EP20:ロイヤルファミリーカンパニー
「ベリル。魔王について何か知っているか?」
「魔王ですか」
「ルアプールは魔王に殺されちゃったもんねー」
「ピチカは黙ってろ」
「文献で読んだ程度なら知っていますが」
「それでいい。教えてくれ」
「それくらい自分で調べてください」
「はいはーい、私も聞きたい」
「まったく、あなた達は。えーっと確か、数百年前に倒産して影も形もない企業、太陽コーポレーションの王だったかな。うろ覚えなのでライブラリーを見てみましょう」
「王っていうか社長だろ。魔王が言ってた妙な噂って、そういうことか」
「なんかソーラーエネルギーで稼いでそ」
「いえ福祉のようですね。おや……魔王の父王、つまり先代の社長の名言が話題になったそうです」
「すご。魔王の父は神だった」
「どんなこと言ったんだ?」
「福祉は金になる」
「それ暴言」
「炎上しただけじゃねーか」
「僕はこの考え好きですけどね」
「なあベリル、アレの正体っていうのか、実のある話ってないのか?」
「実のある話?」
「例えば魔王の逸話でさ、部下の生き残りが伝えたって一文。あれってなんで証言が少ないんだ?」
「ああ、あの話。そのままですよ。当時、蘇生がなかったんですよ。死ぬと粒子にはなったようですけどね」
「蘇生が、ない?」
「ええ。ほらライブラリーにもある。蘇生という現象はおよそ300年前から確認され、ちょうど魔王の到来と重なり……この記述、魔王と蘇生を関連付けている。おかしい。ライブラリーに憶測のような一文が混ざってるなんて。これ、誰が書いたんだ?」
「そんなことより、まさかホントに魔王が蘇生させてるとか、ないよな」
「僕にわかるわけないでしょ」
「そりゃそうか」
「ただ、世の中には魔王崇拝者なんて危ない一団もいるとかいないとか。彼らならそう信じているでしょうね。まさか、これを書いたのは……」
「あんなのを崇拝ねぇ。信者の頭って理解できんな。他には?」
「……え? ああ、そうですねぇ。絶滅に追い込まれた魔物が蘇生により不死となり、そして反旗を翻した。その筆頭が今も猛威を振るう深緑の悪魔です」
「さすが物知りベリル。色々知ってんな」
「今のは教科書の抜粋です。ルアプールの頭から座学はすっぽ抜けているんですね」
「うるせえな。興味ないし、戦闘には関係ないし」
「状況次第では司令塔を務めることもあるんですけどね、僕ら。あとは自分で調べてください」
「面倒だなぁ。まあ、もう知りたいことは知れたからいいや」
「やれやれ。君が同じバトラーだとはね」
「二人とも仲良くしなよー。ピチカ困っちゃーう。あっ、チーファ主任だ」
「やあバトラー諸君。ルアプールもおるな。ちょうどいい」
「ちょうどいいって、何が」
「ネクタイがなくて淋しかろう」
「まあな……まさか!」
「そう! 待たせたなルアプール。さあ、待ちに待ったこの瞬間に歓喜し刮目せよ! RFC最新型バトルスーツが遂に完成だ!」
「まじか! よっしゃっ! ……って、この最新型……なんでメイド服なんだよ。しかもフリル」
「アペアとおそろいだー」
「やめてくれ……あいつがいたら絶対ろくでもない流れになってた。よかった……」
「む? 彼女なら来る時にすれ違ったぞ」
「え……」
「あれ? 僕の記憶だと、彼女は任務でしばらく戻らなかったはず」
「さてな。おもてなしー、と言ってニコニコしておったぞ」
「それより、これ着ないと、ダメなの……? 誰だよ、こんなの採用したやつ」
「僕が思うに、というか考えるまでもなく主任でしょうね」
「ちっちっちっ、実は違うんじゃよベリル。これは社長の意見だ」
「そういえば厄介な同類がいましたね」
「だがこのメイドスーツは素晴らしいのだ。よいかね、諸君」
「ス、ストップ! 主任、そういうのはまた今度で」
「遠慮するでない」
「あんた言いたいだけだろ」
