第33話「城下町を照らす輝き」
シャルロットとユウキが、激しくぶつかり合った。
その衝撃から生まれた光は、城下町エンカ・シティの上空を色鮮やかに染め上げ、あたりには赤い稲妻と青い結晶の花びらが降り注いだ。
「な、なによ……! あの子たち、なにやってんの!?」
アンジェリカは、その光景をブレイヴアリーナのそばから見上げていた。
彼女だけではない。
その場にいる全ての人々は、シャルロットとユウキから生まれた輝きを観ていた。
近くにいない者たちは、ほとばしるふたりの波動を感じていた。
「おいおい! 派手にやりやがってんな!」
レジーナは、クレープの屋台のそばで。
「お~~! なんだ、あれ! すっごい、綺麗だぞ~~!」
「まあ、華やかですこと……!」
学園の生徒たちも、各々の場所で。
「へぇ……? なかなか、面白そうなやつもいるんだな」
まだ、出会っていない誰かは、切り立った山脈の頂上で。
「リズちゃん! リズちゃん! いま、すっごい波動を感じた!」
「はいはい。リズちゃんも感じたわよ。デビューもしてない学生にしちゃ、まあまあってところかしらね」
悪役のふたりは、学園から遠く離れた魔王城で。
「……!」
言葉も話せぬ小さなモンスターは、はるか上空から落下し、辿り着いた地表で。
「まあ! シャルロットったら……!」
「ああ! これが、ヴィクトリアの……!」
かつては、イサジュリ世代を引っ張ったスーパーブレイヴのふたりは、城下町の上空で。
この時、この瞬間、惑星エンカの全ての人々は、同時にシャルロットとユウキの存在をそれぞれの場所から、何かしらの形で感じ取っていた。
当然、マナやジュン、レアたちも、半壊したブレイヴアリーナの屋上から、シャルロットとユウキの引き起こした輝きを見上げている。
「ひゃ~~! これが、オリジン・ブレイヴの力かぁ~~! ちょっと、これはフォージ・ブレイヴのあたしたちには、真似できないかもねぇ~~!」
レアは、純粋に赤い稲妻と青い結晶の花びらが舞う景色を楽しんでいる。
目を輝かせ、まるで花火の美しさに感動しているかのようだ。
「素晴らしいです、シャルロット……! なかなか、センセーショナルなパフォーマンスですね。これは、人々の心に残るでしょう。さすが、自分の最推しです」
マナは、うっとりとしながら、笑みを浮かべている。
「……くそっ! これだから、オリジン・ブレイヴは……!」
ジュンは、何を思うのか涙を浮かべていた。
「そんな、泣くほど感動しなくっても! ジュンちゃんってば、涙もろ~~い!」
「うるさいな! 黙ってろ!」
レアに、からかわれたジュンが怒鳴りつける。
そこに、高台から飛行してきた掃除係のイサミと学園長のジュリアンが、3人のいるブレイヴアリーナの屋上に降り立った。
「あなたたち! 無事ですか!」
真っ先に、ジュリアンが3人の安否を問うた。
ロゼッタたちからの第一報では、ジュンやレアたちが、大爆発を起こしたブレイヴアリーナの中にいたと知らされていたのだ。
だが、心配するジュリアンをよそに、
「学園長! 見て見て! あれ! すっごい、綺麗だよねぇ~~!」
レアは、はしゃいでいる。
「……その分なら、問題ないようですね」
ジュリアンは、ため息を吐きながらも安堵したようだった。
「オレたちなら、平気です。この子が、守ってくれたので」
ジュンは、足元にいた黒猫の真獣を見つめながら言った。
触ってもいいのかな? と、おそるおそる手を差し出すと、
「うにゃ~~ん」
と、黒猫の方から擦り寄ってくれた。
ジュンは、その愛らしい姿に、つい笑みが零れた。
「そうですか。おはぎ、よくやってくれました」
「にゃ~~ん」
ジュリアンに応えるように鳴く黒猫。
そのとき、遅れてやってきたアスカたちが、ブレイヴアリーナの屋上に降りた。
みんな飛行能力を使って空を飛んで来たのが辛かったのか、少々、息切れしている。
「やれやれ、私まで出張らないといけないのか」
「当たり前でしょう! 教員が、この事態に動かないでどうするの!」
早速、ソフィアに叱られるアスカ。
クラウンやトウコも、アスカのやる気のなさに嘆息している。
「しかし、あらためて思うが錚々たる顔ぶれだよな。かつて、世界を沸かせた名勇者たちが、ここに集ってるじゃないか」
アスカが、その場にいるかつての戦友の顔を見やりながら言う。
「自分で名勇者なんて言うんじゃないわよ。恥ずかしい。まっ、でも懐かしい顔ぶれよね。あの頃を……現役時代を思い出すわ」
ソフィアが、ほんの少しばかり視線を遠くにやりながら言う。
