第8話「舞台袖のイサミちゃん!」
ストライヴ・リード学園の講堂は、とても広かった。
一番奥の壇上のある舞台から段々になっていて、長い机や椅子がズラッと並んでる。
いろんな星から集まった生徒が300人ぐらいいるって聞いてたけれど、それだけの人数が講堂に集まっても、まだ席に余裕があった。
それにしても、学園に招かれた子たちは、9歳から10歳ぐらいの子たちばっかりだって聞いていたけど、ずいぶんと大人っぽい子もいるなぁ。
10歳くらいのときに、一気に大人っぽい身体に成長する子もいるらしいから、おかしな話ではないんだろうけどね。
あ~~あ、わたしも早く大きくなりたいなぁ。
「この集会は、自由に席に座っていいんですって」
と、アンジェちゃん。
「そうなんだ。だから、みんなバラバラに座ってるんだね」
広々とした講堂の席だけど、生徒たちが整列するように綺麗に座っているようには見えなかったんだ。
みんな、ひとつふたつ席を空けて座っていたり、何人かが肩を寄せ合うように固まって座っているところもある。
自由に席についていいから、こんな風にまばらな感じになってるんだ。
「……あっ。講堂の端っこの席に、レジーナちゃんがいる」
お行儀悪く、足を机の上にドカっと乗せていた。
「あまり見ない方がいいですよ。また、因縁をつけられるかもしれません」
と、マナ。
「ははっ。そうだね」
視線を逸らそうとしたら、その前に、レジーナちゃんがジロっとこっちを見た。
「うわっ。こっち見てるよ」
また、つっかかってこられたら困るなぁ……と思ったら。
講堂の中を見回っていたロゼッタ先輩が、レジーナちゃんの方に走り寄った。
ロゼッタ先輩は、机の上に乗せられているレジーナちゃんの足をぺしっと叩く。
レジーナちゃんは、慌てて足を下ろしてロゼッタ先輩に謝ってる。
きっと、お行儀が悪いって注意されたんだ。
「ぷっ! アイツ、ロゼッタ先輩に叱られてるわよ」
それを見てたアンジェちゃんが、笑ってる。
わたしも、つられて笑っちゃった。
「……ッ!!」
レジーナちゃんが、それに気づいて、キッと睨んできた。
でも、わたしたちは知らぬ顔。
「いちばん前の席が空いてるよ。そこにしない?」
「壇上の真ん前ね。いいわ。そこにしましょ」
自分たちの席を決めて、そこに向かって歩き出した。
「すまん! 言い忘れた! そっちのマナって子は、私たちの手伝いをしてくれ!」
わたしたちを呼び止めたのは、セイラ先輩だ。
「早速、お仕事ですか。わかりました。そういう約束ですのでお手伝いします」
マナは、学園のお仕事をお手伝いするって条件で、この学園にいさせてもらうことになったんだ。
だから、お手伝いをする義務がある。
マナも、それがわかってるから、嫌な顔ひとつしないでうなずいた。
「じゃあ、あとでね! がんばれ! マナ!」
「しっかりとお手伝いしてくるのよ」
「おふたりとも、またのちほど」
わたしとアンジェちゃんは、セイラ先輩の後ろについていくマナを見送った。
それから、壇上の真ん前の最前列の席に向かった。
「最前列だし、余計なものが目に入らなくて助かるわね」
「うん、そ~~だね」
答えながら講堂の中を見渡すわたし。
「なに、きょろきょろしてるのよ?」
「赤い稲妻はいないかなってさ」
「また、それ?」
「だって、あの子も生徒だったら講堂にいるはずだもん」
「で? 見つかったの?」
「それが、見当たらないんだよぉ。おっかしいなぁ~~?」
姿も見えないし、あれだけ強烈だった波動も感じない。
講堂の中には、いないのかなぁ。
もう一度、ぐるりと講堂の中に視線を配る。
「あれ?」
壇上のある舞台の袖から、チラッと見覚えのある姿が見えた。
長い黒髪に赤い瞳のお姉さんで、赤いラインの入った黒のジャージを着てる。
舞台袖から、チラチラと顔をのぞかせて、わたしの方を見てた。
