第13話「世界の理!?」
授業は、続く。
次は、学園の生活についてだって。
わたしやジュンちゃんは、学生服の姿に戻って、元の席に座ってる。
「すでに、みんなのところには学生証としてリード・ブレスレットが配布されているね」
壇上に立つアスカ先生が言った。
「は~~い! 持ってま~~す!」
返事をしながら右腕を掲げた。
右手首にはめたブレスレットの青い水晶が、キラっと輝く。
わたしは、台座に青色の水晶が埋め込まれたブレスレットを身に着けてる。
淡い青色の輪と台座に、ピンク色の装飾が付いた可愛い感じのブレスレットだ。
これは、リード・ブレスレットといって学園に通う生徒だって証明するための学生証にもなってるんだって。
「うんうん。それは、学生証であると同時に様々な機能を持っている。キミたちが、一瞬で学生服と私服に着替えられるのも、その機能のひとつだね。そして、そのリード・ブレスレットは、一種のケータイ端末のようなものでもある。ブレスレットの水晶に触れながら『コンソール起動』と口に出すか頭の中で念じてみてごらん」
アスカ先生の指示に従って、わたしもみんなもやってみた。
「コンソール起動!」
そしたら、リード・ブレスレットからホログラムのディスプレイが現れた。
横長サイズのディスプレイだ。
ごちゃごちゃといろんなことが書かれてる。
「みんな、コンソールを起動できたようだね。それは、リード・ブレスレットに備わった機能を視覚的にわかりやすくまとめたものだよ。この学園のある惑星エンカの地図やスケジュール表。学生同士で連絡を取り合うチャットツールやリモートで授業を受けるための通話アプリ。課題やクエストを確認するタスクメニューとオンラインでクエストカウンターにアクセスするアプリなんかが入っている」
へぇ~~?
このブレスレットに、そんなたくさんの機能が入ってるんだ。
あれ? 画面の上の方に書かれてるのは、なんだろう?
「アスカ先生! このYSとかYPって、なんですか!」
「あんた、そんなことも知らないの?」
アンジェちゃんが、やれやれって感じでため息をついた。
「以前、自分が教えたこともあったんですけどね。忘れてしまっているようです」
マナも、「はぁ」とため息をついてる。
「良い質問だ。まず、YSとYPはそれぞれ『ユーシヤ・ストーン』と『ユーシヤ・ポイント』と呼ばれているものだね。それは、学園で生活する上でも、そしてキミたちがブレイヴとして社会に出てからも重要なものだから、ゆっくりと解説していこう」
「は~~い」
「さっきの授業で、ブレイヴは様々な形で世界に貢献するということをわかってくれたと思う。だが、その貢献に対してブレイヴは基本的に金銭の報酬を得ることはないんだ。なぜか、わかるかな?」
「金銭を目当てとして能力を使うのは勇者の道ではないからです」
ずばっと答えたのは、アンジェちゃんだ。
「その通り! ブレイヴ……つまり勇者という存在が、報酬を目当てに自分の能力を使うことは、昔から良くないことだとされてきた。たとえば、絵本の中の勇者さまが、お金や身分なんかの報酬を目当てに人助けをしたりしたら、何か違うなって思うだろう?」
……まあ、それはたしかに。
絵本の中の勇者さまたちは、お金とかが目当てで人助けをしたりしなかった。
もし、そういう勇者が描かれていたら、わたしの中の勇者のイメージと違うなって、首を傾げていたかもしれない。
「勇者は気高く清貧であること……と、までは極端だが、まあなんていうか勇者を名乗る者が守銭奴だとイメージが崩れるってことだね。そういうのは、良くないことだとされているんだ」
ははぁ……なんとなくわかる。
お金儲けに走る勇者さまって、なんかイメージが良くないもんね。
「よく言うわよね。自分が守銭奴のくせに」
