま偽装カップル続けてていいんだよね?」
「はい、もちろん!」
「やったあ! よかったぁ。私、偽装カップルが解消になっちゃうって思った時、正直けっこうショックだったんだ。なんだかんだ、この生活が気に入ってるんだと思う」
「あ、ありがとうございます……僕も、この生活、すごく楽しいです!」
「ほんとに? うれしい! プレゼントもありがとね!」
白川先輩は箱を開けて、ネックレスをつけて見せた。
「かわいいー! どう? 似合う?」
「すごく似合ってます!」
「やったぁ! これ、今日からずっと着けるね!」
「うれしいです……ありがとうございます!」
「これからも偽装カップル、よろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
白川先輩はとてもご機嫌に見えた。
なんとか和解できて良かった。
「あ……それじゃあ私、ちょっとまずいことしちゃったかも……」
「え? どうしたんですか?」
「私、ふたりが両思いだと思ってたから、私がふたりを邪魔しちゃいけないと思って、私たちが偽装カップルだってこと、凪沙ちゃんに言っちゃった」
「え!」
「ごめんなさい……」
「……分かりました。ここは、僕がなんとかします。それに、凪沙は周りに言いふらすような奴じゃないので安心してください」
「うん。それじゃあ、申し訳ないけど加藤くんに任せるね」




