↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
P4TCHW0ЯK_W0R⧉D  作者: 哉守柚栞
第一章
PR
22/29

第八話 F4D⧉И⧉ ⧉Σ⧉Ƨ (1)


 紅を引いた地平の彼方まで穏やかな丘陵の続く大草原。広がりゆく星空の下、渡る風が草を揺らし波のように迫りくる様子は、雄大なる大地の広さを物語っているかのようでした。

 だけど村を囲う薄膜は、時折虹色に揺らいで境界線を意識させ、そんなのは幻だと皮肉っている。

 どこまでも自由に見える世界は幻で、閉じられた狭い世界こそが全てという現実。外には誰もいないと考えていた住人は、繰り返される日々をどう感じていたのでしょうか。

 何も知らなければ、意外とそんなものと割り切って暮らせるかもしれません。少しだけ窮屈で、ほんのり納得しないまま日々が過ぎて行く。そして違和感すら感じなくなるのです。

 そんな日々があったとして、もう終わりになります。

 自由に見える世界が現実に、閉じられた狭い世界は過去に置き換わる。

 夢のような瞬間が現実味を帯びてくれば、逸る気持ちに前夜祭も致し方なし。食堂前の村の広場は、陽が沈む前からお祭り騒ぎでした。

 食事も待たずに酒樽を持ち込んで、各々ジョッキを突っ込んで麦酒を煽ってます。演奏好きが絶えず楽器を鳴らし続け、歌え踊れの大騒ぎ。そんな光景を私は、逆さまの姿で見上げていました。

「地面が頭の上、足元は空。不思議な感覚ですね」

 場所は広場に面した食堂のすぐ近くの建造物、見張り塔の真上。捩れた吊り橋が繋がる、逆さまの大地の欠片です。

 他よりも大きな欠片には見張り小屋が建っていて、私はその小屋の入り口を背に欠片の縁に座っているのです。

 真下には夜空が広がっていて、頭上は村の景色が覆ってる奇妙な景色。これが意外と悪くない。

 広大な夜の湖を眺めているようです。

『お前が感傷的に景色を眺めてる時ってのは、次の環境に備える時だ。アマリを助ける方針で動いてるようだが、本気で旅暮らしを検討してるのか? それほどの善人だったとは思えん』

 程よい音量で、楽しい音楽が届いています。静かな夜の世界と、賑やかで希望に満ちた世界との距離が絶妙で、きっと穏やかに笑えていたでしょう。

「私がそれを望んでいると思いますか? クラスターの内部からいきなり外に放り出された時、本気で焦ったんですからね。普段は理屈っぽく感じるかもしれませんが、本来の私はロマンチストってやつです。元々こういう何もない時間が好きなんですよ」

『は、そいつは初耳だ。なら今度から俺様は別の所に置いておくか、電源を切っておくといい。どこのどいつの影響かはわからんが、そういう雰囲気を軽口でぶち壊したくなる。最近じゃ自分がそういうアノマリーなのかと疑ってる所だ』

 誰かといる時は口を謹んで空気を読んでくれている感じはしていました。軽口含め、それが彼なりの配慮だというのは、よく知っています。

「正直な所、その軽口のおかげで助かってるんですけどね。私は見た目通りの小娘じゃない故に、相応の過去を無理やり箱に仕舞い込んでいるのです。ノスタルジックとか呼ばれるやつはこの箱の鍵となりえるので、適当に叩き落としてくれると助かります」

『断る。お前の気分は乱高下するからな。叩き落とすか叩き上げるかの見極めが難しい。見てて飽きないが、付き合わされる側はたまったもんじゃない』

「それでも付き合ってくれるのでしょう?」

『他に選択肢が無いからな』

 彼はそこで黙り込んでしまいます。なんとなく、遠くに離れて行った気がします。

 エーテル結晶の回収班が村に戻って丸一日。我々が戻った時、村人の多くは村のシンボル作りというお祭りの裏で、何か外で必要な物資を取ってくる程度の認識でしかなく、盛大な出迎えなんてものはありませんでした。それは予定通りなので構いませんし、そうなるようにお願いしたのは私です。そもそもいつ戻るかわかりませんからね。頭上で行われてるお祭り騒ぎも、村の象徴が決まるのがまさにこれからだからです。

