EP2:人と魔物と魔王様
「はぁ、やれやれ。僕らの目的が何か忘れてるんじゃないか」
「ベリル君だ。やっほ。今日も青ネクタイがステキだね」
「アイロンがけは怠っていませんから。ピチカも戻っていたんですね」
「武装にアイロンかけてるんだ……私は昨日帰ってきたとこなんだけど、どうかしたの?」
「ええ。僕らバトラーの扱い方がどうにもね。社長の個人的な熱意に辟易していただけですよ」
「あー、いつもの伝統ってやつね。ルアプールは? 一緒かと思ってた」
「社長達のところです。ダンジョンで死んだ時に剣とネクタイを落としてきたんだそうですよ」
「バカじゃん。バトラー要素ゼロじゃん。クビじゃん?」
「ならいいんですが、下層まで行って戻ったから説教で済むみたいだよ。ベル先生が言っていました」
「ふーん。それで今はお説教タイムなのね」
「それが、まだ報告中。どうやら下層へのルート以上に重要な情報を得たという話です」
「へー。どんなことなんだろ」
「まだわからないけど、本当に重要ならすぐ周知されるでしょ。何にせよ、僕らは上の指示を聞くのみ。仕事だからね。障害は全て斬り刻むだけです」
「お仕事ばんざーい」
———生き返る時の感覚はどんなものか。それは徹夜後の朝のような、妙な開放感と虚脱感が伴うものだ。
初めて死んだ時の痛みは忘れたが、あの時の恐怖はまだ覚えている。
かつて、居ても立ってもいられずに当時の色々な腹いせも兼ねてダンジョンに来た。覚めない悪夢のようにやたらと魔物に襲われたっけ。
夢の終わりで巨大な影に食い千切られ、凄まじい恐怖に包み込まれた。
どうしてかあの時の恐怖が忘れられない。この心を包み込むその感情がただ、煩わしかった。
———起きるのが嫌になる浮遊感。
疲れ切った心身を癒してくれる。これは虚脱か幸福か。
もうなーんにもしたくない気持ちでいっぱいだ。
こんな時、いつもなら思いもしないのに、どこにも行きたくないという気持ちさえ湧いてくる。
これはまるで……まるで……そう、温泉だ。
「ていうか温泉だ」
目を開くと湯気がただよう湖に浮いていた。不安定に揺られる感覚は体が慣れるまで落ち着かない。
湯の中に立ち上がると、頭から流れ落ちた熱い雫がバチャバチャと鳴り響いた。
右腕で髪を掻き上げ顔の水気を払い、手の感触を確かめる。生命の湖はちゃんと仕事をしてくれた。痛みもない。
だが掴んだはずの赤いネクタイがこの手にない。湖が再生してないなら、意識を失った後に結局手放したのか、死ななかったバトラーに回収されたか。
「あのやろぉ」
湯に拳を叩きつける。飛沫が跳ねて咄嗟に目をつぶる。なんとも言えない気分にさせられる。
まあいい。
大事なのは、人間どもがついに下層にまで来たってことだ。偶然とはいえ、その情報を掴めたのは千載一遇のチャンスといえる。
奴らがこの最下層へ降りてくる前に動くべきだ。
俺の目的のためにこの状況を利用してやる。
さて、居心地はいいがそろそろ湖から出るか。
お国柄か温泉で泳ぐ気にはなれず、重い体を引っ張るように岸へと進める。
水面が膝下まできた頃、湯をかき分ける音の中にどこからか室外機が唸るようなヘッタクソな鼻歌が混ざってきた。
俺が勢いよく湖から上がって叩きつけるように湯を払うと、辺りは静かになった。
意図された静寂が耳に迫ってくる。
動いたのは右手の岩陰。
天井にも届きそうな勢いで起き上がる巨影。巨影から伸びた長い首が、空気を唸らせて俺の頭上で止まった。
ちっ、まーた嫌味言われるな。
「誰かと思えば、やはりゲマか」
「よぉ、ジジイ」
寄ってくるデカい顔を見返す。
肉厚な身体が動く度に擦れて欠けた岩が転がり落ちる音が響く。
最下層の主であり、伝説に謳われる存在。
湖の守護者。
竜。
なんて言えばかっこいいのに、今日も下手くそな鼻歌響かせて温泉に浸かるだけか。たまには竜らしく、かっこいいとこ見せて欲しいもんだぜ。
ジジイは俺の顔を見て、フンっと勢いよく鼻で笑った。竜のブレスは臭かった。
湖に潜りたくなる。
「たまにはお前以外に来んかのぉ」
「俺以外に誰も来れねーだろ」
「つまらんのぉ。それにしても今回はずいぶん早いお帰りだ」
