第19話「ブレイヴアリーナ!」
いやぁ、クレープ屋さんでクレープを注文するとき、本当にYPが使えるのかドキドキしたなぁ。
だって、普通はお金を払うものなんだもん。
おそるおそる、店員さんに「YP……ユーシヤ・ポイントって使えますか?」って訊いたら、にっこりと笑って「はい! ユーシヤ・ポイントで交換できますよ!」と言ってくれた。
それから、ちゃんと注文してクレープを受け取るとき、店員さんの端末にリード・ブレスレットをかざすと、「ユーシヤ!」って音声が鳴ったんだ。
それで、リード・ブレスレットのコンソールからユーシヤ・ポイントを確認したら、しっかりクレープの代金分だけ引かれてた。
総額1800ユーシヤ・ポイント。
どうやら、1ユーシヤ・ポイントは、そのまま世界共通通貨の1ユーシヤ・ゴールドと同じみたい。
本当に、これで物が買え……交換できるなんて、不思議だなぁ。
まあ、それはそれとして……。
「ふぇ~~! やっぱり、ブレイヴアリーナが気になる! クレープを食べてる場合じゃないよぉ~~!」
「両手に、クレープを持ってるやつが言う台詞じゃないのよ」
わたしは、アンジェちゃんにツッコまれながら、いそいそと通りを歩いてる。
クレープは美味しいけれど、やっぱり早くブレイヴアリーナに行ってみたい。
「もう、間もなくですよ。その通りを右に曲がれば、正面に見えるはずです」
マナが、地図アプリを見ながらナビをしてくれてる。
「というか、もう建物自体は見えてるわね。ほら、あれでしょ」
アンジェちゃんが、指さす方向には、大きな建物があった。
手前にあるお店屋さんよりも、はるかに大きいから、影に隠れることもない。
「すっごい! 大きい! 早く、正面から見よう!」
わたしは、ふたりを置き去りにするくらいの速さで走って、通りを右に曲がった。
その頃には、もう両手のクレープは、お腹の中だ。
「わ~~お! あれが、ブレイヴアリーナかぁ!」
正面からブレイヴアリーナを見ると、その壮観さが良くわかるよ。
ドームのようになった円形の大きな建物で、正面には、お城の門のような透き通った水晶の扉がある。
そこに向かうまでの道の左右には、門と同じく水晶の像が並んでた。
像は、みんな剣や盾を持ち、勇ましい姿だった。
あれは、きっとブレイヴの姿を像にしたんだ。
それと、ブレイヴアリーナの建物の周囲には、ブレイヴバウトの映像を流しているホログラムのバナーなんかが浮かんでいて、賑やかな雰囲気。
「うん! なんとなしに、わくわくしてきたよ!」
あそこに行けば、ブレイヴバウトができるんだ。
そう思うと、居ても立ってもいられない。
わたしは、ブレイヴアリーナに向かって一目散に走り出した。
「こら! 私たちを置いていくんじゃないわよ!」
「まあ、言っても聞かないですよ」
アンジェちゃんとマナの声が聞こえたけど、もう足は止まらなかった。
水晶の像の並ぶ道を走り抜き、水晶の門が目の前だ。
ごごごご――!
自動ドアが開くような感じで、水晶の門が左右に分かれていった。
わたしは、そこからブレイヴアリーナの中に、滑り込んだ。
「わ~~お! これが、ブレイヴアリーナの中かぁ!」
いくつかのカウンターがあって、腕章をしたスタッフのお姉さんたちが、にこやかにほほ笑んでいた。
壁に目をやると、ブレイヴのホログラムのポスターが並んでいた。
それに、いくつものモニターが壁に取り付けられている。
他にも、据え置きの端末なんかが並んでいた。
広々としていて、一度に大勢のブレイヴや観客が押し寄せても、平気そうだ。
「こんなに大きなブレイヴアリーナ、はじめて!」
故郷のフォルティミヤにも、ブレイヴアリーナはあった。
でも、こんなに広くて大きな建物じゃなかった。
狭くて小さくて、たぶん、ここのブレイヴアリーナの中に、いくらでも収まっちゃいそうだった。
って、いくらなんでも、それはないか。
まあ、それだけ小さかったってこと。
「やれやれ、何も走らなくてもいいじゃない」
「置いていかれると、すこぶる腹が立つのでやめてください」
アンジェちゃんとマナが、追いついてきた。
「ふたりとも、見て見て! こんなに、大きなブレイヴアリーナだよ! すっごいよねぇ! わたし、感激しちゃったよ!」
「あんたの感激に水を差すわけじゃないけど、ここもそこそこ大きいってぐらいよ。世界には、これの倍以上の大きさのブレイヴアリーナだって普通にあるもの」
「そうなの!? ここでも、まだそこそこくらいなんだ! 世界は広いなぁ!」
いつか、アンジェちゃんが言ったような、もっと大きなブレイヴアリーナにも行ってみたいなぁ。
「しかし、あんまり人がいないわね」
「ほんとだ。どうしてだろう?」
腕章をしているスタッフさんを除くと、学園の学生服を着た生徒が、数人いるって感じだ。
