第5話「売られた喧嘩!」
わたしとマナとアンジェちゃんは、学園の講堂に向かっていた。
スペースポートから、さらに高い場所にある講堂を目指して、ゆるい坂道をえっちらおっちらと登ってる。
スペースシップに置き去りにしていた荷物も、学園のロボットが運んでいってくれたから、手ぶらで楽ちんだ。
「いや~~、学園長先生って話がわかるねぇ~~!」
「ですから、なるようになると言ったじゃないですか」
学園のスペースシップに隠れて乗り込み、わたしのあとを追ってきたマナ。
一時は、密航者だって騒ぎになっちゃった。
でも、ロゼッタ先輩やセイラさんっていう教員補佐のお姉さんたちが、この学園の責任者の学園長先生と掛け合ってくれたんだ。
そしたら、学園長先生はケータイ端末の通話で、
「来てしまったものは、仕方がありませんね。条件付きですが、滞在を許可します」
って言ってくれてお咎めなしになったんだ。
「いえ、お咎めなしというわけでありません。密航していたのは事実なので、迷惑料と船賃の代わりとしてタダ働きの刑に処されました」
「それでも、ちゃんと働くなら学園にいてもいいって言ってくれたんだから、学園長先生って優しいよねぇ。音声だけの通話だったから、お顔が見えなかったけど、キリっとして気品があるっていうのかな? 大人っぽい感じの綺麗な声だったなぁ」
「あんたねぇ……自分が通う学園の学園長のことくらい知っておきなさいよ」
アンジェちゃんが呆れた顔をしてる。
「いいこと? この学園の学園長は、あのジュリアンさんなのよ!」
びしっと、わたしの顔に向かって指を向けるアンジェちゃん。
「ジュリアン……さん? あれ? どこかで聞いたことあるような」
「……これまでも、自分がさんざん説明していたんですけどね。まさか、本気で覚えてないんですか?」
今度は、マナが呆れた顔をした。
って言っても、ぽやっとしてるから微妙な表情の変化なんだけどさ。
「そうそう! そうだった! マナが、よく話してくれる人の名前だ! わたしたちが、生まれる前に活躍したブレイヴだったよね!」
「ようやく、思い出しましたか」
ふぅ……と、ため息を吐くマナ。
「ただのブレイヴじゃないわ! ジュリアンさんは、ブレイヴの中のブレイヴ! あらゆるブレイヴの頂点に立つ者しか名乗ることが許されない『スーパーブレイヴ』の称号を勝ち得た方なのよ! そんな方が学園長を務める、この学園に通えるなんて光栄なことなんだから! 心して勉学に励むのよ!」
あ、アンジェちゃんが、鼻息を荒くしている。
そうか、アンジェちゃんにとって、ジュリアンさんは憧れなんだ。
「もしや、あなたもイサジュリ世代のファンなのですか?」
目を輝かせているのは、マナだ。
「もちろんよ! 小さな頃、アーカイブで見てから、ずっとファンなの! たとえ、私たちの生まれる前の世代だとしても、その活躍と功績は、色あせない! いまなお推せる素晴らしい先輩方だわ!」
「ま、まさに、その通りです! イサジュリ世代は、ブレイヴ史上最強とも言われてる黄金世代! その勇名は、10年、100年、1000年……未来永劫、語り継がれるべきものです! 彼女たちの物語が、色あせることなどありません!」
「まったくだわ! あなた、意外と気が合うじゃない!」
ガッと握手するマナとアンジェちゃん。
なんか知らないけど、意気投合しちゃってるよ。
「申し遅れました。自分は、マナカ……マナと呼んでください。同じイサジュリ世代のファンとして、これからよろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ。私の名前はアンジェリカよ。あんたの友だちは、馴れ馴れしくアンジェだなんて呼んでるけど、まあ、どちらでも好きに呼んでちょうだい」
「わかりました。では、アンジェリカさんとお呼びします」
そういえば、このふたりって、まだ名乗り合ってなかったんだっけ。
密航者騒ぎで、それどころじゃなかったもんね。
「それにしても良かったね、マナ。同じ趣味の子と友だちになれて」
「ええ、これからアンジェリカさんとイサジュリ世代の話ができるかと思うと、心が躍るようです。しかも、生のジュリアンさんも見られるかもしれません。少々、無茶をして学園に潜り込んで正解でした。フォルティミヤから出てきた甲斐があるというものです」
「……さては、わたしのことを心配して追ってきたっていうより、ジュリアンさんのいる学園に興味があるだけだね?」
「はて? それは、どうでしょう?」
あやしいなぁ。
とかなんとか話していたときだった。
突然、ぬっとわたしたちの前に影が差した。
「フォルティミヤだぁ? ド田舎の惑星じゃね~~か」
わっ! でっかい!