 キャラバンについては、報告はニブレットさんとリュミンに任せました。予想以上の純度の高さにすぐに適切な処置をしないと損失を招く、という名目で早々に引き上げさせてもらった次第です。人造アンカー作りについては一任されていて、マーニさんが貸してくれた広い部屋を臨時の工房として使わせてもらうことになってます。

 元老院陣営は、不穏な動きはあったものの、一旦はエーテル結晶回収完了の報告をするとの事。

 カイリスはともかく、オルヴァさんがとても協力的になってくれて、アマリと私の身柄の確保についてはアンカー設置後のメリットを考慮して、一時保留としてもらうように掛け合うそうです。彼はどちらかと言えば、この計画に反対だったとの事。それでも敵対的だったのは、他の二人が幼馴染であり、説得されたからだそうです。

 確保だけすれば、後でどうにでもなるって考えかもしれないですけど。

 尚、その二人ジルニアとギーネは探索中の事故での負傷という名目で、キャラバンの人達が面倒を見てます。これはカイリスの案。元老院については黙秘しないといけないので、余計な事を口にしないだろうし、元老院に伝わって不都合な事も口止めできるまさに一石二鳥。ちなみにジルニアはリムがトラウマになってしまったようで、暗がりをひどく怖がっているそうです。クラスター領域から出てずっとその調子だったので、二人は精神汚染が深刻という言い訳で拘留してもらってます。

 そして一番の問題。アマリについてですが、彼女にはまずはゆっくり休んで、心の準備が出来たらカイリスと一緒にくるように伝えてあります。元老院についてもカイリスから真実を教えてもらって、その上でどうするか決めて来てくださいと。村の真実や彼女を取り巻く状況は、私がどうこう言う立場ではないと思ったからです。

 助かりたいと思うアマリがどんな選択を取るにせよ、私を信頼してくれた際の準備は一日掛かりで行いました。それが済んだ今は、誰にも邪魔されない自由時間というわけです。

 履きなれたブーツを揺らして、尻尾もご機嫌に揺らして一人の時間を楽しみます。聞こえてくる音楽に耳を傾けて、身体を揺らしてみたり、小さく歌ってみたり。

 でも歌はすぐやめちゃいました。すぐ後ろの見張り小屋で、小さく鍵の開く音がしたからです。

「……?」

 立ち上がって、小屋の方へ向き直れば、入り口の蔦に覆われた小さなランプに明かりが灯ります。

「…なんだか誘われてるみたいですね?」

 私の呟きに応じるように、緑のランプは二度点滅をしました。

『傍観者である俺様からアドバイスしてやろうか? こいつは十中八九罠だ。仕掛けたのは元老院、つまり、オルヴァの野郎が裏切った可能性がある』

「元老院からの接触の線はともかく、罠や裏切りについては……微妙な所ですね。リム、ちょっといいですか?」

 念には念を。リムを呼び出してみますが、小型サイズの彼は二つの目を眠たいとばかりに細めていて、脅威がこの場に無い事を訴えておりました。

「………では、誘いに乗ってみましょう」

 近寄って、木製の古いドアを押し開けば、内部の明かりもすぐに灯ります。壁に取り付けられた蛍光灯。狭い小屋の中には錆の浮いた機械端末が壁の一面を覆っていました。端末の中にはディスプレイが埃が積もった状態で埋め込まれていて、画面には数字が映し出されてました。

 何か変化が起こるのかと思えば、何も無いです。

「はて……ドアを閉めるのはカビっぽい匂いがするから正直嫌なのですが」

 私の呟きに反応するように、ディスプレイが点滅します。映し出されるのは数字。すぐに切り替わってラジオの文字。

「あ、なるほど。ラジオのダイヤル合わせろって事ですね?」

 腰のポーチに入れてあるラジオを取り出し、ダイヤルを回してみます。

『……お手数お掛けしました。もう小屋を出ても問題ありません』

 落ち着いた女性の声。どこか生気を感じませんが、予想通りならそれも当然です。

「元老院の方ですね?」

 問えば、ラジオには通信機能など無いのに返事がきます。

『肯定します。厳密には村の機能を維持する人工知能に過ぎません。あなたの事は個体名オルヴァより報告を受けました。人造アンカーの件、誠にご苦労様です』

 カビの匂いが移る前に小屋を出て蝶番が軋むドアを閉めれば、すぐに施錠されてしまいます。

『また、カイリスがアマリに対して情報を開示している様子を本日確認しました。彼の話を分析した結果、あなたにも私の詳細が伝わっていると推測。この度の接触に至りました』

