第2話「学園長の配信!」
『みなさん、おはようございます。学園長のジュリアンです』
マルチ・モニターの画面に、ストライヴ・リード学園の学園長――ジュリアンさんが映っている。
ジュリアンさんは、長い金髪に青い瞳のキリっとして気品のあるお姉さん。
わたしが生まれる前に活躍したブレイヴなんだ。
年齢は、わたしのお母さんよりも年上で、40歳近いんだって。
だけど、その姿はわたしたちと同じ10歳ぐらいの生徒と比べて、いくつか年上のお姉さんって感じに見える。
いま着ている肩に飾りのついた濃い青色のスーツから学生服に着替えれば、普通に学園の生徒でも通じるくらいだ。
この世界に生きるわたしたちは、10代で見た目の変化が止まるから、そういうことも不思議じゃないんだよね。
『みなさんもご存じの通り、昨日、城下町エンカ・シティで大変な騒ぎがありました』
ジュリアン学園長の言葉に、ぎくりとする。
ユウキも一緒だろうと、チラっと見たら、しれっとしてた。
『本校の生徒2名によるブレイヴバウトにより、真に遺憾ながら城下町には大変な被害が出てしまいました』
また、ぎくりとした。
だって、その生徒2名は、わたしとユウキのことなんだもん。
『生徒2名が発端となり、ブレイヴアリーナでシステムの異常による大爆発が起きました。該当施設は、半壊。その後も生徒2名は、バトルフィールド外で常軌を逸した戦闘を続け、その結果、城下町の『どすこい広場』も見るも無残な有様となりました。その他にも家屋の倒壊や細かな被害を挙げればキリがない状態です』
またまた、ぎくりとした。
心臓に、どすんと槍を突き刺されたようだよぉ。
昨日、わたしとユウキは、ブレイヴアリーナっていう場所で闘ったんだ。
ブレイヴアリーナには、外に被害を出さないための閉鎖空間であるバトルフィールドを構築するシステムがあるの。
最初は、そのバトルフィールドの中で闘っていたんだけど、ユウキの強烈な力で、ブレイヴアリーナのシステムに異常が出てしまったんだ。
そのせいで、ブレイヴアリーナは大爆発を起こして、わたしとユウキは消滅したバトルフィールドから通常空間に投げ出された。
そこは、ブレイヴアリーナの外。
エンカ・シティっていう城下町の上空だった。
わたしとユウキは、決着をつけるために、そのまま闘いを続けて……。
あとは、ジュリアン学園長が言ったように、城下町に被害を出しちゃったんだ。
「ほんと、派手にやったものよねぇ」
「加減ってもんを知らねぇのかよ、こいつらは」
アンジェちゃんとレジーナちゃんの冷ややかな視線が、ぐさりと刺さる。
「だ、だって……! 決着をつけたかったんだもん! それに、誰も止めなかったし!」
「誰かが止める止めないじゃなくて、自分で歯止めをかけろっつってんだよ。暴走列車か、お前は」
「レジーナの言うことも、もっともね。自分たちの決着をつけたいって気持ちを優先させて城下町を破壊したんだもの」
またまた、ぐさりと刺さる視線と正論……。
「で、でも……! ブレイヴは、闘うものだし……! そういうものだし……!」
「闘うのは、けっこうなことよ。でも、それで被害を出してもいいのかしら?」
「まったくだぜ。町をぶっ壊すなんて、とんだ勇者様もいたもんだ」
またまたまた、ぐさぐさっと冷たい視線と正論が突き刺さる。
「うぐぐ……!」
その場から、逃げ出したくなっちゃった。
っていうか、これだけアンジェちゃんやレジーナちゃんに辛辣に言われてるのに、ユウキは涼しそうな顔をしているのは、なんで……?
「まあ、シャルロットもユウキさんも悪くありませんよ。ブレイヴバウトとは、そういうものです」
マナが、ぽやっとした顔で援護してくれた。
「あ、ありがとう! マナ!」
「まあ、入学した初日に起こす騒動ではありませんでしたけどね」
「うぐ……!?」
「ほら、それより学園長の話は続いてますよ」
わたしは、心にずきずきと痛みを感じながら、マルチ・モニターに映るジュリアン学園長の話に耳を傾けた。
『入学初日に、あのような騒ぎが起きてしまい生徒のみなさんの中には、これからの学園生活に不安を感じられた方もいるでしょう』
そ、そうだよね。そう思う子もいるかもしれないよね。
ぐぐぐ……そのような方がおられましたら、大変申し訳ありません。
はぁ。
この配信を聞いてると、わたしのメンタルが削られそう。
『ですが……早く慣れてください』
……え?
