第7話 『遅延』
特急「しらなみ」は、一定の速度で走っていた。
エンジン音。レールを刻む振動。
変わらないリズムが続く。
運転台。
仁十は前方を見据えたまま、計器に目をやる。
速度。問題なし。
時刻。わずかな余裕。
そのまま維持する。
無線が鳴る。
短い電子音。
手を伸ばす。
「第13D、受信」
『前方区間で人と接触事故発生。現在、運転見合わせ。指示あるまで停止せよ』
「了解」
ブレーキに手をかける。
一段。
さらに一段。
速度が落ちる。
車体がわずかに揺れる。
やがて、停止。
駅ではない。
線路上。
周囲は静かだった。
エンジン音だけが残る。
車内。
減速の気配で、わずかに空気が変わる。
完全に止まると、小さなざわめきが広がる。
通路。
星華はすぐにマイクを取る。
「ただいま、前方区間におきまして事故が発生したため、この列車はしばらく停車いたします」
落ち着いた声。
「運転再開の見込みは、現在確認中です。ご迷惑をおかけいたします」
短く、必要なことだけ。
マイクを戻す。
通路に出る。
乗客の間を歩く。
視線が集まる。
求められれば答える。
それだけだった。
「いつ動くんですか」
近くの乗客。
星華は足を止める。
「現在、確認中です」
それ以上は付け足さない。
乗客は小さく頷く。
会話は終わる。
運転台。
「前方、完全停止です」
「了解」
仁十は無線に手をかける。
「しらなみ、現位置停止中。指示待ち」
『了解。そのまま待機』
それで終わる。
時間が過ぎる。
何も変わらない。
車内。
スマートフォンを見る者。
外を眺める者。
小さな会話。
一定の状態が続く。
星華は通路を一往復する。
異常はない。
ドア付近に立つ。
外を見る。
動きはない。
運転台。
仁十は時計を見る。
秒針が進む。
それだけ。
無線が鳴る。
「第13D、受信」
『前方区間、処理完了。順次運転再開。注意運転で進行せよ』
「了解」
前方の信号が変わる。
ブレーキを解除する。
ゆっくりと力を入れる。
エンジンの回転が上がる。
車体が、動き出す。
車内。
星華はマイクを取る。
「お待たせいたしました。この列車は、ただいま運転を再開いたします」
変わらない調子。
「この影響により、到着が三十分ほど遅れる見込みです」
マイクを戻す。
列車は速度を上げていく。
止まっていた時間が、流れに戻る。
通路。
星華はいつも通り歩く。
確認する。
問題はない。
運転台。
仁十は前方を見据える。
制限速度。信号。
一つずつ確認する。
次の駅が近づく。
減速。
ブレーキ。
ホームに滑り込む。
停止。
「ドア、開けます」
乗客が動く。
少しだけ、足早な流れ。
「閉めます」
ドアが閉まる。
確認。
「出発、合図」
ブザー。
発車。
列車は再び走り出す。
仁十は時計を見る。
遅れ。
三十分。
小さく息をつく。
「……結構いったな」
前を見たままの声。
通路。
星華はそのまま立っている。
「はい」
短い返事。
それだけだった。
特急「しらなみ」は、三十分の遅れを乗せたまま、定められたレールの上を進み続けていた。




