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P4TCHW0ЯK_W0R⧉D  作者: 哉守柚栞
第一章
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12/29

第六話 BΞ⧉ΞΛ⧉H⧉THΞ⧉SΛ⧉⧉FΛC⧉ (2)


 灰褐色のレンガの壁に、黒い松かさのような屋根。窓の全部に鉄格子がはめられ、人の気配というものは一切ない。

 低く手を伸ばせば触れられそうな距離にある曇り空からは同じリズムで弱い雨が降り続けていて、風の一切が無いためか立ち込める雨の匂いがずっと感じられました。

 道は入り組んでいて迷路のようです。幸い、道はどこを通っても、大人が三人並んでも通れるだけの幅は確保されています。しかし似たような景色が延々と続いており、時間間隔や正気といったものがじりじりと削られている感じがしました。

 見上げれば目印となる時計塔や、鐘のある建物が見えたりもしますが……パッチの至る所に同様の構造物があり、変にそれを目印にすれば余計に迷う気がしてなりません。なんせ、同様の構造物、というのはかなり控えめな表現で、実際はまったく同じ形の建物なんですから。

 パッチでは複製された構造物は頻繁に見つかります。厄介なのは向きが違うだけで同じ構造物だった場合、迂回して戻ってきてしまったのかと勘違いする事です。放浪生活ならどんなに迷っても七日を凌げば別の環境へ強制移動だったのでなんにも気にしないんですけどね。帰還が前提となると、紛らわしい建物は迷子の原因でしかないです。ナイフで壁に傷を付ける癖をつけると良いです。

 今の所、我々はかなり順調に進んでいます。それは建物の敷地となる鉄柵に結ばれた、明るい色のリボンのおかげ。

 ニブレットさんの息子たちである、スカリー一家の先遣隊が残してくれたものです。複雑な道でワーカーが行うマーキングです。今回彼らは地図作成だけでなく、先遣隊として前哨キャンプの候補地を確保してくださっているとか。

 出発から一時間。これまで誰も喋っていませんでしたが、緊張感に慣れたのか、あるいは緊張を保てなくなったのか、小声での会話が増えてきていました。

 先頭を行く地味な色彩の外套を羽織るリュミンの後ろを歩いていたのはリスとカピバラなるキメラのニブレットさん。茶色い毛並みが濡れるのも構わず歩いていた彼は歩調を緩めると、アマリと並んで歩いていた私の横に並びます。

「かれこれ一時間。何事も無いのはよいが、深層とはこんなものなのですかな? 事前の調べだと、もっとアノマリーが湧いていたものなのですが」

 つぶらな瞳でちらりと見られてしまいますが、彼の手元には黄色い光を淡く放つランタンがぶら下がっています。

 曰く、弱いアノマリーが避ける光を放つアーティファクトらしいのですが。

「その道具、おそらくエーテル結晶を利用した道具ですよ。一部のアノマリーはエーテルの持つ特殊な性質に強い忌避感を感じるのです。低位のアノマリー生物は本能的に、知性が半端にあるアノマリーは理性的に離れようとするはずです」

「ほぅ、流石の知識ですな。これを作った職人は、アノマリーが避けた石の形のリマナを利用したと言っておりましたが、この石がエーテルなのですかな?」

 手前の扉を開いて見せてくれますが、光が強まる事もありません。本来蝋燭なり油なりが燃えているところには、人差し指ほどの柱状の淡い黄色の結晶がありました。純度は低いようですが、確かにエーテル結晶ですね。

「エーテルは本来不可視の存在なんですけど、特殊な環境下で結晶化するんです。実はパッチ内を探すとコロニー周辺でも見つかるんですけど、純度が薄いんです。リマナを大量に溶かすことで人工的に作る事も出来ますね。なので今回も最悪、クラスター内で結晶塊が見つからなくても質の高いリマナが回収できるはずなので、それで最低限の結晶を作る事も視野に入れてもいいかもしれません」

