第36話「誕生日プレゼント」
イサミちゃんは、わたしのシャルロットパンチを受け止め、ジュリアンさんはユウキのブリッツフィストを受け止めていた。
ふたりは、わたしたちの撃ち込んだ最後の一撃を指先ひとつで軽々と受け止めてしまったんだ。
ぴん! と、イサミちゃんの指先が、わたしのおでこに触れた。
その途端、ふっと力が抜けてしまった。
ユウキの方も、ジュリアンさんから同じようなことをされたらしい。
「イサミちゃん! どうして、止めるの! まだ、勝負はついてないよ!」
「そうだよ! まだ、ボクたちはやれる! 邪魔をしないでくれ!」
わたしたちは、いきなり現れて邪魔をしたイサミちゃんたちに抗議した。
だけど、
「「これ以上は、ダメです!」」
イサミちゃんとジュリアンさんが、声を揃えて言うものだから、わたしもユウキも、ふたりの迫力に、びくっとしちゃった。
「あなたたちも、気づいているはずです。すでに身体もブレイヴ・ハートも限界にきています」
わたしやユウキの身体は、少しずつ光の粒子となって消えかけている。
この世界に生きる人々は、ブレイヴ・ハートから生まれるブレイヴ・エナジーが、肉体を作っているんだ。
いまのわたしたちの身体の状態を見れば、肉体を維持することもできないくらいブレイヴ・ハートが消耗しちゃってるんだってわかる。
これじゃあイサミちゃんの指摘に、言い逃れなんてできない。
「限界を超えようとすることは良いことです。限界のぎりぎりまで闘おうという姿勢も。ですが、若いあなたたちには、まだ早いのです。あまりに、リスクが高すぎる」
「未成熟のブレイヴ・ハートを酷使しては、取り返しのつかない事態を引き起こすことだってあるんです。一生、治らない故障を抱え、ブレイヴとしての人生も短くなるかもしれないんですよ」
イサミちゃんもジュリアンさんも、わたしたちの目を見つめて言った。
さらに、ふたりは言う。
「私は、シャルロットの師匠として、これ以上、続けさせるわけにはいきません」
「わたくしは、ヴィ――その子のはは――いえ、その……学園長としてふたりの無茶を見過ごすことはできないのです」
イサミちゃんとジュリアンさんの言ってることは、なんとなくわかる。
自分でも、身体もブレイヴ・ハートも限界だってわかってるから。
これ以上、続けたらどうなるか自分でもやばいなって感じる。
「だけど! まだ、勝負はついてない!」
「故障がなんだ! 決着のつかない勝負なんて認めない!」
「そうだよ! 引き分けなんて、つまんない!」
「あとが、どうなっても良い! いま、勝つために闘う!」
「わたしもだよ!」
そう言って、わたしたちは向き合って身構えるけれど、
「「いい加減になさい!」」
イサミちゃんとジュリアンさんの怒鳴り声が、わたしたちの身体を麻痺させた。
ふたりの怒声で衝撃波が巻き起こって、あたりの建物を薙ぎ倒していく。
ひ、ひえ~~!?
なに、この迫力!?
「あ、あの……そんなに怒らなくても……!」
わたしの頭に、イサミちゃんの手が、ポンと乗せられた。
ユウキの方も、ジュリアンさんが同じようにしてる。
「怒鳴ってごめんなさい。ですが、あなたたちのためを思って言ってるんです。引き分けがつまらないと思う気持ちもわかります」
と、イサミちゃん。
「いま、勝ちたいと意地を張り、闘おうとする気持ちもわかります」
と、ジュリアンさん。
「ですが、あなたたちのブレイヴ人生は、まだこれから」
「もっと、未来に目を向けなければなりません。言っている意味がわかりますか?」
わたしとユウキは、無言でうなずいた。
「だいじょうぶ。いまは、引き分けでも、これから何度でも勝った負けたと盛り上がれる、わくわくどきどきのブレイヴ人生が待っていますよ」
「だから、ここはわたくしたちの言葉に従ってください」
このふたりは、わたしとユウキの未来のことを真剣に考えてくれている。
かけられる言葉からも、見つめる優しい瞳からも、それが感じ取れた。
わたしは、ユウキの方を見た。
ユウキも、同じ気持ちみたいだ。
「わかった。今日は、引き分けにしとく」
「不本意だけど、それも仕方がない」
イサミちゃんとジュリアンさんが、フッと笑みを浮かべた。
「ブレイヴファンファ~~レ! ふたりのブレイヴバウトに、みんな拍手!」
そうイサミちゃんが言うと、周りからワッと声援が上がり、拍手が鳴り響いた。
「よくやりましたよ! シャルロット!」
「面白かったわよ! なかなか、やるわね!」
「見事だったぜ! チビ助!」
「さすがだ!」
「最高に楽しかったよ!」
みんなの声と拍手が鳴りやまない。
「あははっ。まあ、引き分けでも……こうやって、みんなが楽しんでくれたのなら、悪くないかな」
「まあ……そうかもね」
わたしとユウキは、見つめ合いながら笑った。
「ユウキ! わたしのライバルになって!」
