第1話「新しい朝!」
「えい! おう!」
「えい! おう!」
ユウキとのブレイヴバウトが引き分けに終わった翌朝。
わたしとユウキは、リード・ハウスの横で朝日を浴びながら素振りをしていた。
師匠のイサミちゃんに教わった、誓った目標を忘れないための素振りだ。
わたしは、ユウキと一緒に、スーパーブレイヴを超えるスーパーブレイヴになる。
ユウキは、わたしと一緒に、スーパーブレイヴを超えるスーパーブレイヴになる。
それぞれの夢と目標を念じながら、何度も素振りをした。
びゅん――! しゅ――! びゅん――! しゅ――!
わたしのシャルロットソードっていう超良い感じの木の棒とユウキの白銀の槍が、気持ちの良い風を切る音を立てている。
振り返ると、昨日は激動の一日だったなぁ。
遠い故郷の惑星フォルティミヤから、この惑星エンカまでやってきてすぐに、宇宙船の窓の外に赤い稲妻が閃いてるのが見えたんだ。
いや、正確に言うと赤い稲妻が閃いたようなイメージが、頭の中に浮かんだんだ。
わたしは、赤い稲妻のことが気になって宇宙船を飛び降り、その波動を追った。
そして、そこで出会ったのは黒いフードのついたノースリーブのパーカーを着たイケメン美少女。
その場では名乗りもせず、突然どこかへ消えたんだけど、そのあと向こうの方から、会いに来てくれたんだ。
ユウキっていう名前も教えてくれた。
それから、わたしたちは、ブレイヴバウトっていう最高にわくわくどきどきできる勝負で、お互いのことを知った。
そして、わたしとユウキは、お互いに「ライバルになってほしい」って伝え合った。
それが、昨日……わたしの10歳の誕生日に起きた出来事。
わたしは、ライバルっていう最高にわくわくどきどきできる贈りものをもらったんだ。
「ふたりとも、朝ごはんの支度ができました」
そう言って、ぽやっとした顔で勝手口から現れたのは、親友のマナだ。
髪が淡い紫色で、黒い生地にお花の装飾が施されたメイド服を着ていた。
「やったぁ! じゃあ、今日の素振りはこれくらいにしようか!」
「うん、そうだね」
ユウキは、涼しげな表情で汗をぬぐった。
やっぱり、ユウキはイケメンだなぁ。
長い金髪で、キリっとした真紅の瞳のユウキは、すごく凛々しい子だ。
その上、めっちゃ強い。
槍の腕前も抜群だし、雷や風や炎だって巧みに操れる。
めっちゃ強くてイケメンな美少女が、わたしのライバルだなんて、最高だよね。
最初の勝負は、引き分けに終わったけれど、これから勝った負けたって何度も競い合って盛り上がれると思うと、わくわくどきどきする。
そんなことを思いながら、わたしはユウキと一緒にリード・ハウスの中に入った。
リード・ハウスは、学園から借りている寮みたいなもの。
一戸建てのおうちに、何人かでまとまって暮らすんだ。
わたしたちのリード・ハウスには、わたしとマナ、アンジェちゃんに、レジーナちゃん、それにユウキの5人が住んでいる。
みんな、わたしと同じで、一人前のブレイヴになるために、ストライヴ・リード学園っていうところで勉強する生徒なんだ。
あっ、でも、マナだけは違った。
マナは、ブレイヴを目指していないんだ。
いまは訳があって学園に雑用係として置いてもらってるの。
あっ、ブレイヴっていうのはねぇ。
この世界には、ブレイヴっていう絵本の中から抜け出てきたような勇者がいるんだ。
ブレイヴは、凶暴なモンスターを退治したり、資源をギャザリングすることで、人々が生きていくために必要な物を獲得して供給したり、みんなの頼みごとを受けて解決したりするんだ。
まさに、絵本に出てくるヒーローみたいな存在だよね。
ブレイヴっていうのは、みんなが生きていくために世界に貢献する勇者たちのことなんだよ。