これだけ広いのに、それだけしか人がいないなんて不思議だなぁ。
「みんな、あんたみたいに血気盛んじゃないってことでしょ。学園に着いたばかりだし、リード・ハウスで休んでる子だって多いはずよ。それに、他にも見て回るところはあるでしょう」
「見て回るならブレイヴアリーナが最優先のはずだけどなぁ」
「それは、あんただけよ」
「いえ、そうでもないみたいですよ」
マナが、ぽやっとした顔で壁際のモニターを指さした。
「あっ!? ジュンちゃんに、レアちゃんだ!」
モニターには、アーキ・ヴェセルナーを装着したジュンちゃんとレアちゃんの姿が映っていた。
しかも、戦ってる最中だ。
ジュンちゃんとレアちゃんが、荒野の大空を舞台に、アーキ・ヴェセルナーのスラスターをまばゆく輝かせながら戦っている。
「くぅ~~! 先を越されちゃった!」
「あんた並みに血気盛んなやつがいたわね」
「あれ、リアルタイムの映像だよね!?」
「ええ、そうだと思うけど」
「わたしたちも、近くで観戦できるかな?」
「カウンターのスタッフに訊いてみたらいいじゃない」
「うん!」
近くのカウンターに、走り寄る。
「すみません! あの子たちのバトルって、リアルタイムですか!」
モニターを指さしながら訊いてみた。
そしたら、スタッフのお姉さんは、にっこりと笑って、
「ええ、そうです。観戦がご希望なら、そちらのテレポーターホールから1番テレポーターを通って観客席へとご入場ください」
と、すぐ近くのテレポーターホールを案内してくれた。
いまいるカウンターから、少し右奥に進んだところに扉があって、テレポーターホールって書かれたホログラムの案内板が輝いている。
「1番テレポーターですね! ありがとうございます!」
案内されたテレポーターホールに駆け出すわたし。
テレポーターホールの扉から入ると、丸い形の台座がついた床がいくつもあった。
床から、やんわりと光が立ち昇り、ここにおいでと誘われてるようだ。
それぞれ、台座に番号が刻まれている。
「あった! あれが、1番テレポーターだ!」
ひょいっと、丸い台座の床に飛び乗る。
そこで、気づいちゃった。
「って、テレポーターってなに!?」
言われるままに、テレポーターホールってところにやってきたのはいいけど、そもそもテレポーターってなんなの……?
「や~~ねぇ。そんなことも知らないの?」
アンジェちゃんが、苦笑しながら近づいてくる。
「フォルティミヤのブレイヴアリーナには、テレポーターの設備はありませんでしたからね。無理もありません」
マナも、ぽてぽてと歩いて来る。
「わたし、テレポーターとかいうの初めて見たもん! これ、なんなの?」
「いいから、床をぐっと踏み込んでみなさいよ」
「え? うん?」
アンジェちゃんの言う通り、光の立ち昇る床の上で、ぐっと足を踏み込んでみた。
「わっ!? なにっ!?」
一瞬、目に見えるものが、手ぶれしたカメラの画像みたいに歪んだ。
「わ~~!? 違う場所にいるぅ~~!?」
気づけば、そこはテレポーターホールの中じゃなかった。
荒野の広がる大地を見下ろす観客席のような場所にいた。
足元を見ると、台座のついた丸い床がある。
「これって、もしかして……?」
しゅん――!
と、音を立ててアンジェちゃんとマナの姿が隣に現れた。
「わっ!? 瞬間移動!?」
「まあ、似たようなものね。あのテレポーターは、ブレイヴアリーナのテレポーターホールからバトルフィールドを一望できる観客席にテレポートさせてくれる設備なのよ」
と、アンジェちゃん。
「へぇ~~! なんだか、すっごいね! 初めての体験だよ! 感激しちゃった!」
「ちなみに、このバトルフィールドはブレイヴアリーナの中にある限定的な空間です。ブレイヴアリーナのある通常空間に、別の空間が入れ子のように存在していると思ってもらえば良いかと」
「……う、うん?」
マナの言ってることは、ちょっとすぐには理解できなかった。
そのときだった。
どど~~ん――!
爆発音が鳴り響いた。
音の方を見ると、2つの光が、荒野の空を舞台に交差していた。
「ジュンちゃんとレアちゃん!」
モニター越しに見るよりも、ふたりの動きが、はっきりと見える。
それに、射撃の音や爆発音なんかも、直接、耳に届く感じがして臨場感があった。
「この観客席は、シールドバリアで守られてるけど、あのふたりが戦っているバトルフィールドと直結した場所なのよ。だから、臨場感がたっぷり。ブレイヴバウトを間近で観戦する醍醐味ね」
アンジェちゃんが、教えてくれた。
「すごい……! これが、このブレイヴアリーナの観戦スタイルなんだ……!」
故郷のフォルティミヤでは、こんな設備はなかった。
これが、ブレイヴアリーナの本来の姿なんだ……!