「うるせ」
「さて今回の死因は?」
「大したことじゃない」
「聞かせてほしいのぅ」
「い・や・だ」
「お主の武勇伝が聞きたいぞぉー」
ほらきた。
どうせすぐ忘れるくせに死因を深掘りしてきやがる。
だが今回の死因、どんな反応をするだろうか。
この神秘の湖に辿り着くものがいるかもしれない。ついにその時が来たのだと聞いた瞬間の竜の顔。
硬い眉間を上げながら、なんと、と驚くだろうか。それとも自分の運命を悟り深刻な顔をするだろうか。
案外昔を思い出して考え込むだけかも知れない。
「今回はなんであろうかのぉ。ぬふふ。それいけ魔王武勇伝。蘇生回数ナンバー1、イイネたくさんありがとう。チャンネル登録よろしくね」
「そりゃ蘇生じゃなくて再生だろーが。へっ、そうなるとてめーは0回だな。つまんねーやつ」
「だから面白さの秘訣を知りたいんじゃよ。今回もウサギか?」
「温泉が恋しくなっただけ」
「ぐははっ、わかるぞぉ。ここの湯は身体にいいからのぉ」
「はいはい」
もったいぶってた俺がニヤリとしてみせると、竜がなんじゃと長い首を傾げた。
「人間に殺された」
「ほう。下層でか」
「ああ。もうじきここまで来るかもな。どうする、ジジイ?」
「ふはっ……はっはっはっ! はぁーはっはっはっ!」
「……なんで笑ってんの?」
首をのけぞらせて大笑いする竜のデカい声が最下層に響き渡った。さらに短い手で分厚い腹を抱えた挙句、ゴロリと転がってそのまま湖に落ちやがった。
岸から溢れた波が足を温める。
竜は水面から首だけ出して俺に目線を合わせた。
「ぷはぁ。つまらん死に方だな」
「そこかっ! ていうかつまらんなら笑うな」
「笑いは健康にいいんじゃよ」
「だったらコメディでも見とけ」
「バカもん、下層にコメディアンなどいるものか。せめてテレビじゃよ。ああテレビ。竜になってから一度も見とらんわい」
「ダンジョン最奥じゃ電波こねーだろ。そんなに見たいんだったら外に出りゃいーじゃねーか」
「いやじゃ。この温泉、ほんに気持ちええんじゃて」
「このわがままジ・ジイめ。竜ならもっと威厳だしやがれ」
言ってるそばから温泉を満喫する竜。定位置で機嫌がよくなったらしく、下手くそな鼻歌の続きを歌いだす始末。
しっかり耳を塞いでも聞こえてくるから始末に負えない。
鱗を剥がして止めてやろうと手をかけたところで竜が俺を見た。その眼差しは思いのほか真剣。
竜は岸に顎をのせたまま、しかし声色は厳かに俺に問いかけてきた。
「して、どうするつもりじゃ? 魔王ゲマよ」
「んだよ急に。別に、どうもしねーし」
「ほう。あれだけ地上に執着しておったのに、この段にきて何もせんとほざくか。うそぶくのぉ」
「どうせ難癖つけて茶化すから言いたくないの」
「人間に取り入って地上で暮らすんだろう? お前はなぜそうまでして地上に行きたがる。今までここで暮らし続けておるではないか。それではダメなのか?」
こんな問いかけを竜がしたのは初めてだ。
笑ってはいたが、こいつも人間が下層に来たことに何かしら思うところがあるわけか。
「ダメだ。ここで暮らし始めて確か300年、確かに慣れはした。でもよ、こんな場所で永遠を過ごしたいなんて思うわけがないだろ。俺は地上に出る」
「地上に出ても何もないぞ。温泉もない、うすら寒いだけの場所じゃよ。それで出てどうするのだ。そこで得たものに満足できなければ次はどうする」
「うるせーな。子供の説教みたいなこと言うなよ。不老不死のままダンジョンから出られんなんざ牢獄とかわらねーだろ。むしろさっさと抜け出したいってなんで思わんかな」
「牢獄ではないからであろう。どう感じるかなどその者の捉え方次第。つまりだ、ここを牢獄と感じているお前は何か別のものを求めておるのだ。故に、それが叶わんこの場所に不満を抱いているわけじゃな」
「はっ。だったらこんなジメジメした場所が天国だってのか。どうかしてるぜ」
「おおそうじゃとも。わしにはこの温泉があるからのぉ。極楽じゃよ」
「天国と地獄の区別もつかんのか、このジジイは」
竜は気持ちよさそうに目を閉じた。これで話が終わったとでも言いたげだな。
ここには無いものが何かって?