「それは良いですな。いっそそちらを狙い、結晶塊はついでに見つかればにしてしまってもよいでしょうな」

「んー…個人的にはそちらに賛成したいですね」

 もちろん冗談なのですが、ニブレットさんはどうやら感覚的には私とかなり似ているご様子。

 歩幅が小さい彼ですが、ペタペタと足音を鳴らしてついてくる様子は実に愛嬌があります。年齢はおじさまと呼ぶべきらしいので、かわいいとは口に出せませんが。

 右手の視界が不意に開けます。そこは草地に形こそ違いますが、同じ目的で建てられたと思われる石碑が並んでいました。

「姉さま、これなに?」

 ある種の異様な光景にアマリが通り過ぎながらも尋ねてきます。

「あれは古い時代の墓地ですよ。死者のために土地を用意する、最後の贅沢とも言える廃れた風習ですね」

 コロニーやキメラの種によって、死者の弔いの仕方は変わりますが、土地が限られるこの世界において、死者のための場所はそこまで割けないのが現実です。

 一般的には遺体は火葬し骨はコンパクトに容器に格納され、個人の所有する土地で自由に管理します。多くの方は共同墓地に土に返してもらうか、自由な来世を願って近隣パッチに埋葬されますね。そういえば村では墓地らしきものは無かった気がします。どうするんですかね。

 旧時代の墓地が途切れると、道は緩やかな下り坂に差し掛かりました。陸橋が点々とかかっており、傾斜が緩い事もあって見通しはあまりよくないです。

 ニブレットさんが僅かに歩みを緩め、少し距離を開けているカイリスと村人三人の方へ合流していきました。進捗を伝えに行ったのでしょう。

 先頭はリュミン。その少し後ろを私とアマリ。間を開けてカイリスと、大きな荷物を持つ三人。ニブレットさんは通常ではリュミンの脇で警戒を補佐をされるのが、一応陣形となっております。

「何事も無いのは良いですが、ここまで何もないと退屈です」

「うー…姉さまさすがだね。わたしなんてずっとドキドキしてるのに…」

『アマリ、その感覚が正常だ。こいつはパッチでの生活に慣れすぎてその手の感覚が完全に摩耗して無くなってるからな』

 久々のガンターの声ですが、アマリの表情が軽くなる事はありませんでした。

 皆さん地味な色の外套で頭まで覆っており、警戒して声を落としていることもあって実に陰鬱な雰囲気です。ちなみに私はいつもの格好にフードを深く被っただけの姿。ニブレットさんに至っては、濡れるがままです。そういえば彼は全裸でした。ほぼ大きな動物なので、全然気になってませんでしたが、戻ってきたその辺り指摘してみますかね。少しは明るい雰囲気になるんじゃないでしょうか。

「む」

 突然先頭のリュミンが右手を上げ立ち止まりました。各自距離を詰める事もなく、その場で停止。情報を待ちます。

「…イコナ、ちょっと前来て」

 決して大きな声ではなく、まるで私が耳がいい事を前提にした小声。一応、足音に気を付けて前に出て確認してみれば、進行方向にアノマリーが存在していました。

 坂道のど真ん中。真っ赤な色のこうもり傘が開いた状態で直立しています。

 特筆すべきは影となった部分。そこは穴のように真っ黒に染まっており、下から上へと粘性のある雫がぽつぽつと滴り、傘の内側になみなみと溜まっているようでした。

 溢れた黒い雫は傘の縁から空へ向かって糸を引いて落ちています。タール状になってますね。きちゃない。

「んー…ただの環境アノマリーだと思います。液体が何によりますが、油のにおいがするきがしますね」

 勝手に襲ってくることもない、特定の現象を起こしているアノマリーを雑にまとめて環境アノマリーなんて呼び方をします。資源っぽいのを生み出しているタイプもありますが、似て異なる場合があるので利用の際は十分に注意が必要だったりしますね。

「でも下、よく見て。笠の黒いのが貯まってる所」

 傘の内側。タール状の何かが溜まっているそこをよく見ると、何か丸いものが逆さまに浮かんでるように見えます。真っ黒でいまいちわかりにくいですが、どうやらそれ、禿頭の人の頭部でした。

 目元から上を水面から出した、真っ黒な何か。それがこちらを見ているのです。

「生物? いや、うーん…」

 判断の難しいアノマリー。普段だったらリムを見て判断するんですけど、今は姿を隠してもらっているので頼れません。しかしまぁ。

「姉さま?」

 ひょいと、リュミンの前にてじっとこちらに顔を向けているソレに近寄ります。緊張感など無く、ぽこぽこと足音を立てて傘型のそれは至近距離に来ても、何も起きません。リムに引き留められる事も無いです。

