第27話「その頃、ジュンは?」
一方、その頃。
「ジュンちゃんが、死んでる~~~~!?」
気を失っていたジュンだったが、めちゃくちゃやかましい声で目が覚めた。
ジュンが顔を上げると、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしたレアが、飛び込んでくるところだった。
「うわっ!? 汚ねぇ!?」
サッと、身をかわすジュン。
どか――!
レアは、飛び込んだ勢いのまま、壁に激突した。
「いった~~い!?」
鼻の頭を押さえ痛がるレア。
ジュンは、その様子をもやのかかったような視界で見た。
「くそっ……オリジン・ブレイヴめ」
ずるりと、壁にもたれる。
まだ身体には、赤い稲妻のスパークが、チリチリと音を立てて残っていた。
「よかった~~! ジュンちゃん、生きてたんだねぇ~~!!」
ジュンは、抱き着こうとしてくるレアを足で押しとどめる。
「勝手に殺すな。あと、抱き着くな。鬱陶しいから」
「だ、だってぇ~~! バトルフィールドには、ジュンちゃんの偽物が出て来るし、何があったんだろうって控え室に戻ってみたらジュンちゃんが倒れてるんだもん! なんかの陰謀で消されちゃったんだと思っちゃったよ~~!」
「……どういう陰謀だよ。わけわかんない発想力だな。まあ、心配かけて悪かったよ。全身に痛みとだるさがあるが、大したことない」
「な、何があったの!? アーキ・ヴェセルナーもバラバラじゃん!」
床には、ジュンが装着していたアーキ・ヴェセルナーが無残にもバラバラに砕かれた状態で散乱していた。
アーキ・ヴェセルナーを全損したと言っても過言ではないほどだ。
「ちっ! これが、オリジン・ブレイヴの力だってのかよ」
「オリジン・ブレイヴ?」
「ああ、いきなり黒いフードをかぶったヤツが現れたんだ。シャルロットとのブレイヴバウトの順番を譲れってさ。断っても引き下がらないから、なら力づくで順番を奪ってみろって煽ったら……この様さ」
「ジュンちゃんが、戦いに負けちゃったってこと……?」
レアの言葉に、ジュンは悔し気に首を横に振った。
「戦いにもならなかった。目の前が赤く染まったと思ったら、意識が遠のいた。この惨状を見る限り、かなり強力な攻撃を喰らったんだろう。たぶん、いや……確実に雷属性あたりの能力だ。オレは……手も足も出なかった」
「……ジュンちゃん」
オリジン・ブレイヴが、強大な力を持つことは知っていた。
だが、オリジン・ブレイヴの強大な力を体験したのは初めてだった。
「……くそっ!」
オリジン・ブレイヴに、立ち向かうどころか一方的に負けた。
まったく、抗うこともできなかった自分に腹が立つ。
「とにかく、手当してもらおうよ!」
「いや……! それよりも、黒いフードのヤツはどうしてるんだ? バトルフィールドには、現れたんだな?」
「う、うん。いま、シャルロットちゃんと戦ってる最中だよ」
「そうか……! レア、悪いけど肩を貸してくれ」
「もちろんだけど、どうするの?」
「ふたりのブレイヴバウトを見届ける……!」
ジュンを支えるレアが、ぎょっとした。
「て、手当は!?」
「そんなの必要ない! 観客席まで連れて行ってくれ!」
「わ、わかったよ! でも、ひょっとしたら、もう決着がつくかもよ! ジュンちゃんを襲った黒いフードの子って、めちゃくちゃ強いんでしょ!」
ジュンは、首を横に振った。
「あいつが、シャルロットが、そう簡単に負けるわけない。オレは、成す術なくやられてしまったけど、あいつなら、負けやしない」
「ジュンちゃん……どうして、そこまでシャルロットちゃんのことを……?」
「いいから、観客席に行くぞ! せめて、このブレイヴバウトだけでも見届けたいんだよ!」
「う、うん! あ……そういえば、なんでモグリちゃんには詳しい話を……」
「いいから、行くぞ!」
ジュンは、レアに肩を借りて歩き出した。
控え室からポータルテレポーターを使い、観客席へと移動する。
ぴしゃ~~~~ん――――!!