一つあるだろ。
「太陽だ」
「む?」
「昔のことを思い出すとたまにな、どうしてかいつも太陽が思い浮かぶんだ。空は別に青くはないけどよ。俺はあれが見たいんだ」
「そうか。太陽か。たしかにあれは懐かしい。だが、もう思い出せんわい」
「バカ言うな。お前は太陽の温もりまで忘れたのか? あの光に照らされた瞬間の優しくて力強い温もりを、お前は忘れちまったのか」
「さてなぁ、もはや幻想に近いものなのだよ」
虚空に向けた竜の視線の先に、400年前の何かを思い描いているのだろうか。俺よりも100年長くここにいる最古種の魔物。
人間が変容した当時から、ずっとダンジョンに居着いたこいつにとって地上はもはや幻なのかもしれない。当時の何かを瞳に映したまま竜は優しく目を閉じた。
瞼を開いた竜の目にはもう、幻想は消えていた。
「ゲマよ。遂に人間が下層に到達する時代が来たのだ。奴らがここまで来たとして、果たしてどうなるのか。第二の魔王でも誕生するのかのぉ」
「魔王なんてお前らが勝手に呼んでるだけだろ。欲しいならくれてやる」
「ふむ。では問おう。魔物であるわしらとお前、一つ明確な違いがあるのだが何かわかるか」
「お前が言いたいのは変容せずに俺だけ人間のままってことか?」
「それは些事にすぎん。もっと根本的なことじゃ。はっはっはっ、わからんか。わからんであろうな。そうさな、人間に会えばわかるかもしれんな」
わかったようなこと言いやがって。
こっちはわけわかんねーよ。
「えっらそうに言いやがって。人間と話すのは元々俺のプランだっつーの」
「そうかそうか。まっ、いつか得たものを教えてくれたまえよ。お前がどのような答えにたどり着くのか。わしが見届けてやろう」
「やなこった。ていうかなーにかっこつけてんだよ、ジジイのくせに」
「ぬわぁーはっはっはっ! たまにはこういうことも言ってみたくなるじゃろ。なんせいつも同じことばっかじゃし。つまらんのぉ」
「ここに飽きてんじゃねーか!」
「ふーんだ。よいか、あまり早く戻ってくるなよ。だが無理はせんようにな。そうじゃ、しばらく戻らんならマッサージでもしてもらおうか。ほれ尻尾の先をもみほぐすがよろし」
勝手なことを言うジジイは、シュルリと温泉からだした尻尾の先を俺の足元に伸ばしてきた。
だから優しい魔王様はご要望通りに尻尾を一揉みしてやった。
強い弾力で足が跳ねあがる。
刺激的なマッサージを終えてニッコリ微笑んでやると、涙目の竜がこっちを睨んでモゴモゴし始めた。
何をするのかと思ったら竜が俺に向けて口を開いて、真っ赤な炎が俺を包んで———
———夢に浸るまもなく勢いよく立ち上がり、力任せに湯気をかき分けていく。
竜のシルエットがあらわになった瞬間、くすぶってる俺が一瞬……見えた気がする。
近づくと焦げた肉の臭いがして思わず足が止まった。
……クソったれ。
湖から出て、とりあえず竜に一蹴り入れて全速力で走って逃げた。
いつもの道を登ると、ウサギの看板が見えてきた。
その横の岩に今日は誰かが腰掛けている。
足元には大きな背負いカバン。紙を一枚手元で開いているらしく、何か読んでいるのがうかがえる。
文化的な姿に自然と好感が湧いてくる。
見覚えのある姿に、おーい、と呼びかけて松明を振ってやると、紙から顔を上げて手を軽く振り返してきた。
俺の顔がわかるところまで来たら、スルリと音もなく岩から降り立つ。
