第32話「閃く青いお月さま」
お腹に、すさまじい衝撃を感じた。
ユウキの放った槍の一撃が、わたしに直撃したんだ。
「くぅ――!?」
思わず、漏れる呻き声。
今日一番、ダメージらしいダメージを感じた。
す、すごい……!
ユウキのパワーが、いままでよりも、もっと強さを増してる。
それだけじゃない、スピードもそうだ。
元から速かったのに、さらに速くなった。
『アリーナのシステムに異常事態が発生。空間を維持できません。ブレイヴアリーナから退避してください。繰り返します、アリーナのシステムに異常事態が――』
ブレイヴアリーナに、警報が響き渡った。
「……え?」
どぉ~~~~ん――!
わたしは、いったい何が起こっているのかわからないまま大爆発に飲み込まれた。
ぱり~~~~ん――!
ガラスが激しく割れるような音が、あちこちから聞こえてきた。
身体を引っ張られるような感覚に包まれている。
「いったい、どうしちゃったの~~!?」
そのとき、わたしの手が握られた。
「ごめん! やり過ぎた! でも、安心して!」
「ユウキ!?」
わたしの手を握ったのはユウキだ。
ぎゅっと握りしめたままユウキが、誘導するように身体を引っ張ってくれている。
キラキラした粒子の輝きを放ちながら、飛び散るガラスのような光。
わたしとユウキは、その中を突き進んだ。
ぱぁ~~ん――!
視界が真っ白に弾ける。
「あれ? ここって?」
視線の向こうの方に、マナやアンジェちゃんと一緒にクレープを買ったクレープ屋さんの屋台が見える。
それに、あたりを見渡すと高台の頂上にそびえるストライヴ・キャッスルと、その麓の城下町エンカ・シティが広がっているのが見えた。
「もしかして、ブレイヴアリーナの外に飛び出しちゃった?」
理由はわからないけど、そうとしか思えない。
わたしは、いつの間にか、城下町の上空にいたんだ。
「ブレイヴアリーナのシステムが、強力な負荷に耐えきれずに破損してしまったんだ。そのせいで、バトルフィールドが崩壊して外に投げ出されたってわけだよ」
「負荷って、もしかして……あのときのユウキの一撃で?」
「うん。もともと、あのブレイヴアリーナのシステムの空間防壁は完璧じゃなかった。ボクの放った強烈な一撃で空間を維持してる防壁に亀裂が入って崩壊してしまったんだ」
「すっごい! よくわかんないけど、空間をぶっ壊したんだ! そんなことできるなんて、ユウキってすごいね!」
「ふふっ。己惚れるわけじゃないけど、我ながら素晴らしい一撃だったと思うよ」
ユウキは、わたしの手を離すと、空中で距離を取った。
「でも、ね。このパワーが出せたのは、シャルロットのおかげなんだよ」
「わたし?」
「うん。キミという無敵の壁を超えようと本気で思えたから、このパワーを発揮できているんだ。ありがとう、お礼を言うよ」
そう言って、ユウキが不敵に笑った。
どぉん――!
ユウキの全身から真っ赤なオーラが激しく噴き上がった。
「――うっ!?」
なんて、すさまじい波動なんだろう。
ずきん、とお腹が痛んだ。
あのユウキの波動を感じてもわかる。
もう、わたしの防御力を突破する力が、ユウキにはあるんだ。
「いいねぇ! そうこなくっちゃ! ふん!」
どぉん――!
わたしも、負けじと真っ青なオーラを全身から噴き出した。
「ブレイヴアリーナは、壊れてしまったけれど、決着はつけなくちゃね!」
「もちろんだ! ボクたちに、あのブレイヴアリーナは狭すぎた! この世界が、ボクたちのバトルフィールドだ!」
「よぉし! とことんやろう! って、待って! 他のみんなは!?」
ふとマナやアンジェちゃんたちの顔が浮かんだ。
それに、ブレイヴアリーナのスタッフのお姉さんたちもだ。
みんな、無事なのかな……?
「ブレイヴアリーナの中にいた人たちは、無事だよ。ほら、あそこを見て」
ユウキが、建物が壊れて半分くらいになったブレイヴアリーナの屋上を指さした。
そこには、マナやレアちゃんやジュンちゃんの姿があった。
離れたところには、スタッフのお姉さんたちもいる。
アンジェちゃんは……? と、探すとブレイヴアリーナの近くにいた。
もともと、建物の外に出ていたみたい。
「良かった! みんな無事だ!」
わたしが、マナたちに手を振ると向こうも振り返してくれた。
そのみんなの足元に、黒猫さんがいた。
「黒猫のおはぎが、みんなまとめて保護したようだ。さすが、おはぎ……頼りになる」
「そっか! さすが、真獣さん! ありがと~~! おはぎさん!」
さて……と。
「安心したところで、再開しよっか。ブレイヴバウトを!」
「ああ……!」
「「ブレイヴバウト! ゴ~~! ファイ!」」
びゅん――!
うっ!?
無拍子でユウキが間合いを詰めてきた。
右手の白銀の槍が、するどくわたしの顔面を狙ってくる。
だぁん――!
