第一話 M⧉Ƨ⧉ИG
星の寿命は途方もなく、太古の昔から変わっていない、と考える方が自然です。
だけど、私が生きるこの世界はどうしようもなく歪んで、壊れている。誰も覚えていないほどずっと昔、人間たちがちゃんと生活していた頃の時代と比べるとどれだけの星が同じ場所にあるのでしょうか? きっと位置もめちゃくちゃで、星座なんてものは残っていないのです。新しく作り放題ですよ。
人間がいた頃の生活なんて想像できないし、星座なんて気にしたことが無いので位置が変わっててもわかんないですけどね。今の世の中、星空に絵を見出すなんてよほどの暇人です。
私の事です。うふふ、あれは缶詰座、中身はケーキです。
サリサリと砂を撫でるような音を聞きながら、暇人の仲間入りをしていたところ、耳障りなノイズを短く吐いて、無機質な声が小さく聞こえ始めます。
『…お知らせます……リバインドまで…いちひ、なるますた。パッチに滞在中のミナよう、お気をつけしたさい』
ちょっとおかしな言葉遣いをした誰かの声。発生源は焚火の近くの瓦礫に乗っけた、いつの時代かもわからない古い携帯ラジオです。
あんまり真面目に聞いてると頭が痛くなるラジオ放送。イコナさんの数少ない娯楽であります。
有益な情報を吐き出す時もあれば、眠気を誘う音楽を垂れ流す時もあります。今回は後者でした。
『かー、また下らねぇクラシックもどきが始まりやがった。たまには漢のソウルを揺さぶるロックロールをリクエストさせろぃ』
乱暴な口調で文句を言うのは、瓦礫に腰掛ける私のすぐ脇に置いてある、傷だらけのシルバーの端末。折り畳み式の旧時代の娯楽端末でございます。
『おいイコナ。ダイヤル回せ。こんなん聞くくらいならガキんちょ向けの教育番組の方がマシだ』
「んー。イコナさんはまったりしたい気分ですのでこのままでいいです。ご不満ならご自分で変えてみては?」
『俺様の渋いシルバーボディの、ど・こ・に、手が付いてるんだ? マジで変えないとお前と違って俺様の明晰な頭脳が狂っちまうぜ。あぁ! 平和ボケしちまう!』
二階から上が丸ごと無くなっている大変見晴らしの良い廃墟。その屋上でささやかな焚火で暖を取っている私に不平不満を漏らすこいつは、自称ガンターと名乗るナニカです。
寡黙で働き者で私優先なリムと対照的な、自分第一でやかましく何事にも手も足も出ない哀れな存在です。端末越しの誰かではなく、端末そのものが喋っているのです。
端末の電源を入れてあげないと喋る事すらできないのも哀れ。大変可愛そうなので、こうして夜なんかはイコナさんの話し相手にしてあげてます。私ってばやさしい。
「平和、実にいいじゃないですか。イコナさんは穏やかな時間がお好みです。ただでさえ日々の冒険は危険に満ちているのですから」
私にはリムがいるとはいえ、日中のパッチは危険だらけ。ラジオはもちろん、おしゃべりな娯楽端末と会話をする余裕もないのです。というか、彼のせいで危険な目に会った事あるんですけどね。
眠気を誘う音楽が砂嵐交じりで流れる中、ガンターは呆れるように言います。
『は、平和ね。ナチュラルかつ無意識に一人仕留めるような奴がよく言う。おまけにたった一発の弾丸でヘッドショットときた。スナイパーもびっくりだわ』
スナイパーとやらがどなたかは知りませんが、褒められてないのはよくわかります。
「仕留めてません。気絶してるだけです。外傷も赤くなってる程度でしたし、もうすぐ目が覚めると思うんですよね」
廃材を使った小さな焚火。ほんのり肌寒い夜を凌ぐ程度の火の傍らには、一人のキメラが横たわっています。
髪はふわふわした金色をしていて、濡れた水で冷やしている額のちょっと上には二本の小さな角が生えてます。両側で垂れる耳は、犬っぽくもあり、ヤギっぽくもあり。抱きしめたら心地よさそうな毛並みの大きな尻尾に、大胆に露出した足は大部分が金毛に覆われた犬の物です。
ただし、足先は二つに割れた蹄、おそらくヤギのもの。つけ方がちょっとわからない、保護具のような靴を履いてる……というか、装備してます。楽にしてあげようとしたんですが、外し方もよくわかんなかったです。
外見に犬とヤギの特徴が混合して出ているこの子ですが、性別もちょっと、わかんないです。寝顔はとてもかわいらしく、女の子っぽいし、体つきも全体的に丸みがあるんです。でも着ている服が鉱山で働くような作業着に似ていて、サイズが大きく見えるからか男性に寄っている印象。背負っていた道具が、つるはしとハンマーを一緒にしたモノで、これが結構重い。同じ少女だとしたら、自分が情けなくなる重量でした。これを回収するためだけに事件現場との往復を強いられました。
女性の特徴と言えば一番わかりやすい部分では胸部。ぺたんこです。私も大きい方ではないですが、ほのかに膨らんでいるような? ちなみに腰回りは飾り気のある布で覆い隠していてました。下半身にキメラ種の特徴が出ている人がよくやるやつ。
ガンターの興味も、私と同じようでした。
『…つーか、こいつ男と女、どっちだ? 男にしちゃ華奢だし、女にしちゃ色気がねぇ。あぁ悪い。色気がねぇのはイコナも同じか』
「はーっ、イコナさんの素敵なぼでーに色気を感じないとはなんと哀れな! 私ほど完璧なキメラは早々いないというのに!」
キメラ種というのは、人間を基礎に他に二種類の生物が混じった種族です。生物の割合は個人によって違い、見た目に多く出る人もいれば、内面的な特徴を受け継ぐ人もいます。ちなみに私は後者。見た目は耳と尻尾が生えた程度でかなり人間に近いですが、内面的には混じった生物の性質が強いのです。
しかも混じってるのが竜ですからね。生物的に超魅力的です。それはもう、無い色気を感じてしまうほどにね。
「誰に色気がないか!」
『なんだ? 時間差ツッコミか? 遅すぎんぞ』
これだけ騒いでも起きる気配は無し。お疲れならしっかり休んで頂きたいですが、あまりのんびりされても困る段階なのが事実だったりします。
音楽の音量が不意に落ちて、ラジオがまた言葉を紡ぎます。
『リバインド警報発令、パッチに滞ゾンしているミナよう、コロニーにカエ還してしたさい。繰りへんします。リバインドまでイチひ…』
ひどい砂嵐に、繰り返しの言葉は飲まれてしまいます。リバインド前は特にラジオは繋がりにくいです。この警告があると、大体二十四時間でリバインドが発生します。
リバインド。この世界をめちゃくちゃにする最大の現象。これが起こる瞬間にパッチに滞在しているのは、命を落とすのと同じくらいの危険を意味します。
つまり私は現在超危険。最悪リバインドに飲み込まれても、私はベテランの旅人ですので大丈夫ですけど、眠れる彼? 彼女だかがそうとは限りません。となれば、強制的に目覚めさせることも選択肢に入る訳でして。
「んー、そろそろ気付け薬が必要ですかね? 何か材料ありましたっけ?」
焚火の灯りが届かない位置に置いてある私の大鞄には食料はもちろん、保存状態がいい使えそうな何かを適当に詰め込んであったりします。リムが持ってくれるので重量とか気にしなくてよいのでつい色々拾ってしまうんですよね。
