第11話「ブレイヴって、なぁに?」
入学式も終わり、このまま講堂で最初の授業があるんだって。
どんな授業なんだろう。
講堂の壇上には、アスカ先生が上がり、その後ろに他の先生たちが並んでる。
「真面目に授業するのよ」
ソフィア先生が、腰に手を当てながらジロっとアスカ先生のことを睨んだ。
「そう怖い顔しないでくれよ。言われなくてもわかってるって」
アスカ先生は、へらへらと笑いながら言って、講堂にいるわたしたち生徒を見渡した。
「さて、最初の授業だけど、そう難しいものじゃない。基本的なことの確認と、この学園での生活についての説明だ。まあ、楽にして聞いてくれればいいよ」
どか――!
講堂の隅で、大きな音がした。
そっちを見ると、レジーナちゃんが長机の上に足をどっかりと乗せてる。
さっき、ロゼッタ先輩に叱られたのに懲りないなぁ。
「アスカ先生は楽にしていいと言ったけれど、それは許されないわよ? お行儀が悪いでしょう?」
舞台袖から、ロゼッタ先輩がレジーナちゃんのことをジッと見つめてる。
ひえ~~!
顔は、笑顔なのに、なんて威圧感……!
「……ちっ」
レジーナちゃんが、渋々って感じで足を長机から下ろした。
「はははっ! ずいぶんとやんちゃな生徒がいるようだ!」
アスカ先生は、レジーナちゃんのことを叱るわけでもなく笑ってる。
「笑ってる場合じゃないでしょう。本来なら、指導者のあなたが叱るべきなのよ」
と、ソフィア先生。
「行儀や礼儀を教えるのは大人の役目だというのに、それを放棄しているのか」
と、クラウン先生。
「クズめ」
と、トウコ先生。
「う、うるさいな! 後ろから、ごちゃごちゃ言うんじゃないよ!」
後ろを振り返り、怒鳴るアスカ先生。
な、なんだか……先生って感じがしないなぁ。
「このノリ……往年のアスカさんたちのノリそのままでエモいわね」
「まさに、その通りです」
アンジェちゃんとマナは、えらく暖かい目でアスカ先生たちのやり取りを眺めてる。
往年のって……先生たちって、昔からこんな感じなんだ。
「こほん! まあ、そのなんだ。とりあえず、授業を始めます」
と、アスカ先生。
「なんだか、テキトーな始め方ねぇ」
と、ソフィア先生。
「そもそも教師なんて向いてないんだよ」
と、クラウン先生。
「クズめ」
と、トウコ先生。
アスカ先生は、また振り返って怒鳴ろうとした。
「……ぐぎぎ!」
だけど、言葉を飲み込んでわたしたちの方に向き直った。
「え~~~~、まずはブレイヴとは、なんなのかということから始めたいと思う。だが、ここにいる生徒の諸君ならば、すでに知っていることだろう。いまさら、そんな基本的なことを教わる必要などないと思う。そうだよね?」
アスカ先生が、講堂に集まってるみんなに笑いかける。
まるで、「教わる必要などない」って言葉に同意してほしいと言わんばかりだ。
「見て、勝手に授業の内容を省略しようとしてるわ」
と、ソフィア先生。
「めんどくさいからって、なんて手前勝手な教師だ」
と、クラウン先生。
「クズめ」
と、トウコ先生。
「う、うるさいな! いま、授業をしてるのは私だぞ! 黙っててくれよ! だいたい、ここにいる生徒たちは、ブレイヴが何かなんてとっくに知ってるだろう! だったら!」
「いや、でもねぇ……だからと言って授業を省略していいわけないじゃない。基本的なことをおさらいするのも、立派な勉強だわ。それに、学園側から授業内容についての方針も指示されているし、それをあなたの裁量で好き勝手にするなんて、ジュリアン学園長から叱られてもおかしくないのよ?」
「むぅ……!」
ソフィア先生に、そう言われてアスカ先生も反論できないみたいだった。
「はい……じゃあ、授業を続けます」
渋々だけどって顔で、アスカ先生がわたしたちに向き直った。
「ブレイヴがなんなのか、ということだったね。広い意味でのブレイヴとは、己の持つ力を使って、この世界に貢献する者たちのことを言う」
…………アスカ先生、手元で本をチラチラと見ながら解説してる。
本のタイトルは、「最新版ブレイヴ入門マニュアル」だ。
……もしかして、いまその本の内容を読みながら授業をしてる?
