第17話「城下町に行ってみよう!」
リード・ハウスの個室は、高台から外の景色を遠望できる見晴らしの良い部屋だった。
ベッドと机とクローゼットだけのシンプルで狭い部屋だったけど、窓を開ければ綺麗な景色をいつでも眺められるんだから最高だよ。
「よし! 荷解きも終わった!」
故郷のフォルティミヤから持ってきたものは、ほとんどが着替えの衣類。
それをクローゼットにしまい終えたら、もう他にすることはなくなった。
「そうだ! ぬいぐるみをベッドに置いとかないと!」
トランクの中に残っていた白と黒のカラーリングの小さなぬいぐるみを掴んで、ベッドの枕元に置いた。
これは、わたしが大好きなワオキツネザルさんっていう真獣のぬいぐるみ。
故郷でも、いつも枕元に置いてあるもので、お守り代わりに持ってきたんだ。
ほんとは、ミナミコアリクイさんやカピバラさんやカバさんやマレーグマさんやハシビロコウさんとかのぬいぐるみも持ってきたかったけど、かさばるからってお母さんやマナに止められちゃったんだよね。
ワオキツネザルさんだけだと、ちょっぴり寂しいけど、我慢しよう。
「さて、これでもうほんとにやることはなくなったね!」
たしか、この惑星に到着したのが正午過ぎだったよね。
いま、何時くらいなんだろう。
リード・ブレスレットの時計アプリを起動してみると、午後3時を少し過ぎたところだった。
よし! まだ、時間はある!
わたしは、ドアを開けて部屋の外に出た。
そしたら、ちょうどマナやアンジェちゃんも部屋を出てきたところだった。
「そっちも、荷解きが終わったの?」
と、アンジェちゃん。
「うん! いま、終わったところ!」
「シャルロットにしては、早かったですね。手伝いに行く手間が省けていいですけど」
と、マナ。
「ははっ。荷物も少なかったからね。それより、みんなやることがないならブレイヴアリーナに行ってみようよ!」
「やっぱり、そうきましたか。シャルロットなら、そう言うだろうと思ってましたよ。いいんじゃないですか。リード・ハウスについたあとは、翌日まで自由時間だそうです。学園の施設や城下町の見学も許可されてると生活マニュアルに書いてありました」
「あんたたち、ちょっとは休もうとか思わないわけ?」
アンジェちゃんが、苦笑しながら言った。
「だって、ブレイヴアリーナだよ! ブレイヴのアリーナだよ! ブレイヴバウトができる場所でしょ! 行くっきゃないよ! わたし、ブレイヴバウトしたいもん!」
「呆れるほどに血気盛んねぇ。ブレイヴアリーナは、城下町の中にあるのよね? まっ、私も城下町の様子を見てみたいし一緒に行ってあげるわ」
「うん! みんなで、行こうよ! レジーナちゃんも、誘わなきゃ!」
まだ、レジーナちゃんは部屋から出てこない。
荷解きに手間取ってるのか休憩してるのかわからないけど、一緒に行こうって誘おう。
どんどん――!
「お~~い! レジーナちゃん! みんなと一緒に、ブレイヴアリーナに行こうよ! 城下町の様子もわかるし、レジーナちゃんも興味あるでしょ!」
部屋のドアを叩きながら声をかけると、
「うるっせ~~な! なんで、俺様がテメぇらと仲良く一緒に連れ立って城下町に繰り出さなきゃなんねぇんだ! あとから行くから、先に行ってろ!」
「そんなこと言わずに行こうよ! って、なんだあとから来るんだ……!」
「んっとに、素直じゃないわねぇ。まあ、いいわ。あとから行くって言ってるんだから、放っておきましょう」
アンジェちゃんは、やれやれと首を振って1階に降りて行った。
「じゃあ、ブレイヴアリーナだからね! わたしたち、そこに向かうから! あとから、来てよね!」
「わかったつってんだろ~~が! はやく、行けよ!」
どうせなら、一緒に行けばいいのに……って思ったけど、レジーナちゃんがあとから行くって言ってるんだから、それを尊重しよう。
お互いを尊重し合うのが仲良くする秘訣だって、お母さんも言ってたもんね。
レジーナちゃんを残して、わたしたちはリード・ハウスの外に出た。
「それじゃあ、行こうか」
「地図によるとブレイヴアリーナは、城下町の中央にあるようです」
と、マナ。
「町の真ん中か! あっ、そう言えば、飛翔技は使っていいんだっけ?」
「生活マニュアルによると、使っても構いませんが、町中など人が住んでいるエリアでは事故をおこさないように制限速度が時速20キロメートルまでだそうです」
時速20キロかぁ、遅いなぁ。
速度を出すより抑える方が難しいんだよね。
でも、なんとかなるか。
「よ~~し! じゃあ、手っ取り早く空を飛んで行こう!」
飛行能力を使おうと、ぐっと全身に力を込める。
「待ちなさいよ。せっかくなんだから、歩いて行きたいわ。高台から坂道を下って、麓の城下町に入りましょうよ。それから、ゆっくり城下町の中を散策しながらブレイヴアリーナを目指しましょう」
「え~~? 空を飛んでブレイヴアリーナに、直行しようよぉ」
「これから暮らしの拠点になる町なんだから、ある程度、どこに何があるか見ておきたいと思わない?」
「アンジェリカさんの言うことも一理あるかと。来たばかりですし、大雑把にでも見て回る方が良いかと」
と、マナ。
「それなら、空からでも見られるじゃん!」
「あんたのその調子なら、空を飛んだら一目散でブレイヴアリーナにすっ飛んでっちゃうでしょう。他のものなんて目に入らないくらいに」
「……それは、そうかも」
「別に、ブレイヴアリーナは逃げやしないんだから歩いて行きましょうよ。何か、面白いものがあるかもしれないじゃない」
「アンジェリカさんに賛成です。ブレイヴアリーナは、逃げやしません」
「む~~、ふたりがそこまで言うならそうするよ」
「決定ね。歩いて行きましょ」
アンジェちゃんとマナが、ゆっくりと歩き出した。
くぅ~~!
