第4話:第1階層
天帝の塔に足を踏み入れた俺とミレニス。
眼前に広がるダンジョンの光景を眺めた。
土の通路と土の壁に覆われた、迷宮のようなダンジョンだ。
ダンジョンの内部が外観よりも遙かに大きい感じがするのは、天帝の塔には空間魔法の拡張効果が働いているためだ。
「よっしゃー、早速狩るぞー!」
ミレニスが意気揚々として叫び、レイピアを引き抜いた。
「待て、ミレニス。ギルドで買った攻略情報を確認するのが先だ」
「あい……」
威勢を削がれたミレニスが、しゅん……とした様子で俺の手元を覗き込んでくる。
ギルドで購入した攻略メモを広げて、2人で一緒に読んだ。
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天帝の塔1階 攻略メモ
ダンジョン形式 土の迷宮
トラップ まれに毒床
出る魔物 ハイゴブリン、ハイオーク、スライムロード
攻略備考 初心者用(Bランク以上)の階層。特に大変なことはない。
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「特に大変なことはない、か」
「トラップも毒床だけなら、毒消し草で十分対応できるね」
「それなら余裕だな。ダンジョンではミレニスが先行してくれるか?
俺が数メートル後ろから続く」
「オッケー! ルート選択はどうする?」
「俺がマップを見ながらミレニスに続くから、分岐路なんかでは後ろから指示するよ」
「りょーかーい。それじゃ、出発!」
ミレニスは笑って頷くと、レイピアの刃先を下に向けて歩き始めた。
剣を鞘から出して歩くのは正解だろう。
いつ奇襲があるとも限らない。
ミレニスの数メートル後ろから俺が続き、1階層の攻略が始まった。
土の迷路みたいな通路を、俺がルート指示しながら進む。
ダンジョンの壁には、等間隔で燭台が設置されており、炎が燃えさかっていた。
視界はその燭台の炎で確保しているが、十メートル先ぐらいまでしか見えない。
薄闇の向こうから魔物が襲ってこないように、ミレニスは警戒しながら進んでいる。
しばらく行くと、分岐路に出た。
「ウェイド、どっち?」
左と右の分岐路で、左は毒床のトラップ通路、右は特になにもない通路だ。
どっちを通っても、2階層への階段には通じている。
わざわざ毒をもらう必要もない。
俺は「右」と短く、ミレニスに言った。
分かれ道を右に進み、ミレニスが「ふんふんふーん」と鼻歌を歌いながら先へ進んでいると、薄闇の向こうから魔物が現れた。
緑色の身体に、棍棒を手に持った魔物。
攻略メモにあったとおり、ハイゴブリンだった。
「行くよ、ウェイド! 援護よろしく!」
「あぁ!」
ミレニスはそう言ったが否や、レイピアを手に持ってハイゴブリンに突撃していく。
高速の前ダッシュとともに、連続突きをハイゴブリンめがけて繰り出した。
風を切る音を立てながら、ミレニスの連続突きはハイゴブリンの身体に突き刺さり、魔物は痛みに吠えた。
「グォォォォン――!」
被弾したハイゴブリンの反撃。
上段から下段に向けて、ミレニスの脳天を叩き割らんとする棍棒の一撃だった。
「もらうかっての!」
それをミレニスが、ヒュッ! と後ろに飛んで攻撃をかわす。
ハイゴブリンの攻撃が空を切り、隙をあらわにさせる。
「ウェイド! トドメ!」
「任せろ!」
ミレニスの動きに合わせて、俺が古代魔法の中からハイゴブリンに効果的な魔法を選ぶ。
攻撃用で使える古代魔法は、【フレア】、【スパークス】、【シャイニング】、【フィルストーム】。
どれも広範囲型の攻撃魔法だが、俺は【フレア】を使うことを選択した。
無詠唱で発せられた炎の魔法が、ハイゴブリンめがけて炸裂する。
【フレア】は、対象にミニ太陽のような火球をぶつけて焼き殺す古代魔法だ。
温度は数千度に達する。
「グギャァァァ!!!」
数千度の業火を誇る火球は、ハイゴブリンを一瞬にして焼き殺す。
