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ブラックパラディン  作者: 鰺fly
第二章 墜落の神王編
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新世代の王

「それでは皆さん、ゆっくり目を閉じてみてください。瞼の裏に精霊の姿が見えるでしょう?」


 その日、精霊降臨の儀式を終えた15歳のマイクは同い年の少年少女達と共に小さな教会にいた。

 シスターの言葉に従い、ゆっくりと目を閉じる。


 すると、


「わっ!見えた!カッコいい男の人が瞼の裏にいる!」

「すげぇ!俺の精霊は炎の鳥だ!」

しばらくして周囲の少年達が興奮気味に叫び出した。

 瞬く間に歓喜の渦に包まれる教会内。


 しかし、マイクの瞼の裏には一切何も見えない。


(もしかして、降臨の儀式に失敗したのかな……)

 不安になったマイクが薄っすらと目を開けると、辺りを囲む人々が皆一様に満面の笑みを浮かべていた。


 幸せ一杯の空気に益々不安が募る。

 一人取り残された気分のマイクが周囲を見回していると、不意に隣に座る少女がひどく険しい顔をしていることに気づいた。


「もしかして、君も降臨の儀式に失敗したの?」

 仲間を見つけた気分のマイクが半笑いで尋ねると、


「失敗?まさか、そんな訳ないだろう。召喚された精霊がひ弱な小娘で落胆しただけだ」

険しい顔をした少女がギロリとこちらを睨みつけてきた。

 そのまま、乱暴な口調で尋ねてくる。


「まさかお前……精霊の召喚に失敗したのか?」

 その虫でも見るような冷たい視線を受け、たじろいだマイクは咄嗟に嘘をついた。


「ま、まさか。僕も召喚された精霊が弱そうでちょっと落胆しただけさ」


◇◆◇◆


「マイク、着いたよ」

 肩を揺すられたマイクが目を覚ますと、既に馬車は停まっていた。

 窓の外に見慣れた城門が見えている。


(また随分と懐かしい夢を見たものだな……)

 眠気を振り払ったマイクがゆっくりと馬車を降りると、季節外れの北風が吹いた。

 肌寒さを覚えつつも、城内へと向かう。


 アランの後に続き、エントランスを抜けると、そのまま王の寝所へ通された。

 青で統一された厳かな部屋の中央に巨大な天蓋付きのベッドが置かれている。


 その奥で上体を起こした白髪の老人がゆっくりと手招きした。


「こっちへ来い」


 リーン王国第15代国王、タイタン・リーン。

 丁度一年前に王位を退き、何の役職も持たない『昇王』となった。最近は床に伏せがちだと聞いていたが、未だにその鋭い眼光は衰えていない。


「陛下、私は陛下との約束を破り、剣を握りました。どうかこの命をお取り下さい」

 ベッドの脇に移動したマイクが、開口一番にそう呟くと、リーン昇王が酷く驚いたような顔をした。

 そして、次の瞬間には大声で笑い出す。


「フハハ、命を取れか。相変わらずせっかちな奴だな、マイク・ピアス。儂は山賊を退治したそなたに感謝こそせど、命を奪う気はない」


「しかし、聖騎士の資格を持たぬ者の法術の行使は国法にも死罪と記されています」


「その上で民の為に剣を握ったのだ。そんな者を罪に問うほどこの国の良識は落ちぶれていない」


「……」


 黙り込むマイクを見てリーン昇王が一瞬考えるような顔をした。

 そして、ゆっくりと口を開く。


「今回、そなたを招集したのは一つやってもらいたい仕事があるからだ」

「仕事ですか?」


「ああ、元パラディンのそなただからこそ頼める任務だ」

 そう言ったリーン昇王が窓の外を遠い目で眺める。


「そなたはジアン帝国との国境沿いにあるカイトナッツという街を知っておるか?」

「はい。五年前に結ばれたジアン帝国との休戦協定により武装を禁じられた中立地帯です」


「そうだ。実はそのカイトナッツに今現在、複数の名の知れた魔女達が集結し、何かを企んでいるという情報が入ったのだ。そこで両国合同で討伐部隊を編成することになったのだが、国内の混乱もあり、どうしても戦力が揃わなくての……一聖騎士としてそなたにも参加して欲しいのだ」