ちなみにリムは現在、見えない場所で待機してます。
『あるじゃねぇか、とびっきりのが。リフレクトゼロとかいってたか? 口の中に一滴垂らしてみろ。きっと中で跳ねまわるに違いない』
「あなたそれ、口の中に爆薬入れろって言ってるのと同じですからね?」
電源を落としている間は喋れないガンターですが、意識はあるようなのです。二つ折りの手帳のような姿のどこで何を感じているのかは理解に苦しむ感じですが。
確か、荷物の中に激辛のソースがありました。試しに舐めたら涎が止まらなくなって水を飲みたくても量が限られてるので半日近く舌を外に出した状態で旅をしたことがあります。その場で捨てなかったのは、調整済みの辛み調味料ってコロニーでは貴重品に入るからです。辛党なる派閥が求めてやまないのです。
あれを水に溶かして鼻をつまんで口に流し込めば、正常な味覚なら一発で目が覚める気がします。それでダメなら消毒用の匂いがきついお酒と、その辺の草を混ぜればそれっぽくなるでしょう。きっと楽しい反応をしてくれるに違いない。思わず笑みが浮かんじゃいます。
『うん? 俺様は今、イコナのケミカルクッキングの気配を感じた。おい、ふざけた俺様が悪いっちゃ悪いが、間違えてもその辺の草を混ぜるなよ? 相手はお前みたいに何度も毒草で腹を壊してる訳じゃないんだからな?』
「大丈夫です! この子もヤギっぽいのが混ざってますし、ヤギって草食べるじゃないですか! いけます!」
『ウサギも草食うって言って食った結果、三日三晩呻いてただろうがよ! てめぇの冒険心は買ってるがわかり切った危険を他人に強要すんな!』
まったくうるさい娯楽端末です。口があればその辺の草をねじ込んでやるところですよ。
「う…」
小さなうめき声に私の自慢のウサギ耳がぴくりと動きます。どうやら気付け薬の出番はないようですね。ざんね、いやなんでもないです。
きっと今頃、ひどい鈍痛が頭の中を支配して混乱しているはず。何があったか思い出そうとして、脳裏に超高速で飛来する缶詰が眼前に肉薄する映像が再生されることを思うと、実に哀れでございます。私だったらトラウマになりかねない。
飛び起きる事もちょっと予想したのですが、彼だか彼女だかはゆっくりと首を動かし、焚火の方へと顔を向けます。額に乗っていた布切れが落ちますが、眠そうな瞳は焚火の炎に向いていました。冷静に状況を判断するタイプのようですね。
白目をむいて泡を吹くような様子も無し。頭の中身はご無事な様子。立ち上がってわざと足音を立てるように大鞄の方へ歩けば、ぼんやりとした視線がこちらに向いたのを感じました。
「おはようございます。素敵な少女に助けられた気分はいかがでしょうか?」
返事がすぐにないのは予想通り。大鞄から出しておいたポットに水筒の水を注ぎ、携帯コンロを使って火にかけます。
手を動かしながら横目で見れば、焦点は揺れ動き、表情は驚きと警戒が混じった複雑なもの。現実であることを理解していないのかもしれません。
まぁ、目覚めたらそこに可憐な少女がいたら現実を疑っちゃいますよね! つまりそれはイコナさんに定められた宿命って事です!
内心ふふーんと思いつつも、口にすればうるさい娯楽端末がいるので黙っておきます。ここは愉快な少女ではなく、知的でみすてりあすな美女を演じるタイミング。
「コーヒーはいかがですか? 最後の一包なので、二人前は大変薄くなる予定ですが」
ここで白湯でいいって言ってくれると、イコナさんは貴重なインスタントコーヒーを我が物にできます。
相手はゆっくりと体を起こし、ひどい頭痛でもしたのか頭を押さえます。それでも再度倒れるようなことは無く、何度か深く息をしてから、とろんとした瞳をこちらに向けるのです。
「えっと、助けて、くれたんだね?」
少年とも、少女ともとれる中性的な声。本当に中性か? キメラならありえるんですが、見たことは無いですね。他者の裸なんでそんなに見た事ないですが。
「おいらはリュミン。犬と、ヤギのキメラ。えっと、キミは」
「私はイコナです。ウサギと竜のキメラで、この世のあらゆるしがらみから解放されし自由きままな旅人です」
キメラ種の礼儀にのっとった挨拶を交わしたというのに、リュミンは小さく「あぁ」なんて言いました。常人ならば聞こえない声ですが、ウサギ耳であるイコナさんは大変耳が良いのです。
はーでたでた。竜って言うとみんなそれですよ。あぁなんか言ってるな、みたいな信じてない感じ。そりゃ竜はめちゃくちゃ珍しいし、私に混じってるの鱗じゃなくて毛でおおわれてるタイプの竜っぽいですからね。なんか長い尻尾の生き物を竜と勘違いしてるアレな子って思ってる反応ですよ。
内心大変不服で色々言いたいところはありましたが、この手の話をすると貴重な時間がなぜか消え失せるので、大人なイコナさんは聞かなかったことにします。
「一応ここはあなたを見つけた場所からそんなに離れてない廃墟です。比較的まともに水平を保っていたので、天井が無いのは大目に見てください」
「それは、文句ないよ。あと、助けてくれてありがとう」
素直にぺこりと頭を下げてくれます。横柄な態度を取られたら、用意している飲み物を気付け薬にする所でした。
熱伝導が良いポットはあっという間にお湯が沸き、そういえばコーヒーの答えもらってないな、なんて思った所で珍しく黙っていた奴が口、は開く口が無いので、声を上げます。
『おいイコナ、俺様の事はいつ紹介してくれる? それから下心があって助けたこともいつ打ち明けるんだ?』
電源を落としていなかったことに若干の後悔。思わず舌打ちしちゃいました。
一杯分が個包装になっているお楽しみのコーヒー。それを二つのカップに分けながら、言ってやります。
「ソレはガンター。娯楽端末型の喋る面白アノマリーです。特技は戯言ですね」
『あぁ。そして自称竜のキメラを孤独死から守るのが俺様の仕事。知ってるか? ウサギって寂しくなると死ぬらしいぞ?』
ぐぎぎ、少なからずこいつを拾ってから寂しさが紛らわされてるから否定できない。寂しくて死にかけたのも事実です。
気持ち少なめにお湯を注ぎ、軽くスプーンでかき回して持っていきます。驚いて硬直していたリュミンにカップの一つを手渡すと、反射的な感じでありがとうとお礼を言ってくれました。
黒い水面を見たリュミンは、少し慌てた様子で言います。
「えっと、ごめん。喋るアノマリーって初めてで驚いちゃって、コーヒーって貴重なのに、ありがとう」
さっきからお礼と謝罪ばっかりで思わず笑ってしまいそうになります。しかしここは余裕な薄い笑みを浮かべ、イコナさんは大したことないと態度に出して、もたれるように大きな瓦礫に浅く座るのです。
「お気になさらずに。ガンターも言いましたが、私なりに下心があって助けました。とはいえリバインドまでそんなに時間がありません。お礼云々はコロニーに戻ってからしましょう。体調が大丈夫であれば今夜中に出たいところです」
落ち着いた態度で言いましたが、内心では自分に拍手喝采。これはうまい! 私の真の正体をぼやかしつつ、望みをかなえる形です!