さらに、ブレイヴには、もうひとつ大事な役目があるんだ。
それは、ブレイヴとブレイヴが自分たちの能力を競い合うブレイヴバウトっていう競技で、みんなをわくわくどきどきさせること。
ブレイヴバウトは、ブレイヴがガチで闘う超過激な競技だけど、それが最高にわくわくどきどきできるものなの。
世界中のみんなが、ブレイヴバウトが大好きなんだよ。
わたしも、ブレイヴとしてブレイヴバウトで、世界中のみんなをわくわくどきどきさせるのが夢なんだ。
そのために、わたしはブレイヴの卵として、ここストライヴ・リード学園に入学したんだ。
いま、ストライヴ・リード学園には、わたしのようなブレイヴの卵たちが、いろんな星から集っている。
きっと、みんな自分の思い描くブレイヴを目指して、一生懸命なんだろうなぁ。
同じリード・ハウスに住むことになったユウキやアンジェちゃん、レジーナちゃんとは、昨日、出会ったばかりでまだよくお互いのことを知らないけれど、これから学園生活を通じて知っていけたらいいな。
「遅いわよ」
「おせぇよ」
ダイニングに行くと、もうアンジェちゃんとレジーナちゃんがテーブルの席についていて、マナはキッチンでご飯の支度をしてくれているみたい。
アンジェちゃんは、ピンク色の長い髪を真ん中分けにした髪型で、青い瞳の可愛らしい女の子だ。
性格は、真面目で優しくて、そして結構、強気。
入学初日に、わたしにケンカを吹っかけてきたレジーナちゃんと肉弾戦で張り合うくらいの強気なんだよね。
そのレジーナちゃんは、奔放にハネ上がった濃い金髪で、切れ長の瞳は左右で色が違っている。
右目が赤で、左目が緑だ。
ユウキとは少し方向性の違うワイルドなイケメンって感じ。
性格は、まあアンジェちゃん曰く素行の悪い乱暴者。
だけど、わたしとユウキのブレイヴバウトを応援してくれていたから、きっと悪い子じゃないって、そう思ってる。
本当は、どうかわかんないけど。
そして、マナ。
マナは、わたしの故郷のフォルティミヤで一緒の学校に通っていた子。
6歳くらいのときからの親友なんだ。
本当だったらマナは、ここ――ストライヴ・リード学園にいないはずだった。
ストライヴ・リード学園に通えるのは、ブレイヴを目指す子どもたちだけ。
だけど、マナはそうじゃなかったから通う資格もなかったし招かれてもいなかった。
でも、わたしのことが心配だったとかで、スペースシップに密航して来ちゃったんだ。
送り返されちゃうのかなって思ったけど、学園長の計らいで雑用係として置いてもらえることになったんだよね。
親友のマナと一緒に、学園生活ができるのは、すごく嬉しい。
なんだけど……ちょっと、マナはクセが強いんだよねぇ。
なにか、問題を起こさなければ良いけど。
って、わたしも他人のことを言えないんだけどさ。
「さあ、朝ごはんにしましょう」
マナが、具の無いお味噌汁を運んできてくれた。
他には、何もない。
主食のはずのお米やトーストもない。
「めっちゃ質素な食事だなぁ。こんなんじゃ力が出ないぜ」
露骨に悪態をついたのはレジーナちゃん。
「申し訳ございません。お出しできるものと言えば、これくらいで」
マナが、ぽやっとした顔で謝る。
「お前のせいじゃねぇよ。この大喰らいのチビ助が悪いんだっつ~~の。昨夜、さんざん飯を喰らいやがって! 翌日のことも考えろや!」
「……も、申し訳ございません」
昨夜、ユウキもリード・ハウスで一緒に暮らすことになって、みんなで遅めのお夕飯を食べたとき、わたしはがつがつと食べ過ぎちゃったんだ。
冷蔵庫の中の食材や備蓄のお米なんかも、ぜ~~んぶ食べちゃった。
そんなわけで、朝ごはんが、具のないお味噌汁だけになっちゃったわけ。
