第10話「掃除係のイサミちゃん!」
学園長のジュリアンさんの挨拶が終わったあとは、指導をしてくれる先生たちの紹介が始まった。
そこからは、放送室からの放送じゃなくて、舞台袖でロゼッタ先輩が司会進行をしてくれたから、もうマナが暴走する心配もなかった。
「それでは、総合戦術指南役アスカさん。壇上にどうぞ」
短い青髪で、紺色のパンツスーツ姿のお姉さんが、壇上に上がってきた。
スーツの襟元が乱れていて、ちょっとだらしない。
「こういう挨拶なんてものは苦手だしキミたちも長々と話しては退屈だろう。だから、簡単に済ませるよ。半年間、どうぞよろしく」
アスカさんは、挨拶を短く済ませるとニッと笑って壇上から下りた。
「なんだか、気さくな感じの人だねぇ」
わたしが、感想を言うと、
「昔から、あんな感じの人よ。アスカさんも、イサジュリ世代に活躍したブレイヴのひとり。その世代のブレイヴがほとんど引退したのに、アスカさんだけは公式に引退を表明してないから、イサジュリ世代の残り香なんて言われてるの」
と、隣のアンジェちゃんが教えてくれた。
「そうなんだ。あの人も、イサジュリ世代の」
そして……あの人が、わたしの友だちの……。
そのあと、次々に残りの先生たちの紹介があった。
赤みのある茶髪のお姉さんは、トウコさんっていう剣術指南役の先生。
濃い紫色の長い髪のお姉さんは、ソフィアさんっていう宇宙の地理や歴史、モンスターの知識とかを教えてくれる学術指南役の先生。
短い緑色の髪に金色のメッシュが入った背丈の小さめのお姉さんが、クラウンさんっていう怪我や病気を治すための技術や身体作りのことを教えてくれる健康管理指南役の先生。
みんな、イサジュリ世代に活躍したブレイヴだってアンジェちゃんが教えてくれた。
そして、最後に呼ばれたのは……。
「掃除係のイサミさんです」
ロゼッタ先輩に促されて、モップを持ったジャージ姿のイサミちゃんが舞台袖から出てきた。
頭をぺこぺこと下げながら壇上に上がろうとしたとき、
「ひゃあ!?」
何もないところでつまずきそうになって悲鳴を上げるイサミちゃん。
ほんと、ドジだなぁ。
「いよ! イサミちゃん! 待ってました!」
わたしが、囃し立てるとイサミちゃんは困ったように笑った。
「ど、どうも~~、イサミですぅ。がんばって、お掃除するのでよろしくお願いしますねぇ」
イサミちゃんは、照れ笑いしながら挨拶すると、そそくさと壇上を下りた。
アンジェちゃんが、プッと笑った。
「イサミですって。おかしなものよね。よりによって、イサジュリ世代の名前の由来になってるイサミさんとジュリアンさん、ふたりのスーパーブレイヴの片割れと同じ名前の人が掃除係だなんて」
ああ、そうか。
アンジェちゃんは、知らないんだ。
「あのイサミちゃんは、そのスーパーブレイヴのイサミちゃんだよ」
「はあ? なに言ってるのよ。スーパーブレイヴのイサミさんが、こんなところで掃除係なんてやってるわけないでしょう。本物なら、それこそジュリアンさんと並んで学園長クラスだわ。あの人は、同じ名前の別人に決まってるじゃない」
「でも、本物だよ。ああ見えて、イサミちゃんは、すっごく強いもん」
「強い? なんで、そんなことわかるのよ。あんた、あの掃除係の人と知り合いなの?」
「うん……イサミちゃんは、わたしの師匠なんだ」
「師匠……? うそでしょ。あんた、あの掃除係の人に鍛えてもらったっての?」
「そういうこと。それが証明になるわけじゃないけど、あそこにいるイサミちゃんは、ただの掃除係じゃないよ。だって、アンジェちゃんやマナが推してるイサジュリ世代のイサミちゃんなんだもん」
「……にわかには信じられないけれど。いや、ちょっと待って……! そういえば、イサミさんは、戦いのとき以外は、どこに行くときでもジャージ姿だったはず……!」
「お気づきになりましたか」
「おわぁ!? あんた、いつから戻ってきてたのよ!?」
いつの間にか、座席に戻ってきていたマナに驚くアンジェちゃん。
わたしも、気づかなかったから、びっくりした。
「イサミさんは、戦いのとき以外は、ほぼジャージ姿。それが、万能な正装だと思い込んでるんです。そして、戦いのときは勇壮かつ勇猛ですが、普段は照れ屋でお調子者でドジな女の子。いま、見たイサミさんの姿は、アンジェリカさんの瞳に、どう映ったでしょうね?」
「むむむ……! 言われてみると、本物のイサミさんに見えてきた、かも」
「だから、本物なんだよぉ」
ここで、イサミちゃんの力を見せることができたら、すぐにでも信じてもらえそうなのになぁ。
「…………いやでも、10年以上、行方不明だったイサミさんが、こんなところにポッと現れるわけが。う~~ん」
アンジェちゃんは、腕を組んで考え込み始めちゃった。
まあ、いいや。
そのうち、わかってもらえるさ。
「残念ながら、現在、学園に到着していない先生もいらっしゃるのですが、そのご紹介は追々ということになります」
と、ロゼッタ先輩。
へぇ~~?
まだ、他にも先生がいるんだ。
どんな先生なんだろう?
「最後に、私たち教員補佐役のロゼッタと」
「セイラだ」
「私たちふたりは、みんなの先輩としてサポートするから、なんでも相談してね」
「そうだ! 先輩を頼るといい!」
ロゼッタ先輩とセイラ先輩が、壇上でみんなに笑顔を振りまいてる。
やっぱり、ロゼッタ先輩ってステキだなぁ。
美人だし声が綺麗だし笑顔はかわいいし、キラキラと輝いて見えるよ。
「あっ、それと! そこにいるマナちゃんも、特別にサポート役として共に学園で過ごすことになりました。みなさん、仲良くしてあげてくださいね」
マナは、ロゼッタ先輩の紹介に合わせて立ち上がると、講堂のみんなに向かって頭をぺこりと下げた。
「では、入学式は以上で終わりだ!」
と、セイラ先輩。
講堂のみんなが、「ふ~~」とため息を吐く。
ガタっと席を立つ子もいたんだけど……。
「このあとは、この講堂で、そのまま最初の授業があるから、まだ座っていてね」
と、ロゼッタ先輩。
「学園長は、カリキュラムを強制しないと言ったが、この授業は必修だ。生徒たちの基礎知識を確認するためと今後の生活のための説明会だからな」
と、セイラ先輩。
「え~~? もう、授業?」
「学園に着いたばかりだし、ちょっと休みたいよねぇ」
講堂のみんなが、ざわつき始めた。
「はいはい! みんなの気持ちはよくわかる! ほんと、だるいよな! だから、短く済ませることを約束するよ! だから、もう少しだけ我慢してくれ!」
そう言って、ざわつきを収めようとしたのはアスカ先生だ。
入学式が終わったからなのか、スーツの上着は脱ぎ捨てて、服装が乱れてる。
ソフィア先生が、ため息をつきながら脱ぎ捨てられたアスカ先生の上着を拾ってた。
最初の授業かぁ。
いったい、どんな授業なんだろう?
実技だといいなぁ。