私は旅人。最寄りのコロニーの位置がわからない迷子ですが、この少ない会話の中でそれを見抜くことはできまい。
リバインドまで残り一日。そんな中でパッチを軽装備で散策するのは、ぎりぎりまで物資を集めたいか、お宝を見つけたからでしょう。おそらく、リュミンは私が回収したリフレクトゼロを回収に向かう途中で何者かに狙撃され、気を失った。
六時間ほどタイムロスをしているとはいえ、リュミンは一日以内にコロニーに戻る計画を立てていたはずです。今から出立すれば十分間に合うはず。
薄いコーヒーを口にし、勝利の笑みを隠しておきます。
リュミンはしばらく金属のマグカップを両手で包んだまま呆けていましたが、あー、なんて何かに気付いたような声を小さく漏らしました。
「あの、もし勘違いだったらごめんよ? もしかしてキミ、未帰還者かな?」
「ぶふっ」
口に含んだコーヒー、軽く吹いてしまいました。
みきかんしゃ。未帰還者って言いましたか? なぜ私の正体を!
『おいおいどういう事だ? なんでイコナが間抜けな遭難者だってわかる。こいつは言葉では言い表せないぐらいどうしようもない奴だが、リバインドに巻き込まれたなんて一言も言ってねぇぞ』
「ちょっとガンター? いらない情報まで全部言ってますが? また水没させられたいですか?」
焚火から少し離れた暗がりの中、顔が熱くなるのを感じます。
未帰還者。パッチの探索中に、リバインド周期を迎えてコロニーに戻れなかった人を差します。
リバインドに巻き込まれると死亡と同義ではあります。ですが、巻き込まれて即死をするわけではないのです。
そもそも、危険領域のパッチ。この名称は『あて布』から来ています。裁縫で使うアレです。
対してリバインドというのは『留めなおし』。これも裁縫の言葉。
世界というのは色も形も違う無数の『あて布』のように切り分けられていて、約七日の周期で訪れるリバインド現象によって、全てのパッチがランダムに再配置されます。
今私がいる廃墟都市。例えばここでもう一日過ごせば、リバインド現象に巻き込まれて、目を開けた瞬間に次は雪山のど真ん中、という事になりえます。砂漠かもしれないし、樹海かもしれない。行き先は選べず、飛ばされたパッチの色、つまり環境次第となります。
死亡と同義というのは、リバインドに巻き込まれるとコロニーとの距離もめちゃくちゃになるからです。飛ばされた現在地もわからず、周囲は危険なアノマリーばかり。装備は原則的に身に着けたものに限られ、地道に探してもタイムリミットは七日しかない。それが過ぎれば再びリバインドに巻き込まれて遭難です。
運よくコロニーに辿り着いても、自分がいたコロニーに戻れる可能性は限りなく低い。世界のどこかで生存してても、それを確認したり照会するすべはないのです。世界的な通信技術なんて、とっくの昔に破綻してますからね。
コロニーと呼ばれる各地に点在する安全圏は、人々が住むに堪えうる、リバインドの影響がほとんどない地域です。常識的な人はここに住んで、『パッチワーカー』はパッチにおもむき、様々な物資を集めてくるのです。
リバインドの周期はコロニー時間で七日。周期が決まってるので、普通はそれまでに帰還するスケジュールを組みます。リバインドに巻き込まれてしまうのは欲張りな間抜け、そう見られる風潮があるのです。
以上が、私が赤面する理由。ちなみにこのリバインド現象と世界のパッチ化がいつ始まったのかはわかりませんが、文明的な人間の世界を破壊した直接的な原因ですね。ある日突然、いつも使っていた道がめちゃくちゃになったら、ライフラインとやらが破壊されるのは目に見えますよね。おまけに異常現象もついてきます。
さて、こんな知識を前提にして考えるわけですが。
「なんで私が遭難者だと? 具体的な事は何も言ってないんですが」
何を馬鹿な事を、みたいな強者感をマグカップで口元を隠して言ったものの、リュミンは口元に手を当てて、あざとい仕草で楽しそうに言うのです。
「だってキミ、コロニーに戻るって言ったでしょう?」
「えぇ。戻るならコロニーですよね」
パッチに住むなんて論外です。七日で無かったことになる家ってどう思いますか?
ワーカーはコロニーが拠点。コロニー同士を謎の技術で行き来する超人集団のキャラバンでさえ、リバインド直前はコロニーに滞在します。
「そこだよ。だって近くにコロニーなんて無いし」
コロニー無いそうです。はは。
なるほど。それは確かに私の発言が変になりますよね。ワーカーにせよ旅人にせよ、コロニーの位置がわかってるはずですから。ワーカーは自分の拠点、旅人は、次のコロニーか、来た道を戻ればその周期の間は元の場所に戻れるんですから。
コロニーが近くに無いのに、コロニーがある前提の話をしてたら、そりゃ変な奴だって思いますよね。は?
「ここここ、コロニーが無い? え、あ、え! まさかあなたも遭難者ですか!?」
動揺しまくってましたが、イコナさんのサバイバルで培われた最強の思考回路は仮説だけは速攻で出しました。
つまり、遭難者同士が偶然、同じパッチで出くわしたという事。世界に何千、何万ものパッチの種類があると言われるこの世界で遭難者同士が遭遇。奇跡としかいいようがない! これが空の柱二本とウサギの幸運効果か! もはや宗教作るレベルですよ!
リュミンが軽装備なのは、どこかに物資を集積しているから? リバインドの瞬間、自分が抱えていた荷物は一緒に飛ばされるので、基盤を固めるなら大きな箱か何かに物資を詰めて抱き着いていれば物資を持ち越せます。まぁ、私はリムという最強の相棒がいるので、大鞄分は無条件で持ち運べるんですけどね。これが規格外、ちーとって奴です。
コーヒーを飲むのも忘れていると、リュミンは楽しそうな笑顔をしていました。なんて素敵な笑顔。
「ごめんごめん。コロニーは無いけど、セトルメントは近くにあるんだよ」
せとる、何?
