第18話「赤い稲妻の想い」
……そうか。
「やっぱり、あの子も学園に招かれた生徒だったのか」
あのとき、ボクのライトニングピアースの直撃を受けて、まったく傷ひとつついていなかった青い髪の女の子。
たしか、シャルロットとか名乗ったっけ。
いまは、友だちらしい二人と並んで歩き、城下町を散策している。
物陰から様子を探った感じ、あのとき本当に何のダメージも受けていないようだ。
ボクのライトニングピアースは、山をえぐる威力があったのに。
それを受けて平然としてるなんて、とんでもないやつだ。
「あの子が、気になるのかにゃ?」
ボクの足元に、黒猫のおはぎが擦り寄ってきた。
「それは、気になるよ。ボクのライトニングピアースを受けてケロっとしてる上に、『そんなもんか』とか『あんな程度か』だとか煽ってきたんだ。これで、気にしない方が、どうかしてるよ」
「だからって、物陰からコソコソと様子をうかがっているのは、あまり感心しないにゃあ」
「わ、わかってるよ。ボクだって、好き好んで尾行みたいな真似するもんか。でも、ボクは……ほら、あまり大っぴらに人目についちゃいけない存在だから」
「いままでは、そうだったかもしれないけどにゃ。でも、ジュリアンもヴィクトリアを学園に通わせるために連れて来たんだにゃ。他の生徒と堂々と会っても良いと思うにゃ」
「かもしれないよ。でも、まだ母さんからは自由に他人と会って良いとは言われてない。迂闊な真似はしない方が良い」
「うにゃ~~……そういうところ頑固だにゃあ」
「真面目と言ってほしいな。あと、ボクの名前を気安く口にしちゃダメだ。誰が、聞いてるかわからないんだから」
「……名前だけで、ヴィクトリアが何者かなんて誰もわからないと思うにゃ」
「でも、用心に越したことはないだろう。だって、ボクの存在は……まだ、世界に知られちゃいけないんだ」
「……ヴィクトリア」
そう、少なくとも母さんが、ボクの存在を世界に公表しようと決めるまでは、簡単に人前に出るもんじゃない。
それは、仕方のないことなんだ。
「それにしても、あの子……やはり、勘が良いな。気配は遮断していたはずなのに、こっちに気づきかけた。危うくバレるところだったよ」
「珍しいにゃ。ヴィクトリアが、そんな風に笑うにゃんて」
「え? 笑う? ボクが……?」
口元に手を当てる。
自分では気づかなかったけど、ボクは笑っていたのか……?
「とても、楽しそうに笑ってたにゃ。あの子のことが、よっぽど気になるんだにゃ。それで、これからどうするんだにゃ? あのシャルロットっていう子と、また話がしたいんじゃないかにゃ?」
「話がしたい……というか、さっきの続きをやりたいんだ。母さんの呼び出しがあったから、あの場は帰ったけど。あの子と……シャルロットと決着をつけたいんだよ。あのまま、終わらせたくないんだ」
「自慢の必勝技に耐えられた上に、煽られたりしたから無理もにゃいけど」
「うん……それも、もちろんあるよ。でも……」
「でも? なにかにゃ?」
おはぎが、足元からボクの顔を見上げてる。
「ねぇ……おはぎ、笑わないで聞いてくれるかい?」
「もちろんだにゃ! あたちは、ヴィクトリアのお目付け役である前に、家族なんだにゃ。家族のことを笑うわけないにゃ」
おはぎは、優しく笑いかけてくれた。
いままで、ボクのことをそばで見守ってくれたおはぎなら、いまの気持ちを打ち明けても、きっと笑わず受け止めてくれる。
「実は、シャルロットとは初めて会った気がしないんだ」
「どういうことにゃ?」
「どこかで会った覚えもない。顔にも見覚えはない。でも、不思議なんだ。懐かしい波動を感じたって言えばいいのかな。ずっと前から、知っているような気がしたんだよ」
「それは、不思議だにゃあ」
自分でも、そう思う。