「まあ、止めなかった私たちにも責任があるわよ。いまは、お味噌汁が食べられるだけでも良しとしましょう。あら、このお味噌汁おいしいわね。海鮮系のお出汁かしら?」
アンジェちゃんが、お味噌汁を口にしながら感想を言った。
「はい。あご出汁を使っております」
と、マナ。
「アゴダシ?」
「トビウオから作った出汁です。シャルロットが、好きなのでフォルティミヤから顆粒のあご出汁の素を持ってきました」
「さっすが、マナ! わたしの好みをわかってるね!」
昨夜のお夕飯も、マナが作ってくれたんだけど、わたしの好みの味付けで美味しかったんだよねぇ。
「へぇ~~、トビウオねぇ。これは、初めて食べる味だわ。なかなか、良いものね」
と、アンジェちゃん。
「美味い味噌汁だけどよ。こんなんじゃ腹は膨れねぇぜ。肉が喰いてぇなぁ」
「ぶつくさとうるさいわねぇ。そんなに、お肉が食べたいのなら、自分の腕でもかじってなさいよ、ヘボトカゲ」
「なんで、俺様が自分の腕を喰わないといけねぇんだよ。っていうか、俺様のことをヘボトカゲって言うのやめろや! クソ優等生!」
「レジーナさん、食事中です。クソは止めてください」
「お、おう……そうだな、すまん」
マナに、やんわりと叱られるレジーナちゃん。
「あははっ。にぎやかな朝の風景って感じだねぇ」
こんなに、にぎやかだと楽しくなっちゃうね。
まあ、朝ごはんのメニューは、ちょっと物足りないけどさ。
「…………」
「ユウキ? どうしたの? さっきから、黙ってて。みんなとお喋りしようよ」
わたしの隣の席に座ってるユウキが、ずっと黙っているのが気になった。
「あ、ああ……ごめん。ボクは、こんな風に親以外の誰かと一緒に朝ごはんを食べたことがないから。どう会話に交ざって良いのかわからないんだ」
「え? そうなの?」
「……うん」
ユウキが、視線を落とす。
そういえば、昨夜のお夕飯のときも、あまり口数が多くなかったな。
一緒に来ていたイサミちゃん……あっ、その人は、わたしの師匠で、学園の掃除係をしてるんだけど、そのイサミちゃんの陰に隠れるようにしてたっけ。
「みんなと食事するの嫌?」
ユウキは、首を横に振った。
「嫌ではないよ。ただ、こういう場に慣れてなくてどうしたらいいのかなってさ」
「そっか……じゃあ、少しずつ慣れていこっか。だいじょうぶだよ。ユウキなら、すぐに慣れるよ」
「うん。そうだと良いな」
そう言って、ユウキはお味噌汁を口に運んだ。
「おいしい……!」
笑顔になるユウキ。
「ほら、見なさいよ。ユウキみたいに、ただ美味しいものは美味しいって味わうだけで良いのよ。あんたみたいに、余計なことをぶつくさと言わずにね」
「はん! 他人は他人、俺様は俺様だ! なんで、ユウキを基準にしなきゃなんねぇんだ」
言い合うふたりを見つめながら、ユウキが不思議そうな顔をする。
「どうしたの?」
「い、いや……こうして誰かがボクの名前を呼ぶのが、不思議なんだ」
「え? それ、どういう意味?」
「まあ、ちょっとね」
ユウキは、はぐらかすようにお味噌汁をぐいっと飲み干した。
どういう意味だったんだろう?
「おっと、そろそろ時間ですね」
と、マナ。
「そうだった! 朝の連続テレビドラマの時間だ!」
「違います。学生に向けた学園長の配信の時間です」
「え!? なにそれ!?」
「定期的に、この時間になると連絡事項などを配信するのだそうです」
マナは、ダイニングに設置されてるマルチ・モニターの電源をつけた。
すると、画面に学園長であるジュリアンさんの姿が映った。
長い金髪で青い瞳の凛々しいお姉さんだ。
あれ?
そういえば、よく見るとユウキに、ちょっと雰囲気が似てるよね?
気のせいかな?