聞いたことない単語にぽかんと口を開けてしまいます。あのやかましいガンターまで黙ってました。
「やっぱり知らないか。なんていうか、コロニーほど安定してない、村みたいなものかな。おいらは小さい個人みたいなキャラバンの雇われで、三回前のリバインドの時にセトルメントを見つけてね。何かの縁って事で、色々そこを手伝ってるところだったんだ」
三回前のリバインド。三週間前ですかね。セトルメントはよくわかんないですが、村? 共同体として比較的小規模な、なんかこう、植物を育ててるイメージのあれですかね。
『悪い。イコナはこうなっちまうと情報処理能力がビット単位まで落ちるんだ。つまり、セトルメントってのは一応、人が住んでる場所なんだな?』
珍しく、非常に珍しくガンターが気の利いた質問をし、意識がはっきりしてきます。焚火に照らされていたリュミンは、落ち着いた所作でコーヒーを一口してから、先ほどまでのからかうような悪戯犬の表情をやめて、優しく微笑むのです。
「そうだよ。コロニーに行きたいなら、おいら達が連れて行ってあげる。今まで本当に大変だったね」
こちらの事なんてせいぜい、遭難者ぐらいにしかわかってないくせに、子供をあやすような言い方をされてしまいます。まぁ、未帰還者は究極の迷子みたいなものですけどね。
子供じゃないので泣きわめいたりしませんでした。嘘です。表情はそのままに涙がぼろぼろ出てしまいました。失意から混乱、そして一気に喜びの感情が振り切れるとこうなるんですね。過度なストレスからの解放に頭がどうにかなりそうでした。
「本当に? 本当に人の住む場所に帰れます? 間違いなくあなたが思う以上に私は遭難生活が長いので、これで嘘だったら私は狂気に支配されることになるのですが」
『一応警告するぞ。狂乱したイコナはマジで手に負えないぞ。まぁ俺様はそもそも手が無いんだが』
狂乱した事なんて無いはずなんですが、ガンターの軽口にリュミンは大丈夫と頷きました。
「嘘じゃない。おいらの最も神聖なものに誓うよ」
神様か何かを信じているような言い方でしたが、背中の辺りから喜びが頭、耳の先、尻尾の先まで駆け抜けていって、コーヒーがこぼれるのも構わず、思いっきり飛び上がってしまいました。
「嘘だったら呪いころがします!」
『お前、喜びの言葉がそれってさすがに呆れるぞ』
ガンターの小言も気にならない感情です。
パッチというのは本当に様々で、季節感なんてものもパッチ環境を演出するモノでしかなくなってしまうんです。年単位で遭難しているベテラン遭難者である私は、もはやリバインドに巻き込まれた回数なんて数えるだけで気分を害する要因となってしまっているのです。
それでも間違いなく数年。こんな世界ですので、私の事を覚えている人はいないでしょう。別に構いません。私の方も、覚えるに値する人は一人か二人しかいなかったので。
喜びの余韻に尻尾をふりふり。見る者を魅了する笑顔もふりまいちゃいます。
「あー、うれしー。ふふ、もう缶詰地獄から抜け出せるんですね。空の柱に感謝! そして私のウサギの幸運効果に!」
勝手に空に乾杯して、一気にコーヒーを飲み干します。一回落ち着きたいのに興奮作用のある飲み物を飲んでしまうなんて。薄めてあるのが幸い?
『馬鹿みたいに喜んでる馬鹿はほっといて、セトルメントってのにはちゃんと期限内に戻れるんだろうな? そこの忌々しいラジオが言うにはもう一日を切ってるらしい。原因がどこにあるにせよ、六時間は昼寝に使ったことを忘れるな?』
ん? 今馬鹿って二回言いました? 人の喜びに水を差す馬鹿はお前だ馬鹿! なんて言葉は素敵な少女である私が言うはずもなく。
若干の聞くに堪えないノイズが混じったガンターの問いに、リュミンは柔和な笑みで答えます。
「本当は物資を集めておきたかったけど、元々夜を明かす予定だから大丈夫。夜明けに出ても昼過ぎにはつくかな。物資はまぁ、次のパッチで見つければいいや」
コーヒーをすするリュミンに、少しの違和感を感じ、耳がぴくぴく動いてしまいました。
リバインドは避けるべきで、パッチでは何があるかわからない。缶詰がかっとんできて気絶することもあります。急務でなければ、ぎりぎりの物資収集は推奨されません。
今のリバインドの期限で諦めてもいい物資なのに、なぜわざわざパッチに潜ってるんでしょうかね。
あ、さてはリフレクトゼロが狙いか? お宝ですもんね。場所わかってるし持って帰れたらいいぐらいの感じですか? 残念! あれはもうイコナさんのものです!
キャラバンの雇われって事は、こう見えてがめついのかもしれません。しかしキャラバンは高級取りです。もしや今のうちに恩を売っておけば後ほど倍返しもありえるのでは? こういうのって投資って言うんですっけ?
「あの、もしよければ缶詰とかいかがですか? 時間に余裕があるなら腹ごしらえなどどうでしょう」
急に落ち着いた私に、ガンターは気付いたようです。
『おい気をつけろ。こいつ後で缶詰代倍にして請求してくるぞ」
流れるように告白! 今すぐ電源を落として差し上げようか!
「あー、もらえるなら少しもらおうかなぁ」
素晴らしい判断です。もっとも、請求なんてしなくてもいいくらいご機嫌ですが。
「ふっふーん! おまかせください! イコナさんの缶詰は種類を豊富に取り揃えておりますよ!」
『半分以上ラベルのない正体不明缶だがな。こいつは毎日缶詰ルーレットを強要されている哀れな娘なんだ』
「可もなく不可もなく缶の確率は現在十分の一! 当たりは高保存状態のシチュー缶、大当たりはデザート缶ですよ!」
大鞄に備蓄した缶詰を適当に運び出し、焚火の近くに並べます。平べったいものから見るからに大きい缶。どうせ明日には人の住む場所に行けるのです。残しておいても仕方ない………訳でもないか。
缶詰は現代文明を支える貴重な物資の一つ。消耗品である以上、需要は常にあります。安定した収入源としてもワーカーが積極的に持ち帰る類のもの。
セトルメントに住み着くかどうかはともかく、コロニーに住むのは将来的にはあるのです。財産となる物資は少しでも残した方が、後ほど文化的な生活に繋がってくるかも。
いざとなったらワーカーに混じってパッチを漁ればいいか。
「すごい量だねぇ。鞄の大きさもそうだけど、この量を持ち歩くの大変じゃない?」
『あぁ、それは』
「気合です!」
またガンターが余計な事を言いそうだったので発言をぶった切っておきます。
おしゃべり端末もアノマリーとしては特殊ですが、リムについてはもっとややこしい。あの子について納得させる言い訳はありますが、タイミングというものがあります。
リュミンは並んだ缶詰を前にしばらく悩んでましたが、大きな円筒の缶詰と中くらいの缶詰を選びます。二つもなんて、なんて贅沢。
「ねぇイコナ。おいらはこの二つでいいけど、これについては後でちゃんと代金を払うよ。それと、今夜キミが食べる分も、おいらに買い取らせてほしいな。過酷な日々の終わりのお祝いってことで」
「なんと」
これは驚きの提案。これができるキメラの対応力という事? ぽやぽやしてる雰囲気で食べた代金なんてわすれそうな感じなのに!