「シャルロット! ボクのライバルになって!」
一瞬、顔を見合わせながら、ぽかんとした。
だって、ふたりとも同じことを言ったのだから。
「わたし、思ったんだ! ユウキは、すっごく強い! そんなユウキに勝ちたいって気持ちがわたしを強くしてくれた!」
「ボクもだ! シャルロットに勝ちたいって気持ちがボクを強くしてくれた!」
「ユウキも、もっと強くなる! わたしは、そんなユウキに勝てるように、もっと強くなる!」
「それも、ボクだって! シャルロットに勝てるように強くなる!」
「そうやって、お互いに、どんどん強くなっていく相手よりも、もっと強くなろうって努力したら、わたしたち無限に強くなれるって思うんだ! だから、わたしはユウキがライバルになってほしい!」
「うん! 最強のボクと無敵のシャルロットが、一緒に高みを目指せば無限に強くなれる! ボクも、そう思う! だから!」
「だから、ユウキはわたしのライバル!」
「だから、シャルロットはボクのライバル!」
わたしとユウキは、がっちりと握手した。
「今日から、わたしたちはライバルだよ!」
「ああ、ライバルだ!」
チラっとイサミちゃんの方を見ると、
「うっうっ!」
なぜか、泣いていた。
「イサミちゃん!? な、なんで泣いてるの!?」
「うっうっ! 感動的な場面を目の当たりにして、涙があふれてきちゃいました! ダメですねぇ。歳を取ると涙もろくなっちゃって!」
……イサミちゃんは、涙で顔がぐしょぐしょだ。
そんなイサミちゃんをジュリアンさんが、目を細めて見つめている。
「……変わっていないな」
ぽつりと言ったジュリアンさんだったけど、次の瞬間には、イサミちゃんから視線をそらしていた。
「ふたりとも、良きライバルになるでしょう。今後に期待していますよ」
と、ジュリアンさん。
「はい! わたしは、ユウキと一緒に無限に強くなります!」
「ボクも! そして、いつかスーパーブレイヴになってみせる!」
わたしは、ユウキの言葉に首を振った。
「いやいや、それじゃあ足りないよ」
「え?」
「もっと、夢はでっかくいこうよ。スーパーブレイヴを超えるスーパーブレイヴになろうよ」
「スーパーブレイヴを超えるスーパーブレイヴ……?」
「そう! イサミちゃんやジュリアンさんを超えるスーパーブレイヴに、わたしたちはなるんだよ!」
ユウキは、目を見開くと瞳を輝かせた。
「それ、いいね! そうしよう! ボクは、シャルロットと一緒にスーパーブレイヴを超えるスーパーブレイヴを目指す!」
「うん! 一緒に、スーパーブレイヴを超えるスーパーブレイヴになろう!」
わたしたちは、もう一度、がっちりと握手を交わした。
「素晴らしい目標です! 是非、その日が来るのを私たちも見届けさせてほしいですね! そんな素晴らしい目標を持ったふたりに、良いことを教えてあげましょう」
と、イサミちゃん。
まだ、ぼろぼろ涙を流してるけど、表情は明るい。
「良いことって?」
「誓った目標を念じながら、毎日、素振りをするんです」
「え? 素振りを?」
「はい! 毎日、ほんのわずかな時間で構いません。途切れることなく、毎日、目標を念じながら素振りをするんです。そうすれば、ふたりが決めた素晴らしい目標をいつまでも忘れることなく目指すことができるでしょう」
「たしかに、毎日続ければ忘れることはないね」
「それに、落ち込んだりつまずいたりしたときも、毎日の素振りをすれば、最初に目標を決めたころの熱い気持ちを思い出して、心を前に進ませてくれるでしょう。自分が、何者なのか、何を目指しているのか、それをわからせるための素振りでもあります」
「お~~! なんか、イサミちゃんが師匠っぽいこと言ってる!」
「まあ、これでも師匠ですから」
苦笑するイサミちゃん。
「それ、いいね! ボクたちも、早速、今日から始めよう!」
「うん!」
わたしは、シャルロットソードを拾い上げて構えた。
左肩は痛むけれど、素振りくらいなら、なんでもないや。
ユウキは、エナジーは弱々しいけれど、白銀の槍を発現させ構えた。
「わたしは、ユウキと一緒にスーパーブレイヴを超えるスーパーブレイヴになる!」
「ボクは、シャルロットと一緒にスーパーブレイヴを超えるスーパーブレイヴになる!」
びゅん――! しゅ――!
わたしは、誓いを込めて素振りをした。
この誓いを……目標を必ず叶えるんだって信じながら。
「……よぉし、がんばろうね。ユウキ」
「ああ、シャルロット……!」
どさ――!
わたしは、力尽きて倒れ込んだ。
ユウキの方も同じみたいだ。
伸ばした左手が、ユウキの右手に触れる。
わぉ……あったかい手だ。
そのまま、わたしたちは意識を失った。
M・BVEC――V2026年5月22日……わたしの10歳の誕生日。
わたしは、ライバルっていう最高の贈り物をもらったのでした。