と、ソフィア先生。
「ブレイヴの風上にも置けん」
と、クラウン先生。
「クズめ」
と、トウコ先生。
「はい、後ろのうるさい人たちのことは無視しましょうね。まあ、そんなわけでブレイヴは直接的に報酬を得ることはできないのです。さて、そのうえでYSやYPとは何かだ」
そうそう、わたしが知りたいのはYSとかYPってやつ。
「ブレイヴは、直接的な報酬は受け取れない。だが、ブレイヴバウトの大会で優勝したり人々から依頼されたクエストをクリアした場合、記念品がもらえるんだ」
「記念品?」
「そう、それがユーシヤ・ストーン。略してYSだ。ユーシヤ・ストーンは、こんな感じのキラキラした綺麗な石なんだ」
アスカ先生が、ポケットから虹色に輝く小石を取り出した。
「それ、コミュニティウェーブの映像で見たことある! ブレイヴバウトの大会で優勝したブレイヴが、山のようにもらってた!」
「うん、それは記念品を贈呈されていたんだよ。このユーシヤ・ストーンは、特に価値は無い。キラキラとしていて綺麗なこと以外はね」
そんな価値のないものをたくさんもらっても、どこに置いとけばいいんだろう。
そもそも、なんでそんな石をたくさんくれるの?
「実は、このユーシヤ・ストーンを集めてる人たちがいるんだ。ミラ・ユーシヤ財団っていう団体があって、その人たちは、綺麗な石であるユーシヤ・ストーンを集めて巨大なモニュメントを造っているんだよ。だけど、そのためには、大量のユーシヤ・ストーンが必要でね。常に、寄付してくれる人を探してるってわけ」
「だったら、ブレイヴがもらった記念品のユーシヤ・ストーンをあげればいいんじゃない?」
わたしが、そう言うとアスカ先生は、にっこりと笑った。
「その通り! ブレイヴは、世界に貢献する上で大量に記念品のユーシヤ・ストーンを贈られる。そのままでは、単なる綺麗な石だが、ミラ・ユーシヤ財団の事業に寄付することで、さらに世界に貢献できるわけだ」
「なるほどぉ」
「ミラ・ユーシヤ財団は、寄付してくれた支援者に、感謝の証としてユーシヤ・ポイントというのを付与してくれるんだ。これが、YPだね」
「そのユーシヤ・ポイントって、なんなの?」
「ユーシヤ・ポイント自体に意味はない。どれだけ、寄付し世界に貢献できたかを示す数字だよ。…………まあ、各種代行サービスを通せば、買い物や決済ができるが、それは副次的なものだね」
「え? お買い物ができるの?」
わたしは、う~~んと考えた。
「それって、ユーシヤ・ポイントがお金の代わりじゃない? お金が報酬なのは、勇者の道に反するような気がするけど……?」
そう言うと、アスカ先生は眉をぴくりと動かした。
「いやいや、あくまでも寄付に対しての貢献度をポイントっていう数字にしただけだから。ぜんぜん、お金とは違うものだよ」
「でも、そのポイントでお買い物ができるなら、それはもうお金だと――」
だぁん! と、足で床を蹴りつけるアスカ先生。
「それ以上、言っちゃダメ! この世界で、上手に世渡りしていくつもりなら、そんなこと考えちゃダメなの! 触れちゃいけないところなの! いいか、わかったな!!」
「ひいっ!?」
アスカ先生が、恐ろしい形相で睨んできた。
さすが、イサジュリ世代のブレイヴだ。
これでも、度胸には自信あったのに、全身がゾッとして固まっちゃった。
「見て、子どもを脅しつけて黙らせたわ」
と、ソフィア先生。
「なんて、大人げないやつだ」
と、クラウン先生。
「クズめ」
と、トウコ先生。
アスカ先生は、後ろにいるソフィア先生たちに振り返った。
「いや、だって……! この子が、触れちゃいけないとこに触れようとするから……!」
「まあ、それはそうだけど……もっと、言い方というものがあるでしょう?」