 深々と溜息を吐いたリーン昇王が窓の外からマイクの元に視線を戻して呟いた。

 その瞳を真っ直ぐに見返して頷く。


「お任せ下さい、陛下。必ずや期待に応えてみせます」


◇◆◇◆


「おーい、ジャック。ジャックゥー!」

 リーン昇王の寝所を後にしたマイクが、上級騎士の居住区にあるジャックの部屋を訪ねると、そこはもぬけの殻だった。


(何だ?ジャックのやつ、せっかく出発前に会っていこうと思ったのに居ないのか……)

 眉間に皺を寄せたマイクがゆっくり首を捻っていると、


「うふふ、ジャック様なら任務の為に外出中ですよ」

突然、真横から鈴のような笑い声が聞こえてきた。


 気づくと、手が届くほどの距離に透明感のある清らかな女性が立っている。

 その姿を見て息を呑んだ。


「もしかして、ベネット様ですか!?︎ 随分と大人びましたね」

「マイク様は何だか老けましたねぇ。その髪型、全く似合ってないですよ?」

 二年前よりも更に美しく、聖女然としたベネットが、こちらの頭を指さしてケタケタと笑う。


(……余計なお世話だ)

 顔をしかめたマイクが足早にその場を去ろうとすると、


「おい、そこを退け」

廊下の向こう側から真紫の派手な鎧を身に付けた大柄な男が歩いて来た。

 その後ろに精悍な顔つきの聖騎士達がぞろぞろと続いている。


(誰だこの髭親父は?ベネット様もいるというのに態度がでかいな……)

 黙って道を譲ったマイクに、


「彼は現聖騎士長のガリウス・ゴールド様ですよ」

ベネットが素早く耳打ちしてきた。


(ほう、これが新任の聖騎士長か。中々に趣味の悪い鎧だな)

 呆れ顔のマイクがやれやれと首を振っていると、


「ま、マイク様!?︎ 」

「なぜマイク・ピアスがここに!!!」

「あいつ、魔女を庇った裏切り者だろう?」

にわかに聖騎士長の後ろの聖騎士達が騒ぎ出した。


「何?……マイク・ピアスだと?」

 その言葉を聞き、ゴールド聖騎士長が足を止める。

 そのまま、鋭い視線でこちらを振り返った。


「なるほど、お前があの《神の子》か。聖騎士の面汚しが、よくもオメオメと王城に顔を出せたものだな」

「……」


「聖騎士長様、流石にお言葉が過ぎるのでは?仮にも昇王様のお客人ですよ?」

 黙り込むマイクに代わり、ベネットが静かに反論する。


 しかし、

「ハハッ!ベネット様、いつまでもその時代遅れの弱者に付いていると損をしますよ?これからはトーワの時代です。呉々も判断を誤らないようにして下さい」

豪快に笑い飛ばすと、マイクを馬鹿にするような視線を残して去って行った。

 その後ろ姿を見送り、膨れ顔のベネットに尋ねる。


「ベネット様、トーワって誰ですか?」

 すると、一瞬でいつもの澄まし顔に戻ったベネットが滑らかに答えた。


「トーワ様は《神の第二子》と呼ばれる新世代のパラディンです」

「《神の第二子》だと?」


「ええ。何でもマイク様と同等の力を時間制限なく行使できるとか。私も一度遠くから目にしたことがありますが、それはもう神としか形容のしようがない凄まじい強さでした」

 何度も頷きながら話すベネットを見て、感嘆の息を漏らす。


「俺と同等の力を際限なく使えるのか……それはまた凄い奴が出てきたものだな」


◇◆◇◆


 ガチャガチャ。

 マイクが僅かに動くだけで、全身に纏ったプレートメイルが音を立てた。

 すっぽりと頭を覆う鉄兜の所為で酷く視界が狭く感じる。


『よいか?マイク・ピアスよ。そなたは本来、剣を握ってはいけない身の上だ。絶対に正体を悟られるではないぞ?』

 リーン昇王にそう言われて、仕方なくメタルプレートを纏ってみたが、動きにくくて仕方がない。


(やっぱり、全身鎧なんて柄じゃないな……)

 討伐隊に参加する20人の聖騎士と共に正門前に整列したマイクが隊長の到着を待っていると、やがて一人の男が部隊の前に進み出た。


 紺色の髪を強く撫で付けた落ち着いた雰囲気の少年。

 部隊の全体を見回すと、静かに口を開く。


「皆さん、こんにちは。討伐隊の隊長を務めることになったトーワ・ライクハットです。どうぞよろしく」


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