幕間
薄暗い部屋にカーテンから柔らかい光が差し込む。
そこでアリスはデスクで寝ていたことに気がついた。デスクに押し付けていた側の頰が、痺れて痛む。
(…ああ、昨日そのまま寝てしまったのか)
昨日の記憶は曖昧だったが、書類を作っていてそのまま寝てしまうということは日常茶飯事だったので、まあ気にも留めない。
窓の外では日が少し昇り始めている。
部屋の掛け時計を見ると、朝礼の時間ギリギリを指していた。
「よかった。今日は始業には間に合いそうだな」
デスクの上では書類が散乱していた。
風が一陣吹くと、全てが棚の中に戻っていった。
鏡を見る。
その短い黒髪には、だらしない印象を与える寝癖がついていた。
これは良くないな。少し直そう。
………
なかなか手強い寝癖だったが、ギリギリ無造作ヘアと言えるぐらいには落ち着いた。
だがその間に窓から差す光はすっかり明るくなって、すでに遅刻は確定だった。
最早どれだけ急いでも意味はない。長年の経験は私を落ち着かせる。
「服がそのままというのも…まあいいか」
当人の言葉とは裏腹に、水の魔法がその白衣や体を清めていく。
それを風と火の魔法の合わせ技で乾かしている間に、スケジュール帳を確認していた。
赤みがかった革のカバーがかかった年季が入ったその手帳には、この前撮った写真が挟んであった。
写真の中には、痛々しい様子の傷口が写っている。
アリスは写真を手に取ると、突然目の前にできた手のひらほどの大きさの空間の裂け目にそれを放った。
支度を済ませていると、外から騒がしい音が聞こえてきた。
見るとなんだか回復所の門の前で揉め事が起きているようだった。
担架に運ばれた患者の隣にいる付き添いと、門の前に立った明るい髪の回復士が口論している。
そこにはこのあいだ私の弟子になったカルツもいた。
「なんだか楽しくなりそうだな」
そう思ったのは、開け放たれた窓から見える喧騒の中に、担架に乗せられている血肉塗れの昔馴染みの顔を見つけたからだった。