「イサミとジュリアンも、久しぶりの再会だろう? 少しは、話をしたらどうだ?」
アスカが、そう提案するがイサミとジュリアンは応えなかった。
ふたりは、並び立ってはいるがお互いに口を聞かないどころか顔を見ようともしない。
いや、イサミの方はチラチラとジュリアンの顔色をうかがっているようだが。
「だ~~めだ、こりゃ。せっかく、私がイサミを掃除係として学園にねじ込んでやったのに、まるで話にならないや」
「……ッ! アスカ……貴女が……!」
ジュリアンが、きっとアスカを睨む。
「お~~、こわ! 仲直りに、手を貸してやろうとしてるってのに睨むことないだろう」
ジュリアンは、もう一度、きつく睨むと顔を背けた。
ジュンとレアには、そんな大人の事情なんてわからない。
特に気にも留めなかった。
「イサミさん、見てください。あなたの弟子は、やはり素晴らしい才能の塊です。かつてのイサミさんを超えるスーパーブレイヴに、きっとなりますよ」
そう言ったのは、マナだ。
いつの間にかイサミのそばに立ち、瞳を輝かせながら、にやりと笑っている。
「ええ、いまのシャルロットは最高に楽しんでいますね。ふふ、あんなブレイヴバウトを観ていると、こちらまでわくわくどきどきしてきますよ」
「ちょっと、待て! あの子は、イサミの弟子なのか!?」
驚き訊ねたのはクラウンだ。
「はい……いろいろあって、そういうことになりました」
「はぁ~~……あの荒武者のイサミが、師匠ねぇ。まあ、なんだかんだで子どもに好かれるやつだから、意外と指導者に向いてるのかもしれないが」
クラウンが、興味深そうに言う。
「イサミですら、いまは師匠だとさ。どこかのクズとは違うな」
「比べるなよ。相手は主人公さまだ。私なんかの人生とは違うさ」
トウコの言葉に、アスカが小さく笑った。
どぉ~~ん――! どどどど――!
シャルロットとユウキが、城下町の上空で激しくぶつかり合う。
「学園長……! 止めなくて平気なの? 城下町にも、被害が出ているわよ!」
そう訊ねるソフィアに対してジュリアンは、
「構いません。このまま続けさせます。あとの被害については、わたくしが責任を持ちましょう」
と、闘うふたりから目を離さずに答えた。
どど~~ん――! ぴしゃ~~ん――!
シャルロットとユウキのスピードは互角に見えた。
互いに、追いつき追い越し加速したまま激突している。
激突の衝撃のたびに、赤い稲妻と青い結晶の花びらを飛散させていた。
日も暮れ、夜空には星が煌めき月が輝いている。
シャルロットとユウキのふたりは、その夜空を舞台に、何度もぶつかり合っていた。
「ワオキツネザルさん直伝! ワオジャンプ!」
不意に、シャルロットがぴょ~~んと、両手を掲げながらユウキに飛びかかった。
翔足でもない、その奇抜な軌道にユウキが困惑する。
「なんだ! その面白おかしい動きは!」
槍を繰り出すが、シャルロットは、それを避けユウキに密着する。
「シャルロット頭突き!」
ごつん――!
ユウキの頭に、シャルロットの強烈な頭突きがヒットした。
「ぐあ!?」
「それ、離脱~~! ワオジャンプ!」
また、シャルロットがぴょ~~んと飛び跳ねて距離を取った。
「だから、なんだよ! その動きは!」
憮然としながらも、ユウキが追いすがる。
「あの子は、アニマライザーの因子を持っているのですか?」
「あっ、いいえ。その気配はあるんですが、まだはっきりしないんですよぉ」
ジュリアンが訊ねて、イサミが答えた。
それから一拍遅れて、ふたりがハッとしてお互いに顔を背けた。
「見ろよ。あのふたり『うっかり、普通に喋っちゃったぁ~~』って、顔に書いてあるようだぞ。もう、そのまま仲直りすりゃあ良いのにさ」
そう言って、からかうように笑うのはアスカだ。
「あ、あの……あちらの金髪の子は、ジュリーがご指導している子……ですか?」
イサミが、振り絞るような声でジュリアンに話しかけるが、
「…………」
なんの返事もなかった。
がっくりと、うなだれるイサミ。
まだまだ、仲直りには遠そうだと気を落としながら、シャルロットとユウキの闘いに視線を戻した。
「あの金髪の子……私、知っている気がします」
ぽつりとこぼしたイサミの言葉を聞いたジュリアンが、
「……!」
無言で睨んだのをイサミは気づかなかった。
イサミとジュリアンが、シャルロットとユウキの勇姿を複雑な想いを抱えながら見つめている。
だが、闘っているシャルロットやユウキは、そんなこと知りもしなかった。




