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下働き魔王のダンジョン攻略  作者: Tongariboy


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19/21

EP19:一人ではない旅

印の付いた地図。

目的地までは数日の距離。

青い森を抜けた先の黒い平原では地平線が見えるのだとスネーカは言った。

その地平線に映る影が人間の拠点。

俺は森を進み、黒い平原を目指した。




森の中、何かが動いた。

振り返るが、何もいない。

視界の端をヒラリと弄ぶように木の葉が流れていく。

汗を拭った拳を開くと爪の跡が付いていた。

視線を落とすと足元の影が息を切らせている。

吐く息が熱い。

木にもたれて束の間、体を休める。

視線は絶え間なく彷徨っていた。


歩みは遅々として進まない。

足のもつれを感じるたび、手頃な窪地を見つけてはうずくまり重い体を丸める。

深い沈黙の中でいつの間にか眠り込む。

夢は見なかった。


意識が覚め、周囲に視線を走らせて起きあがろうとした。

しかしよろけて手をつく。

足が痺れていた。


手がヒリヒリする。

指の隙間から滲んだ血。

地面から突き出た尖った石。

これまで気にも留めなかった小さな擦り傷が、今は恐ろしい。

手を握ると痛みが脈打つ。

失うものなんてない方がいい。

俺は足を軽く振り、痺れを薄くして立ち上がった。


地図を片手に森を進む。

木に目印をつけ、地図にも書く。

これでまっすぐ戻ってこられる。

ネズミはいつもこんなことをやっているのか。


平原をどう進むかは森を抜けて、実際に見てからルートを選別しなくては。

道を誤れば先はない。




森は次第に薄くなり、頭上を覆う茂みの隙間から青暗い空が顔をのぞかせる。

まばらになった木を越える。

森を抜けた。

そう思ったのは風の匂いが変わったからか。

辺りは古い傷跡のような裂け目。

なだらかにうねる地面を黒い草が覆っている。


「ここから先が平原か。黒平原だったか。身を隠せるところが少ない……突っ切るしかないか?」


遠く暗い地平線に四角やドーム型の影が蜃気楼のように揺らいでいる。

このダンジョンで見間違うこともない輪郭。

あれが人間の拠点だ。




見晴らしのいいこの平原を通るのが最短かつ比較的安全なルート。

地図と相違ない地形。

ワンダたちはここを抜けてきたのか?

最善を検討するにも一度身を隠せる森に引き返すか。


何にせよあまり休むことは出来ないだろう。

足を止めないためにも装備の手入れをしよう。

もう武器はない。

俺が使えるのは頭と足だ。

だから靴を整えることにした。


所々ほつれている。

乾いた布を取り出して泥を落としていく。

あいつのおかげでずいぶん得意になった。

強く布を滑らせるとうっかり靴を落としてしまった。

すぐに拾い上げようとしたがうまく掴めない。

手が震えている。

深く息を吐く。

何も考えずに拾い、手を動かした。

最低限の準備を整え、覚めない頭で眠りについた。




規則よく足が草を薙ぐ。

歩いた跡が道になっている。

空に争いの音がこだまする。

森を出てから、まだ誰の姿も見ていない。


下層とは本当に印象が違う。

暗い岩と松明の炎だけが目に映る全てだった。

成長して枯れていく植物など見たこともない。

絶え間なく聞こえる声なんてもってのほか。


空に溶ける声。

草の匂い。

風が髪を撫でる。


「ここがダンジョンだと忘れそうになるな」


眼前には境界線のように立ち並ぶ建物。

俺は踏み出した。




語り合う笑い声。

途切れては聞こえる駆動音。

遠ざかる足音。

耳を澄ますと聞こえてくるのは300年忘れていた情景。

黒草から覗いた先には幾人もの人影がある。

近づいてきた和やかな姿。

歩み出しそうになり、身を低くする。

目を細め辺りを伺うと、見知った顔が一つ。

俺は、静かに動き出した。

もう後には引けない。


ここからは人間の世界だ。

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