「あなたの前で話を? カイリスはどこまで話しましたか?」

『二人は自宅で対話をしました。私は村の中での出来事なら自由に情報を取得できます。リソースは限られているため、常に全てを把握することはできませんが、あの子達は特別です。より直接的な表現では『盗み聞き』をさせてもらいました。あなたはアマリを救えるそうですね』

 イントネーションと呼ばれるものが人工音声訛りとでも言うようなモノで、少し気になりますが、私は極力気にしないように会話を続けます。

「この村の地下施設で行われている事についてもなんとなく把握してるつもりです。あの二人がその産物であり、アマリについては破綻している。最新の、次世代を作るお話に私が巻き込まれている事も知っていますよ?」

 遠回しの言い方にも、相手は淡々と返答しました。

『あなたとアマリを強制的に母体に使用する件は人造アンカー計画以前に立案したものです。キャラバンがこの村を見捨てれば、我々の存続に大きく影響します。より丈夫で強い人種を生み出す事は村の存続と文明の発展の観点から優先される事でした。特にあなたの持つ竜の因子は強力な種の安定に貢献できると試算され、強引な方法も選択肢に入れていました』

 原稿を読み上げられているようで、なんだか怒ろうという気にもなりません。

 事実の羅列、これ、ニアラの言い訳の仕方に似てるんですね。つまり慣れているのです。

『個体名ギーネ、ジルニアは私が直接管理する高品質個体の中でも問題行動が確認された固体です。エーテル結晶体の回収任務において例の計画は予備案への繰り下げを通達していたのですが……案の定問題を起こしたようですね。彼らには飴を与えすぎました。自分たちを特別だと思い込んでいるのです。それ故、私の指示でさえ自分達の都合の良い方へ解釈してしまう。予想外だったのは、オルヴァまで彼らに賛同してしまった事です。彼は比較的忠実な個体のはずでした』

 大地の欠片の縁に座って、肺の中の空気を一度追い出します。新鮮な夜風に頭の中をすっきりさせて、私は必要な情報を引き出すことに専念します。

「あなたの目的は、ドラコニアン種の完成、そして繫栄ですか?」

『否定します。ドラコニアン種に関わる計画の全ては、この村の孤立状態が続く事が前提の計画。キャラバンが交易を確約した今、優先度が高い目標ではありません。私の第一優先目標は常に、村の存続と機能の維持にあり、彼らが自らの手で文明の発展に繋がる地盤を整える事でした』

 のんびりするつもりだったのに、糖分が足りなくなって脳みそが悲鳴を上げるようなお話になってきました。

 ラジオ越しに話しかけてくるこの人工知能の目的は、あくまでも村の存続にあって、ドラコニアンを創る計画は、より強くて丈夫な種族によって村を支える、みたいな感じですかね。実際、カイリスやアマリのような桁外れの身体能力を持った人達が居れば、何があっても大丈夫に思えます。

『一か月前に現れたキャラバンの存在は私にも予測外の出来事であると同時に希望となりました。しかし彼らはアンカーと呼ばれるモノが存在しないと知り、村を見捨てる事も視野に入れていた。私は村の存続のために暴力的な措置も容認せざるを得ませんでした。主戦力であるリュミンを対象に攻撃チームを編成。脅迫を試みましたが……あの個体は戻ってきたときにはあなたを連れていた。それが全ての計画……状況を狂わせました』

 ん…? なんか今、引っかかる情報がありましたが、無視するべきですかね。

 私が現れたタイミング、という事は私と出会う直前で、リュミンは元老院の攻撃チームとやらを撃退しているという事ですか? そういえば、カイリスがギーネを締め上げてる時もなんか話していたような……すっかり忘れてましたが。

