第5話:第1階層 その2
「やっ! 【スターラッシュ】!!」
ミレニスの高速剣技スキルが、ハイオークの身体を滅多刺しにする。
分厚い肉を誇る豚の魔物を、ミレニスが急所を突いた。
ハイオークは悲鳴を上げながら、刺された傷から多量の出血をする。
失った血が3割ほどに達すれば、どんな生き物であろうが大幅に血圧が低下し、意識障害・行動不能に陥る。
それは魔物も例外ではない。
ミレニスは素早いステップワークでハイオークの反撃を回避しながら、続けて攻撃を放った。
肉を突き刺した数が数十を超えようかというところで、やっとハイオークが出血多量で倒れる。
その脳天を、ミレニスがレイピアで綺麗に串刺しにして、トドメをさした。
ハイオークが消滅し、後には素材ドロップの『オークの肉』が残る。
「ナイスだ、ミレニス」
「やった! 私1人でも倒した」
ミレニスが俺のほうを振り返って笑うので、俺たちは「いえーい」とハイタッチする。
俺は自身の古代魔法が天帝の塔で十分通用することが分かったので、今度はミレニスの実力を測っていたところだ。
ハイオーク1体相手に、ミレニスは単独で無傷の勝利をしてみせた。
倒す時間もそんなにかからなかったし、1人でハイオークを倒せたのだから、これは次の階層に向かっても大丈夫だろう。
「ウェイドー。これもうさ、余裕だし10階層刻みで行くか、それこそ最前線の45階層に挑戦してもいいんじゃない?」
「俺とミレニスならイケるだろうな。ただ、あんまり功を焦って命を落としたくはないな……」
ポテンシャル的に45階層でもイケそうだというだけで、天帝の塔の即死ギミックをいつ食らわないとも分からない。
それに、高い階になればなるほど、罠も巧妙に致命的になるし。
功を焦って攻略し、罠にかかって命を落としましたじゃ、話にならない。
「せめて、装備品の『身代わりのお守り』は欲しいな」
「あー、即死を1回だけ守ってくれるマジックアイテムだね」
「そう。低階で金を稼いで、装備を整えておきたいんだよな。
俺たち、2人とも大した装備持ってないだろ?」
「それもそうだ」
そのためには、安全に確実に金を稼ぐことだが、上階のほうが早く金を稼げるというのも事実で……。
「とりあえず、1階層の攻略で得た資金で、少しずつ装備を強くしていこうぜ。
次の階層の情報も知りたいし」
「まー、そうだね。私はサクサク進みたい派かな。
『高級木材』や『オークの肉』なんて拾ってたって、いつまでたっても稼げないし」
まぁ、それはそうだが。
こいつの行動原理は金だからな。
「じゃひとまず、今日は1階層を最後まで攻略しよう」
「あーい」
俺とミレニスは意見をすりあわせて、ダンジョン攻略の先を目指した。
迷宮を歩きながら、自分の力を確認する。
攻撃用の古代魔法。
火の【フレア】、雷の【スパークス】、光の【シャイニング】、風の【フィルストーム】。
防御・治癒用の古代魔法。
【バブルオートガード】、【パーティーヒール】、【リザレクション】
遊撃用の古代魔法
【マジックドレイン】、【リムーブトラップ】、【パーティージャンプ】
古代スキル
【身体能力強化】、【体術強化】、【魔法威力強化】、【最大魔力値ブースト】、【状態異常無効】、【浮遊】、【マジックカウンター】、【広範囲トラップ・魔物探知】、【経験値取得2倍加速】、【転生者称号(封印開放Lv1)】
色々と有益な魔法があるが、しばらくは【フレア】をメインで使っていくことに決めた。
他の古代攻撃魔法も威力は素晴らしく、広範囲殲滅型だが、魔物の弱点や耐性に合わせて使い分けよう。
そして、防御・治癒用の古代魔法に、【バブルオートガード】がある。
これは発動していれば秒毎に微量な魔力を失うが、敵の攻撃に対して自動で水泡の防御が発動するリアクション型の魔法だった。
正直、【フレア】と【バブルオートガード】さえあれば、1階層は目をつむっていても勝てる。
古代スキルの【浮遊】とか熱かったが、特に使う意味もないので放置しておく。
あと【転生者称号】がLv1になっているあたり、まだまだ封印されている魔法・スキルは多い。
「ウェイドー。遅れてるよー」
「あぁ、悪い」
俺は魔法とスキルの構成を頭の中で見直していた俺は、ミレニスの声をハッと顔を上げて、小走りでついていく。
結果から言うと、1階層の探索は楽勝だった。
迷宮を踏破すると同時に、出てくる魔物を倒しまくっていたら、素材ドロップが背嚢にパンパンに溜まっている。
2階層へ続く階段の前で、俺とミレニスは話し合った。
「今日はここで探索を終えて、街に帰るか」
「そうしよ。徒歩で帰るの?」
「転移結晶を使って帰ってもいいが……、特に道中が長くなるわけでもないし、金がもったいないしな」
「うん。節約は必須だね」
そうして俺とミレニスは、元来た道を帰り、冒険者の都市へと戻っていった。
街につくと、商店街を足早に抜けて、冒険者ギルドへ向かった。
ダンジョン攻略の素材ドロップを売って金を稼ぐためだ。
ギルドの木扉を押し開けて中に入ると、ガヤガヤ活気があるギルドの風景が目に飛び込んでくる。
クエストやダンジョン攻略を終えた冒険者たちが、酒場で一杯やっている。
受付はシャーリーのところがちょうど空いていたので、俺たちはカウンターに歩いた。
受付嬢用の制服に身を包んだシャーリーが、笑顔で出迎えてくれる。
「お帰りなさいませ、ウェイドさん、ミレニスさん!