すぐにでも、ブレイヴアリーナに行きたい……!
でも、ふたりの意見も尊重しないとだし……!
「ほら! 行くわよ!」
「行きますよ」
「う、うん!」
わたしは、そわそわしながらふたりの後に続いた。
それから、高台から城下町――エンカ・シティに繋がる坂道をえっちらおっちらと歩いて行くと、平坦な道に出た。
その先には、開けっ放しになった大きな門があった。
絵本だと、こういう門には衛兵の人が立っていたりするけれど、誰もいない。
どうぞ、お通りくださいとばかりに、開いている門があるだけだ。
「なんか拍子抜けしちゃうね。もっと、仰々しいのを想像してたよ」
「まあ、人が空をびゅんびゅん飛び回れるんだから、こんな門の守りなんて、するだけ無駄でしょうよ」
と、アンジェちゃん。
「それもそっか~~」
門をくぐると、その先は石畳の通りになっていた。
車道と歩道が別れた普通の街の作りと一緒だ。
ザッと見渡した感じ、ファンタジーとSFチックなイメージが混じった、ちょっと不思議な雰囲気だ。
あたりは、人通りが少ないけど、学生服以外の服装の人も、ちらほらと歩いている。
あの人たちが、ジュリアンさんが言っていたキャストっていう町の住人なんだろう。
さらに、しばらく歩くと、人通りが多くなって、いろんなお店が通りに面して並ぶようになってきた。
「すご~~い! 食べ物のお店もいっぱいある!」
テラスのあるお洒落なカフェやスイーツのお店も、ずらっと並んでる。
そこから枝分かれした別の通りに目を向けると、がっつり食べられそうなステーキハウスや焼き肉屋さん、故郷のフォルティミヤでも見たことのあるレストランのチェーン店もあった。
「あのお店でも、YPでお買い物ができるんだよね?」
わたしが、訊ねると、
「はい。お買い物のようなことができます。ここで使えるYPは、惑星エンカの中でしか使えない限定的なものですが、使い方は変わりません。ちなみに、学園から3000YPが支給されています。まあ、学園からのお小遣いのようなものですね」
マナが、リード・ブレスレットのコンソールを開きながら教えてくれた。
わたしも、自分のリード・ブレスレットでコンソールを開いてみた。
そしたら、YSやYPの所持量が書かれているところを見ると、ほんとに持ってるYPが3000YPだった。
「どうすんの? 試しに、何か食べてみたいって顔してるけど?」
アンジェちゃんが、にやっと笑って言った。
「うっ! い、いや……でも、ブレイヴアリーナに急がなきゃだし」
「あら、そう? じゃあ、私だけあそこのクレープの屋台で食べてこようかしら」
「え!? クレープの屋台!?」
アンジェちゃんの視線を追うと、クレープ屋さんの屋台が、通りの隅にあった。
ホログラムの看板に、美味しそうなクレープの映像が映ってる。
「ぐぐぐ……!」
「なんて、顔してんのよ。我慢してないで、食べたければ食べればいいじゃない。私は、買ってこよっと」
すたすたと、アンジェちゃんが行ってしまう。
「どうします?」
と、マナ。
いますぐ、ブレイヴアリーナに行きたい。
でも、クレープも食べたい。
「クレープを買ったら、食べながらすぐにブレイヴアリーナに行く!」
「それが良いです。我慢は身体に良くないので」
わたしは、クレープの屋台に駆け出した。
だけど、不意に――。
「はっ――!?」
「どうしました?」
「い、いや」
わたしのことを誰かが鋭く見つめている気配に気づいた。
でも、気配を感じた方を振り返っても、誰もいない。
「気のせい……?」
いや、たしかに誰かの視線を感じた。
もう、まったく察知できないけれど。
「お~~い! 食べるの! 食べないの! どっちよ!」
アンジェちゃんが、手を振りながら呼んでる。
「うん! すぐ行く!」
気配が気になったけど、いまはクレープを食べてブレイヴアリーナに行くのが先だ。
わたしは、そう考えて感じた気配のことを、それ以上は考えないようにした。




