第14話 『チェックリスト』
新縄島空港、クルールーム。
「――本日の担当は、縄島国際航空6278便」
落ち着いた声で読み上げられる。湖ノ池雷華は、資料に目を通していた。
天候、問題なし。ルート、問題なし。代替空港、確認済み。
「乗客、二名。貨物、多め」隣で佐野大河が呟く。
「機材は……767-300」一瞬だけ、言葉が止まる。
雷華は顔を上げない。「機材繰りだ」短く言う。それで終わる。
「了解です」
「燃料は計画通り」
「はい、追加なしです」
「……そうか」
淡々としたやり取り。無駄はない。
「質問は」
「ありません」
「ならいい」
資料を閉じる。「行くぞ」
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駐機場。スポット201。黒い767が静かに止まっている。風が少し強い。
「外部点検、行ってきます」
「ああ。異常があればすぐ報告しろ」
「はい」
大河は機体の下へ向かう。雷華は少し離れた場所からそれを見る。
動きは落ち着いている。だが、まだ慣れていない。
やがて大河が戻る。
「外部異常なしです」
「了解」
それで十分だった。
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タラップを上る。
機内へ。
静かだ。
人の気配がほとんどない。
そのまま前方へ。コックピット。ドアを開ける。見慣れた空間。
「電源入れるぞ」
「はい」
左席に座る。
スイッチに手を伸ばす。
「APU、起動」
低い音が機体の奥から響き始める。
計器が目を覚ます。光が広がる。
「外部電源、確認」
一つずつ、確実に進む。
「FMS、入力」
ルートを入れる。高度を設定する。燃料を確認する。
「……問題なし」
「燃料、正常です」
「了解」
短い沈黙。不自然ではない。
「大河」
「はい」
「焦るな。チェックリスト通りにやれ」
「……はい」
「それでいい」
雷華は前を見る。滑走路の方向。すべて頭に入っている視線。
「チェックリスト、開始」
淡々と進む。一項目ずつ、確実に。
コックピットの空気は静かだ。ただ、正確なだけだ。
「最終確認、実施」
すべて正常。問題なし。
「縄島国際航空6278便、プッシュバック許可」
「プッシュバック、了解」
ブレーキを解除。機体がゆっくりと動き出す。後ろへ。
巨大な機体が静かに押し出される。
「エンジン始動」
すべて予定通り。何も問題はない。
いつも通りの運航。
雷華の表情は変わらない。ただ、前を見ている。
――何も、起きていない。




