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【全年齢】第五話本編:雷術士を親子丼で「倍プッシュ」させた話

プリシラ、オイ、エクウスに加えて、ナハトも聡介の家に住みついた。


今回は福本伸行先生の名作『アカギ』をオマージュしたキャラクターが登場します。珍しく主人公をオマージュしたキャラの登場です。 ご存じでない方はぜひ「赤木しげる」で検索してみてください。


※福本先生。尊敬してます。ごめんなさい。銀と金やカイジも大好きです。


あと、今回の話は飯テロ要素がんばって入れました。ちょっと無理やりです。

 蕭々(しょうしょう)たる雨音が夜の闇を塗りつぶしている中、かつてヴァルフェルト王国で深紅の戦乙女《クリムゾン・ヴァルキリー》と称えられたプリシラ・スカーレットは、ずぶぬれのまま外を走り、軒先に駆け込んだ。赤い長髪は水でぬれ、聡介に買ってもらったスポーツウェアも体に貼りついてしまっていた。


 玄関の扉を開けると聡介がちょうど傘を持って家を出ようとしていたところだった。


「プリシラさん……大丈夫ですか?風邪を引きますよ?お風呂沸かしているので入ってください」聡介は玄関に置いてあったタオルをプリシラの方に差し出した。


「ああ……聡介……すまない。通り雨にあった」プリシラは聡介からタオルを受け取ると髪を拭きながら家の中に入った。その時、寝室の方から物音がした。


「ヴォーレ様、エクウス、ナハトはどこにいる?」プリシラは聡介の方を向いた。


「全員自室にこもっています」聡介が息をのんだ。


 ゆっくりと寝室に近づき扉を開けた。そこには銀髪に近い白髪の中学生くらいの少年がずぶぬれで立っていた。その少年の相貌(そうぼう)は極限まで削ぎ落とされた氷山のようだ。鋭(・)利(・)な(・)刃(・)物(・)の(・)よ(・)う(・)に(・)突(・)き(・)出(・)し(・)た(・)尖(・)っ(・)た(・)顎(・)は(・)、(・)一(・)度(・)見(・)た(・)ら(・)忘(・)れ(・)ら(・)れ(・)ぬ(・)死(・)神(・)の(・)鎌(・)を(・)想(・)起(・)さ(・)せ(・)る(・)。(・)


 身に纏うのは、夜の闇に溶け込む漆黒のロングコート。翻る裾から覗く裏地の赤が、彼の持つ「血の通わぬ狂気」を際立たせていた。ボタンを上まで留めたストイックな装いとは裏腹に、その鋭い視線は轟雷(ごうらい)のように戦場の理を静かに焼き貫く。まさに、闇に舞い降りた天才の装いだった。


「貴殿は……轟雷か……」


「あんたは……確か深紅か……ここはどこだ……」轟雷と呼ばれた少年はプリシラを見た。


「ああ、ここは日本という国の東京という都市です。俺の家でプリシラさんたちの世界から迷い込む人が多いんです。俺は橋本聡介。よろしくお願いします」聡介は手を差し出した。


「ああ……」轟雷と呼ばれた少年はその手を一瞥すると、コートの中に両手を入れた。


「……この少年は何者ですか」聡介が若干不快感をあらわにしながら、プリシラに質問した。


「彼はルベール・アルボ。轟雷の奇術師《エレクトリコ・ギャンブラー》と言われる雷術士だ。雷魔法を得意とするが、それ以上に人の心を読んでいるのではないかといえるほどの洞察力で、作戦立案などを担い、魔法師団の中ではこの若さで参謀のような立場ももつ凄腕だ」