 ただ、傘の縁からじっとこちらを見上げる、黒い頭部っぽいなにか。傘の縁に寄って、私の事を、膝より下から見上げる形。ひどい油の匂いです。

「これはおそらく、スカートを下から覗き込む事で少女の羞恥心を煽るタイプのアノマリー! 残念でしたがイコナさんはスカートではありませんのであなたの存在意義は成し得ないのです! さぁ火を放ちましょう! よく燃えると思います!」

「襲ってこないならなんでもいいけど、もうちょっと不気味な感じのアノマリーなんじゃないかな?」

 とりあえず警戒を緩めて、一行は謎の傘型アノマリーの脇を通り抜けました。

 リュミンはあぁ言いましたが、傘の下の顔、アマリが通過する時に目元がにやけたと思うんです。見上げた時に楽しいものがあったようですね。蹴飛ばすか火を放ちたくなるアノマリーでした。

「姉さますごいね。よくわかってないのにあんな近づいちゃうなんて」

「ふっふーん! イコナさんを見直すとよいです! 私からすれば皆さん警戒しすぎで臆病風に吹かれてませんか? なんて頭の隅で思っちゃいますが、引き続き安全第一でいきましょうね」

 実際、リュミンはともかくニブレットさんは私のやり方に少し引いてるようでした。カイリスは、やりかねないとでも思われてそう。お互いにそこまで知ってるわけじゃないのに、なぜかわかります。不思議。

 隊列を整え、それからしばらくは、再び平和な道が続きます。ただし、所々、先ほどの傘型アノマリーに加え、上空を赤い風船が曇天の空に吸い込まれ始めていきます。

 また、建物の壁面に解読不能な文字に化けてしまった同一の張り紙が増えてきました。

 不気味さ。パッチ特有の、規則性のある不自然さが目立ってきています。

「イコナさん、そろそろ一度小休止を挟もうと思うが、こういう場所でのおすすめはあるかね?」

 先頭に戻るべく速足で進んできたニブレットさんは疲れた様子は無いですが、こまめな休憩は深層パッチにおいて非常に重要です。精神的に摩耗するのです。

「建物に入れるなら入ってしまってもよいと思います。私の直感だと、屋内に厄介なのはいなさそうです」

 開かない建物には妙な生き物がいるような気配がするのですが、このパッチに限って言えば、誰かがいるような気配は全く無いです。まるで街ごと人がどこかに行ってしまったような感じ。

 リュミンに追いついたニブレットさんは地図を取り出し、リュミンと小声で会話。上手く聞き取れませんが、この先に大通りがあるので、その並びの建物で少し休むようです。

 しかし実際に辿り着いてみれば、大通りは休むのも悩んでしまう有様です。

 川のように広い通りには中央にガス灯が点々と配置されており、綺麗な石畳はパッチを横断するように遠くまで続いています。私達は路地の一つからその道に合流した形なのですが、向かって左側は赤い花が石畳に大量に咲いていました。

 訂正します。赤いこうもり傘の、先ほどのアノマリーです。

 タールを内側に湛えた直立不動の傘は、通りを埋め尽くして空にむかって黒い線を断続的に吐き出しており、通りの上空だけが黒いノイズが走っているように見えます。おまけに全部に謎の顔が目元だけ覗いているから、不気味極まりない。

「可燃性の液体のようなので、火を放ったら楽しい事になりそうですね?」

『それで活性化するタイプの生物アノマリーだったら最悪だな』

 ガンターの発言も一理あるので、取り出しかけた着火具は仕舞っておきます。

 幸い、花畑状態になっているのは左側の通りで、進行方向のリボンが結ばれているのは通りを右側に進む道です。街灯にリボンが結ばれているので地図を見るまでもありません。

 アノマリーが密集しているある種のクラスター状態に、一度集まった各々思う所はあるようで複雑な表情をされていました。安全なアノマリーでも、密集してると気持ち悪いですからね。

