第7話「坂道の先!」
喧嘩を売られたり買ったりしてたけど、そろそろ講堂に向かわなきゃ。
お城みたいな校舎や講堂がある高台の山頂まで、けっこうな坂道を登っていく。
隣を歩くアンジェちゃんは平気な顔で歩いているけど、マナが少し遅れ気味だ。
坂道を歩くのに、疲れちゃったんだろう。
「マナ、だいじょうぶ? おんぶしようか?」
「い、いえ……問題ありません」
「そ、そう?」
……ぽやっとした顔の口元が引きつってるから問題ないように見えないんだけど。
「無理もないわよ。こんなに長い坂道を登ってきたんだもの。まったく、めんどくさいったらないわ」
と、アンジェちゃん。
「わたしは、坂道や階段って好きだけどなぁ」
「なんでよ?」
「だって――」
そのとき、ちょうどわたしとアンジェちゃんは坂道を登り切った。
「坂道を登り切ったら、ステキな景色が見られるんだもん」
それまで登って来た坂道を振り返って、そこから見える景色を一望する。
高台から見下ろす風景は、サイコーにステキだった。
青々とした平原に、色とりどりの可愛らしい建物が並んだ城下町。
その向こうに、緑豊かな森や山も見える。
雲の流れる青空には、燦々と太陽が輝いていて、世界が明るく見えた。
まるで、絵本の挿絵を切り抜いてきたみたいなステキな風景だ。
隣で一緒に景色を眺めてるアンジェちゃんも、なんだかんだで目を輝かせてる。
「……そうね。坂道を登った先に、こんな景色があるのなら坂道も悪くないわ」
「そうでしょ! 坂道って、いいものだよね!」
アンジェちゃんは、「ふっ」と小さく笑った。
「でも、いくらステキな景色だって何度も見てたら飽きるわよ。感動できるのは、いまだけじゃない。やっぱり、坂道なんて、めんどくさいだけだわ」
「え~~!? そんなぁ!?」
「それに、坂道を登った先に、いつも素晴らしい景色が広がってるとは限らないじゃない。たまたま、今回は風光明媚な港町があったから良かったものの」
「ぜぇぜぇ……! そ、それには……同感です。坂道の先にあったのは徒労と後悔だけということも、ぜんぜんありえますからね。ぜぇぜぇ……!」
マナが息を切らせながら坂道を登り切った。
そして、来た道を振り返る。
「……まあ、今回は悪くない結果でしたね」
ふん、と笑うマナ。
「ふたりとも、一言、多いんだから! もっと、素直に景色に感動しなよ!」
「はいはい。感動した感動した。それじゃあ、講堂に行きましょうか」
すたすたと歩いていくアンジェちゃん。
高台の山頂には、広場があって、みんながぞろぞろと集まっていた。
「講堂での集会は、みな制服を着用することになっている! まだ、着替えていない生徒は、すぐに制服に着替えるんだ!」
広場の真ん中で、声を張り上げているのはセイラ先輩だ。
「制服に着替えろですって、あんた学生証はちゃんと持ってきてるんでしょうね?」
そう言うアンジェちゃんの左手首に、キラっと光を放ちながら、真っ白なブレスレットが現れた。
丸い台座の中央にピンク色の水晶が埋め込まれた可愛いブレスレットだ。
「わっ! かわいい! それが、アンジェちゃんの学生証なの?」
「ええ、そうよ」
ストライヴ・リード学園の学生証は、こういうブレスレットになってるんだ。
必要なとき以外は、他人から見えなくすることもできるし、粒子に変えてコンパクトに収納することもできる優れもの。
しかも、いろんな機能も詰まってるらしい。
名前は、リード・ブレスレットって言うんだって。
ちょっと、かっこいいよね。
「で? あんたは、ちゃんと持ってきてるんでしょうね?」
「うっ! そ、そんな疑うような目で見ないでよ。ちゃんと持ってきてるよぉ」
わたしは、右手首をアンジェちゃんの前に差し出した。
キラッと輝きながら、わたしの学生証であるブレスレットが現れた。
台座には、爽やかな青色の水晶が埋め込まれている。
この学生証は、生徒のみんなに配られたものらしいんだけど、装着する人によって、ちょっとずつ色が変わるんだって。
わたしのブレスレットは、アンジェちゃんのものとは輪の部分や台座の色が少し違う。
アンジェちゃんのは、真っ白な輪と台座に金色の装飾がついてる。
でも、わたしのは輪と台座は淡い青色でピンク色の装飾がついてるの。
これって、どういう意味があるんだろう?
「あら? ほんとに、ちゃんと持ってきてるじゃない。これまでのあんたの印象だと、学生証を忘れて慌てふためく展開を予想していたのに。つまんないわね」
「しれっと、ひどい印象を持たないでよ! 学生証は大事なものだから、忘れたりしないよ!」
「それは、どうでしょうね? 故郷の星からスペースシップで出発するとき、自宅に置き忘れたのに気づいて慌てふためいていましたよね。ぎりぎり取りに帰って間に合いましたが、そのとき、さんざんお母さんに叱られたんですよね。もちろん、自分も叱りました。もう、二度と置き忘れたりしないでほしいですね」
「う、うぐ!? それは、黙っててよ! マナ!」
「ほ~~ら、あんたの印象通りだったじゃない」
アンジェちゃんが、愉快そうに笑ってる。
ぐぐぐ……!
