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ブラックパラディン  作者: 鰺fly
第二章 墜落の神王編
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牧歌的な正義

「米、野菜、肉……こりゃあ大漁だなぁ!しばらく飢えの心配はなさそうだ!」

 その日、プルート地方南方の山間に潜む山賊の頭、サン・ドルゾックは大仰に舌舐めずりをした。

 彼が住処とする洞穴の奥には米俵が天井近くまで詰まれ、足元には大量の干し肉が溢れかえっている。

 この全てが1週間以内に近隣の村々から巻き上げた物資だ。


 国中に蔓延する食料不足の影響からか、ここ数日、山賊団への入団希望者は後を絶たない。

 既に団員の数は50人に迫ろうとしていた。


「国内の聖騎士機関は人手不足で全く機能していない。この機に乗じて王城でも攻め落とすか?」


「ガッハッハッ!流石サンだ!」

「そりゃーいいぜ!」

 サンの冗談を聞き、周囲の部下達5人が豪快に笑う。

 彼らは山賊団結成当初からサンに付き従っている服心中の服心で、全員が一等級の手練れだ。

 これまで数多の戦闘をこなし、欠けた者は一人もいない。


「こいつらと一緒なら、例えパラディンが相手でも負ける気がしねぇ……」

五人全員の顔を見回したサンが、感慨深気に呟いていると、


「大変だ!大変だボス!」

 不意に洞穴の入口から一人の男が駆け込んできた。

 下っ端のネズミ顔の男。

 何故か全身傷だらけで至る所から血を流している。


 その異様な光景に息を呑んだサンが顔を上げた瞬間、


ズパン。

突然、下っ端男の背後で空気の弾けるような音がした。

 