ポータルテレポーターから出た瞬間、けたたましい雷鳴と共に、ふたりの視界を真っ赤な閃光が覆った。
「ひょえ!? 雷ッ!?」
レアが、びっくりしてたじろいだ。
「うわ!? 急に、腕を離すな!?」
ジュンは、肩を借りていたレアから、急に放り出されてよろめいてしまった。
「ご、ごめ~~ん! だって、いきなり雷が鳴ったんだもん! っていうか、このバトルフィールドって、雷が落ちてくるような設定だっけ?」
バトルフィールドは、大空の広がる荒野だ。
岩が転がる荒涼とした大地で、他には、特に地形や天候が変わるような設定にはなっていない。
それなのに、なぜ雷が鳴り響いているんだろう。
「オリジン・ブレイヴの能力か」
ジュンが、ひとりごとのように、つぶやいたとき、
「その通りです」
と、返事が返ってきた。
「お前……!」
「マナちゃん……!」
なんの前触れもなく現れたマナに、驚いてしまった。
「おふたりとも、あれをご覧ください」
マナが、荒野の大空を指さした。
どぉん――! ぴしゃ~~ん――! ばりばりばり――!
大空に、真っ赤な稲妻が、何度も閃いている。
その閃きの中心にいるのは、
「黒いフードのヤツか……!」
ジュンが、その存在を視界に捉えた。
間違いなく、あのとき控え室に侵入してきた黒いフードのヤツだった。
槍を持ち、縦横無尽に赤い稲妻を放っている。
「やっぱり、あいつは雷の使い手だったか」
身体に残っていた痺れるような感触は、間違いではなかった。
「ジュンさん。その様子から、何があったのか、だいたい察しはつきますよ。まあ、相手が悪かったと言う他ないでしょう」
見透かすようなマナの視線と発言に、ジュンは、ムッときた。
だが、いまはどうでもいい。
いまは、目の前のブレイヴバウトから目を離さないことが大事だ。
シャルロットは、赤い稲妻を避けながら肉薄し戦っている。
「戦況は、どうなんだ?」
「まあ、いまのところ互角と言ったところでしょうか」
「互角……!? ジュンちゃんをあっという間に、やっつけちゃったあの黒いフードのやつと互角に戦ってるの……!?」
驚愕するのはレアだ。
「レア……あっという間とか言うのやめてくれないか。事実だが、いまは聞きたくないんだよ」
「あっ、ごめん。今後は、配慮しま~~す」
テヘペロっと舌を出すレア。
イラっときたが、ブレイヴバウトの方が大事だ……大事。
「ちなみに、あの雷使いの方はユウキという名前だそうです」
と、マナ。
「ユウキ……それが、あいつの名前か」
「どうも、これまでの話をまとめると、あの方がシャルロットが探していた赤い稲妻のイケメン美少女のようですね。あのふたり、どうやらお互いに運命の出会い、運命の相手と直感で感じ取ったようです」
「う、運命の出会い?」
「う、運命の相手?」
ジュンは、呆れたようにため息を吐き、レアは、「ぷっ」と笑った。
「あいつ……雰囲気に似合わずロマンチストだったんだな」
「まあまあ、良いと思うよ~~! レアは、そういうの肯定的だし!」
「お前は、なんでもテキトーに肯定するからな」
ぴしゃ~~ん――!
また、強烈な赤い稲妻が閃いた。
「あっ!? シャルロットちゃんが!?」
「直撃したか!」
赤い稲妻は、回避が遅れたシャルロットに命中したのだ。
「あばばばばばばばっ!?」
シャルロットが、身体を駆け巡る雷撃に、奇妙な悲鳴を上げた。
「もらった! ライトニングピアース!」
ずどぉん――!
目にも留まらない速さで、ユウキの槍の一撃が、シャルロットに決まった。
「うわ!? あれは、やばいよ!?」
レアは、目を覆いそうになった。
だが、次の瞬間――、
「カピバラさん直伝! 不動! カピバラさんの構え!」
鼻息を吹かしながら、シャルロットは仁王立ちをした。
ぱぁん――!
シャルロットの身体を走る雷撃が弾けて消滅する。
ライトニングピアースの一撃が、胸に直撃したが、それでもシャルロットは微動だにしなかった。
「そ、そんな……! ライトニングピアースが完全に決まったのに……!」
ユウキにとって、よほど信じられなかったのだろう。
驚きのあまり口をあんぐりと開けている。
シャルロットは、仁王立ちのまま、
「カピバラさんの構えとは――まるで、大きな山が大地に悠然と鎮座するがごとく、何事にも動じない自由気ままなカピバラさんのどっしりとした雰囲気をイメージすることで、あらゆる攻撃を防御してしまうという技なのである」
と、解説を入れた。
「ええ~~!? なにそれぇ~~~~!?」
ユウキが、取り乱した様子で叫んだ。
ジュンもレアも、呆然としてしまった。
「「…………なんやねん、それ」」
だが、マナだけは誇らしげだ。
「素晴らしいです。さすが、シャルロット。理屈を超えてます」
目を輝かせるマナ。
「……やっぱり、あいつは化け物だ」
ジュンは、思わず笑ってしまった。