『俺様の経験上、そういう事ができる男ってのはモテル。いやまぁ、お前さんが本当に男ならだが』
ガンターがさりげなく私たちの間にあった共通の疑問に切ってかかります。
「自分がしてもらった事の真似っこだよ。さ、好きなのを選びな。明日にはきっと焼きたてのパンが待ってるから」
「焼きたてのパン!」
素敵な単語に思わず尻尾が天を突いてしまいました。なんか大事な疑問があったような気もしましたが、どっかに飛んで行ってしまいました。
「ぱん…」
ここ数年で私の中でパンというものは缶詰に砂糖の結晶と一緒に雑に格納された、カリカリで味のないクラッカーと何が違うんだと思う代物となっています。発見される食料の中では甘いものが混入しているという点で当たりになりますが、焼きたてのパンを知っているので、あれはおやつに該当してしまいます。保管優先度はかなり高いですけどね。
パンと言えば、やはりドラム缶保存や銀袋保存の保証書付きの小麦粒から丁寧に挽いたパンが格別です。放浪中に見つけた布袋保存の小麦粉でパンを焼いてみたりしましたが、あれはお世辞にもおいしいとは言えませんでした。小麦の香りとかが一切しなかったのです。保存食としては優秀でした。
コロニーにいた頃も、高保存小麦のパンが焼ける香りが大好きでした。他より値段が多少高くてもついつい買ってしまったものです。懐かしい。
未来が急に楽しみになり、尻尾がそわそわと動いていた事に気付きました。今すぐにでも出立して深夜にパン屋を叩き起こしたいところです。
「パンもいいけどねぇ。芋がおいしいんだよ。小規模だけど酪農もやっててさ。ふかしたばかりの芋に、バターを乗っけるとじゅわーって溶けるのさ。それに濃厚なチーズとよく冷えたミルク。それを朝に食べる贅沢はコロニーじゃ味わえないよねぇ」
私の食欲をさらに掻き立てようとしたようですが、その作戦は失敗に終わります。むしろ話を聞いて尻尾が落ち着いてしまいました。
ミルク。お湯に溶かす粉末状の何か。わざわざ飲もうとは思わないですね。まずいけど栄養が高いので、病気の時に飲むもの。ほぼ薬ですよ。
チーズ。高級品で食べたことないです。なんか白くて硬い、紙がついてる。匂いも結構きついから、お金を出してまで食べるものではない。金持ちが自己顕示欲のために食べる食べ物ですかね。通ってた店の向かいにあった高級志向のライバル店がチーズを使ったパンを売り出しましたが、価格が暴力的で誰も買ってなかったですね。保存状態がよくなかったとか言い訳が実に哀れでした。
バター。失われた幻の食材。おや? もしかしてからかわれてる?
「………それ、おいしいんですか?」
「覚悟した方がいいよ? セトルメントのパンはまったく違うからね。もはやパンじゃない」
『なぞなぞか? パンはパンでもパンじゃないパンはぱーんだ? パンダってなんだ?』
よくわかりませんが、リュミンの発言を信じるなら、缶詰食など比にならないおいしさという事なのかもしれません。つまり、おいしく缶詰が食べられるのは今夜が最後。
「明日のごちそうはともかく、買い取っていただけるなら、遠慮は無しです。それでは私はコレと、コレと、こちらに出さなかったとっておきを」
いつもは一つで我慢するところを三つも選んでしまいます。なんという贅沢! 今も世界のどこかにいるかもしれない遭難者が見たら羨む光景でしょう。
大鞄の方へうきうきで向かう私。ガンターは小声でリュミンに言います。
『おいあんた。あの馬鹿がとっておきをここに並べてなかったこと文句言ってもいいんだぞ?』
イコナさんの素敵なウサギ耳には聞こえてますよ? うっかり缶詰の油をこぼしてやろうか。
「そんな事でアレコレ言わないよ。それに楽しそうでかわいいじゃない。あとおいらの事はリュミンでいいよ」
対してリュミンの素直な返答。聖人か? イコナさんをかわいいと評価した点もすばらしい。
ウキウキなイコナさんはかわいいらしいので、ご機嫌に尻尾を揺らしながら大鞄に隠していたとっておき缶を取り出します。円筒状で大きい缶詰。ラベルが無いものですが、一緒に見つけた同じ形の缶詰が保存状態が完璧なビーフシチュー缶だったので、同じはず。
申し訳程度に肉片や野菜が入ったシチューですが、口に入れた瞬間に溶けてなくなるほどよく煮込まれていて、旧文明の食文化がいかに優れていたかを体験できる一品でございます。
まさにごちそう缶。リュミンがどうしてもと言ったら分けてあげてもいいです。
想像しただけで我が腹の獣は、かわいいとはほど遠い獰猛な唸り声をあげます。ぐぅ、なんてものではなくグルルルルと。完全に獲物を前にした猛獣。野生におかえりください。
「む」
大鞄の近くにいたのにリュミンにも聞こえたようです。お恥ずかしい。
気まずさも覚悟で振り返ったのですが、さっきまで焚火の前で座っていたリュミンは片膝を立てて何やら瓦礫の向こう、外を睨みつけていました。
真面目で凛々しい表情は男の子って感じですが、自分がいる場所を思い出し、私もそっとかつて窓だった穴あきの壁に寄って、視線を追ってみます。
夜目が効く私には薄明りの中にいるそれが見えました。
植物に呑まれた旧時代の廃墟。浮いた建物の残骸。斜めになった地面。荒れ果てた道路と、その間から頑張って生えてきている草花。そのすぐ傍らの、鹿。
鹿、ですかね。立派な枝のような角が生えていて、蔦みたいのが絡まっています。細長い四肢や長い首なんかは完全に鹿です。
ただ、夜目が利く私にはより細部が見えました。長い首の部分、魚のえらみたいなスリットがあるんです。それに胴体には魚の横びれを思わせる大きな何かがついてるんですけど、これ、でかい鹿の耳でした。おまけに胴体の左右でくっついてる高さが違う。
極めつけは頭です。顔の部分、廃墟に転がってる壊れたいろんな機械の残骸が食い込んでて、仮面みたいになってます。その顔をこっちに向けて、なんかチリチリとノイズを吐いてました。耳障りな音に私の耳がぴくぴく動いてしまう。
鹿型のアノマリー生物。絶対鹿じゃないんですが、なんかこっち向いてます。距離はかなりあるんですけど。
「きもいです」
思わずつぶやいちゃいました。謎生物の耳がピクリと動きますが、すぐに興味を失ったようで足元の花をぱくっと食べてしまいます。
『イコナ。あれは新進気鋭のアーティストが作った芸術だぞ。つまりこのぶっ壊れた世界を作った神は芸術家を気取りたいらしい』
「こんな崩壊した世界に神様とやらがいるとして、あまり縋りたくないのは間違いないです」
何かを司っているとしたら狂気とか?
「あれは大丈夫。パッチの浅いところにいる怖くない奴だ」
リュミンはそういって、焚火の前に座りなおします。しかしその傍らには私が持ってくるのに苦労したツルハシハンマーがありました。
「肉食動物の声とか、血の匂いが揃うと襲ってくるらしいけどねぇ。都市型のパッチに見られるらしいから珍しくもないねぇ。スレッドディアっていうんだけどね」
見た目は鹿に近いですが、お肉に飢えてても狩ろうとは思わないですね。アノマリー生物は肉が激マズなのは有名です。革や骨は素材として優秀らしいですが、一人で相手にするには割に合わないのがアノマリー生物。
ワーカーは大人しく廃墟を漁りましょう。
『特定の音に反応するアノマリーなら俺様も知ってる。だが逆に言えばそれ以外には無反応なのがアノマリーだ。まさかとは思うが、さっき反応したのはイコナの腹の虫が獣じみてるからか? 確かにこいつの腹の虫はスリープモードが強制解除されるぐらいえぐいが』
「ガンター?」
二人での対話ならばいざ知らず、知り合って間もない人がいる前で赤裸々にあれこれ言うのは勘弁願いたい。
イコナさんも乙女なので!