だけど、あのときの感覚は偽りのものじゃないって確信があるんだ。
「それにね。ライトニングピアースを受けたあの子が、平然と起き上がってきたとき、視線と視線が合ったんだ。その瞬間、わくわくどきどきが止まらなくなった。まるで、楽しみにしていた絵本の1ページ目が開かれたときみたいに、胸が躍ったんだ」
「ふむふむ」
おはぎは、ボクの話をうなずきながら静かに聞いてくれている。
「出会ったことがないはずに、前から知ってる気がする。しかも、シャルロットの瞳を正面から見たとき、ステキな物語が始まるような気がしたんだ。これって……なんていうか、絵本の物語に出てくるような運命の出会いってやつなんじゃないかなって」
「運命の出会い? にゃははははッ!!」
「なっ!? わ、笑わないって言ったのにッ! ひどい!」
「ごめんにゃ! 別に、ヴィクトリアのことを馬鹿にして笑ったんじゃないにゃ」
「じゃあ、なんだって言うのさ」
「やっぱり、ヴィクトリアもジュリアンの子どもなんだにゃあって思ったんだにゃ。ジュリアンもイサミと出会ったとき、『これは運命の出会いというものかもしれません』にゃ~~んて、胸をときめかせていたものにゃあ」
「か、母さんが? それは、ボクの知らない母さんの一面だな」
「ロマンチストなのは、ジュリアン譲りだにゃ。でも、直感っていうのかにゃ、そういう感覚って大事だと思うにゃ」
「そ、そう? ほんとに、そう思う?」
「だって、現にジュリアンはイサミと生涯のライバル関係を築いたんだにゃ。そんな相手と出会えるなんて、やっぱり運命の出会いってやつだったんだにゃ」
「た、たしかに……!」
そう言えば、母さんがいつも言っていたっけ。
自分の直感を大事にしろって。
母さんがイサミさんという生涯のライバルを見つけたように、ボクも、シャルロットが生涯のライバルになるかもしれないと直感で悟ったのかもしれない。
それが、直感による運命の出会いってやつなのかも。
「ジュリアンは、運命の出会いを逃さなかったにゃ。ヴィクトリアは、どうするのかにゃ?」
「……ッ!」
まだ、母さんからは何も指示されていない。
指示がないということは、これまで通り他人と接するのは避けろという基本的な約束が、そのままだということだ。
だとしたら、勝手にあの子に接近するわけにはいかない。
だけど……!
これが、本当に運命の出会いだとしたら……!
「逃したくない……! ボクは、運命の出会いを逃したくない……!」
「うんうん。それで、良いと思うにゃ」
「あとで、母さんに叱られてもいい! ボクは、シャルロットと、ちゃんと出会いたい! だから、シャルロットともう一度、話をして……そして、自分の直感が正しいか確かめるんだ!」
「おお! 決心がついたんだにゃ!」
「うん! もう、誰にもボクを止められない!」
「あたちも止めない! 見て! あの子が、クレープを食べながらブレイヴアリーナの方に歩いて行くにゃ」
「ブレイヴアリーナ……! 好都合だ。そこで、始める。ボクたちの物語を……!」
あの子は、きっとブレイヴアリーナでブレイヴバウトをするつもりだ。
なら、その相手はボクだ。
ボクは、シャルロットのあとを追った。
「あっ……でも、もし母さんが本気で怒ったりしたら、おはぎも一緒に謝ってね?」
「う~~ん……それは、難しいにゃあ」
「頼むよ! 母さんは、怒ると厳しいんだから!」
おはぎが、ボクの肩にぴょんと飛び乗って来た。
「にゃはは! わかってるにゃ! なんとかなるにゃ! いまは、そんなことよりも、あの子を追いかける方が大事だにゃ」
「ああ、その通りだ」
……シャルロット。
まずは、キミが、本当にボクの運命の相手なのか確かめてやる。
ああ、胸がわくわくどきどきする。
こんなに、胸が高鳴るのは初めてだ。