松明が照らす尖った鼻先からまばらに伸びるヒゲ、鋭いながらも愛嬌があるような小さな瞳。青い毛皮に包まれたネズミ。
それは名前を持たない馴染みの連絡員、青ネズミだった。
「やあ魔王。久々だね。下から来るってことは、さてはまた死んだのかい? なんてね。ウサギから聞いたよ。またまーくんを殺しちゃったってニコニコしてた」
「ちっ、あいつやっぱり楽しんでるよな。にしてもお前まだいたんだな。この間ウサギから武器の手入れ頼まれてから数日は経ってるぞ」
「数日ねぇ、数えたことないからピンとこないけど。確かに今回はちょっと長居してる」
すでにウサギと会ってるなら長居している目的は俺か。たまに来て色々情報をくれるのは珍しくない。
だが、ちょっと長居してるという言葉が気にかかる。
こいつは時折油断ならない。
何気なく辺りに目を走らせているネズミに気づかれないよう、少し身を引いた。
「他の魔物のとこにはいかないのか?」
「行ったよ。途中で戻ってきたんだ。面白い話を同僚から聞いてね」
「面白い話? 聞かせてくれるんだよな」
「もちろん。そのために戻ってきたんだから」
それからペラペラと止まることを知らないネズミの舌は回り続けた。俺は適当に岩に座って頬杖をつく。遠回しに聞きたくないと示したつもりだが受け止めてもらえなかった。
しかもこいつの場合、話のアクセント程度に嫌味を織り交ぜて俺の反応を見て楽しんでいやがる。
長すぎる前置きにようやく満足したネズミは、ここからが本題だと言った。
「さて、そろそろ君に話しておきたい最新情報を披露しようか」
「最初に聞かせてほしかったな」
「あはは。そんなことしたら他の話は聞いてくれないでしょ? ちょっと待って待って。拳は下ろしてよ。ほらほら、親愛なる魔王様への特別サービスで教えてあげるからさ。でね、何かが気になるよね。ははっ、とっても面白くなってきたんだよ」
「いいから早く言え」
「いいとも。でもタダでは教えない」
「特別サービスはどこいったんだ。ったく、何すりゃいいんだよ」
「全身マッサージがいいな」
「へいへい、わかりました、お安いごよーですよっ」
ネズミは肩をぐるぐる回して、いやぁ連絡員は大変なんだよー、とぼやきながら地面に置いた背負いカバンに手を伸ばした。
人間の背丈に合わせたカバンは丸く膨らんでいて、窮屈そうな上蓋が開きかけている。
カバンの中にはダンジョン中でかき集めた人間や魔物の情報が詰まっている。
魔物の本陣へと報告に行く命がけの仕事だが、ネズミ達の働きがなければ組織で動く人間相手に魔物は到底太刀打ちできなかっただろう。
ネズミはサイドポケットから取り出した一枚の折り畳んだ紙を俺に差し出した。
受け取って開いてみると、隅に中層と書かれたそれは地図。
各地に線が引かれ、ここ最近のおおまかな人間の動きと占領地の勢力図も描かれている。
直感的だが、魔物の旗色が悪そうなことがうかがえた。
「ネズミ、状況は」
「長くなるから要点だけ言うけど、上層の人間が中層への入口を占領。中層への隊を編成しているらしく、本格的な侵攻は近い。悪魔はさ、ああ、魔物の司令官のことだけど、彼は魔物が手薄な地区に対して部分的な進軍が始まっているとみている」
「それ大丈夫なのか? 悪魔とやらはちゃんと戦が出来てんのかよ」
「そう願いたいね。最近はバトラーが大暴れしてるせいで作戦が覆されるってあっちこっちで聞こえてくるんだ。どうなるか読めないんだよねぇ」