わたしたちの目の前に、見上げるほど背丈の高い女の子が、立ちはだかっていた。
色味の強い金髪がワイルドにハネ上がってて、深い緑色のジャケットと赤いミニスカートをはいている。
わたしたちを見下ろすギラギラとした瞳は、左右で色が違っている。
右目が赤で左目が緑だった。
「やあ! フォルティミヤのこと知ってるの?」
そう訊ねると、ワイルドな髪の毛をした女の子は、尖った歯を見せつけるように、にやりと笑った。
「知ってるともさ! 辺境にある豆粒みたいな惑星だろ! 見るべきものもなけりゃ資源もねぇ! そのうえ、星域のブレイヴのレベルも最低クラスの救いようがねぇ星なんだってなぁ!」
「なっ!? いきなり、なんなのさ!」
ムカっときた……!
どうして、初対面の人に、そんなこと言われなきゃいけないのさ……!
「レジーナ! 他人の故郷を悪く言うもんじゃないわよ! ふたりに、謝りなさい!」
そう怒ってくれたのは、アンジェちゃんだ。
あれ? いま、目の前の失礼な子の名前を言った?
「アンジェちゃん、この子のことを知ってるの?」
「ええ……私と同じ星域出身の子よ。別に、友だちってわけじゃないわ。お互い顔と名前は知ってる程度よ。まあ、こいつは見ての通り素行の悪い乱暴者よ」
「はん! 優等生! こんなところでも、お前の顔を見なきゃいけないなんてなぁ! 不愉快な学園生活になりそうだぜ!」
「その台詞……そっくりそのままお返しするわ」
睨み合うアンジェちゃんとレジーナちゃんって子。
も、もしかして……このふたりって、仲が悪いのかな?
「退いとけよ、優等生! いま、俺様はこのド田舎惑星のチビどもと話してるんだ!」
「ち、チビ! チビって言ったね!」
気にしてるのに……!
「はん! チビをチビって言って、何が悪いんだよ! だいたい、お前ら来るところ間違えてんだよ。この学園は、いろんな星域から見どころのある連中を集めてんだぜ? フォルティミヤなんてレベルの低い星の田舎もんが来る場所じゃね~~んだ! チビすけどもは、豆粒みたいな小さな故郷の星に引きこもってりゃい~~んだよ!」
「こ、こやつ……! 許せぬ……!」
カッとなって飛びかかりそうになった。
だけど、ソッとマナが手を掴んでくれたから、なんとか怒りを抑え込んだ。
「こんな人、放っておきましょう。大勢が集まるところには、この手のお馬鹿さんも少なからず紛れ込んでしまうものです。相手にするだけ無駄ですよ」
「そうだね! マナの言う通り! 無視しちゃうもんね!」
「ええ、それがいいわ」
アンジェちゃんも同意してくれる。
わたしたちは、レジーナちゃんを無視して先に進むことにした。
けど、このまま横を通り抜けるのも癪だなぁ。
そうだ……よぉし!
「ふん!」
どん――!
わたしは、目の前にふんぞり返るレジーナちゃんの正面からぶつかってやった。
「てめ!? なにしやがる!」
レジーナちゃんは、足元をよろめかせながら踏みとどまった。
それでも、正面突破……!
「ぬん!」
「おわ!?」
どさ――!
やったぜ……!
力づくでレジーナちゃんを押し退けて突破してやったもんね!
レジーナちゃんは、尻餅をついて、こっちを見上げて睨んだ。
「な、なにしやがる! このチビ!」
「ふん! そのチビにパワー負けしたくせに! でっかいのは身体と態度だけだね!」
「こ、こいつ!」
じゃきん――!
レジーナちゃんが、ジャケットの袖口からナイフを取り出した。
鈍く光る刃渡り20センチくらいのナイフだ。
「ちょっと! レジーナ! やめなさい! 学園生活初日に揉め事を起こす気!?」
アンジェちゃんが止めようとする。
でも、レジーナちゃんは聞く耳を持ってくれない。
「先に手を出したのは、そのチビだろうが! このドチビ! 舐めやがって!」
レジーナちゃんが、ギラギラした瞳で睨みながらナイフをチラつかせた。
「どうしよう? 悲鳴を上げて逃げた方が良いかな?」
マナに訊いたら、首を横に振った。
「いえ、それはシャルロットらしくないかと」
「だよね」
こうなったら、やるしかない……かな。