しかし本人の自覚とは裏腹に、我が腹に宿る野生は獰猛な唸り声をあげるのです。
そしてこっちを見るスレッドディア。警戒心がこちらに向いたことにリュミンが反応したものの、原因が私と気付いて、気まずそうに視線を、顔をそらされました。
『冗談のつもりだったんだ。だが俺様は学んだ。冗談で人は傷つく事もある。それに気付いた時、大事なのは誠心誠意謝る事。悪かった。その一言を言えばいい。だが俺様は思った。イコナという少女はこんな事で傷つくほど繊細なやつじゃないって。つまり謝る必要はない。むしろ笑ってやることが救いなんだ。だから笑っていいんだぜ? リュミン』
「あぁ! 手ごろな石をもてあそんでたらつい!」
『ぐぇ!』
何やら語っていた間に拾った瓦礫を端末に投擲。見事命中し、瓦礫の向こうに墜落していきました。精密機械になんたる暴挙、と思う方は旧時代的思考をされる方です。アノマリーであるガンターの端末はこんな程度じゃ傷もつきません。殺意余って谷底にうっかり落としても傷一つ付きませんでしたよ。
リュミンは顔をそらしていましたが、肩が震えていました。楽しんでいただいているなら何よりですよ。
「はー、まったく。純粋にごちそうを食べるつもりがアノマリーに襲われないために空腹を満たさなければいけない義務に変わってしまうとは。仕方ない。満腹まで食べるしかない。イコナさんは決して腹ペコキャラではないのですが仕方ない。今夜は暴食の限りを尽くします!」
「ま、まぁ、スレッドディアは条件がそろわないと襲ってこないから大丈夫だよ。食べたいならもちろん、おいらは約束を守るから遠慮しないで」
遠慮などしませんが、放浪暮らしですっかり小食に慣れてしまっていますので、言うほど食べれないと思います。
だからまずは一番食べたいものから食べるのです。シチュー缶はやはり温めて食べるのが良いです。開封してから温めないと後ほど爆散しますので、プルタブに指をかけ、開封。慣れたもんです。
直後、辺りに広がったのは強烈な匂い。
ご機嫌で開けたの、トマト缶でした。
しかも劣化してる! 腐敗はしていないものの、酸化してて見た目が真っ黒なのも壮絶ですが、何より鉄臭い。いや、錆臭い。正直苦手な匂いです。
自慢のウサギ耳はぺったんこに。素敵な尻尾も床に墜落です。瞳から光は失われ、口からため息と嘆きが同時に漏れ出ました。
「なんたる不運。大切にしていた缶が食べれなくはないけどおいしくないトマト缶なんて………我が腹の獣も黙るがっかり感。缶だけに」
つまらん事を言いますが、リュミン、声を押し殺しての大爆笑で床を転げていました。楽しそうで何よりです。
笑える状況なのはそこまででした。
夜の闇を引き裂いたのは、細い管を通り抜ける風の音。それが鳴き声だと気付いたのは、風の音がめまいを覚えるような不快さを直接頭の中に与えてきたからです。あまりの不快さに、危うくトマト缶を落としてしまう所でした。
アノマリー生物の鳴き声の中には、正常な判断を鈍らせるものがあります。特に敵対した際にこの性質は顕著になり、個体によっては昏倒すらありえます。
「あはは、イコナは面白いねぇ。お腹の音だけじゃなくて開けた缶詰の匂いがほとんど血って、ありえるかな?」
「誓って狙ってないんですよ! 私は今日、ラッキーデイになってるんです! 昼間に空の柱が二本も見えてましたからね! しかも私はウサギ! 幸運なのはデフォルトなのです!」
自慢のウサギ耳をつまんで見せますが、リュミンは苦笑い。
「この状況って幸運なのかなぁ」
笛の音に似た鳴き声が止むと、ジジッ、と大きな羽虫が壁にぶつかった時のような音が廃墟中で連続で聞こえました。
死んでいた都市。砕けていたはずの蛍光灯や壁に取り付けられていた街灯が灯りをともし、それぞれの廃墟の入り口に飾られていた針金状の文字がけばけばしい色を宿していました。
活性化したアノマリーに共鳴した。そう見えますが、私には静かな眠りの中にいる者が悪夢におびえているように感じます。
電源をつけっぱなしにして置いていた私のラジオも、突然鮮明な言葉を吐き出しました。
『みんなー! いい夜をすごしてるー? 今夜のゲストは、新鮮な鹿犬肉とトカゲウサギ肉を使ったシチューよー!』
声だけは鮮明な女性の声でしたが、言ってることが滅茶苦茶でした。
「うひー、イコナさんにはこの光、ちょっと目が痛いですよ」
『は、俺様のいる電子世界に比べりゃ整ってるもんだ。おい、手遅れになる前に拾っておいてくれ』
冗談を言っている間に、蹄が硬質な床を蹴る音が聞こえ始めます。スレッドディアとやらがまっすぐにこちらに向かい始めてました。二階にはいますが、油断はできない状況。高低差なんてアノマリーには大した時間稼ぎにもなりません。瓦礫の向こうに墜落したままのガンターを回収。荷物は、すぐに片付けられますが。
「イコナは戦えるの?」
まじめな表情になったリュミンはツルハシを手に立ち上がります。
「むりです。いつも避けてますよ。長生きの秘訣です」
「じゃ、待ってて。一応、逃げる準備もしてね」
言うや否や、リュミンは獲物片手にすごく身軽に二階から飛び降りてしまいます。ガッって聞こえた硬い音は、彼の蹄が床を叩いたのでしょう。
『悪くない身のこなしだ。まるでゲームのキャラだな』
同じように追いかけるのは無理でしたが、縁に寄って下を覗き込むと、準備運動をしていました。
「大丈夫なんですか?」
「んー。まぁ、いけるかも? あんまり、あれは戦ったことないけどね。普段おそってくるものじゃないし」
余裕そうにも見え、かなり手練れな感じがしますが、アノマリー生物というのは見た目以上に危険です。特に、肉食系より草食の方が厄介になる傾向があります。肉食は行動が比較的単純なんですけど、草食動物をモデルにしているアノマリーは苦戦すると絡め手を使ってくる印象があります。
スレッドディアは激しく床を蹴りながら接近中。やつが地面を蹴飛ばすたびに床は抉れ、その破片は視覚的なノイズにまみれて消えていきます。
リュミンは迎撃するつもりのようで、スレッドディアに比べればずいぶん弱い踏み込みで前に出ました。下段に構えたツルハシハンマー。向き的には、打撃面で迎撃する形でした。
スレッドディアの角に絡まっていたのは植物ではありませんでした。旧世界に張り巡らされていた、それこそ建物の内部にもあった、金属とゴムの線。電線というやつです。
枝のような角の間でバチバチと音を立て、火花をこぼします。なんと奇妙な生物。捕まえて電気を生み出す機械に利用してやろうか。
角の先は鋭く、掠っただけで怪我をしそうです。スレッドディアは私の方へ向かっていましたが、進行方向にリュミンがいるのを感じ取ったようで、敵意をそちらに向けました。両者は一気に距離を詰め、互いに一撃を見舞う姿勢を作ります。
『メインディッシュは後回しー! まずは雑魚肉から処理するますー!』
ラジオ越しの悪意は聞くに堪えません。