ため息を吐きながら言い返すソフィア先生。
「いや、しかしな……!」
よくわからないけど、わたしは疑問への答えに納得できなかった。
「あ、あの……やっぱり、ユーシヤ・ストーンっていうのを交換する必要があるだけでユーシヤ・ポイントがお金の――」
「だ~~か~~ら! そういう、疑問を持っちゃダメなの! 昔から、そう決まってるの! そういうものなの! いいね! そこには、もう触れないこと!」
「え、ええ~~……?」
……そういうものだと言われても。
ブレイヴがお金とかを見返りに活動するのは、良くないことだってされてる。
だから、クエストなどの報酬で直接、お金がもらえないのはわかる。
だけど、記念品にもらえるユーシヤ・ストーンをミラなんちゃら財団に寄付すれば、貢献度に応じてユーシヤ・ポイントになって、それが、お金の代わりに使えるわけだよね。
これって言ってみれば、ユーシヤ・ストーンをユーシヤ・ポイントに交換する手間が必要なだけで、ユーシヤ・ストーンとユーシヤ・ポイントが、実質、お金のようなものじゃん。
体よくお金という形をしてないだけで、誤魔化してる気がする。
「あ、あの……! やっぱり……!」
もう一度、疑問を投げかけようとしたわたしの肩をマナが掴んだ。
「シャルロット……それ以上は、いけません。そういうものだと納得しましょう。これは、世界の理です」
ぽやっとした顔で、わたしを諭すように言った。
「せ、世界の理ぃ~~?」
「あんたが、疑問に思う気持ちはわかるわ。でも、そういうものだから」
「アンジェちゃんまで!?」
うそ~~?
アンジェちゃんまで、そういうものだって納得してるんだ。
これじゃあ、疑問を持ってるわたしがおかしな子みたいじゃん。
「よし、納得したね? しただろ? はい、じゃあ疑問はなくなったね」
「……は、はい」
わたしは、アスカ先生の脅迫するような鋭い視線を浴びせられて、つい観念したかのように、うなずいてしまった。
「では、授業を再開するよ。YSとYPが、何のことだかわかったね? 本来は、ブレイヴデビューしたあとでお世話になるものだ。だけど、この学園のある星では、キミたちが箱庭世界の中で様々な体験ができるように、ユーシヤ・ストーンやユーシヤ・ポイントを取得できるようになっている」
「それって、ユーシヤ・ストーンやユーシヤ・ポイントを稼げるってこと?」
質問したのは、レアちゃんだった。
「その通り! あくまでも、学園のある惑星エンカの中だけで使うことのできる限定的なものだけどね。本物のブレイヴの活動のように、依頼をクリアしたり、ブレイヴバウトで活躍したりすれば、それらを取得することができるんだ。だから、キミたちのリード・ブレスレットのコンソールに、YSやYPの所持量が表示されてるわけだ」
このコンソールの画面に書かれてるYSやYPは、そういうことだったんだ。
……なんか、電子決済のウォレットみたい。
……これを言ったら、また怒られるんだろうな。
「それって、自由に使っていいの!?」
目を輝かせるレアちゃん。
「もちろん! 取得したユーシヤ・ストーンを寄付してユーシヤ・ポイントを受け取るのも、そのポイントを何に使うかも自由だ。食事や買い物に使ってもいいし、アーキ・ヴェセルナーを整備するために使ってもいい。節度を守るなら、特に制限はないよ」
「おお~~~~! やる気がみなぎってきたぁ~~~~!」
レアちゃんは、ガッツポーズした。
「……現金なやつ」
隣のジュンちゃんが、冷ややかに言う。
「ねぇ、マナ。やっぱり、ユーシヤ・ポイントって……」
「ですから……それ以上は、いけません」
「う、うん」
なんか、納得いかないけど……そういうものなんだ……。
世界って、不思議だなぁ。