「へぇ……すごい方なんですね」聡介は感心したように答えた。


 その時「くしゅん!」と、プリシラはくしゃみをした。


「ああ……大丈夫ですか。お風呂入らないとですね。アルボさんも髪が濡れているからタオルをどうぞ」聡介はタオルを渡すとアルボは無言で受け取った。


 プリシラが扉の方を向きドアノブをつかむと、アルボが口を開いた。


「あんた……背中が透けてるぜ……」


 聡介は前を見た。プリシラが着ているスポーツウェアが透けて下着が見えていた。


「ちょ……透けてるってそういう……」聡介は顔を赤くした。


「ん……聡介……?どうしたのだ」プリシラは不思議そうに後ろを振り返った。スポーツウェアが貼りつき胸の谷間と下着が透けていた。


「いや……何でもないです。早くお風呂に行ってください」聡介はごまかして目をそらした。


「?……おかしな聡介だな」プリシラは扉を開いた。


「まるで白痴だな……深紅……信用するなよ……人を……」アルボは再度つぶやくと、プリシラの胸の方を指さした。


「え……」プリシラは下を見た。言葉の意味を理解した。


「聡介!気付いているのになぜすぐに言わん!切り伏せるぞ!」プリシラは顔を赤らめ、聡介をキッとにらみながら怒鳴った。


「ええ!俺ですか……いや、その……すみません」聡介はしどろもどろとなり、目をそらした。


「湯浴みに入ってくる!」プリシラは扉を壊れんばかりに荒々しく締めると、ドスドスと大きな足音を立てながら浴室に向かった。


「……」アルボと聡介だけを残した部屋には静寂が広がった。


 静寂を切り裂くように「ぐぅ~~~~~!」と雷鳴と聞き間違えるかのような騒がしい音が鳴った。


 聡介はアルボの方を見た。


「……」アルボは無言だった。


「お腹すいてるんですか……ご飯食べますか」聡介がアルボに聞いた。


「あらら……」アルボは少し照れたようにそう答えた。


 ―――――


 キッチンにつくと冷蔵庫を確認した。鶏モモ肉と玉ねぎ、三つ葉、そして干しシイタケと水を入れて一日寝かしたタッパーを取り出した。


「さて、今日は親子丼を作りますが、出汁はシイタケの戻し汁も使います」


 聡介は鶏もも肉を削ぎ切り(そぎぎり)にし、大量の玉ねぎをスライスする。シイタケも食べやすいように石突(いしづき)を切り、薄切りにした。三つ葉は2㎝程度の長さに切った。


 シイタケの戻し汁にカツオ節を入れて一煮立ちさせる。シイタケ独特の山の香りと、カツオ節の磯の香りが混ざった、鼻腔(びくう)の中に入り込み、食欲をくすぐる芳醇(ほうじゅん)な香りが広がった。


 その香りにつられたアルボは聡介の後ろに立つとつぶやいた。「それにしても、随分手の込んだことをするね……俺はもっと、ストレートに行くよ……」


「いろんな出汁を使った方が味に深みが出るんですよ」聡介はちょっと嬉しそうに答えた。


「何やらおいしそうな匂いがするのぉ……夕餉(ゆうげ)の時間かの……」オイが部屋に入ってきた。


 オイは聡介の隣に立つアルボを見て声を上げた。


「おや、轟雷も来たのか……騒がしいのぉ」オイは少し眉をひそめた。


「じじいもいたのか……」アルボは興味がなさそうにオイを見た。


「オイさん、もう少しでできますから待っていてください。丼出してもらえますか。アルボさんも暇ならそこの棚からスプーン出してください」


「わかったぞ」そういうとオイが立ち上がった。


「人を使うことばかり考えてきた人間の発想……やせた考え……」アルボは隣で作業を見つめたままだった。


「……まあいいですけど……」聡介は不快感を隠そうとしなかった。


 聡介は作業を続けた。出汁をフィルターで濾(こ)すと、醤油、みりん、少量の砂糖と一緒に鍋に入れた。鍋を再度火にかけ沸騰したら玉ねぎを入れて柔らかくなるまで煮る。シイタケ、鰹節の香りに玉ねぎの甘い香りが加わった。そこに、鶏モモ肉とシイタケを加えて火が通るまで中火で煮詰める。


「よし、これで準備は完了だな」


 冷蔵庫から卵を取り出し、ボウルに割り入れ、カラザを取ると、ちゃっちゃっちゃとリズミカルに溶いていく。


 浅い片手鍋に先ほど作った親子丼のベースをお玉ですくい入れ、再度一煮立ちさせる。


 卵をそこに回し入れ数秒煮詰めると、ふわふわとした卵が形を成していく。


 湯気が立ち昇る炊きたての米を丼に装う。


 その白銀の山へ黄金の具材を静かに滑らせる。とろりと半熟の卵を纏った鶏肉が鎮座した瞬間、琥珀色の出汁が米の隙間へと深く染み込み、食欲を唆る芳醇な香りが一気に弾けた。三つ葉を添えると、白銀、黄金、琥珀、そして、翡翠があふれる宝石箱のようだ。その宝石箱にふたをして蒸らすことで完成だ。