突き出された角が細い体を貫く様を幻視してしまいます。しかし響いたのは肉を引き裂く音ではなく、静寂を引き裂く金属音。跳ね上げるように下から斜めに振り上げられたリュミンの武器が、スレッドディアの横面を激しく叩いたのです。その瞬間、辺りの電光が一瞬、強い光を発し、街灯は火花を散らし、ラジオは強烈なノイズを悲鳴のように吐きました。
進行方向がずれ、角がぎりぎりリュミンの肩をかすめます。振り上げた勢いに体が宙に行き、さらにリュミンは体をひねって今度はツルハシ側を振り下ろします。
空気が逃げ遅れて引き裂かれる音の直後、硬質な地面が砕かれ、破片が飛び散りました。外してしまっていましたが、細身からは想像できない威力。体重を乗せた一撃って奴です。ツルハシ部分が深く埋まるほどでした。
『なかなかやるな。だがただの生き物相手を想定してるな』
頭部を殴られてなお、相手の一切の勢いが落ちなかった事が攻撃を外した要因だったようです。打撃で進行方向だけを変えられたスレッドディアは建物に突っ込むすれすれでカーブし、リュミンと距離を取って苛立たし気に前足で地面を叩きます。
顔についた機械の一部が粉々になってます。出血は無いですが、壊れた部分はモザイクのようなノイズとなってました。きっとお見せできない状態になっているのです。普通の生き物ならきっと昏倒してますね。
「さすがキャラバン所属、お強いって、怪我してますが!?」
「ありゃ?」
掠った部分、かすり傷どころじゃなく結構血が出てました。裂傷って感じです。左の肩。もう上着の袖が赤く染まり始めてました。ラジオがノイズ交じりに声を上げます。
『ア…hA—hA—hA—…hΛ— ザ…』
笑っているのか、悲鳴を上げているのか。聞き取れるのに欠落した音声はくらくらします。ラジオを切ってやりたいですが、不規則に画面が明滅しているのでたぶん意味ないでしょう。
『ったく、俺様がいかにまともかわかるだろ? ありがたく思えよ?』
「あなたの特異性は今更ですが、大丈夫なんですか? 結構深い裂傷ですよ?」
「まぁこのぐらいなら、平気でしょ。いけるよ」
地面を深く穿っていたツルハシを軽々と引き抜き、再度構えたリュミンに、スレッドディアも頭を低くします。いけるのかもしれません。本人が言うなら信じましょう。でも万が一もありますし、動けないほどの怪我でもされたら後悔に苛まれる日々が待ってることに。というかあの傷、適切な処置をしないとあとで大変なのでは?
アノマリー生物と戦うことは極力避けるべきだと私は思います。肉は激マズ、革や骨の類は素材としては優秀ですが、専門家が複数人で対処する仕事です。他の個体が戦闘中に合流することもあるでしょう。パッチ内部で発生する戦闘というのは常に短期決戦が望ましい。夢物語にありがちな血沸き肉躍る戦いなんて必要ないのです。ここから相手も絡め手を使ってきて見せ場なのかもしれませんが、いくらお気楽主義と言えど生き死にが掛かってる状況を楽しめるほど狂ってないです。
何より負傷して旅程が狂い、セトルメントとやらに帰還するのが間に合わなかったらと思うと。
「ねぇイコナ。おいらさ、実は君の事」
「こらこら! それってフラグとかいう古来より続く呪いの言葉ですよ! もう!」
ふざけているのかなんなのか、私はいてもたってもいられなくなって、まだ手に持っていたトマト缶を思いっきり振りかぶります。
「おりゃー!」
手を離れ、緩い弧を描いた缶は緩い回転に中身をぶちまけながら飛んでいき、ごん、と鈍い音を立ててスレッドディアの頭に命中しました。遅れてぺしゃぺしゃと劣化した中身が周囲に落ちます。敵意がこちらに向き、ぞわぞわした感覚が背中を抜けて行きました。
慣れようと思っても慣れない感覚。敵意が殺意になり、明確な悪意がこちらに向いた瞬間を感じました。
声が出なくなりそうになりますが、怖気ずに、びしっと指先をスレッドディアに向けて、脅威を引き裂く最強の呪文を唱えます。
「リム! 助けてください!」
はっきりと、危機を感じて叫べばその直後にスレッドディアの体は轟音と共に地面に叩きつけられて無残にもひしゃげてぐしゃぐしゃになってしまいました。同時に辺りの蘇っていた蛍光灯やら電飾やらがパンッ、と音を立てて砕け、ノイズを吐きながら点滅し始めます。
地面は陥没。その形は大きな手の形。ただし、指は長く鋭い爪。
闇が凝固するように、手の先からじわりと現れるのは、私の旅の相棒。闇よりも濃い黒の巨体、六つに開いた目は潰れた自らよりも下等な生き物を見下すように向けられています。六つの尾羽は己が存在を誇示するように大きく広がっていました。
ラジオ越しの声も、困惑に満ちているようでした。
『な…二…名…』
漆黒の巨体が完全に姿を現すと、リムは今しがたつぶしたモザイク状のノイズにまみれた生き物を爪でつまみ上げ、空を仰ぎます。そして口を開きました。
『い…ギギ…』
頭の先から花が開くように六つに割れ、露出したのは鋭い牙の並ぶ血の色をした大きな口。中から伸びた無数の触手の舌がまだ動いている獣の体を刺し貫き、絡めとって飲み込んでしまいます。
断末魔もなく、ラジオも静かに。
それなりに大きい獲物を音もなく丸のみにして、リムは口を閉じます。直後、淡い鏡のような光が体を螺旋状に撫でていき、森の情景を映し、すぐに消えます。消化は一瞬。食後の余韻など、彼には無いのでしょう。
そのタイミングで廃墟も再び静かになります。蘇っていた都市は再び眠りにつき、人工的な灯りに追いやられていた星空も帰ってきました。
食事を終えたリムはぼんやりと突っ立ってます。目もほとんど閉じて無感情。だけどよく見ると細く開いた目が、今も武器を構えるリュミンに向けられています。
襲い掛かるような様子はありません。誰彼構わず襲うような子じゃないことは知っていました。
「やれやれ。もうちょっと厳かに紹介するつもりだったんですけど」
硬直するリュミンが、武器を構えたまま油切れの機械みたいな動きでこちらを見上げました。目を丸くして驚きを隠さない表情はからかいたくなる魅力があります。
「な、なに? この生き物? え? 生き物だよね? アノマリーだよね?」
珍しい生き物であるのはわかってますので、ちょっと自慢気に胸をはっちゃいます。
「ふっふーん。この子はメモリウム。私の旅の相棒で、よくわかんないけどかわいいやつです」
「たびの、あいぼう? え? 飼いならしてるの? アノマリー生物ならどう見てももっと深い場所にいるやつだよね? 一撃って、え?」
混乱されてます。当然と言えば当然ですが、リムに手を上げない程度の理性は残っているようです。
『可愛そうに。自分が守ってやるつもりだったのに相手はそれ以上のバケモンを飼いならしてる。同情するぜ、リュミン』
アノマリー生物の強さの測り方はわかんないですけど、リムにとってはその辺の奴は敵じゃないです。戦闘力なんて皆無な私が、意味不明な現象や生物がはびこるパッチで生きてこれたのは本当に、この子のおかげ。今や依存してると言っても過言ではないですね。
