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第5話 『詰所』
浦川口駅。
改札内の奥、乗務員詰所。
ドアを開けると、外のざわめきが途切れる。
机と椅子。壁の運用表。時計。
数人の乗務員が、それぞれの時間を過ごしていた。
低い声の会話。紙をめくる音。
特別なことはない。
いつも通りの空間だった。
仁十は奥の席に座る。
帽子を外し、机に置く。
軽く視線を落とす。
それだけで十分だった。
星華は少し離れて腰を下ろす。
カバンを足元に置く。
姿勢を崩さないまま、静かに前を見る。
会話はない。
必要がない。
時計の秒針が進む。
ドアの開閉。誰かの足音。
遠くでかすかに響くアナウンス。
静かな繰り返し。
仁十は運用表に目をやる。
次の乗務。時間。区間。
遅れも変更もない。
問題はない。
指で一度だけ、該当の行をなぞる。
「……次、少し空くな」
小さな声。
「はい」
星華の返事。
それで終わる。
視線は上げない。
再び静かになる。
――かすかに、列車の音。
本来、ここまで届かないはずの音。
わずかに床が震えたような気がする。
星華が一瞬だけ視線を動かす。
右側へ。
すぐに戻す。
何も言わない。
仁十も、何も言わない。
時計の針が進む。
詰所の中で、同じリズムが続いていた。