なにも、言い返せない……!
「さっ! それより、制服に着替えましょ」
「そ、そうだねぇ~~」
わたしとアンジェちゃんは、同時にリード・ブレスレットを天にかざした。
「「ブレイヴ・チェ~~ンジ!!」」
声を揃えて掛け声を上げるわたしとアンジェちゃん。
リード・ブレスレットから光が溢れて、わたしたちを包み込んでいく。
ぱぁぁんと光が音を立てて消えたとき、そこには、それまでの服装から制服に着替えたわたしたちがいた。
「ふたりとも、よくお似合いですよ」
どこからともなく、姿見を取り出したマナ。
わたしとアンジェちゃんの姿を鏡で見せてくれた。
青色の長い髪に、青い瞳。
真っ白なブレザータイプの上着に、青色のネクタイ。
濃い青色のハーフパンツ。
靴は青色のブーツだ。
これが、ストライヴ・リード学園の制服に身を包んだわたしの姿。
なんだか、ちょっぴり大人になったような気がする。
まあ……身長は、ちんちくりんのままだから、ほんと気のせいなんだろうけど。
「あら、なかなか似合うじゃない」
「アンジェちゃんこそ! かわいいよ!」
アンジェちゃんの制服は、ネクタイやハーフパンツ、それとブーツの色がピンク色だった。
その色合いが、アンジェちゃんにぴったりで、とってもかわいい。
「ありがと。でも、私が似合うって言ったのは姿見に映った自分自身に言ったの。勘違いさせて悪かったわね」
「あっそ! かわいいって言って損した! むきぃ~~!」
「ごめんごめん! 冗談よ! あんたも、似合ってるわ。馬子にも衣裳ね」
「褒めてないよね!」
とかなんとか言い合ってたときに、気づいた。
「そうだ! マナは、どうしたらいいんだろう!」
「そういえば、あんたは学生証を持ってないんじゃない?」
と、アンジェちゃん。
「ええ、そもそも自分は招かれていないので学生証は持ってません」
マナは、緊張感のない声で、そう言った。
「そうだよね! 講堂の集会は制服を着なきゃいけないみたいだし、どうしたらいいんだろう?」
「それだけじゃないわよ。今後、学園で生活するうえで自分の身分を証明するものを持ってないってことなんだから。そっちのが問題だわ」
アンジェちゃんの言う通りだ。
わたしやアンジェちゃんは、学生証が、この学園の生徒だっていう証になる。
だけど、マナは学園に招かれた生徒じゃないから、そういうものがないんだ。
これって、この星で生活するのに不便なことも出てくるんじゃない?
「その心配なら必要ないぞ」
セイラ先輩が、コツコツと靴音を鳴らしながら近づいてきた。
「どういうことですか?」
わたしが訊ねると、セイラ先輩は、優しそうに微笑んだ。
「学園長が、キミのためにサポートスタッフ用のブレスレットを発行してくれた。これが、そうだ。いまのうちに、装着しておくといい」
「サポートスタッフ用の……自分用のブレスレット、ですか」
マナが、セイラ先輩から差し出されたブレスレットを受け取った。
灰色のブレスレットで、台座に埋め込まれている水晶には色が無かった。
「学生用のリード・ブレスレットとは見た目や機能が少し違うが、問題はないだろう。ちゃんと、専用の服に着替える機能もあるぞ。その衣装が、制服の代わりになる」
「着替え機能オン」
左手首にブレスレットをはめて、ぽつりとつぶやくマナ。
ブレスレットから光が溢れてマナを包み込む。
そして、すぐに、ぱぁぁんと光が弾ける。
そのあとには、黒色に紫の花の装飾が付いたメイド服を着たマナの姿があった。
「おお~~! メイドさんだ! メイドさん!」
「へぇ~~? なかなか、似合うじゃない」
わたしは、さっきの姿見をマナの前に持ってきて全身が見えるようにしてあげた。
「……こ、これは、なかなか悪くないですね」
ぽやっとした顔が赤く染まってる。
どうやら、マナも自分の衣装が気に入ったみたい。
「でも、もっとかっこよく変身しようよぉ。わたしたちみたいに、ブレイヴ・チェ~~ンジとかってさあ」
「いえ、そういうのはガラではないので」
「そういえば、ノリでやっちゃったけど……ちょっと、恥ずかしかったわね、あれ」
アンジェちゃんが、いまになって顔をほんのり赤くしてる。
「さあ、着替えが済んだら講堂に向かいなさい。もう、ほとんどの生徒が集まっているぞ。遅刻したら、学園長の心象が悪くなるぞ」
セイラ先輩が、わたしたちの背中を軽く押す。
「わぉ! それは、大変! 急ごう! アンジェちゃん! マナ!」
「この私が遅刻だなんて、そんなのありえない! 急がなきゃ!」
「まあ、このドタバタした感じ……シャルロットらしいですね」
わたしたちは、講堂に向かって駆け出すのでした。