ハイゴブリンは、断末魔の叫びとともに秒で灰となった。
後にはハイゴブリンの素材ドロップ、『ゴブリンの魔石』、『高級木材』が落ちていた。
「お、ドロップ落としたな」
『ゴブリンの魔石』はマジックアイテムを作る際の触媒になるため、ギルドで1500ゴールドで買い取ってもらえる。
『高級木材』はふつうの森林で伐採できる木より質がいいだけなので、1本で500ゴールドにしかならない。
小さな稼ぎだが、こういうのを少しずつ売って稼がなければ……。
俺は素材ドロップを拾いながら背嚢に入れていると、ミレニスがあんぐりと大きな口を開けて、呆然とした様子で呟いた。
「つ、つえー、ウェイド……」
「ちょっとオーバーキルすぎたか?」
「いや、いいと思うけど……」
ミレニスが驚いているが気にせず、素材を背嚢の中に収納する。
『ゴブリンの魔石』はともかく、『高級木材』をたくさん拾って背嚢に入れるとかさばって重いため、天帝の塔攻略者として独り立ちできるなら、金を貯めて『マジックバッグ』を買いたい。
『マジックバッグ』は積載量が大きく、どれだけ入れても重量が変わらないため、冒険者には必須の装備だ。
「この調子なら、私がいなくても1階は楽勝だったね」
「あぁ。あと、金稼ぎの効率を上げるにも『マジックバッグ』は早めに買わないと……」
『マジックバッグ』は、俺がSランクパーティーにいた時は使っていたのだが、当然パーティーの所有品だったので、俺が脱退する時は返却させられた。
安価なものでは1万~3万ゴールド台からあるが、安いものは壊れやすい。
安全に長年使おうと思えば、10万~20万ゴールドの金をかけてでも買うべきアイテムだ。
「ウェイド。あのさ」
「ん?」
「私がウェイドに目をつけたのは、Sランクパーティーでの経験があってのことで、そこまで冒険者として期待してたわけじゃないんだよね」
「あ? あぁ……それで?」
「パーティーのメイン火力は私が担当する予定で、索敵とかトラップ解除をやってもらいたかったんだけど、この調子じゃウェイドがメインだよね?」
「まぁ、そうだろうな」
「なんでそんな、いきなり強くなったの?」
そりゃあ、冒険者の俺の評判を知ってるヤツなら、誰だって不思議に思うだろうな。
こいつの魔法ペンダントが原因で覚醒したのだし、隠し続けるのもアレか。
要所をごまかして、打ち明けることを決意する。
「ミレニスは転生魔法って信じてるか?」
「え……? うん。昔話にでてくる、月の女神『アルテミラ』の古代魔法でしょ?」
「実は俺は、転生者らしい。その記憶を、あることがきっかけで取り戻して、ここまで強くなった」
俺の言葉を聞いて、ミレニスは「まさかぁ」と笑う。
「だって転生なんて、記憶や魔法やスキルを引き継ぎできて生まれ変われる、夢の魔法でしょ。
そんな、月の女神『アルテミラ』の魔法なんて、実在することすら疑われてるし。
転生魔法なんて、お話の中だけの魔法でしょ?」
「残念だが、転生魔法は実在する」
「うそ……」
「信じられないのも無理はないと思うがな。
俺は1000年前からの転生者で、古代魔法が使える」
俺は手に古代魔法【スパークス】の雷を起こして、ミレニスに言った。
バチバチバチ! と猛るその雷は、現代の魔法では再現することができないほどの威力だ。
「ウェイドは本当に転生者なの……?」
「嘘をつく必要はないな」
そしてお前も、なんらかの形で俺の転生に関わっているだろうな。
俺はその言葉だけは、ぐっと飲み込んだ。
「そ、そっかぁ……。転生者で古代魔法使い……。ホントにいたんだ、そんな規格外……」
「これはお前がパーティーメンバーだから打ち明けたことだ。
ギルドでこの情報を流したりするなよ」
「分かってるよ、秘密は厳守!」
「それでいい。こんなことより、ダンジョン攻略の続きをやるぞ」
「あい」
会話はそれで打ち切りとなり、俺とミレニスは1階層の攻略を再開することにした。




