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17.花に嵐のたとえもあるぞ

 呪文とその習得元の一覧表をポーリンさんに見せながら私は説明した。火炎の出る呪文ということで似たようなものだと思いがちだが、『爆熱弾エクスプロード・ボム』と『炎の矢(フレイム・アロー)』を両方使える人は少ないこと。よってこれらは別系統の呪文である可能性が高く、ポーリンさんの現在のレパートリーから見ても『爆熱弾エクスプロード・ボム』より他の魔法を覚えた方が無難と思われること。

 さすがに一覧表という目に見える形で説明されると納得しやすいらしく、ポーリンさんも割とすぐに落ち着いてくれた。

「同じように火の玉っぽい魔法でも違うんだね……」

「そうですね……」

 いつの間にか他のパーティメンバーもすぐそばに集まって一覧を見ていた。ベニートさんとトラドールさんとレイドさんの男三人……正直、暑苦しい……です。

「本当はこれ、きれいに束ねてから餞別代りに渡すつもりだったんですけど、なんか緊急事態っぽかったので」

「うん……ごめん」

 しょぼんとするポーリンさん。ホント、いくつになっても子供みたいなところのある人だなあ。その表情もこう、実際の年齢(……言わないよ!)よりひどく若いというか幼く見える。気が若いのが表情や仕草にも出ているというか。

 可愛げはあるけど手もかかる、というタイプの人だ。周囲の人に好いてもらえればいいが、毛嫌いする人もいるだろう。彼女自身は気づいていないかも知れないが、彼女はすごく仲間に恵まれているんだよね。あと、冒険者として稀少価値のある能力の持ち主――魔法使いである、という点も。

 昔々、まだ八柱の神々がこの大地と空の間にいらした当時の魔法は当然のようにそこにあって使えるもので、しかも今よりももっといろいろなことが可能だった。地球の現代人の感覚で言ってもSF映画のような日常生活を送っていたのだろう。そして、当時の世界に生きていたものはみんな、人間も他の生き物たちも、もっとずっと魔法の適性が高かったと言われている。多少の得意不得意はあっただろうが、すべての人が普通に魔力を感じ取る感覚を持っていて、普通に言葉や道具を使うように魔法を使いこなしていた。

 けれど神々が去って、同時にこの世界の法則が変化すると、魔法は日常のものではなくなった。

 魔法でできることも大幅にスケールダウンした。何というか、かつては自分でOSから構築してあれこれできていたのが、現在では既存のOS上で動く既存のアプリケーションで、あらかじめ用意されたメニューとツールバーだけしか使えなくなったみたいな。

 まあ、まさに生半可なオタクがノートに書いたゲームの魔法って感じですね。胸がイタい。

 その程度の魔法ではあるが、それでも重宝される場面は多い。特に荒事の世界ではそうだ。弓や投石でぺちぺち叩くところに火の玉をぶっ放したり、一時的に前衛の身体能力を上げて命中や回避にボーナスを付けたり。(できる人はあまり見かけないが)生命力を賦活させて傷の直りを早くしたり。あるとないとでは大違いだ。

 しかも、現代では魔法の適性を持って生まれる人そのものがレアであるようだ。おそらく世界の変化に対応するために進化というか退化というか、とにかく生物としての適応が進んだ結果なのだろう。運よく適性を持っていても、学ぶ機会が――しかも自分の適性に合った呪文を――なければその才能は開花しないので、魔法使いになれる人はさらに少なくなる。そういうわけで、冒険者のパーティでも魔法使いがいないことは珍しくはない。まあ、長く生き延びて大成するようなパーティはたいてい魔法使いを抱えているものだが。

 そういうわけで、冒険者の世界では魔法使いはふつう歓迎されるし、パーティ内でも大事にしてもらえることが多い。リュナが商家のお嬢さんから冒険者という結構思い切ったジョブチェンジを果たしたのにも、魔法が使えるなら割とどこへでも強気に出ていけるという計算があった。

 実力があれば多少社会的スキルが低くても大目に見てもらえる冒険者で、しかもレア人材の魔法使いってことで何とかなってる面が非常に大きいポーリンさん、なのです。私はなんだかんだ言っても好きだけどね彼女のこと。とはいえ、もうすぐ別れてしまう私ができることはあんまりない。

「うーん。『爆熱弾エクスプロード・ボム』はちょっと無理そうかなあ。じゃあ……」

 さっき泣いたカラスがもう笑ってる。ポーリンさんはさっそく呪文の検討に入っていた。いいですけど、実験する前にTPOを確認してくださいね。色々と言いたいことを男衆への視線に込めた。

 こら、目をそらすな男ども!




 それ以降のことはあまり語るべきことはない。

 ベニートさんたちは海で失った装備を整え(鎧などは本来ほぼオーダーなのだが今回ばかりは急ぎなので、騎士団の練習用のお古を買い取らせてもらったりしたようだ)、ハベルスへ向かう人たちもそれぞれに支度をして、そして出発の日がやってきた。

「リュナちゃん、元気で」

「はい。皆さんも」

 ハベルス組の護衛を務めるベニートさんたちとはここから別行動だ。

「落ち着いたら手紙頂戴ね」

「うちの商会あてに送っていただければ取り次ぎますよ」

「何から何まで、ありがとうございます」

 番頭さんにお礼を言うと、こっそりと不器用に片目をつぶってきた。……うん。実はベニートさんたちには内緒でお願いしたことがあるのだ。遭難のせいでとてつもなく予定外の出費を強いられたからね、皆。種明かしが必要ならここから遠ざかってからにしてもらうよう番頭さんに頼んである。

「じゃあ、な。機会があればまた会おう」

「はい」

「……元気で、お嬢さん」

「今までありがとね、リュナちゃん」

「それは私の方ですよ。皆さんも体に気を付けて」

 ポーリンさんとハグを、男性陣とは握手をする。あまり湿っぽすぎる別れは冒険者の流儀じゃないから、あくまで軽やかに。何かの巡り合わせでまた会えるかもしれないし、そうでないかも知れない。それだけのことだ。


 そうやって彼らはハベルスに向けて旅立っていった。

 ……私が七、八歳のころからだからもう付き合いは十一年か十二年か……まだ二十歳にもなっていないリュナの人生、半分以上の期間に彼らは居た。けれどそれも今日で終わり。彼らと私の人生ははっきりと分かれた。

 まだ実感はわかないけれど、いずれ、彼らといた時期は人生の一部でしかなくなっていくのだろう。ホント、さよならだけが人生だね。

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