「イサミちゃんだ!」
わたしは、ジャージのお姉さん――イサミちゃんに大きく手を振った。
イサミちゃんも、笑顔を浮かべながら手を振り返してくれた。
「なに? 誰かいるの?」
きょとんとするアンジェちゃん。
「うん! わたしの――」
言いかけたとき、
『もう間もなく、学園の入学式を開会いたします。みなさん、お静かにお待ちください』
と、講堂の中にアナウンスが響いた。
いまのは、マナの声だ。
しっかり、お手伝いしてるみたい。
アナウンスのあと、イサミちゃんは、「またあとで」と言うように小さく手を振り、舞台袖から奥に引っ込んでいった。
いよいよ、入学式だ。
みんなの話し声で、ざわざわしていた講堂も、静かになっていく。
と、思ったら。
「ちょっと、あなた! もうすぐ入学式だというのに、なぜいま制服を乱すのですか!」
講堂に、女の子の声が響いた。
周りが、静かになっていたから、やけに大きくはっきりと聞こえる。
そちらの方を見ると、ふたりの女の子が、言い合っていた。
ひとりは、わたしやアンジェちゃんよりも身長が高い青い髪の女の子。
もうひとりは、青髪の子より身長が低くて、跳ね返った赤い髪の女の子。
「え~~! だってさぁ! 上着もネクタイも、きゅ~~くつなんだぞ!」
「そこを我慢なさい! あ~~、もう! なんで、わたくしがこんなことを!」
青髪の女の子が、だらしない制服の着方をしている赤髪の女の子の身だしなみを整えてる。
ふたりは、お友だちなのかな?
片方は、ぴしっとして生真面目そうな雰囲気なのに、もう片方は自由奔放って感じがするから、対照的で面白い。
「ジュンちゃんみたいなお節介焼きな子がいるよ」
「黙れよ」
斜め後ろから、聞き覚えのある声がした。
ジュンちゃんと、もうひとり……たしか、レアちゃんだ。
わたしと視線が合うと、ジュンちゃんはムスっとした表情で目を逸らし、レアちゃんはニコっとほほえみながら手を振ってくれた。
あははっ。
こっちもこっちで、対照的だ。
「どこでも、騒がしいやつっているのねぇ」
「まったくだよ」
「いや、あんたもよ」
アンジェちゃんが、「はぁ」とため息をついた。
ごぉ~~ん――!
どこからともなく、綺麗な鐘の音が聞こえてきた。
『ただいまより、ストライヴ・リード学園の入学式を開会いたします。学園長ならびに教員のみなさま、舞台にどうぞ』
マナの声で、入学式の開会が宣言された。
舞台袖から、ぞろぞろとお姉さんたちが歩いて出てくる。
先頭は、長い金髪に青い瞳のお姉さんで、青色を基本に金色の装飾が施された綺麗なスーツを着ている。
「あれが、さっき言ってたジュリアンさんよ」
アンジェちゃんが、こそっと教えてくれた。
あのお姉さんが、歴代最強と言われてるイサジュリ世代で活躍したスーパーブレイヴなんだ。
「あれ? わたしたちが、生まれる前に活躍したブレイヴだよね? ってことは、いま何歳くらいなんだろう? わたしたちのお母さんくらい?」
「たしか、今年で38か39くらいじゃないかしら」
「ほえ~~、わたしたちとけっこう歳の差があるんだなぁ」
ジュリアンさんは、大人っぽいけど、ちょっとばかりわたしよりもお姉さんってくらいの見た目に見える。
普通に制服を着て隣に生徒としていても、おかしくないくらい。
大人なのに、わたしたちと見た目は、そこまで変わらないんだよね。
不思議な感じがするけれど、これは仕方ないんだ。
この世界の人たちは、10代から見た目の変化がなくなるからね。
だから、小さくて可愛らしい感じの女の子が、実は年上のおばあちゃんだったってことだってあるくらいだ。
ジュリアンさんのあとに続いて出てきたお姉さんたちも、きっと、思ったよりも年上なんだろなぁ。
『初めに、学園長からのご挨拶です』
マナのアナウンスが流れ、ジュリアンさんが壇上に上がった。