「なるほどな、大体わかった。この地図はくれるのか?」
「うん。もう使い道はないからね。どうぞ」
「サンキュ」
まるで取り計らったようなタイミングで地図が手に入った。幸先の良い出来事に満足しつつ、もらった地図をポケットに突っ込む。
ネズミは俺が地図をしまうのを待ってから、そうだと言って切り出した。
「中層にいた時に噂のバトラーの剣を一本かっさらってきたんだ。ウサギが欲しがりそうだから持ってきたんだけど」
「やっぱ無くなってたか」
「ん? コレクションルームの中に転がってたよ。まーくんがお手入れ前に死んじゃったみたいだからね。友人のよしみというやつさ。待ってる間、君に代わって整頓しておきました。大いに感謝してくれていいよー」
腰に手を当てて鼻を掲げるネズミのドヤ顔。
ここからだと部屋の中まではわからないが、言った通りに片付けてくれたんだろう。
どんだけ暇だったんだ。
とにかくバトラーは剣を回収できなかったわけだ。一泡吹かせてやったと思うと楽しくなっちまう。
ざまーみろってんだ。
少し疑問が残る。
あの赤いバトラーはどうやってここまで来たんだろうか。
何かネズミなら知ってるかもしれんな。
「なあ、その赤いバトラーはどこにいたんだ?」
「中層の結構奥まで来てたよ。気になるかい?」
「ああ……もしも、なんだが。そいつがこっそり剣を取り返しに来るとしたら、どこを通って来ると思う?」
「昔の道を使うのがいいかもね。人間が大昔に秘密の抜け穴を作ったらしい。それならこっそり来ることもできるかもしれない」
「ふーん。よくそんなこと知ってんな。秘密の抜け穴なんて人間しか知らないんじゃねーのか?」
「ふふん。魔物は慈善活動団体じゃないんだよ。ああ、つまりだ。拷問は人間の専売特許じゃないってことさ。それにしても、もしも……ねぇ」
ヒゲを撫でながら乾いた瞳でネズミは俺を見る。
バトラーについて情報交換はすべきなのに、なぜか俺は隠してしまった。
さっきのはただ、もっと人間の情報を聞き出そうとしただけだし。って自分に言い訳してどうする。
俺に非はないし、こいつが情報を持ってるなら……あれ?
「なあ、そういえばお前の話って最新情報のはずだよな。それっぽい話あったか?」
「あーわすれるとこだったー」
「うそつけ」
「ふふっ。人間の上層部はナニヤラ企んでいることがあるらしいのですな」
こいつまで意味深に言いやがる。魔物は勿体ぶるのが好きなのかねぇ。
「企むって、そりゃそーだろ」
「違う違う。最下層以外の目的が浮上したんだよ。帰る途中で同志から聞いて戻ってきたんだけどね。人間達が下層以上に重要な情報を掴んだらしい。それにしてもこんな話を噂しちゃう人間って間抜けだよね。そう思わないかい?」
「……そうだな」
何が言いたいんだ、こいつ。
「ははは。ここで問題。人間はどうやって下層の、それも重要な情報を手に入れることが出来たのか。ゲマ君はわかるかな。例えばそうだなぁ。バトラーが実際に下層に来たとか、ね。そういえばあの剣は赤のバトラーのものだったんだねぇ。ふふふ、色までは知らなかったよ」
「……」
「おやどうかしたのかい? ああまだ言ってなかったか。人間の標的を教えてしんぜよう。それはね」
鼠を弄ぶ猫のような顔をするネズミ。
暗くて冷たい岩陰に映る魔物の影から細い腕が上がる。
青ネズミはその尖った小さな指で俺を指した。
「君だよ。魔王ゲマ」