 あとは、大根とわかめの味噌汁、漬け物を添えて食卓に運んだ。


 聡介は親子丼と一緒に、七味唐辛子と食べるラー油を食卓に並べた。


「さて、できましたよ。オイさん、アルボさんどうぞ」


 ちょうどその時ナハトがコンソメ味のポテチの袋を片手にやってきた。


「ああ、ナハトさん。ナハトさんも親子丼食べますか」聡介がお盆の上に乗った親子丼をナハトに見せた。


「いらぬ……私は創造神の与えし、この食物さえあればいい。ポテチを食べる!」そういいながらスタイリッシュにポテチを一枚食べた。


「そうですか……」聡介は何も言わないことにしてオイの方を向いた。


 オイがちょうど食事を始めるところだった。


「ほほぅ、これまたうまそうじゃの。肉と、卵を使ったご飯料理か……どれ、実食……」オイはふたを開け親子丼をスプーンですくい……口に運んだ。


 無言で咀嚼すると目を見開いた。


「これは……これはなんという旨味の奔流(ほんりゅう)じゃ!口に入れた瞬間、キノコの滋味(じみ)溢れる山の香りと、かつおだしの洗練された海の香りが、口の中で見事な旨味の二重奏(デュエット)を奏でておるわ!その濃厚な琥珀(こはく)色のつゆを吸った鶏肉は、どこまでも柔らかく、卵はまるで初夏の雲のようにふわふわふわり、と~ろとろとしておる!

 そして、この玉ねぎの甘み……なんという……なんという調和(ハーモニー)だ!

 この葉っぱがアクセントとしてまたよい!火が通っていない分シャキシャキシャキとした触感が残り、鼻の中を突き抜けるこのあっさりとした清涼感!この丼一杯の中に、山と海の恵みが、そして作ったものの情熱が凝縮されている!うまい!うまい!うまいぞ!少年よ!山と海の幸、肉のだしが染みたこの琥珀(こはく)のつゆは万病に効くエリクサーのようじゃ!」

 オイはまくしたてるように言い切ると、あっという間に食べきった。


 その様子を尻目にもくもくと親子丼を食べるアルボ。目の前にある食べるラー油の入ったボトルに手をかけた。


「あ……それは後ろを押すと出ますよ」聡介が説明した。


 アルボは親子丼の上でラー油のボトルを一度押して(プッシュして)回しかけた。


 琥珀色の出汁に真っ赤な油が混じり合い、食卓には一転して、食欲を暴力的に突き動かす香ばしいニンニクと唐辛子の刺激的な香りが充満する。黄金の卵の上で、カリカリと揚がった具材が宝石のように輝き、優雅な親子丼は、一瞬にして抗いがたい魔力を持つ「背徳の逸品」へと変貌を遂げた。


 アルボは、その背徳の一品をスプーンですくい口に入れた。


 その時……アルボに雷鳴走る……


 ゴロゴロゴロ……と轟雷が周囲に響いた。外で雷が落ちたようだ。


「な……なんですかこれ……」雷鳴の音に驚き辺りを見回す聡介。


「アルボは、人の心の中にある感情のエネルギーを元に雷撃を構成する錬金術師じゃ。戦場において人の恐怖や、怒りを力に変え轟雷を呼び出す様はまさに奇術の様で二つ名の奇術師というのはそこからきておる。感情がない場所では使えないのでギャンブルみたいなもんじゃがの。この世界でも人の感情の力を利用することができ、どうやら召喚術だけでなく、錬金術も行使できるようじゃの……」オイは一息で説明した。