 その直後に爆風が巻き起こり、男の体が洞穴の奥へと吹っ飛んでくる。

 そのまま、サン達の真横を通り過ぎると、最奥の壁に叩きつけられた。


 気絶した下っ端の姿を見てサンが大声を上げる。


「何事だ︎!!!」

 サンを含めた6人の山賊達が再び顔を上げると、いつの間にか洞穴の入口に一人の男が立っていた。


 背中まで届く黒髪に、全てを射抜く獣のような瞳。

 その右手にはべったりと血のついた長剣が握られており、何人もの部下を斬ってきた事が容易に想像できる。


「何だ貴様は?」

 訝し気に眉を潜めたサンが謎の男に向かってゆっくりと尋ねた瞬間、


「マイクさーん!こっちの処理は終わりましたー!あとはお任せしまーす!」

不意に洞穴の外から間の抜けた声が聞こえてきた。


 その内容にサンを含めた6人の山賊達が一斉に凍りつく。


『マイク』というのは実にありがちな名前だ。

 しかし、ことプルート地方においてその名が指し示す人物は一人しかいない。


《神の子》、マイク・ピアス。

 ここら一帯を治める領主にして元パラディンの正義漢だ。


「了解。こちらは任せろ」

 口元で小さく呟いた黒髪の男、マイク・ピアスが洞穴の中へ静かな一歩を踏み出す。


 その瞬間、洞穴内の空気がビリビリと震えた。

 そのあまりの威圧感に居ても立っても居られなくなったのか、先頭の部下が弾かれたように走り出す。

 一気に距離を詰めると、無手のマイク・ピアスに斬りかかった。


 長剣を下手に構えると、鋭い突きを放つ。

 剣の達人による視認することすら難しい一撃だ。


 ゆらり。

 しかし、それをマイク・ピアスがあっさりと躱す。振り子のように左に体を揺らして刃先を避けると、元に戻る動きと同時に右手の甲を部下の右頬に叩き込んだ。


「ぐべっ」

 首の骨が折れる音と共に奇声を発した部下の男が洞穴の中壁に叩きつけられる。

 そのまま、ピクリとも動かなくなった。


 長年連れ添った腹心の一人が死んだ。

 実に呆気なく。


「……え?」

 その時、サンの中には怒りも恐怖も湧き上がってこなかった。

 ただ、驚愕してポカンと口を開ける。


 状況が飲み込めず、頭が回らない。

 それだけ彼にとっては信じられない光景だったのだ。


「うをぉぉぉぉ!」

 その間にも残りの部下達が剣を取り、一斉に斬りかかった。

 しかし、その直後に更に信じられない光景が目に飛び込んで来る。

 両手をだらりと遊ばせたマイク・ピアスが僅かに一歩を踏み出した瞬間、その足元から広がった衝撃波で部下全員が石壁にめり込んだのだ。


「パラディン相手でも負ける気はしないとは言ったが、こいつはレベルが違い過ぎる……これが神に化けるというマイク・ピアスの身体強化か……」

 放心状態でブツブツと呟くサンの元にマイク・ピアスがゆっくりと近づいて来る。

 洞穴内に降り注ぐ夕暮れの赤を背負ったその立ち姿はまさに《神の子》。


「お前が山賊団の頭か?」

 遂に地面に座るサンを見下ろす位置に立ったマイク・ピアスが無表情のまま尋ねる。

 しかし、サンは一切言葉を発することができない。

 まるで、金縛りにはあったかのように体が動かないのだ。


「そうか……お前が山賊の頭か……それなら……俺も遠慮なく本気を出せそうだ……」

「え?」

 サンの無言を肯定と受け取ったのか、マイク・ピアスがゆっくりと頷く。

 その発言の真意を理解できないサンの耳に悍ましい言葉が響いた。


「いくぞ……身体強化」


◇◆◇◆


「領主様、王都からの迎えが到着しました」

「ああ」

 領主館の前の通りに箱付きの馬車が止まる。

 その様子を自室の窓際から眺めていたマイクは、背後から掛けられたレイの言葉にゆっくりと頷いた。


 先日、山賊の頭の首を領地に持ち帰ってから、領民達の態度が僅かに好意的になった気がする。

 それだけ領民達にとって山賊が脅威だったということだろう。


(まあ、あれだけ死者が出ていれば当然か……)


「レイ、後のことは任せたぞ」

 静かに呟いたマイクが部屋を出て行こうとすると、


「領主様」

不意に部屋の奥に立ち尽くしたままのレイが声をかけてきた。


「もしかして、領主様が王命に逆らってまで山賊退治に出向かれたのは私が無茶を言ったせいですか……?」

 その言葉に振り返らず答える。


「まさか。俺が剣を取ったのは俺自身のためだ。お前のせいじゃない」

 そのまま、部屋を出ると屋敷前に止まった二頭立ての馬車に乗り込んだ。


 金の装飾で彩られた豪勢な内装。

 その長椅子に腰かけた瞬間、正面の椅子に一人の男が座っているのに気づく。


 銀髪の長身イケメン。

 王族の血縁でもあるパラディン、アラン・ロラードだ。


「……なるほど。お前が俺の護送役ということか」

「まあ、そういうことになるね。僕に君を止められる力があるとは思わないが」

 小さく苦笑したアランが御者台に手で合図を送ると、静かに馬車が動き出した。

 窓から見える景色がゆったりと流れる。


「この二年で王城の内情は大きく変わったよ。かつてのパラディンは僕を含めて既に二人しかいない。寂しいものだね」


 二年前にエリスが起こした事件以降、王城聖騎士の組織図は一新された。

 事件の責任を取って聖騎士長、デイビッド・ゾイが自主退職。

 その秘蔵っ子と呼ばれたラナ・ティーンも半年後には姿を消している。


 事件前から変わらず残っているパラディンは、第二パラディンのアラン・ロラードと、第五パラディンのジョー・フランクルだけだ。


 3人が抜けた穴は新世代と呼ばれる二十歳未満の超新星達が埋めていた。


「俺達は旧世代。既に終わった人か」

 のどかな車窓風景を眺めたマイクが溜息混じりに呟くと、


「いや、終わった人って……君、まだ25歳だろう?」

アランが呆れたように片眉を上げた。


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