『竜の因子の濃いあなたはすぐに捕獲対象に定めました。その時はまだキャラバンを逃した際を考慮して優先度が高かった。しかし、計画を実行に移す直前であなたは、人造アンカーの存在について開示した。人造アンカーが成功する事を前提にすれば、ドラコニアン計画の優先度は下げても問題ない。しかし優先目標を誤認した彼らは、あなたを強襲する事を選択した』

「んー…三人が敵意を向けてきた理由と構造はわかりましたが、カイリスも、彼は彼で私を捕獲するつもりだったみたいですが?」

『それは…』

 ここまでお話の裏舞台を淡々と説明していたのに、彼女は突然言い淀みます。

 しばらくの沈黙の後、整理したであろう言葉が並べれらました。

『ドラコニアン計画の優先度を引き下げた際、彼は、ひどく錯乱しました。事実上のドラコニアン計画の打ち切り。それに伴い自身の価値が無くなれば、アマリの安定剤も用意されなくなると考えたようです。それ故人造アンカーに否定的でした。最悪の場合、現地でアマリを残して捜索隊を全滅させ、あなたを薬の交渉材料にする事が予測できました。その際は、私は人造アンカーを条件に自由を約束をしていたでしょう』

「それは、安心ですね。でもそうはならなかった」

『はい。捜索隊は全員が帰還。今朝の、二人の会話を聞いて納得しました。あなたはアマリを救う術がある。彼女が救われるなら、カイリスが暴走しなかった事も納得です。ただし問題が一点。詳細は不明ですが、アマリを救うためには回収してきたエーテル結晶を使用しなければならない』

 どうやら、ここからが本番のようです。ずいぶん長い前置き。思考力を奪って判断を鈍らせる作戦ですね!

 ずっと沈黙を貫いていますが、できる相棒であるガンターは、このタイミングで話の勢いを折るように割り込んでくれるはずです。張りつめた緊張感をほぐすのがあなたの役目。信じてますよ!

『なるほど完全に理解した。お前はそれを許しちまうと、村の存続を優先する命令と矛盾しちまう。だからアマリを見捨てさせるように仕向けたい。そのためにお前は』

『否定します』

 ガンターの推理の途中で、彼女は冷たく否定してしまいました。

『……俺様には探偵は向いてない、まじめな話は勝手にやってくれ』

 頼れる相棒、黙ってしまいます。

『結論から述べます。イコナ様。あなたはエーテル結晶を使用し、アマリを救ってください』

 私はてっきり、アマリを見捨てて、人造アンカーの制作を優先しろと言うのかと思いました。予想は外れましたが、驚かなかったのは、彼女がその提案をした理由をなんとなくわかってるからです。

「……そのつもりですが、理由を教えてもらっても?」

 エーテル結晶は再度拾いに行けばいい。それは事実ですが、もっと違う理由。

『私の推測になりますが、高純度エーテル結晶が手に入るのは極めて稀なのではないでしょうか』

「…………まぁ、深層パッチが外出てすぐにある事は非常に稀ですよね」

 通常であれば、中核型アノマリークラスターに行くまでに三日とか掛かります。往復で六日、探索に使えるのは一日無いです。加えて言えば、全てのパッチに中核型クラスターがあるとは限らない。

 また見つければいい、というお気楽な発言は、このセトルメントの特異性があるから出来る事ですね。でもアマリの命が救えるなら、年単位で待つことになっても仕方ないですよね。

『現在、この村の未来はアンカーの有無で決まります。人造アンカーを制作する事で正しく機能すれば問題ありません。しかしアマリを救うことに消費すれば、人造アンカーを作れない。私の優先目標は村の未来を守る事が第一ですが、最適案は、本来この村にあるはずのアンカーが正常に機能を取り戻す事ではありませんか?』

 それが出来れば苦労しませんが、どうやら彼女は気付いているようでした。

 私も、村にアンカーが無い理由を探っている時も、元老院に何か原因がある可能性を考えてました。そこにアマリの薬と、カイリスの話が加わり、組みあがった推理があったのです。

「…元老院なる地下施設は、規模は違っても中核型アノマリークラスターと同じ環境になっているんじゃないですか? アマリに投与する薬も、施設内に発生した変異エーテルを濃縮したものでは?」

