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第五十九話 牙を持つ暴君

天籟の森へと急いだアレンだったが、バロッグ・タイラントの姿はなかなか見つからなかった。

処刑までの残り時間は二日——。


天籟の森に足を踏み入れてから、一晩が経った。


バロッグ・タイラントの気配を探し続けたが、手がかりすら掴めないまま夜が明けた。

このままでは時間が足りない。焦りが募る。


「どこにいる……?」


周囲を警戒しながら歩を進めると、ふと空気の流れが変わった。


強烈な獣臭が鼻を突く。


アレンの肌が粟立つ。


次の瞬間——


背後の木々が揺れた。


異様な気配を感じ、アレンは即座に跳び退く。

その直後、背後の木がへし折れ、巨大な腕が地面に叩きつけられた。


挿絵(By みてみん)


「……やっと出てきたか」


土煙が舞う中、赤い光がゆっくりと揺れる。


現れたのは、異形の獣人だった。


その体躯は、通常のバロッグの倍以上の大きさ。

漆黒の毛に覆われた巨体。

人間の三倍はあろうかという分厚い筋肉が蠢く。

目は真紅に染まり、知性を持った獣の眼光がアレンを射抜いていた。


「……バロッグ・タイラント」


ようやく見つけた。

だが、目の前の存在は、予想を遥かに超えていた。


バロッグ・タイラントは静かに口を開き、低い唸り声を上げた。


次の瞬間——


森全体が震えるほどの咆哮が響き渡った。


木々が揺れ、枝葉が舞い散る。

この威圧感だけで、普通の獣なら逃げ出すだろう。


しかし、アレンはその場を動かなかった。


「……こっちから行くぞ」


地面を蹴り、一気に距離を詰める。


拳に力を込め、渾身の一撃を繰り出した。


——が。


鈍い音とともに、アレンの拳がバロッグ・タイラントの腹にめり込む。


だが、それだけだった。


「……効いてねぇ?」


拳の感触が、まるで岩を殴ったような硬さだった。


バロッグ・タイラントは微動だにせず、アレンを見下ろす。


「……なるほど、普通の攻撃じゃ通らないってわけか」


一歩引こうとした瞬間——


視界が揺れた。


「っ!?」


アレンは反射的に腕を上げる。


バロッグ・タイラントの巨大な拳が、アレンを襲った。


瞬間、衝撃が全身を襲う。


腕で防いだにも関わらず、その圧倒的な膂力(りょりょく)に弾き飛ばされる。


「ぐっ……!!」


アレンの体が宙を舞い、木々をなぎ倒しながら転がる。


ようやく体勢を立て直し、着地する。


「……なるほど、ヤバいな」


骨が軋む。


一撃防いだだけで、腕にじんじんと痺れが走る。


「今のが直撃してたら、軽く潰されてたな……」


バロッグ・タイラントは一歩、また一歩とアレンに向かって歩み寄る。


その歩みに合わせ、地面が沈む。


そして——


バロッグ・タイラントが、再び拳を振り上げた。


「……っ!」


アレンは瞬時に距離を取る。


その瞬間——


地響きを伴う衝撃が、周囲の大地を砕いた。


「……なに、今の」


アレンは目を見開いた。


バロッグ・タイラントの拳が地面に叩きつけられた場所が、

まるで爆発でも起きたかのように抉れていた。


「一撃で、これか……」


そして、アレンは確信する。


「今のままじゃ、倒せねぇな」


攻撃が通らず、相手の一撃は致命傷になりかねない。

その上、尋常じゃない膂力と耐久力。


完全に、格上だ。


「……このままじゃ、負ける」


初めて、そんな考えが頭をよぎった。


しかし——


撤退する余裕はない。


この戦いに勝たなければ、ヴァルガスを救うことはできない。


「どうする……?」


バロッグ・タイラントは、ゆっくりとアレンを見下ろす。


まるで、「次はどう出る?」とでも言いたげに。


アレンは息を整え、拳を握り直した。


「……やるしかねぇ」


しかし、どう戦う?


正面からぶつかるだけでは、勝ち目はない。


何か、突破口を見つけなければ——。


アレンの脳内で、戦いの計算が急速に巡り始める。


---

ついにバロッグ・タイラントと対峙したアレン。

しかし、その圧倒的な強さに、まともに戦えば勝ち目はないと悟る。

果たして、彼はこの戦いに勝つ術を見出せるのか——?

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