わたしは、翔足を使って高速移動する。
だけど……。
「いまのボクなら、追いつける!」
びゅん――!
真っ赤なオーラの尾を引きながら、わたしに追いすがるユウキ。
ダメだ……!
翔足の加速力と変則軌道でも、振り切れない……!
「スパイラル! ライトニングピアァァァァス!」
「ぐぅ!?」
ずどぉん――!
お腹に、鋭い痛みが走った。
衝撃で身体が吹き飛び、ストライヴ・キャッスルがそびえる高台の斜面に激突した。
「ブリッツ! フィストォォォォ!」
倒れ伏す間もなく、ユウキの追撃が迫ってきた。
まるで、雷の拳みたいなのが、次々に飛んできた。
ユウキは、ブリッツフィストって、言ってたっけ?
厄介だな……!
あの技、連射もできるんだ……!
「くぅ!」
わたしは、斜面に沿いながら避けようとする。
どぉん――! どぉん――!
ユウキのブリッツフィストが、斜面をえぐる。
「これ、避けきれるかな……!?」
とか言ってたら……。
どん――! どん――!
「うぐ!?」
飛来した雷の拳が、頭や肩に命中した。
い、痛い……!
これも、わたしの防御力を突破できる攻撃だ。
一発一発なら、大したことないけど、受け続けると危ない……!
警戒しないと……!
「いくぞ! シャルロット!」
「えっ!?」
気づけば、目の前にユウキがいた。
しまった!
ブリッツフィストの攻撃は、わたしの回避軌道を誘導するためのものだったんだ!
「サイクロンキィィィィク!」
どん――!
「ほげぇ!?」
お腹に、竜巻のような回転を加えたユウキのキックが決まった。
まったく、受け身も取れない……!
衝撃で身体が吹き飛んで行く。
「サイクロンキィィィィク!」
どか――!
「ぐぇ!?」
今度は、背中にキックが決まった。
ユウキは、吹き飛ぶわたしを追い抜き、背中から攻撃したんだ。
また、わたしの身体が吹き飛んで行く。
「グロウアップ! ブリッツフィストォォ!」
「ひえ!?」
ユウキの左手に集まった雷のエネルギーが、巨大な雷の拳になってる。
これ、やばい!
咄嗟に、両腕を身体の前で交差させて防御体勢を取る。
「ブリッツハンマァァァァ!」
どごぉん――!
「ほぎゃ~~~~!」
巨大な雷の拳は、わたしの頭の上に振り下ろされた。
これじゃあ、防御体勢なんて無意味だ……!
どぉん――!
「あ、あたあたたた……!」
わたしは、城下町の中の広場のような場所に叩き落とされた。
しかも、間髪入れずに、
「サンダーフォォォォル!」
ユウキの稲妻が、降りかかってきた。
ぴしゃ~~~~ん――!
「おわわわわわわ!?」
全身に走る痺れるような痛み。
す、すごい……!
町中なのに、気にしないで技を放ってきた……!
って、そうじゃなくて……!
ユウキの強さが、すごい。
パワーもスピードも、技の冴えも、元からすごかったのに、そこからさらにすごくなってる。
ふふふっ。
やっぱり、ユウキには、これだけの力があるってわかってたよ。
なんとなくだけどね。
……ほんとに、すごい。
楽しいなぁ……!
こんなに、すごいユウキと戦うのが本当に楽しい……!
わくわくどきどきが、止まらない。
どんどん、わくわくどきどきが、あふれてくる。
これが、ブレイヴバウトなんだ。
わたしは、もっともっと、わくわくどきどきしたい……!
ユウキと一緒に……!
だから、わたしもユウキみたいに本気になっちゃおう……!
そしたら、もっと、わくわくどきどきするよね!
わたしの中で、青いお月さまが、まばゆく輝きだした。
「これで、お終いだ! スパイラル……! サンダースパァァァァク!」
ユウキの赤い稲妻が降ってくる。
なんて、強烈な波動なんだろう。
でも……負けない!
「シャルロットパァァァァンチ!」
わたしは、左拳にパワーを集めて赤い稲妻に向かって繰り出した。
頭の中で、光り輝く青いお月さまのイメージがフラッシュバックする。
これは、あのときの……!
ぴしゃ~~ん――! ばりばり――!
「な、なんだ、その技は……!?」
ユウキの驚愕する声。
それもそのはずだ。
わたしの繰り出した左拳の前に、青いお月さまのような結晶が浮かび上がり、ユウキのサンダースパークを押しとどめていたから。
「でやぁ~~~~!」
どぉん――!
わたしは、飛翔技を使って飛び上がった。
サンダースパークを押し戻しながら、ユウキに向かって突撃する。
「くっ! 負けるものか!」
ユウキも、サンダースパークの勢いを上げて対抗してくる。
それでも、わたしは止まらなかった。
「イサミちゃん直伝! 勇脚――!」
わたしは、翔足の反発力を最大にして超加速した。
真っ直ぐに、ユウキに向かって突進する。
「くっ!? その技はッ!?」
ずどぉん――! ばりばりばり――!
わたしとユウキは正面から激突。
城下町の空に、赤い稲妻と青い結晶の花びらが飛散した。