「あ……長文での説明ありがとうございます。なんか、何でもありですね……」聡介は頭をかいた。


「ざわ……ざわ……ざわざわ……ざわ……」ナハトがつぶやいた。


「ナハトさん、どうしたんですか、いきなり」ナハトの方を見て困惑する聡介。


「作者(神)がつぶやけとそういっていた!仰せの通りにぃいいい!」ナハトは両手を広げて叫んだ。


「何言ってるかよくわからないんですが……」聡介は更に困った顔をした。


 アルボはその様子を無視するように、スプーンを口に運んで静止したままだった。


 口を開けるとつぶやいた。


「倍プッシュだ……!」


 そう言い切るやいなや、さらに二回ボトルを押すと親子丼をスプーンですくい口に入れた。

 無言で咀嚼して飲み込んだ。


「倍プッシュだ……!」「倍プッシュだ……!」「倍プッシュだ……!」


 アルボはそうつぶやきながら大量の食べるラー油と親子丼を消費していく。


 あっという間に食べきってしまった。


 そして、丼を持ち、聡介の方を向いてつぶやいた。


「倍プッシュだ……!」


「……」聡介は意図を掴みかねて一瞬間を置いた。


「ああ……おかわりですか」聡介は丼を受け取ると二杯目の親子丼を作り始めた。


 オイがそれを見て「ワシの分もおかわりを作ってくれ」と言った。


 聡介はその言葉を受けて指折り思考を巡らせた。


 ――プリシラ、エクウス、自分、ナハト……はポテチがあれば大丈夫なので、大切なのは三人分の親子丼が作れる材料があるかどうかだ。


 聡介は鍋の中を確認した。具もつゆもたっぷりと作ってあったので安心した。


「今回はさすがにプリシラさんにも食べさせてあげたいからな……」聡介は先ほどのプリシラの透けた服のことを思い出し、顔を赤らめるとぶんぶんと首を振り、調理を続けた。


 ――――――――


 聡介の調理が終わり、二人が二杯目を完食したところで、プリシラが深紅の髪にシャンプーの柔らかな香りをまとわせて室内に入ってきた。


「……聡介。先ほどはすまなかったな。見苦しいものを見せた」プリシラは聡介に頭を下げた。


「いえ……俺もちゃんと言わなかったので……それに別に見苦しくはなかったです……」聡介は顔を赤くしながら答えた。


「ん……何か言ったか?」プリシラは親子丼の香りに心を奪われ、聞いていなかった。


「いえ!何も……それより親子丼食べますか?」聡介が丼をつかんだ。


「ああ……もらおう……ようやく食事にありつけるのだな……ああ……この鼻腔(びくう)を襲う強烈な香り……想像しただけで身震いするな……んんっ……」プリシラは頬を赤らめて、荒い息を吐いた。


「ご飯を炊かないといけないのでもう少し待ってください。親子丼はたくさんあるので安心してくださいね」聡介は米櫃(こめびつ)の方に歩いて行った。


「ああ……それくらいは待とう。楽しみにしているぞ」プリシラはスプーンを手に持ち、くるくると回しながら答えた。


「……」聡介は米櫃(こめびつ)の中を見て固まった。


「聡介……まさか……」プリシラの顔は、深紅の髪、瞳とは裏腹に青に変わった。


「……米がありません」聡介は申し訳なさそうな顔をした。


「またそういうオチか!丼物で米がないなど!そんなもの召喚術が使えぬ青眼のようなものではないか!?また、夕餉(ゆうげ)が食えぬのか……くっ……殺せ……いや、ご飯を食べさせてくれーーー!!作者ーーーーー!」深紅の戦乙女《クリムゾン・ヴァルキリー》の慟哭(どうこく)と、スプーンを落としたカラカラという音がリビングに響いた。


 エクウスが姿を現した。


「ふぅん……深紅よ。無礼な言葉が聞こえてきたが、負け犬の貴様に俺が道(ロード)を示してやろう。米がなければ買いに行けばいいではないか。誰が買いに行くかはこのカードゲーム(デュエル)で決めないか?」エクウスの手にはUNOが握られていた。


「ああ!神の食物(ポテチ)のストックが切れてしまった。ただこの豪雨の中で買いに行くのは骨が折れる……」ナハトも叫んだ。参戦する気のようだ。


「じゃあ、せっかくですし、プリシラさん、エクウスさん、ナハトさん、俺の四人でUNOで米とポテチを誰が買いに行くか決めますか」聡介がエクウスに乗って提案した。


「なるほど……凡骨だ……的が外れていやがる……」アルボは立ち上がるとつぶやいた。


「凡骨とかいうのは、そこの青い人だけにしてもらえますかね……アルボさんはもうたくさん食べましたよね?」聡介は不快感をあらわにした。


「寝ぼけるな……続行だ……倍プッシュだ……!」アルボはスプーンを手に取った。


「まだ食べるんですか……」聡介は呆れたようにアルボを見た。


「フゥン!役者はそろったようだな。それではカードゲーム(デュエル)を始めるとするか!深紅!轟雷!ポテチ!そして凡骨。せいぜい俺に踏みつぶされないようにあがいて見せろ!ワーハッハッハッハ!」


 青眼の決闘士の高笑いが開戦の合図となった。

お読みいただきありがとうございました。


次回、狂気の沙汰より面白いUNO……は始まりません!


すみません。番外編として別途書かせてください。

UNOのネタが思いついてない中でほかに書きたいネタが4つくらい出てしまったので

先にそっちを先行させます。UNOも必ず書きます!


次回、騎士団長は料理の魅力にあらがえない「神父様を夕張メロンでベリーメロンさせた話」

※すでに執筆済ですので明日9時10分頃に公開します。10作品近くのオマージュを入れています。個人的には傑作です。

※本作は各作品へのオマージュ・パロディを含みます。権利者の方でご不満がある場合はご連絡ください。

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― 新着の感想 ―
あ・・・ありのまま 今起こった事を話すぜ! 福本節が効いてますね。と思っていたら遊戯王になっていた。な… 何を言ってるのか、わからねーと思うがおれも何をされたのかわからなかった……催眠術だとか超スピー…
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