「何が素晴らしいのか。うむ。まずは機能美。フリルのデザインは一見無駄に見えるが厚みがある分機能を載せるスペースにもなる。これがどういうことかわかるかね? ルアプール、君はわかっておらんな。よろしい。なーに簡単な話だ。スペースがある。スペースとは宇宙。無限に近しい領域を扱うなどロマンである。このロマンを活かしてこそ科学であろう。このフリルのふわふわの隙間にわずかに開発できた貴重なナノマシンが内包されており必要に応じて射出され格納される。つまり何も無いように見えて武器が現れるという画期的な新システムなのだ! どこかのバトラーが剣を落としたり蝶ネクタイをもぎ取られるなどという間抜けを演じてくれたお陰で閃いたスーパーアイディアである。ルアプール君、君の功績は実に素晴らしいものだ。失敗など恐るべからず。科学の進歩に失敗などない! 故に! バトラータイプの形状では内包できない欠点をメイドタイプに置き換えることで解消し見事、フリルに小宇宙を誕生させたというわけだ。さあ、君はコスモを感じられるかね」
「感じねーよ」
「長い割にたいして解説していませんでしたね。それにやっぱり主任の趣味じゃないですか」
「新型の機能も長話もルアプール君のおかげだねー」
「うるせ」
「……主任。まさかとは思うのですが、僕もいずれフリルを着させられるということですか?」
「さすがベリル君。当然であろう。この新型を着る日が楽しみかね。ならすぐにでも」
「いらん! でもいつかは……僕がフリル……? うそでしょ……」
「ベリルはともかくこんなもん着れるかボケ! ふざけんな!」
「まったくもってその通りだルアプール君!」
「むっ、誰じゃ!」
「主任よ、ふざけるのも大概にしたまえ」
「なんだ社長か。小童が何しに来た」
「ふん。バトラー諸君。君達の気持ちはわかっている。故に来たのだ」
「おおっ! 言ってやってくださいよ社長! 主任がオレにメイド服を……いや発案こいつか」
「主任よ。私は言ったはずだぞ。デザインBのメイド服にしろと。しかし貴様が採用したあれはDとGとしかも亜流のFのデザインまで入れているではないか! 混ぜるなど邪道の極み! よいかっ! Bのデザインは伝統ある形式にのっとったものでフリルなどもってのほかなのだとあーれほど言ったであろうが! ていうかなんでBのデザイン入れとらんのだ! まったく、シンプルイズベスト! 至高のデザインを」
「なーに言っとる! フリルの機能美こそが正しいのだ! 伝統など古臭い異物に過ぎんわバカタレ。だいたいBとかGとか区別なんかできんわい。そんなことよりメイドの原型を留めるという制約の中で形状を保ちつつ機能を満載できる課題解決の喜びに比べたらくだらん形式など取るに足りん!」
「くだらんとはなんだ! 形式美がイコール機能美にもつながる。それこそ形式美の素晴らしいところなのだとなぜわからん! 実用的な形状に裏打ちされたデザイン。質実剛健。この形式美と機能美の循環の果てにあるものこそが伝統として息づき未来への財産へと変わるのだ! わからん奴め!」
「だったらワシが新たな形式を作ってやるわい! わかっとらんのはお前の方だろ!」
「お前のなんて絶対認めるもんか!」
「むきー!」
「オレ、スーツなくていいや」
「僕も同感です」
「もう行こ行こー」
「はぁ、はぁ……おや? 主任、バトラー諸君はどこだ?」
「……ん? おらんな」
「若者は自由すぎる」
「そこがいいのではないか。社長はわかっておらんな」
「貴様とはつくづく意見が合わんな」
「ふっ。だからこそ必要なのであろう?」
「今はな。先刻の報告、ついに魔王を見つけたそうだな」
「うむ。オメロンからの報告ではあるがな」
「彼か。主任はどう思う」
「ルアプールもそこにおったそうだ。問題なかろう」
「少なくとも嘘ではない、か」
「そう心配するな。何はともあれ、これで研究が進む」
「その兆しであってほしいものだ」
「心配するな。わしが必ず解明してみせる」
「ああ。人類の未来がかかっているのだからな」
「いや。進化のために」
「いやいや、存亡のためだろ」
「……やめよう。不毛じゃ」
「……うむ。魔王の出現が吉兆であることを願おう」