「この建物丁度よさそうだね。ただ鍵が掛かってるけど」

 リュミンが先に調べていた建物は、通りに並ぶ同じ形状の建物の一つ。展示窓があるのに鉄格子が張られ、入り口のさび色のドアには手形がついてます。

「師匠! まかせて!」

 活躍時を見つけたようで、アマリが元気よく前に出ました。リュミンはドアの前を譲り、私はてっきり彼女が力任せに鍵を破壊するのかと思いました。

 しかし、彼女は鍵穴前で、しばしの集中。ほどなくしてあっさりと、鍵を開けてしまいました。

「どやっ」

 ドアを開いてのどや顔。地味ですが、鍵開けが得意とは意外。

「よくやったよアマリ。それじゃ中を見てくるから、大丈夫なら少し休もう」

「いや、今すぐ中に行った方がよさそうだ。アレを」

 険しい表情でカイリスが指さしたのは、赤い傘の群れの中。何かが液状ノイズをかき分けながらこちらに向かって行進してきていました。

 黒いノイズを作る逆さまの雨のせいで姿を隠されていますが、不協和音を奏でながら大きな影がとてもゆっくりと進んでいます。

「急いで中へ。はやく」

 一行はすぐに内部に入り込み、私はニブレットさんと一緒に薄暗い室内で隅に寄ります。リュミンを先頭に、カイリスとオルヴァさんが広い一階の中ほどまでを警戒しながら広がり、猫ウサギのギーネさんと、もう一人、まだ声すら聞いてない妖精耳のジルニアさんが締めたドアの前で入り口を固めます。

 実によい連携。通りに面した窓際に寄った私とニブレットさんは、アマリが守ってくれる陣形です。

 一階部分は広く、端に寄せられた空っぽの棚だけが調度品。二階に通じる階段もリュミンが確認してくれて、すぐに戻ってきました。

「何もいない。建物の中は大丈夫そうだよ」

「では小休止ですな。最低でもアレが通り過ぎるまでは」

 音はどんどん近づいてます。音楽を奏でているようですが、音階を外しているようで聞いてて楽しいものではありません。

 休憩だというのに誰も荷物を降ろさないのは、あれらがこちらを襲ってくる可能性を誰もが考慮しているから。

「一階では万が一の時逃げ場がありませんね。今のうちに二階に行っていた方が選択肢があると思います」

 私の提案にすぐに反応したのはカイリス。

「彼女の言う通りだ。棚で入り口を塞いで二階で様子を見よう。できるだけ静かに」

 行動は素早く、筋肉質な男性たちがさっさと棚を移動。私とニブレットさん、アマリとリュミンは二階へ向かいました。

 二階もただ広いだけの面白みのない空間。しかし木箱のいくつかが乱雑に積まれています。

 窓際に寄る三人、一階で作業する三人。興味がそれているうちに、窓際からは死角となる場所で私は木箱の影でそっと呼びます。

「リム、あれはどう思いますか」

 薄暗い室内でおまけに木箱の影になった場所。じんわりと滲むように現れた小さな姿の異形の獣は、四つの目を開いていましたが、その目は細く絞られ、視線は私に向いていました。

 取るに足らない。手出しさえしなければ良し。特有の気配も消してくれてて偉い。

「どうもです。ではまた」

 呼ぶ声に応えて現れただけでも、ちゃんと知りたいことを教えてくれた彼は、すぐに薄くなって消えていこうとします。しかし、階下から足音が聞こえた瞬間、薄れていた体が濃くなり一瞬で目が見開かれ、階下へ赤い瞳を動かしました。

 木箱の前でかがんで自分の体で階段からの視線を遮るようにします。薄暗い中、目元さえ隠してしまえばリムの姿は見えない。少なくとも、姿は。

「一応、下は大丈夫だと思うが……イコナ、こんな時に何をしているのかね?」

「いや、いい感じの木箱があったので放浪者の癖で中身を確かめてました」

 釘で固定されている木箱を無理やり開けるふり。がんばったら端が持ち上がりました。

「気持ちはわからなくもないが、今は外の方がどうなるか」

「個人的な経験として、練り歩くタイプのアノマリーは手出しさえしなければさしたる脅威でも無いとおもいますよ」

 一応お伝えしますが、やはり気になるようで合流した四人も窓際に寄っていきます。窓は小さいのが二つ。上手く分かれれば余裕で見れますね。

 ひとまず、リムはバレずに完全に窓際から死角になります。心臓が嫌な感じに脈打ってました。

 不協和音がとても近くに来てます。すごく気になりますが、それより大事な事。

 耳を押えたくなる音楽の中、呟くように問います。

「…誰でした?」

『………カイリスは白だ。だが他のは』

 私はリムの事を見てませんでした。木箱を開けるふりをしていたので。しかしガンターは、その特有の視界でしっかりと見ていてくれたようです。彼は自分のできる事を理解している。放浪生活で培った絆は、リムだけじゃない。

