第3話:攻略準備
冒険者ギルドでカイルと決闘した件を経て、俺は自信を深めていた。
古代スキルは使い勝手と性能がいいし、まだまだ豊富に種類がある。
様々な局面に対応できるだろう。
ただ、現在の俺の実力では力が足りなくて、古代魔法と古代スキルのすべてを使いこなすことはできなかった。
今後、天帝の塔での研鑽を積み重ねていけば、すべての魔法とスキルを使えるようになり、もっと強くなれるだろう。
最強への道を想像して、高ぶる気持ちでワクワクした。
俺は冒険者ギルドの酒場で作戦を練っていたミレニスに声をかける。
「ミレニス。手慣らしもかねて、天帝の塔は1階から攻略しようと思うんだが、どう思う?」
「それがいいかもねー。現在の最新攻略階は45階だっけ?」
「あぁ」
その攻略最前線を張るのが、Sランクパーティーの『ソウルブレイズ』だった。
「『ソウルブレイズ』って、どんなパーティーだったの?」
「バランスのいいパーティーだったよ。
戦士2人と魔法使いがメイン火力で、それを盗賊や弓兵が支える感じ」
「へー」
そのSランクパーティーをもってしても、天帝の塔の攻略は難しくて遅々として進まない。
この1年で40階→45階になっただけだ。
天帝の塔は即死のギミックもあるし、塔をのぼればのぼるほど魔物も強く賢しくなっていく。
転生前の俺の知識がたしかなら、今の実力なら90階ぐらいまでは古代魔法でゴリ押しできそうだった。
低階は問題ないだろうが、上階が古代と現代で攻略難易度が変わっていなければいいが。
45階までは、些細な違いはあれど、大筋の攻略方針は変わっていない。
俺とミレニスなら余裕で45階もいけると思うが、保険をかけて少しずつクリアしていくに限る。
経験を積んで精進し、まだ使いこなせない多くの古代魔法と古代スキルを徐々に解放していくことも必要だ。
「それで……ウェイドさぁん」
ミレニスが猫なで声で俺に問いかけてくる。
「なんだよ、ウェイド〝さん〟って……。気持ちが悪い」
「ひどっ。で、攻略の上がりの分配法に関してなんだけど」
あぁ、大事な話だった。
金の話はきちんとしておかなければな。
「そうだな……。不平等感をなくすために、パーティーで使う消耗品の類いはすべて経費で上がりから落とす。
そして、残った純利益を、2人で半々で分けるって感じでどうだ?」
「私はめっちゃありがたいけど、それでいいの?
Sランクパーティーのリーダーを倒したウェイドなら、もっと貰っていいんじゃない?」
「いいよ。俺は金より、別の目的があるからな」
「ふーん。それなら私は都合がいいや」
ミレニスの目が鋭く光ったが、こいつは金が欲しいのだろうか。
「金に困ってるのか?」
「へへへ……ちょっとね。
ま、ウェイドの目的が純粋な強さなら、お金が欲しい私は何も問題なし!
それじゃ、ポーション類を買い込んで、さっそく天帝の塔に挑戦しようよ」
「あぁ、そうするか。
それとサクサク攻略することを考えて、1階の攻略情報はギルドから買おう」
天帝の塔は突入するたびに地形が変わる『インスタンスダンジョン』ではなく、固定ルート制だ。
出てくる魔物も極端に変わったりしないため、44階までの攻略情報とマップはギルドで売られている。
「1階なら攻略情報買わなくても、余裕じゃないかな……」
「安全マージンを考えろ」
「ぶー」
ミレニスが不満そうに頬を膨らませたが、金の亡者なのだろうか。
彼女はいつも小綺麗にしていて身なりはいいし、出会った時も酒代をおごると言っていたが。
ミレニスが俺に近づいてきた真意を、徐々にでも探らないとな。
酒場を後にして、冒険者ギルドの受付で天帝の塔の1階の攻略情報を買い求めた。
攻略情報は5千ゴールド。
1階に出てくる魔物の情報と、設置されているトラップ、ダンジョンマップが載っている。
手痛い出費だったが、1階の魔物を討伐して素材を集めてくればより稼げる。
必要経費だった。
そして俺たちは冒険者ギルドを出て、商店街に向かった。
俺たちが住んでいる冒険者の都市・アインは、その名のとおり冒険者の街だ。
最難関とされているダンジョン・天帝の塔を中心に作られた街で、大陸中央にあるシリス王国の中でも人口が一番多い主要都市だ。
総人口が15万人を超えるこの都市は、天帝の塔を攻略するBランク以上の冒険者が多く生活している。
この都市の商業の流れは以下だ。
冒険者が天帝の塔に潜り、ダンジョン攻略で得た貴重な素材を、ギルドが買い取る。
素材を買い取ったギルドはそれを子飼いの職人に流し、彼らが素材を加工・製造して商品にする。
そしてギルドが商品を長距離移動商人に売りつけ、商人が他の都市に輸出することによって、都市全体が利益を得ているのだった。
冒険者、ギルド、職人、商人の役割がきちんと分業化されている、シリス王国でも最先端の都市だ。
ダンジョン攻略で得た上がりで冒険者は、装備や消耗品をランクアップさせていき、実力を鍛えながらどんどん高階のハイランク素材を得て、さらに金を稼いでいくという、労働の再生産システムが冒険者の都市に組み込まれている。
だから、この都市は人口密度も高いし、商店街はいつも人で賑わっていて、活気がある。
店の種類も多いし、食べ物を出す屋台も数が豊富で、美味いメシを食わせてくれる。
俺たちは鼻孔をくすぐる黒胡椒炒飯の匂いをかぎながら、薬草屋に入った。
薬草屋でヒールポーション、マジックポーション、毒消し草、麻痺薬、転移結晶などのダンジョン攻略に必須の消耗品を買い込む。
「転移結晶が結構高くつくんだよね。1万ゴールドいるからね」
「ま、緊急回避手段として、これだけは絶対必要だからな」
転移結晶は特別な魔力の込められたマジックアイテムで、ダンジョン内でこれを叩き割ると地上の街に瞬間的にワープすることができる。
パーティーが危機に陥った時や、罠にかかった時、モンスターが密集する部屋に入ってしまった時は、転移結晶を使って逃げるのが定石となっている。
他にも、天帝の塔の45階に直通することができる特殊な転移結晶も売られていたが、値段が10万ゴールドという破格の値だったので購入しなかったし、するつもりもなかった。
必要な消耗品をそろえると1万4千ゴールドぐらいかかってしまったが、俺とミレニスが半々で出して、ダンジョン攻略の上がりから共同の経費として落とす。
準備が終わると俺たちは街の中央まで移動し、ついに天帝の塔に挑むことにした。
最上階は地上から見えないほど、高くそびえ立つ天帝の塔。
雲を突き抜けて存在する、巨大なダンジョン。
あの転生の謎を解き明かすために。
最強への一歩を、踏み出す。
「行くぞ、ミレニス」
「オッケー! 前衛は任せて」
「あぁ、頼りにしてる」
俺たちは、天帝の塔1階へと突入していった。




