EP18:蛇の話と最古の願い
「行ったか。魔王ってさ、いい奴だよな。素直だったらもっと良かったんだが」
「ワンダさん。それは違いますよ。あの性格だからこそ彼は魔王なのです」
「どういうことだスネーカ。ひねくれ具合が魔王級だと?」
「ふふっ、面白い解釈ですね。そうですねぇ。ダンジョンに導かれ、魔に堕ちた元人間の王。人間は魔王の由来をそう語ります。ですが私たちは違う解釈なのです」
「まさか本当に王だとでも? あれが?」
「ふふっ。灰の竜も期待していました。私たちの願いをいつか叶えてくれると」
「あんたや伝説の竜の願い? 人間を滅ぼすとか?」
「まさかまさか。ささやかな願いを抱いているだけですよ」
「ふーん。一体何を願うっていうんだ」
「救いの時代へ」
「大仰だな。それのどこがささやかなんだ」
「ふふふ、確かに大仰でしたね」
「あんた竜に会ったんだよな」
「はい。この300年ほどでたまにお会いして顔なじみになりました」
「それはすごい。それにしても、よく襲われなかったな」
「いえ。出会い頭に食べられました」
「なんだやっぱりか。災難だったな。しかし、よくそんな状況で話せたもんだ」
「運が良かったのです。すぐに吐き出されましたし」
「へえ、竜相手に抵抗したのか。抵抗する力があったなら」
「いえいえ……あれは後味の悪い幸運でしたねぇ———」
「———うっ、ぶへっ! まっず! なんじゃこの蛇、ほんにまっずいのぉ。おおしまった、湖に落としてしまったか。まぁいいか」
「か、体が元通りに、一体これは」
「このことは他言無用じゃ。良いな」
「りゅ、りゅう……ここはまさか最奥の」
「なんじゃ、降りてきたくせに気づかんかったんか」
「それはその……無意識で」
「なるほどのぉ。蛇よ、お主は何に絶望したのだ」
「いきなり何を……何って、この姿を見ればわかるでしょう。私は皆に化け物呼ばわりされて……行き場などありません」
「待て。蛇よ、一つ抜けておる。なぜお前は蛇になったのだ。人として何に絶望したというのだ」
「人として……わかりません。私の絶望……? 思い出せません。蛇になり、追われて……」
「ほうか。そして彷徨っていたら最下層まで来てしまったと。んなバカな」
「その、子供を探していました。私の子ではありません。同じように魔物へと変わった子供です。一緒にダンジョンに来ました。ですが……ですが人と魔物に追われ……休む間もなく……眼の前であの子は、殺されて光りになりました。わけがわからず途方に暮れて彷徨い、そしてあなたに喰われ、なのにまだ生きている。理解が追いつきません」
「変容が始まり100年彷徨い続け、湖に認められたのであろう」
「湖に……?」
「ふむ。蛇よ、すべて忘れなさい。気ままに生きよ。それが良い」
「気ままになんて私には……あなたは……そういえば、あなたはなんとお呼びすればよろしいのでしょうか」
「ジジイでええよ」
「そんな失礼な呼び方出来ません」
「頭かったいのぉ。安心せい、本名じゃ」
「えっ?」
「ジ・ジイというんじゃよ。これほんと」
「で、ではジ・ジイさん……ジイさん、うーん……おじいさん、だと意味が……ええーい、なんて面倒な名前でしょうか」
「一番失礼なこと言っておるよ。まあ好きに呼べ」
「では竜よ。私に希望をください。気ままに生きるためにその道標をください」
「難しいこと言うのぉ。うーむ……むふふ……ふへっ。よかろう。蛇よ、名は?」
「スネーカです」
「よろしい。スネーカよ。魔王を探せ。そして希望を託しその背を押してやれ。さすれば魔物にステキな未来を与えるであろう」
「なんですか、その今思いつきましたと言わんばかりの話は」
「むほほ。まっ、気長に探すとええ。もしかしたら人間が知っておるかもな」
「はぁ、私は真剣に悩んでいるというのにこのおじいさんは。いいでしょう。魔王ですね。その人を探せと」
「ああ。魔王ゲマ。最近この湖にやってきたただの人間じゃ」
「人間? 魔物ではなくですか」
「あれは魔物であるが故に人であるのだ」
「またそれっぽいことを。わかりました。特徴は?」
「見ればわかる。さあ、もう行きなさい。絶望はここに捨て上を目指すとよい」
「はい。さようなら、親切なおじいさん———」
「———ふぅ。誰もいない外は気持ちがいいものです。ワンダさんは質問が多くて困ります。それにウサギさんの登場は想定外でした。ですが、彼が上手くやってくれたようですね。おかげで魔王さんは今頃……ふふふ、これでよいのです。これでようやく動き出す。湖にあだなす魔性の主、魔王ゲマ。我らの道標足らんことを切に願います。その声を振り切り、いざ、救世の時へ」




