第3話「煽ってないよ!?」
「そ、そんな……ボクのライトニングピアースが完全に入ったのに」
真紅の瞳のイケメンが、呆然としている。
わたしが、しれっと起き上がったから、びっくりしてるんだろうな。
でも、わたしだって、びっくりしたんだよ。
「いやぁ! すごいね! あんな、早業なんて初めてだったよ! びっくりしちゃった!」
イケメンは、じろりとわたしを睨んだ。
「…………びっくりしたわりに、平気そうじゃないか」
わたしは、胸元をさすりながら言い返した。
「平気じゃないよ。まだ、ちょっと胸がヒリヒリするもん」
「…………ヒリヒリするだって? ボクの必勝技の威力を受けて、ちょっとヒリヒリするだけだなんて……なんなんだ、キミは」
「わたしは、シャルロットだよ! さっき、名前を教えてあげたでしょ! あなたも、名前を教えてよ!」
イケメンは、ぷいっと顔を背けた。
「断る。名前は教えられない」
「え~~!? なんで!? わたしは、教えたのに! ずるい!」
「それは、キミが勝手に名乗っただけだろう。ボクが、教えてくれと頼んだわけじゃない」
「む~~! じゃあ、いいよ! バトルの続きをしよ! いまは、それだけでいいや!」
いまは、この子と戦えれば、それで満足。
名前は、あとからじっくりと聞き出せばいいんだし。
「それも、断る」
「え!? な、なんで!? さっきは、反撃してきたじゃん!」
「あれは、身体が反射的に動いただけだ。キミと戦う意志なんて、初めからなかった」
「なんで~~!? なんで、戦ってくれないの! わたし、あなたみたいな強い波動を放つ子に出会ったの初めてなんだよ! 雷を操れるし槍の技もすごかった! さっきの一撃を身体で受けて確信した! あなたは、強い! だから、戦いたいの!」
わたしが、早口で捲し立てると、それまで厳しい顔つきだったイケメンの表情がゆるくなった。
「ま、まあ……たしかにボクは強い。そう思うキミの感覚は正しいよ。そんな強いボクと戦いたいと思うキミの気持ちも、まあわかる」
まんざらでもないって顔をするイケメン。
ええ……ちょっと褒めただけなのに……。
もしかして、このイケメンって……ちょろい?
「そうだよ! わたしは、すんごく強いあなたと戦いたいんだ! あなたは、きっと、すごいブレイヴになる! だから、いまから戦ってみたいんだよ!」
「う、う~~ん……キミの気持ちはわかるけど」
なんとか、説得できそうな気配……!
「あなたは、強い! かっこいい! だから、あなたと戦いたい! 本気のあなたと!」
「……本気のボク?」
イケメンが、不思議そうな顔をする。
「だって、さっきの早業はすごかったけど、まだまだあの程度じゃないでしょ? 本気のあなたは、もっとすごいはずだよ」
「……あの程度?」
「そう! 雷を操る能力も槍の早業も、すごかったけど、あなたの力は、あんなもんじゃないはずだよ! わたしには、わかる! あなたは、もっとすごいはずなの! あなたの波動が、そう教えてくれている! もっともっと、あなたの本気を見せてよ!」
「……あんなもん?」
ぎりぎりと、イケメンが歯噛みしてる。
あれ……?
なんか、怒ってる……?
「……誰かに褒められたのも初めてだったけど、誰かに煽られるのも初めてだ」
ぎろりと睨んでくるイケメン。
「ま、待って! 煽ってなんかないよ!」
「いま、煽っただろう。ボクの雷の能力や必勝技を『あんな程度』だとか『あんなもん』だとか貶したじゃないか。そのうえ、もっと『本気を見せろ』だって? これが、煽りじゃなくてなんなんだ」
「け、貶したわけじゃないよ!? 煽ってもないし!?」
ど、どうしよう! 誤解なのに!
めっちゃ怒ってるよ!
「……いいよ。じゃあ、とことんやろうか。キミの身体に穴が空くまで撃ち続ければ、キミも満足するだろう」
「――ッ!?」
ゾッと全身の毛が逆立つくらいの闘志が、イケメンからあふれてる!
よ、よくわからないけど、その気になってくれたみたいだ。
ちょ、ちょっと怖いくらいの雰囲気だけど……!
「よ、よぉし! こうなったら、どっちかが立てなくなるまでやろう!」
「望むところだ!」
わたしとイケメンの闘志が、ぶつかり合う。
お互いに身構えて、激突に備えた。
まさに、一触即発ってやつだ。
なんだけど……。
「うにゃ~~~~ん」
緊張した場面に、とっても可愛らしい鳴き声が響いた。
「あっ! 猫さん! 黒猫さんだ!」
いつの間にか、イケメンの足元に黒猫さんが擦り寄ってる。
「おはぎ……! どうしたの……! ごめん! ちょっと、待って!」
「え? あ、うん?」
イケメンが、かがんで黒猫さんと何やら話してる。
「……ジュリアンがにゃ」
「……そうか、わかったよ」
イケメンと黒猫さんが、何を話してるのかよく聞こえなかった。
だけど、黒猫さんが『ジュリアン』って言ったのは聞こえた。
どこかで、聞いたような……?