 リムの目は六つ開いていました。最大限の警戒を、村人側の三人に。

 今はもう目は四つ。とても細めてしまっています。外の騒ぎなどどうてもいいとばかりに。三人に対する警戒も今は無くなってるようです。リムはじわりと滲むように、姿も消してしまいました。

 私の一番の味方である彼を疑うことなどない。であれば、示す答えは一つだけ。

「敵ですね」

 ばきっ、と音を立てて木箱が開き、秘密が暴かれる。中身は何やら折りたたまれたパンフレットのようです。

 パンフレットを一つ手に取って、窓際に。警戒する皆さんの中、窓に張り付いていたアマリのすぐしたに割り込むように混ざって、それを広げます。

 ほとんど読めなくなったアノマリー文字。法則性もなく歪んだそれにはかろうじて読める部分があり、音読して差し上げました。

「『虚ろな日々を送る皆様、我らノクタナル・マーチング・カンパニーがあなたの街に混沌と狂騒をお持ちしました。どうぞ深紅のヴェールをくぐり、暗澹たる日々の泥沼から抜け出し、心惑わし躍らせる華々しい演目の数々をお楽しみください。愉快なピエロの導きで誰もが見た事ないマジックや曲芸で皆様を別の世界へお連れします』…ですって」

 クラスターでもある中央の赤いテントはどうやらサーカスのテント。そして今まさに目の前を通過しようとしている一群は、そのパレードのようです。

 この手のパレードは初めてみますが、本来は楽しいものなのでしょう。今はただ、変なアノマリーとしての面白さしかないです。

 先頭の楽団は汚れた赤、青の道化の衣装。色違いで黄色や黒もいました。ただし、人の体は無く透明人間が仮面を被り服を纏って歩いているようでした。

 錆びた楽器は特定の音階が歪な音を立てていて、賑々しく楽しいはずの音楽を不快にしています。楽団の足跡からは赤い風船が沸き上がり、空へ向かっていきます。

「はー…なんじゃありゃ…」

 ニブレットさんが呟くものは、楽団が先導していたパレードの本隊。

 楽団に続いていたのは、首が落とされた馬の群れ。首の断面には肉色の人の顔が浮かんでおり、繋がれた鎖が引っ張るのは貼り付け台です。そこに人が貼り付けにされていたら恐ろしいのですが、晒されるように吊るされているのは、黒い染みで汚れた赤いドレスや燕尾服。それと古い時代の衣類? 洗濯ものですかね。その周りで玉乗りやジャグリングをしながら過ぎていく、透明な道化師が余計に滑稽に見えます。

 風船と騒音をまき散らし、見る者に混沌と混乱を与えるパレードはゆっくりと過ぎていき、我々が目指す方へと進んでいきます。あぁやって、この街中を巡っているのですかね。

 やがて雨の音が聞こえるまで騒音が遠ざかってから、誰かがため息をつきました。

「とりあえず、休もうか。みんな今のでつかれたでしょ?」

 リュミンの提案に誰も異論はなく、ようやく各々荷物を降ろすのです。

 アマリなんて、荷物降ろすよりも先に床に座り込んでしまいました。

「なんか、姉さまがほんとにすごい人に思えてきたよ……今の見ても楽しそうに笑ってるんだもん。尻尾くすぐったかった」

「え? あぁ、これは」

 アマリの指摘通り、私は口元に笑みが浮かんでいました。しかしこれは別に先ほどのアノマリーが面白かった、という訳ではないのです。

 わけのわからないアノマリー。それを見ていた私の敵がぽかんと口を開けるさまは、実に滑稽でございました。何を企んでいるのか知りませんが、彼らは自分が既に疑われている事を知らずになにやら暗躍しようとしているのです。その企み、存分に潰して差し上げましょう。

 堅苦しくまじめにアンカー作る計画。その中で、楽しみが一つできてしまったのでした。


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