天帝の塔攻略は無事でしたか?」
「うん。余裕だったよー。次からは45階でもいいぐらい」
「さすがにそれは一足飛びすぎでは……」
ミレニスが言うと、シャーリーが顔に冷や汗を浮かべさせた。
「さすがに階は、もう少しずつ刻んでいくよ」
俺の言葉を聞いてシャーリーは「ほっ」とした様子で微笑んだ。
「それなら良かったです。素材の買い取りですよね?」
「あぁ、俺とミレニスが拾った分、全部の素材を売却したい。会計を頼む」
「かしこまりました」
俺とミレニスが拾った『ゴブリンの魔石』や『高級木材』なんかを、査定テーブルの上に置いていった。
シャーリーは目を鋭く光らせ、羊皮紙にメモを取りながら査定していく。
一般的に、冒険者はバカでもできるが、ギルドの受付嬢や職員はバカではできないとされている。
その主な理由が、ギルド職員には『冒険者の報酬額の計算』と『組織の利益調整』、『需要と供給の調整』の仕事が存在するからだ。
だから、いくら『ゴブリンの魔石』が1500ゴールドの値がつくからといって、いつもその値で買い取ってもらえるとは限らない。
受付嬢やギルド職員は、そういう利害調整の仕事を専門にしている。
また現代のシリス王国は、文明度が古代よりかなり退化しており、識字率や数学教育が発展途上だ。
足し算・引き算・かけ算・割り算の計算という、古代では初等算数教育レベルの数学的知識すら持ち合わせていない市民が多い。
そしてこういう算数や簿記のような数学的素養は、ギルドの受付嬢や商人をやる上では必須の技術となっている。
だから、受付嬢には知的美人かつ高給取りが多く、中には名家のお嬢様もいる。
女性としては、冒険者よりも憧れの職業であることが多い。
シャーリーもそのうちの1人だった。
俺たちはしばらく待っていると、
「…………買取額の査定が終わりました。合計で2万5千ゴールドです」
「あちゃー。そんなでもなかったね」
ミレニスが悔しそうに、顔をわずかに歪ませた。
「まぁしょうがないだろ。1階層だし。
明日からは2階層に進もうぜ」
「だね。シャーリーちゃん、それで買い取りお願い」
「かしこまりました。代金を取ってくるので、少々お待ちください」
微笑で頷いて、シャーリーはギルドの事務室へ入っていった。
少し待っていると、彼女は金貨2枚と銀貨5枚の、2万5千ゴールドを抱えて戻ってきた。
買い取り代金を俺たちの前に差し出す。
「ご査収ください」
「たしかに」
「ありがとー!」
俺とミレニスはシャーリーにお礼を言い、シャーリーは次の予定を聞いてくる。
「明日は2階層の攻略のご予定ですか?」
「そうしようかなって思うんだが……。
1階層が余裕すぎたから、10階ぐらい飛ばしても平気だろうか?」
「おそらくは大丈夫だと思いますが……。
職員としては安全に1階ずつ上がっていって欲しいですね」
「まぁそうだよな」
「私は飛ばしていくに一票!」
いつも生き急いでいる感じのするミレニスに対し、シャーリーは苦笑を浮かべる。
「そんな急がなくたって、ダンジョンは逃げませんよ」
「…………爵位は逃げるかもしれないんだ」
そう、ポツリと、ミレニスは漏らす。
複雑な感情が込められた言葉だった。
首を傾げ、俺は尋ねた。
「爵位?」
「あっ……、やー。なんでもない」
ミレニスは「へへへ」と力弱く笑った。
「今日は疲れたし、酒場でメシでも食いながら予定を立てようぜ」
「そうしよ」
「お疲れ様でした。またのご利用をお待ちしております」
礼儀正しくお辞儀するシャーリーに笑顔で別れ、俺とミレニスは酒場に席を移して夕食を食べることにした。