「飼いならしているというか、勝手についてくるんですけどね。アノマリーって訳がわかんないですよね。強いし、助けてくれるので細かいことはどうでもよくないですか?」
無条件に助けてって言えば助けてくれるわけじゃないんですけどね。そういう話はしない方が、イコナさんがかっこよく見える気がします。
昔の人が言ってました。謎が多い女は魅力的だと。
「普段は私の荷物持ち。危機が迫ると時々助けてくれる、無口な子です。リムって呼んでいいですよ。放置すると姿が消えるのも素敵な能力ですよね!」
見上げる大きさのリムですが、ひとまずリュミンは武器を手にしたまま、構えだけを解く、というか緩めてくれます。
「イコナ。もしかして、キミは魔法が使えるのかな?」
『ほう?』
ガンターが意味深に声を漏らしますが、私は、はん? って感じです。あまり他人からは聞かない言葉でしたので。
この世界、壊れまくってますが魔法という存在は実はあります。といっても、非常に限られたキメラしか使えませんし、字面から想像できるような万能さ、古の空想文学の世界にありがちな学問的な側面はありません。
私に竜が混じっているように、幻獣とも呼ばれる魔法生物が混じってるキメラというのは一定数存在していて、口から火を噴いたり、風を操ったりと少し特別な事が出来ます。規模としては種族の特技程度のものですが、原理がそういう生き物だからとしか説明できないので魔法なんて呼ばれます。
魔法を極めるよりもアノマリーを加工したアーティファクトを使用した方が手っ取り早く、魔法っぽい効果が出せますのでかなり地味な印象ですね。
ちなみに竜のキメラたる私も一応、魔法に分類される種族特性はありますがリムの件には関係ありません。個人的にはそもそも、魔法という言葉の定義がどこにあるかからお話したいところですけどね。
だけどガンターはこんな事を言うのです。
『魔法ってのは近からず遠からずってやつだな。こいつとリムは血の契りを交わしてる。竜の血ってのは特別だからな。それが種族特性って事なら、魔法と言えるな。とにかくそいつでリムはイコナの眷属として付き従う。多少の自由意思はあるが、まぁ従順なもんよ』
「……なんかでたらめ言ってません? 一瞬、マナ理論に精通してるのかと」
『黙ってろ。いいからここは俺様に任せとけ。そして合わせろ』
小声のやり取りは混乱するリュミンには届かなかったようです。
『なぁ兄弟。何をそんなに警戒してんだ? 自分が食われるかもしれねぇってか? あるいは、セトルメントとやらに連れていくのをためらってるのか?』
「え」
思わず声が出て、表情に出てしまいます。いや、まぁ考えてた問題ではあるんですけど、リムは大きいし化け物っぽい見た目ですので、拒絶される可能性は十分あるかもなって。
でも隠れてって言うと隠れてくれたり、姿を消していてくれるので、なんとかなるって思ってたんですけど。やっぱり、見せてしまうのは迂闊でしたかね。
リュミンは深く考えて、それこそ袖が出血で真っ赤に染まるぐらい考えてから口を開きます。
「キメラの中にメロウが混じってる人がいてさ。メロウの魔法が魅了なんだよね。それでアノマリーを従えてキャラバンやってる知り合いがいるんだ」
構えを完全に解いて、得物を背中に担ぎます。それからようやく傷口を手で押さえます。
「この子、リムってアノマリーならかなり深部の子だよね。それと契約、みたいのができるのって、確かに竜の血なら出来なくもないのかなって思うけど、つまり竜の血がすごく濃いとか、かな」
手元にいるガンターが無言の圧をかけてきます。話を合わせろと。
私とリムは確かに絆で結ばれていますが、契約とかそういうのじゃないんです。本当になんか付いてきてくれて、助けてくれるんです。かなり助かってて長年の付き合いで愛着が湧いてて、この子のためならコロニー追放もやむなしとは思うんです。でも。
でも、竜の血で契約ってなんか、こう、ロマンがあるぅ。
眷属って響きもいいですよね。ここでこの設定を採用したら取り返しがつかない気がするんですけど、面倒も少なからずありそうですけど、ただ付いてくるんですって言うより間違いなく説得力ありますよね。何よりカッコいい。
何も言わないですが、ガンターがわかってるぞ。お前こういうの好きだろって言ってます。えぇ大好きですよ。自分の竜の血という部分に特別な価値を見出したいのは自然な話ですよ。不老不死の力が宿ってたりして命を狙われちゃうかも、なんて妄想もしましたよ! 枕元にナイフを忍ばせて寝てた日々もありました!
結論。リムが眷属設定、採用。
「あー! なんという事でしょう! 謎めいたイコナさんの秘密があって間もない方にばれてしまうなんてー!」
「んー、なんか違うような気がしてきた。さっき勝手についてくるって言ってなかった?」
「疑うのは勝手ですが私とリムが特別な絆で結ばれてるのは事実です! ね、リム!」
ばちーんとウィンクをして見せますが、リムは無反応。さっきのアノマリーおいしくなかったなとか考えてそうでした。
深いため息はリュミンから。何か諦めた様子です。
「なんか難しく考えてるおいらが馬鹿みたいだね。わかった。理由はともかくこの子は安全に制御されてる。セトルメントもだけど、コロニーまでおいらが保証してあげるよ。キミたちは、命の恩人だしね」
「それはぜひ恩に着てください」
私は倒れてるリュミンを介抱したし、リムはスレッドディアから助けましたね。おやおや。愉快なイコナさんの旅の一行に仲間はずれがいますね。
『何も言うな。イコナが何を考えてるかよくわかる。俺様には裂傷を適切に治療する知識がある。今から俺様が、リュミン、お前が失血死する未来から救ってやるからな! せいぜい感謝しろよ?』
「このぐらい放っておいても大丈夫だけどなぁ」
イコナさん的には大丈夫に見えません。とても痛々しいです。他人のいっぱいの血って見てるとなんかドキドキしてくるから苦手ですよ。
戻ってきたリュミンは傷口を押さえていましたが、その手は血で真っ赤になってました。縫合が必要な怪我では?
清潔な糸や針なんて無く、内心ひやひやしていましたが、怪我をした時用にあらかじめ煮沸消毒した比較的きれいな布を渡すと、ガンターと一緒に焚火の前で背を向けて何やらやってました。娯楽端末さん曰く、ガキには刺激が強い治療だそうで。
何やらやった後、最後に布できつく縛るだけでよし、なんて言います。本当によしなんですかね。まぁ、ガンターの知識は真面目な時はちゃんと役に立つので、悪化するようなことは無いでしょう。
結局この後は、食料を少しお譲りし、鞄を軽くして、そのお礼にとリュミンが寝ずの番を買って出てくれたのでお言葉に甘えることにしました。夜明けと共に出立すれば、昼過ぎには余裕でつくとの事です。となれば安心して眠れますね。
この日は久々に満腹で、朝が来るのが楽しみになったのです。
End_MISSING /行方不明