「見て、いまさら入門マニュアルなんか読んでるわよ」
と、ソフィア先生。
「自分の言葉で説明できないからって、それじゃあなんのための教師だ」
と、クラウン先生。
「クズめ」
と、トウコ先生。
アスカ先生は、後ろから投げつけられる言葉に、歯を食いしばりながら耐え、授業を続けた。
「ここで言う貢献とはすなわち、ギャザリングやモンスターの討伐による資源の獲得と供給、災害時の救助活動や復興支援、ネガルスなどの不測の脅威に対する対応、そしてブレイヴバウトの興行などによる娯楽の提供である」
……入門マニュアルの文章をそのまま読んでるせいか、すごく棒読みだし感情がこもってない。
それに、言ってることはなんとなくわかるけど、具体的じゃないから、いまいちよくわかんない。
「んもぅ! ちょっと、どきなさい!」
「おわぁ!?」
お尻でドカっとアスカ先生を突き飛ばして壇上に上がってきたのはソフィア先生だ。
アスカ先生の授業態度を見るに見かねてって感じだった。
「ここで、補足させてもらうわね。まずは、資源の獲得について。これは、ブレイヴの主な活動のひとつと言えるわね。みんなが、食べるものはもちろん、着ているものや住むおうちなんかを作る材料も、ほとんどがブレイヴによって資源として集められ供給されているの。資源の具体的な一例としては、特殊な器具を使って掘削した鉱物資源や、モンスターを討伐した際に得られるアイテムなどね。それを世界に供給するのが貢献のひとつ」
ソフィア先生が、ホログラムの映像を交えながら解説してくれる。
淡々とマニュアルを読んでいただけのアスカ先生に比べたら、すごくわかりやすい。
「次に、災害の救助や復興支援について。残念だけど、文明が進んだ今も、天変地異やこのあと説明するネガルスの襲撃なんかで、人の住む星に被害が出ることもあるの。そんなとき、頼りになるのがブレイヴよ。小回りの利くブレイヴは、オートマタやロボットに比べて柔軟に対応することができるから、それだけで災害時には重宝されるの。危機に瀕した人々のもとへブレイヴが颯爽と現れ、助けるなんて、まさに勇者の姿そのものよね。これが、もうひとつの貢献」
噴火した火山のマグマが、麓の町に流れこもうとする危機一髪のとき、ブレイヴが現れてマグマの流れを変えたり、住んでる人たちを抱えて助けてくれる映像を見たことがある。
ソフィア先生も言っているように、そのときのブレイヴたちは、まさに絵本に出てくる勇者の姿そのものだった。
わたしも、あんな風に誰かを助けられるようなブレイヴになりたいな。
「それと、ネガルスの脅威。これは、体験した子もいるかもしれないけれど、この世界には、暴走し凶悪化したモンスター――ネガルスという危険な存在がいるの。普通のモンスターよりも、遥かに強力なネガルスは、ひとたび暴れ始めたら止まらない。その脅威から人々を守るのもブレイヴの役目なの。危険もあるけど、これも重大な貢献よ」
ネガルスかぁ。
わたしも、実際に見たことあるんだよね。
小さな頃に、街に遊びに行ったとき、偶然ネガルスが襲撃してきたんだ。
あのとき、思わず蹴り飛ばしたら、みんなから感謝されたっけ。
「そして、最後にブレイヴバウト。これは、みんながもっとも関心のあるところよね」
「うんうん! わたし、すっごい関心ある!」
わたしが、つい声を上げるとソフィア先生はクスっと笑った。
「みんなも知ってのとおり、ブレイヴバウトは、ブレイヴとブレイヴが戦う試合のこと。今も昔も、あらゆる人々を熱狂させる大人気の競技。勇敢に、そして華々しく戦う姿を披露して、みんなを楽しませるのも、ブレイヴが担う重要な貢献ね」
うんうん! みんなをわくわくどきどきさせるなんて、すっごい重要!
わたしは、世界中のみんなをわくわくどきどきさせるために、ブレイヴになりたい!
「そして、ブレイヴバウトでは、数々のスターが生まれてきた。きっと、ここにいるみんなも、そんなスターの活躍に憧れてブレイヴになりたいと思った子も多いんじゃないかしら?」
「そうそう! わたしは、フォルテさんに憧れてる! あんな風に、かっこよく戦ってみたいって思った!」
また、つい声が出ちゃった。
「フォルテ……ああ、フォルティルシアちゃんね。あの子も、頑張ってるわよね。いまからなら、あの子が現役の間に、一緒にブレイヴバウトできるかもしれないわね」
「そうか! わたしが、早くブレイヴになればフォルテさんとブレイヴバウトできるかもしれないんだ!」
フォルテさんは、わたしが憧れ、そして推してるブレイヴ。
いままで、なぜか考えもしなかったけど、ブレイヴになれば、フォルテさんと戦えるかもしれないんだ。
そう思ったら、なんだかわくわくしてきちゃった!
「星々の連盟で作るステラード・コンソーシアムが公式に運営するリーグやトーナメントはもちろん、非公式の野良試合もブレイヴバウトと呼ばれているわ。まだ、みんなはブレイヴデビューする前だけど、そのときは、もう間もなくね。デビューした後、すぐにリーグに参加しようと思っている子は、いまのうちからレギュレーションの確認をしておくといいわ。もしも、詳しく知りたいのなら、私が相談に乗るから気軽に声をかけてね」
そう言って、ソフィア先生は壇上を下りた。
それから、ソフィア先生にパシっとお尻を叩かれたアスカ先生が壇上に戻ってくる。
「はい……もう、先生からは何も言うことはありません。以上、ブレイヴとはなにか、ブレイヴの世界への貢献とはなにか、でした」
アスカ先生が、締まりのない締め方で締めくくった。
わたしは、最初の授業を受けて、少し身が引き締まった感じがする。
この学園で、いろんなことを学んで、わたしはブレイヴになるんだ。