 アマリの体内から抽出した変異エーテル。こんなものどうやって作るのかとはずっと疑問でしたが、地下そのものが中核型クラスターになっているなら、それを操るくらい出来ると思うのです。

『肯定します。あなたが持ち帰ったエーテル結晶。その反応と酷似した反応を、私のコアにも検知しました。予測ですが、コロニーのアンカーと、中核型アノマリークラスター。これらは似て異なる存在で、同一の領域内に共存できない存在なのでは? 私の存在が、この村のアンカーの機能を阻害しているのではないでしょうか』

 人工知能とやらは、聡くて仮説を立てるのが早い。頭の回転が速い相手との会話は話が早い分、ついていくには大量の糖分を消費しますね。

「全部が解明しているわけではないのですが……アンカー周辺のエーテル濃度が高い事を考えると、どちらもエーテルを集めてるのは確かです。アンカーはアノマリーというよりは、エーテルにまつわる理の一種だと私の知人は説いていましたけどね。なんにせよ、どちらもエーテルを必要とする存在ですね」

 結局は変異アンカー、という考え方が一番分かり易い。アノマリー化してしまっていて、似た様で異なる仕様になってしまったアンカー。それが中核アノマリークラスター。もっと公に認められれば、特別な名称が与えられるかもしれませんね。

『オルヴァの報告と比較すると、地下施設は変異箇所が非常に少ない、若いクラスターと推測できます。コアに存在するエーテル結晶も小さいでしょう。私は本来アンカーに注がれる分のエーテルをこちらに引き込んでしまっているのだと考察されます。故に、私が機能を停止すれば、この村のアンカーは正常に機能を始める』

「肯定しますよ。本当にあなたの中に、エーテル結晶があるならですけど」

 夜風に遠くの畑が揺れています。青い麦。まだ収穫には早いようですが、季節や温度に関係なく育ち続ける特殊な品種だそうです。

 品種改良。それは彼女が指導して行った事らしいですね。牛や植物、あとは村の恋の仲人くらいで留まっていれば、隠れる必要もなかったのに。

 村を引っ張っていく、不老の先導者となっていたかもしれないです。

『アマリの容態が完全に安定したのを確認したら、私は機能を停止する予定です』

「村の発展とか安全はもういいんですか?」

『この村を頑なに守ってきたのはこの場所こそが人類の最後の砦だと信じていたからです。しかしそうではなかった。世界には幾つものコロニーが存在している。村が他の居住区と繋がる事が出来れば、この村の孤立は終わります。そのための障害が私自身であるなら、私はそれを排除するまで』

 アマリを助ければ、元老院は勝手に崩壊し、存在しているはずのアンカーにエーテルが集中して、勝手に機能を取り戻す。頭上で騒いでいるお祭りの内容もただの茶番になって、全ては丸く収まる。

 アマリの体調が安定したら、カイリスに入り口を聞いて、突入して、やっぱり中核型クラスターじゃないですか! って叫び散らしながら施設を壊してやるつもりだったんですけどね。ついでにエーテル結晶も回収を視野に入れてました。

 イコナさんによる血沸き肉躍る地下施設の防衛設備との戦いはどうやら、起こらないようです。

 残念です。元老院の人工知能が、自壊を選ぶとは。

「……一つ気になるのですが」

『はい』

「なぜこんな話を私に?」

 ただの答え合わせ、舞台裏を聞かされただけでした。自壊なんて、勝手にやってくれても良かった話です。

 彼女は沈黙。それはただの静寂でしたが、まるで感傷的になっているかのような間でした。

『カイリスは、私を無情な機械だと信じています』

 抑揚のない喋り方は、無感情に思えます。

『これ以上あの子に嫌われたくありません』

 意味が伝わらなくてもいいとばかりに、ぶつりと音がして、あとはノイズだけになってしまいました。

「………罪滅ぼし、そういう事ですかね」

 ため息をついて、草地に寝転がります。

 見上げた広場は、とても賑やかになってシンボルの発表が始まろうとしてました。

 暗い話なんて無い。希望に満ちた人々の声。彼らを守ってきたものが、人知れず消えようとしていました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。