『まだ、みなさんは知らないでしょうが、ブレイヴの人生に波乱は付き物。昨日のような騒動など日常茶飯事です。おそらく、この半年という学園生活においても、昨日と同じレベルか、それを超える事件や騒動は何度も起きるでしょう。そのようなことに、一々、恐れおののいては、ブレイヴは務まりません。ですから、早く慣れましょう。事件や騒動は日常茶飯事であるということに。それもまた、みなさんがブレイヴとして身につける心構えのひとつです』
「いまの聞いた!? わたしたちが起こした騒ぎも日常茶飯事なんだって! あははっ! じゃあ、わたしとユウキがやったことも大したことないじゃん!」
「いや……大したことあるでしょうよ」
と、アンジェちゃん。
「なぁ~~に、許されたみたいな顔してんだ」
と、レジーナちゃん。
「だって、学園長が言ってるんだよ! アンジェちゃんもレジーナちゃんも、早く騒動に慣れなよ! そんなんじゃ立派なブレイヴにはなれないよ!」
「けっ! 言ってろ!」
「学園長は、そういう騒動も日常茶飯事だと言ってるだけで、騒動を起こせとは言ってないのよ。そこを勘違いしてない?」
「ふっふ~~ん! それでも、学園長が日常的なことだって言ってるんだもん! わたしとユウキは、日常にちょっとした刺激を提供しただけだも~~ん!」
学園長のあの言い方なら、そんなに気にしなくて良いみたい。
わたしは、気分が軽くなった。
『しかしながら、城下町に被害が出たのは確かです。騒動を引き起こしたシャルロットとユウキの両名は、しっかりと反省するように、わかりましたね?』
マルチ・モニター越しに、ぎん! と、睨まれた。
しかも、みんなが聞いてるだろう配信で名指し……!
「ご、ごめんなさい……!」
や、やっぱり、そうだよね。
城下町を破壊したんだから、反省はしなくちゃ。
「――が、ボクの名前を」
「ん? ユウキ、いまなんて言ったの?」
気のせいかもしれないけど、「母さんが」って聞こえた気がする。
「な、なんでもないよ! ボ、ボクも反省しなくちゃね!」
ユウキは、取り繕うように不自然に笑った。
『さて、本日より学園生活が本格的に始まります。入学式でも申しました通り、この箱庭世界を舞台に、自由に学び、大いに楽しみ、そして健やかに成長してください。わたくしは、みなさんの成長を楽しみにしています。では、わたくしからは以上です。このあとは、総合戦術指南役のアスカ先生より、お知らせがあります』
配信の画面から、ジュリアン学園長が姿を消し、代わりにアスカ先生が出てきた。
「……うわ。完全な寝起きだよ、これ」
アスカ先生の髪の毛は、ぼさぼさで、タンクトップ姿だった。
目は、半開きで、まだ半分寝てるみたいだ。
大きなあくびをしながら、手元に用意されたタブレット端末に視線を落としてる。
『え? あ、これを読めばいいの? ふぁ~~あ、眠いなぁ。もう少し、ゆっくり寝かせてほしいよ。あ~~あ、めんどくさ』
ぼさぼさの頭をかきながら、ため息をつくアスカ先生。
「こいつ、本当に先生なのかよ」
レジーナちゃんも、どん引きしたような顔つきだ。
「まあ、こういう人だもの」
「ええ、こういう人です」
アンジェちゃんとマナは、わけ知り顔で達観してる感じだ。
ふたりは、イサジュリ世代っていう10年前に活躍した黄金世代のブレイヴのファン。
アスカ先生も、実はイサジュリ世代のブレイヴだから、アンジェちゃんやマナは、わたしたちよりもアスカ先生のことをよく知っているんだ。
ふたりの反応を見る限り、アスカ先生は昔から、こんな感じなんだな……。
『ええっと、じゃあ……お知らせを読むんで、まあテキトーに聞いてください』
アスカ先生が、タブレット端末を片手に持ち頬杖を突きながら気怠そうに話し出した。