あっ、ちなみに、この世界の動物は真獣って呼ばれてて普通に喋れるんだよ。
「……仕方ないな」
イケメンは、黒猫さんとの話が終わったみたいで、こっちに向き直った。
「ごめん。勝負は無しだ」
「え~~~~!? なんで!?」
「急用ができたんだよ。それじゃあ、ね」
くるっと背を向けるイケメン。
「あっ! ちょっと、待ってよ!」
どぉん――!
イケメンは、黒猫さんを抱えると、ものすごいスピードで飛び上がり、そのまま青空の彼方へと消えてしまった。
「追いかけてやる!」
わたしは、イケメンの後を追おうと飛行能力を使おうとした。
だけど……。
「いた! シャルロットだわ!」
あれ? アンジェちゃんの声だ。
友だちの声が聞こえてきて、わたしは飛行能力を使うのをやめた。
ふと、後ろを振り返ると、小型機がゆっくりと降りて来るのが見えた。
全長3メートルくらいで白色の小さなスカイシップだ。
すとんと地面に降り立つスカイシップ。
ばん――!
スカイシップの側面についているハッチを叩きつけるように出てくる人影。
「アンジェちゃん! どうして、ここに!?」
「それは、こっちのセリフよ! あんたが、宇宙船から飛び降りたから探しに来たんじゃないの! 怪我は!? って……無傷ね?」
「そっか。心配して、わざわざ探しに来てくれたんだね。でも、だいじょうぶ。このとおり、どこも怪我なんてしてないよ! ちょっと、胸が痛むけどね!」
「ったく、人騒がせなことしないでよね!」
「あははっ! ごめんごめん!」
「笑いごとじゃないっつ~~の。でも、怪我もないところを見ると、あんたって……もしかして……」
アンジェちゃんが、わたしの頭のてっぺんからつま先までをジッと見つめる。
わたしには、アンジェちゃんが考えてることがわかった。
「そう! アンジェちゃんの予想通りだよ!」
にっかりと笑って見せる。
「ふ~~ん。あんたがねぇ……人は見かけによらないものだわね」
「そんなことより、聞いて聞いて! 赤い稲妻の正体は金髪のイケメン美少女だったんだよ! それも、めっちゃ強いの!」
「は、はぁ? 赤い稲妻がイケメン美少女? なんの話をしてるのよ?」
「だから、赤い稲妻が――」
「はいはい。とにかく、スカイシップに乗りなさいよ。入学式は、もうすぐよ」
「そうだ! 入学式!」
すっかり忘れてたけど、生徒たちのための入学式があるんだった。
「だいじょうぶよ。いまからでも、十分に間に合うから」
涼やかな声が、聞こえてきた。
「わ、わぉ」
スカイシップの中から、金髪で碧の瞳の女の子が降りてきた。
落ち着いた緑のロングスカートに、真っ白なブラウスを着こなした上品なお姉さんだ。
わたしよりも、3つか4つくらい年上かもしれない。
「きれ~~~~! まるで、お姫さまみたい!」
「まあ? お姫さま? ありがとう。なんだか、照れちゃうわね」
そう言って笑う姿も、気品というか上品な感じがする。
絵本の中のお姫さまが、抜け出てきちゃったみたいだ。
この人、ほんとにお姫さまなんじゃ……?
「こちらは、ロゼッタさん。あたしたちの先輩よ。学園では、学習のサポートをしてくれるんですって」
アンジェちゃんが、お姫さまみたいなお姉さんの自己紹介をしてくれた。
学園には、こんな綺麗な先輩がいるんだ!
「わたしは、シャルロット! よろしくお願いします!」
「ええ、よろしくね」
そのとき。
遠くからモンスターの遠吠えが聞こえてきた。
途端、ロゼッタ先輩の目がキリっと険しくなる。
「このあたりには、学園に来たばかりの生徒では倒せないようなモンスターもうろついているのよ。はやく、この場を去りましょう」
ロゼッタ先輩は、わたしやアンジェちゃんの手を引いてスカイシップに連れ入ってくれた。
「さあ、行きましょう。もう、生徒のみんなは、この学園に集まっているはずよ」
ロゼッタ先輩が、スカイシップのハンドルを握ると機体が上空へと飛び上がった。
「赤い稲妻のイケメン美少女も、学園にいるよね?」
わたしが訊ねると、ロゼッタ先輩は、目を丸くした。
「あ、赤い稲妻のイケメン美少女? さ、さあ……どうかしら。私も、学園に通う生徒の子たちとは今日初めて会うから、ちょっとわからないわ」
「そっか~~! でも、生徒ならまた会えるはずだよねぇ」
「脈絡のない話をしてロゼッタ先輩を困らせるんじゃないわよ。さっきから言ってる赤い稲妻のイケメン美少女って、なんなのよ」
アンジェちゃんが、ため息をついてる。
「そうそう! 聞いてよ! 赤い稲妻の――」
わたしは、学園に連れて行ってもらうまでの間、何があったのか、しつこく話すのでした。




